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常識を書き換えろ『植物は<知性>をもっている』

植物は「知性」をもっている 進化について学ぶにつれ、わたしが間違った理解をしていたことが分かってきた。それは、「生命は、微小サイズから複雑化し、運動能力と知性を備えた最終形態がヒトである」という理解のことだ。左から右に引かれた矢印に、微生物、植物、昆虫や動物、そしてヒトを並べたイメージに囚われて、「単純→複雑」「汎用→専門」といった方向に進むことを、「進化」だと思い込んでいたのかも。

 そうではなく、現時点で生きているあらゆる生物は、進化の点からするとエリートなのだ。サイズやフォルムに違いはあるが、それは生き延びるために採った戦略の差異による。

 たとえば微生物を「遅れた」「下等な」ものと見るのは誤りだ。生命誕生以来、最も長期間生きてきた微生物こそ、超エリートといえる。スゴ本『小さな巨人 微生物』は、この誤解を解くばかりでなく、その優秀さを見せつけてくれた。微生物とは、サイズを小さくすることによって、高い代謝活性と増殖能力を手に入れた生き物であり、地球環境に働きかけ、さらにコロニーをつくり他の生物と共生することによって進化を方向付け・加速してきた存在だというのだ。

 いっぽう本書は、植物のエリートっぷりを見せつけてくれる。地球上のバイオマス(生物の総重量)で見た場合、多細胞生物の99.7%を占め、より高い適応力、より多様な生活圏を獲得している植物は、「緑の惑星」の言葉どおり、地球を支配している生態系だといえる。

 植物は知覚し、記憶し、学習する。根と根の間、根と葉の間、さらには他の植物や微生物、昆虫、動物との間で、電位差や音、化学物質によるコミュニケーションをはかり、互いに利用し・利用される世界をつくりあげている。地下に張り巡らされた「根圏」は、モジュールにより構成され、光・重力・磁場・温湿度・振動・化合物などの情報を収集し、生き延びるための決定を自律的に行っている。たとえ食われたりして一部が破壊されても、モジュールが相互に作用しあい、全体として役割を果たすことができる。

 つまり、植物は、ヒトや動物などに使われる「個体」というよりも、コロニーに似た存在となっている。一本の木があるのではなく、木が抱える土壌や空間、そこに含まれる生態系も含めた全体が「木」という存在なのであって、それは人が作り出した巨大都市や鉄道網、インターネットにそっくりだ。著者は、植物が織り成す創発的なネットワークを「生きたインターネット」と呼ぶが、むしろ人類が植物の真似をするのが上手になってきたのではないかと思えてくる。

 本書では、「知性」を問題解決能力として定義し、「動かない」「脳がない」とされる植物が、どのように問題解決を図っているかを様々な例で示してくれる。読み進むにつれ、『植物は「知性」をもっている』は煽りどころか、むしろ控えめに付けられたタイトルだということが分かってくる。

 たとえば、草食の昆虫に襲われたとき、BVOC(Biogenic Volatile Organic Compounds 生物由来揮発性有機物)という「警報」を発するトマトの話は知っていた。この警報により、周囲の植物は葉を消化しにくくする化合物を出したり、虫の食欲を失わせる味に変えたりする。だが、「敵の敵」を援軍として呼び寄せるライマメの事例には驚いた。ライマメは、ナミハダニから攻撃を受けると、BVOCを放ち、それに惹かれて、ナミハダニの天敵である肉食のチリカブダニが集まってくる。つまりライマメは、誰から攻撃を受けているのかを識別し、その天敵を呼び寄せることができるのだ。

 根圏におけるコミュニケーションも凄い。マメ科の植物とその根に棲み付く窒素固定細菌は、窒素と糖を交換し合うことで相利共生を図っているが、互いにどうやって相手を識別しているのか? ほとんどの細菌は根にとって病気の原因となるため、植物は頑丈な防護壁を築いている。ところが窒素固定細菌は化学物質を使った会話を行い、根の中に入ってくるのを「許可」してもらう。その際、NODファクター(根粒ファクター:Nodulation factors)と呼ばれる、いわばパスワード信号をやり取りすることでコミュニケーションを確立しているというのだ。

 植物の「利他的行動」を試した実験も面白い。通常なら自分のテリトリーを守るため、エネルギーの大部分を地中部分の生長に費やし、大量の根を生やすことで、土地を占有するという闘いに勝とうとする。ところが、隣が「親戚」の場合、根の生長は最小限に抑えられ、その分エネルギーは地上部分に回される。2007年の実験で、同じ条件下で栽培した二つの植物群が、対照的な生育を遂げたという。一つは、同一個体から採取した30個の種子を育て、もう一つは、互いに異なる個体の種子30個を育てる。結果は明白で、前者は根の数を抑え共生する一方で、後者はそれぞれ自分のテリトリーを独占しようと無数の根を伸ばし妨害しあったという。つまり植物は、隣接する遺伝子の「近さ」に気づき、競争を避けるいうのだ。

 こうした最近の研究成果を知るにつれ、「植物には魂(プシュケー)がない」というアリストテレス以来の偏見により、植物を過小評価してきたことがよく分かる。物理的に見るならば、数千年を経て形成された都市における人とモノの流通網で、論理的に見るならば、数十年で形成された人と情報のインターネットは、実は植物の生態系をなぞっているのではないか……と考えると面白い。スケールこそ違えども、人類は、つながりあうことで、ようやく植物に追いついたのだ、と言えるのかもしれぬ。

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