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最も信頼できるのはブッカー賞『世界の8大文学賞』

 ノーベル文学賞や芥川賞、ブッカー賞などの受賞作品から「これは!」というものを選び、作家や翻訳家、書評家が全部読んだ上で実現した鼎談。おかげで積読山がさらに高くなる一方、わたしの偏見が解消された。

 というのも、常々思っていた「芥川賞って新人賞なのに勘違いしている人いる?」が喝破されてたから。日本最高の文学賞みたいに考えてる粗忽者は少なからずいる(ただし、これ読んでる人は該当しないはず)。だが、芸術性の高い作品に与えられる賞だと考えていると、本書で足元をすくわれる。最近の傾向は変わってきているようだ。

 普通なら、芥川賞は芸術性、直木賞はエンタメだと考えがちだが、東山彰良『流』をぶつけてくる。これは日本語で書かれてはいるけれど、日本になじみのない世界が描かれている。中国語を使ってポリフォニックな雰囲気を演出しつつ、言語的越境のような冒険が試みられているらしい。そういうものが平気な顔をして受賞して、なおかつ日本で沢山売れている。直木賞のほうがより芸術性の高い、激しいものを生み出しているというのだ。

 「フランス文学やイギリス文学みたいなものを日本語で書こうとしている人を誉めてあげる」芥川賞と、「日本から見た日本だけではなくて、アジアから見た日本というアジア的な感覚がある」直木賞は、面白い視点なり。純文とエンタメという硬直的な分けしかしてこなかったので、いい刺激になった(さり気なく芥川賞をdisっているのが笑えた)。

 そして、ノーベル文学賞。これも世界最高の文学に与えられると勘違いしてる人いるんじゃ……と思っていたら、見事にツッコミが入ってた。世界の文学賞っぽい雰囲気を出してはいるものの、ヨーロッパの主要言語しか読めない人が選考委員で、北欧の作家だとさらに有利。これに該当しない作家なら、翻訳に恵まれているのが必須となる。本書では、「ノーベル文学賞を獲ったにもかかわらず、別の理由でいい作家」としてマンローやパムクを紹介している(さり気なくノーベル文学賞をdisっているのが笑えた)。

 真打はブッカー賞だ。バラエティに富み、統一感がないのに「当たり」率が極めて高く、どれ読んでも満足したという記憶しかない。選考委員は大学教授から文芸評論家、引退した政治家、文学好きな芸能人と種々雑多で、毎年委員が変わるそうな。タコツボ的な癒着や、いかにも選考委員の好みに合わせた作品を書く……なんてことに無縁らしい。メッセージ性が強く出るノーベル文学賞とは対照的に、「実力で勝負」しているのがブッカー賞だろう。

 本書の収穫は、「ブッカー国際賞」を知ったこと。英語圏で書かれたブッカー賞を補完するために2005年につくられた賞だという。基準は、世界文学に大きな功績のある作家で、なおかつ作品が英語で読めること(翻訳も含まれる)。これ、ノーベル文学賞に真っ向勝負を挑んでいるが、受賞作家を見る限り、要チェックなり。翻訳の場合、原著者と翻訳者の共同受賞(賞金山分け)というシステムもいい。翻訳の業績はもっと評価されるべきだから。

 イスマイル・カダレ(アルバニア)
 チヌア・アチェベ(ナイジェリア)
 アリス・マンロー(カナダ)
 フィリップ・ロス(アメリカ合衆国)
 リディア・デイヴィス(アメリカ合衆国)
 クラスナホルカイ・ラースロー(ハンガリー)
 韓江(韓国)

 本書がいいのは、鼎談形式だから、発言者の「名前」が見えるところ。気になる本を推している人、気になるコメントをしている人をチェックして、その人の書いたもの―――書籍だけでなくtweetやブログなど―――を追いかける。わたしが知らないスゴ本をきっと読んでる面々ばかりだが、主催者の都甲幸治をはじめ、宮下遼、江南亜美子あたりが、特にツボだった。

 それぞれの賞ごと(章ごと)に、今後受賞してほしい人を挙げているのがまたいい。ノーベル文学賞の候補に多和田葉子を推しているのを見て激しくニンマリしたし、ボブ・ディランを挙げたのは大正解だった(9/23発行だから、鼎談はそのずいぶん前)。その次はグギ・ワ・ジオンゴ(ケニア)か……

 基本は、自分が気になる作家・作品を読んでる人を探し、その人が推してる(かつ自分の知らない)作家・作品を読む。これこそが、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」極意なり。その「あなた」を探すガイドブックとして。

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