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この短編集が好きだ

 短編の名手といえば……ポー、チェーホフ、ゴーゴリ、トルストイ、ヘミングウェイ、フィッツジェラルド、カーヴァー、O.ヘンリー、ダール、ボルヘス、モーム、カポーティ、ラヴクラフト、クリスティ、ブラッドベリ、スタージョン、阿刀田高、安岡章太郎、井伏鱒二、中島敦、村上春樹、梶井基次郎、宮沢賢治、筒井康隆、川端康成、森鴎外、芥川龍之介、大江健三郎、石川淳、車谷長吉、内田百閒、江戸川乱歩、泉鏡花、尾崎翠、横光利一、志賀直哉、太宰治、丸谷才一……思いつくまま並べてみたら、星新一が抜けていたw

 最近の好みは、カサーレス、コルタサル、山尾悠子、ジュンパ・ラヒリ、アリステア・マクラウド……と、これまたきりがない。このリストでは不十分だし、わたしが知らない素晴らしい短編は山ほどあるだろう。そんな予感を痛感させてくれた、素晴らしいオフ会でしたな。ご参加の皆さま、お薦めいただいた方々、ありがとうございます。

 読みたい本を持ちよって、まったりアツく語り合うオフ会、それがスゴ本オフ。今回のテーマは「短編集」、このフォーマットに合うのなら、恋愛からホラー、純文からSF、エッセイもアンソロジーも、なんでもあり。いつものスゴ本オフとは違った、バラエティ豊かなラインナップが集まった。

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 面白いなーと感じたのは、「これは定番だから誰か持ってきてるかも」というわりに、様々な「定番」があること。わたし自身、ボルヘスとカーヴァーは被るだろうなぁと思ってたら、ほとんど被らなかった(むしろ被ってもお気に入りが違ってて嬉しい収穫だった)。それだけ裾野が広く深度もあって、それぞれの「お気に入り」が宝石のように埋め込まれている証拠やね。一方で、筒井康隆や星新一を誰も持ってきてなくて笑った。

 皆さんのお薦めを聞きながら、既読のほかの作品を芋づる式に思い出したり、全く知らない(でもスゴ本の予感がギュンギュンする)傑作にわくわくしたり、たいへん忙しい時間でしたな。おかげで読みたいリスト・注文リストがまた長くなった。でも、短編集の良いところは、その短さ。長いの読むには、ちょっと構えて準備も必要だけど、短編集なら気軽に手が出る。いくつか拾って気に入れば全読してもいいし、合わなければ置いておけばいい。

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 一冊のうち、一編でも心を撃つ作品に出会えれば、お金も時間も充分にお釣りがくる。なぜその一作品に心震えたか? を考察することは、わたしの心の養脈を探り当てることになるから。

 当日のtwitter実況は、短編と言えば太宰治?いやいや、 血みどろ『ミッドナイト・ミートレイン』から、やなせたかしの『3分間劇場』、そして『名人伝』まで、短編集のスゴ本オフにある。ここでは、いくつかピックアップしてご紹介しよう。お気に入りを見つけるのもよし、「○○がないよ~」とご指摘いただくもよし。

 まず、定番ものから。村上春樹は長編が好きという人も多いが、短編の名手だという意見がちらほら。わたしもそう思うのだが、短編で物語をプロトタイプして、長編に膨らませているのを見ると、どうしても短編の手業の鮮やかさに目を奪われる。HAMAJIさんによると、なかでも『中国行きのスロウ・ボート』は、人生の通常運行の3 cmそばにぽっかりと魔界が口を開いている描写に心抉られるらしい。わたしは「村上春樹の短編が好きな人」向けに、『Carver's Dozen レイモンド・カ-ヴァー傑作選』『若い読者のための短編小説案内』を御案内。前者は彼が偏愛するカーヴァーの傑作12編で、噛むように読めるし、後者は村上春樹が短編をどのように読み/書いているかを種明かししている(だからといってマネはできないところがミソ)。

 中島敦のオススメも面白い。『名人伝』が紹介されるのだが、弓の達人に弟子入りした男を描いたもの。修行を積んで弓上手になるが、もっと上を目指そうとする。そして名人のところに行くと、なんとその老人は弓矢を持っていない。老人は「不射の射」を語り、弓矢なしで鳶を落とす。百発百中が千発千中になり、万発万中になるとき、結果が分かっている。絶対当たるなら、射る必要がないという境地に至る。そのとき、果たして弓矢を射るのか? という話になる。この辺りの機微、白髪三千丈だけれども武道をやっていると分からないでもない。師匠が本気で構えただけで「はい死んだ、俺死んだ」という気になるから。

 ところが話はここから横滑りする(これがスゴ本オフの面白いところ)。新手の痴漢の話になる。新種の痴漢は、「触らない」「嗅ぐだけ」だというらしい。身体に一切触れていないのに痴漢が成立するとは、達人なのかもしれぬ。される方はたまったものじゃないが、これが名人の域になると、相手すら不要になるかもしれぬ。

 短編と相性がいいのがホラー(だと思う)。アイディア一発、描きたいシーンがあって、そのまま試せるから。オフ会でにてチェーンメールのように回されている『ファニーゲームUSA』がやっぱり紹介され、これに乗じて人を選ばず胸糞悪くさせる傑作として『独白するユニバーサル横メルカトル』や『眼球奇譚』がオススメされる。特に前者は、読み終わると人として大事な何かを喪失した気になり、一気に読むと軽い鬱を起こす可能性があるという指摘は激しく同意する。わたしも読むスプラッターとして『ミッドナイト・ミートトレイン』をオススメしてきたぞ。

 白眉はヴァニラ画廊の『シリアルキラー展パンフレット』。エド・ゲイン、テッド・バンディ、ヘンリー・リー・ルーカスなど、世界各国の凶悪犯罪者たちの作品、セルフポートレイト、手紙のご紹介。パンフレットに書かれた各殺人犯のプロフィールが強烈でもはや短編小説だという指摘は、(読んでみたら)確かにそのとおり。

 心を温めるストーリーも短編向き(だと思う)。読んだ人はほぼ全員一致で浅田次郎を推している。ただどれにするかで意見が割れるが、あざとさというか「ほら、ここが泣き所だよ」という"意図"が透け見えているのが鼻につくのもあるとのこと。『姫椿』の「シエ」というのが傑作らしい。不遇から抜け出そうともがく人生の瞬間を切り取った美しい物語。

 また、『鉄道員(ぽっぽや)』に入っている表題作が有名だが、『ラブ・レター』を推す人多数。チンピラが売春婦の中国人を入国させるために籍を貸すのだけど、その女性が死んでしまい、手続きのため死んだ場所を訪れるという話なのだが、めちゃめちゃ泣けるらしい。ただし、「こんな"できた"女性は現実にいない」とのこと。あと、重松清『卒業』は必読らしいのでその場で注文する。これは、読もう。

 再読リスト、読みたいリストがまた増える。目にして初めて気付いたのだが、『人体模型の夜』の中島らも、『ロマネ・コンティ 一五三五年』の開高健は、確かに短編の名手だし、それぞれ珠玉の短編集なり。既読だが再読したくなった。ピランデッロに惹かれたので、『月を見つけたチャウラ』からつまみ読みしてみよう(もちろん浅田次郎を忘れずに)。

 スゴ本オフは、ベストテンや勝ち負けを決める場所ではないので投票などはしなかったけれども、わたしのベスト短編を挙げるなら、カーヴァー『ささやかだけど、役にたつこと』、チェーホフ『いたずら』、太宰治『満願』かな。そして、愉しみなことに、これは年とともに変わっていくだろうということ。自身の定点観測として、「お気に入りの短編」を定期的に振り返るのもいいかも(数年前は、ボルヘス『八岐の園』、車谷長吉『忌中』を何度も読んでた)。

 オススメ短編集があったら、ぜひ御教授くださいませ。

 次回のテーマは「本と音楽」。「この本を読むときはこの音楽をかけて」とか、逆に「この音楽を聴いているとこの本を思い出す/読みたくなる」など、本と音楽をセットで紹介していただきます。youtubeを流したりDVD/Blu-rayも大画面で再生できるので、あなたのお気に入りの book & music をオススメくださいませ(最新情報はfacebook「スゴ本オフ」をチェックしてね)。


短編集といえばこれ(かな)

  • 『ロマネ・コンティ 一五三五年』開高健(文春文庫)

  • 『斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇』太宰 治(文春文庫)

  • 『伝奇集』ボルヘス(岩波文庫)

  • 『夏服を着た女たち』アーウィン・ショー(講談社文庫)

  • 『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹(中央公論新社)

  • 『ビギナーズ』レイモンド・カーヴァー(中央公論新社)


不穏な気分に浸る

  • 『独白するユニバーサル横メルカトル』平山夢明(光文社文庫)

  • 『ミッドナイト・ミートトレイン』クライヴ・バーカー(集英社文庫)

  • 『ファニーゲーム』ミヒャエル・ハネケ(映画)

  • 『ファニーゲームUSA』ミヒャエル・ハネケ(映画)

  • 『11の物語』パトリシア・ハイスミス(早川書房)

  • 『くじ』シャーリー・ジャクスン

  • 『眼球奇譚』綾辻行人(角川文庫)

  • 『シリアルキラー展パンフレット』


心を温める

  • 『Carver's Dozen レイモンド・カ-ヴァー傑作選』レイモンド・カ-ヴァー(文春文庫)

  • 『姫椿』浅田 次郎(文春文庫)

  • 『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎(集英社文庫)

  • 『秒速5センチメートル』新海誠(角川文庫)

  • 『月を見つけたチャウラ―ピランデッロ短篇集』ピランデッロ(光文社古典新訳文庫)

  • 『卒業』重松清(新潮社)

  • 『突然ノックの音が』エトガル・ケレット(新潮社)

  • 『星月夜の夢がたり』光原 百合(文春文庫)

  • 『生きるための文学』有島武郎(プチグラパブリッシング)


眠れない夜のために

  • 『人体模型の夜』中島らも(集英社)

  • 『マジック・フォー・ビギナーズ』ケリー・リンク(早川書房)

  • 『ローラ』カポーティ(ちくま文庫)

  • 『十二本の毒矢』ジェフリー・アーチャー(講談社)

  • 『70年代日本SFベスト集成』筒井康隆編(ちくま文庫)

  • 『ハザール事典 女性版 (夢の狩人たちの物語) 』ミロラド・パヴィチ(東京創元社)

  • 『ここは退屈迎えに来て』山内マリコ(幻冬舎文庫)

  • 『悪魔の涎(よだれ)』コルタサル(岩波文庫)

  • 『極短小説』カリフォルニア州サン・ルイス・オビスポの週間新聞〈ニュータイムズ〉の読者達(新潮文庫)

  • 『経済小説名作選』城山三郎選、日本ペンクラブ編(ちくま文庫)

  • 『ノクターン集』ショパン

  • 『死神の精度』伊坂幸太郎(文藝春秋)

  • 『3分間劇場―やなせたかし幻想短篇小説集』やなせたかし(サンリオ)

  • 『あの素晴らしき七年』エトガル・ケレット(新潮社)

  • 『オリーヴ・キタリッジの生活』エリザベス・ストラウト(早川書房)

  • 『ニューヨークは闇に包まれて』アーウィン・ショー(大和書房)

  • 『泣く大人』江國 香織(角川文庫)

  • 『巡礼者たち』エリザベス・ギルバート(新潮文庫)

  • 『太陽の黄金の林檎』レイ・ブラッドベリ(早川書房)

  • 『月ぞ悪魔』香山滋(出版芸術社)

  • 『風流江戸雀』杉浦日向子(新潮文庫)

  • 『セント・メリーのリボン』稲見一良(光文社文庫)


ノンフィクション短編集(エッセイともいう)

  • 『堕落論』坂口安吾(集英社文庫)

  • 『人間臨終図鑑1~4』山田風太郎(徳間文庫)

  • 『考えるヒント』小林秀雄(文春文庫)

  • 『若い読者のための短編小説案内』村上春樹(文春文庫)


あわせて読みたい

  • 『エスター、幸せを運ぶブタ』スティーヴ・ジェンキンズ & デレク・ウォルター (飛鳥新社)

  • 『ワンダー Wonder』R・J・パラシオ(ほるぷ出版)

  • 『翻訳できない世界のことば』エラ・フランシス・サンダース(創元社)

  • 『機械』横山利一(河出文庫)

  • 『時間のかかる読書』宮沢章夫(河出文庫)

  • 『にわの小さななかまたち』アントゥーン・クリングス(岩波書店)

  • 『バスに乗って海に行こう』


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「嫁さんとセックスができなくて泣いた」わたしを変えた2冊

 「嫁さんとセックスができなくて泣いた 」を読んで泣いた。子どもができて夫婦生活が疎遠になって、「もうそういう目では見れない」と宣言される話。

 おまえは俺か。

 十年前、同じ涙を流したことがあった。他人事とは思えない。なので、試行錯誤の渦中でわたしが出会った2冊を紹介する。参考になるかどうか分からない。だが、わたしが変わるきっかけをくれたのは間違いない。どうか、同じ涙を流した目に触れますように。

 結論からいうと、本は役に立たない。メンタルなやつ、テクニカルなやつ、いろいろ読んだ。スキンシップはこうしろとかムードはこうやってとか、あまり参考にならない。

 しかし、そこに何を見つけてどう動くかが肝だ。「答えみたいなもの」なら本にもネットにもたくさんある。だが、そこから何を選んで実行することこそが、「答え」だ。そういう「もがき」の中で、自分に引っかかるものを探していたんだと思う。変わっていく関係のなか、どうありたいのだと。

 自分を救い出す片言は、『スローセックス実践入門』の中にあった。これだ→「いったん射精を忘れろ」。つまり、「目的=射精」をいったん念頭から外し、そのバイアスから生じる様々な「○○すべし」をやめろという。ひたすら尽くすことで、相手の快楽を引き出すことだけを考えろという姿勢だ。紹介される様々な性技は、巷に数多の類似本とほとんど変わらないものの、全ては彼女のためという筋が一本通っており、そこが頭一つ抜きん出ている。

 初めてベッドに誘ったときよりも難度が高くなっている。「誕生日プレゼントにディズニー宿泊ツアー」を用意したのは分かる。似たようなイベント系のお誘いはわたしもしたから、そして撃沈したから。

 だから、ハレではなく日常なし崩し方式にした。とはいっても、あくまで「射精を忘れろ」なので、妻の疲れを癒すのが目的で、マッサージに精を出した。我流だったのを体系立てて学び、専用のローションを使うようにした。教本はいろいろ試したが、『ふたりのLOVEマッサージ』が一番合っていた(お勧めあったら教えてほしい)。妻の体で、一番触ったのは足裏である。日常的に触っているのも足裏である。性的云々というより、ふれあう口実を探していたのだろう。

 くりかえす。本そのものは役に立たぬ。本はきっかけにすぎない。けれども、会話やふれあいの口実として、なによりも自分を変える言葉を探してもがく場所として使えばいい。わたしの場合は本だったが、カウンセリングもありかも。いま調べたら、マンガで分かる心療内科・精神科in渋谷 第54回「セックスレスの治療法」というのを見つけた。似たような方針なので驚いたが、これも「答えみたいなもの」であり、「答え」にするためにはアクションが必要なのだと思う。

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