« 2015年4月12日 - 2015年4月18日 | トップページ | 2015年4月26日 - 2015年5月2日 »

おもわず惹き込まれる一行目から、深々と突き刺さる一句まで「決めの一行」のスゴ本オフ

 好きな本を持ちよって、まったり熱く語り合う、それがスゴ本オフ。他の読書会と比べると、収穫高がケタ違い。本を介して人を知り、人を介して本に会うオフ会なり。もりもり積読山が殖えるだけでなく、既読も再読したくなる。気になる方は、[facebookスゴ本オフ]をチェックしてね。

 いつもは、「歴史」とか「猫と犬」といったテーマを予め決めておき、それに沿ったお薦めをプレゼンするのだが、今回は趣を変え、「決めの一行」でやってみた。すなわち、「この出だしにハマった」とか、「この決めゼリフに撃たれた」など、紹介したい一行(一句、ワンパラグラフ、一言、隻句、いちフレーズ)が最初にあって、それを基点に紹介をするという仕掛け。実況tweetまとめは、[好きな本の心の残った1行を紹介する「キメの1行」のスゴ本オフまとめ]をどうぞ。ここでは、画像+コメント+一覧の形でご紹介。

 せっかくだから張り出してみたら、壮観壮観。

Sugohonitigyou01

Sugohonitigyou02

Sugohonitigyou03


 既読本なら「それを引いてくるのかー」と、思わず膝ポンする一行に出会うし、未読本だと「それは何ナンだー」と身を乗り出したくなるような一句に鷲づかみにされる。

 たとえばこれ。

羆嵐

「おっかあが、少しになっている」

 この強烈な一行は、吉村昭『羆嵐』より。実際に北海道で起きた人喰い羆(ひぐま)事件を基にした記録文学で、このセリフは羆に連れ去られた主婦(だったもの)が発見されたとき言葉だ。表紙のインパクトとは裏腹に、羆が登場するのは数えるほど。「そこにいない」ことで緊張が倍増し、「そこにいるかも…」で恐怖が爆発する手腕は、ほとんどホラーの領域。これは、映画"ALIEN"や"JAWS"にも通じるものがあって、「"それ"を見た人は死んだ人」になるから。生きている人は、咀嚼音とか残骸から推し量るほかない。薄いくせに、臨場感が容赦ない、読むには覚悟が必要な一冊。

 わたしがコロっと騙されたのが、これ。

ベルサイユのばら

「フランスばんざい」

 アルフォンス・ドーデ『最後の授業』だと思いこんでたわたしが浅薄だったなり。これは、池田理代子『ベルサイユのバラ』のクライマックスシーン、ヒロイン(でありヒーローでもある)オスカルから絞りだされてきた言葉だ。フランス革命は、「私が私であるために自由になりたい」という思想を元にして始まり、やっと手に入れて自由が見えたときだからこそ刺さる。

Sugohonitigyou05

 ジャンケン争奪戦となったのが、これ。

俺、リフレ

「人間それぞれにマニュアルがあれば、無駄な苦労はしなくて済むんだろうな」

 ヒキタクニオ『俺、リフレ』は、冷蔵庫が主人公というキテレツな話なのだが、直面しているのはリアルな家庭崩壊。LDKに鎮座する冷蔵庫は、そこで暮らす夫婦や転がり込んできた天才少年の悩みを耳にして、人間のおかしさを思いやる。しかし悲しいかな、何も言えず何もできない、冷蔵庫だから。実験小説の設定、シリアスな日常崩壊劇、泣ける展開が詰まっている。スゴ本オフでは、「放流」と称し、プレゼントしてもいい本を読みたい人に渡すというイベントがある。当然、人気のある本はジャンケン勝負となるのだが、これが一番熱かった。

 これも凄かった。

鬼が来た

「お兄さん、お姉さん、新年明けましておめでとう。あなたは私のおじいさん、私はあなたに息子です」

 姜文監督の映画『鬼が来た!』からのセリフ。第二次大戦末期、日本軍と中国の農民との勘違いだらけのやりとりが引き起こす、ブラックジョーク満載の悲喜劇。負けた日本兵が、中国人を罵ることで殺してもらおうとして、最悪の罵倒を教えろと通訳に詰め寄る。通訳は、自分を守るために、正反対の言葉を教える。それが、このセリフとのこと。ジャンケンに勝ってDVDをゲトしたので、GWに観よう(ただし、かなりキツい描写があるらしいから、独りで観るとしよう)。

Sugohonitigyou07

 謎なのに身近な一行が、これ。

料理と科学のおいしい出会い

(S1+S2+S3) / W・・・味噌汁
(O+G)/W・・・生クリーム

 石川伸一『料理と科学のおいしい出会い』からのキメの一行で、すべての料理は数式で表せるという。美味しい料理の秘訣は科学だというスタンスから、理系音痴でも楽しく読めるように書かれている。それだけでなく、ここで紹介される料理の方程式を応用することで、これまでにない全く新しい料理を創造することも可能だという。なんだかIBMが開発した人工知能ワトソンの話みたいで面白い。

 料理を「見える化」したものとしては、玉村豊男『料理の四面体』が思い浮かぶ。四面体の頂点である、「空気」「水」「油」という要素が「火」の介在によって素材をいろいろな方向へ変化させることが、料理の本質だという。併せて読みたい。

 料理といえば、(毎度のことながら)すごいご馳走だった。軽くつまめるものから、スイート、桜をあしらったプロフェッショナルなものまで、堪能いたしましたな。

Sugohonitigyou08

Sugohonitigyou09

Sugohonitigyou10

Sugohonitigyou11

 事前に登録された「この一行」を、まとめてご紹介しよう。既読の記憶と照らしてもよし、未読本への縁にしてもいい。

  • 怒りの根っこには必ず、「私が正しい」という思いがある『怒らないこと』
  • 「おれを力いっぱい殴ってくれ」『ファイト・クラブ』
  • 私は兄の人生を受け継いだ。兄の机、事業、小道具類、兄の敵、馬たちと愛人を受け継いだ。私は兄の人生を受け継いで、もう少しで殺されそうになった。『直線』
  • フランスばんざい『ベルサイユのばら』
  • It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.(もっとも強いものではなく、もっとも賢いものでもなく、もっとも変化に適応的なものが生き残る)『種の起源』
  • 私が死んだ後でも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、凡てを腹の中にしまって置いて下さい。『こころ』
  • 逃げちゃダメだ『新世紀エヴァンゲリオン』
  • 私には分からない『異邦人』
  • 「おっかぁが少しになっている」『羆嵐』
  • 「どうなる、とは漢(おとこ)の思案ではない。婦女子のいうことだ。おとことは、どうする、という以外に思案はないぞ」『燃えよ剣』
  • 友よ、来たれ。新しき世界を求むるに時未だ遅からず。船をつき出し、整然と坐してとどろく波をたたけ。『女王陛下のユリシーズ号』
  • 「取り残されているのはアメリカの民間人か?」(p.106)『海の底』
  • 鳥にむかい「この世のあるかぎり、長生きしてね」と思わずうたっている日々であると(p.279)『琉球布紀行』
  • 「ならわたし敵の一味に就職するわ」(p. 143)『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』
  • クーラーは大変失礼な商品である。(p. 79)『消費者をやめて愛用者になろう! 割り箸から車(カー)まで』
  • 「あててみましょうか」レイチェルは言った。「真北へ向かってる?」(p. 90)『デセプション・ポイント』
  • 「いやぁ、まさかこの世に白いチツテトがおるとはなぁ」(p. 4)『本にだって雄と雌があります』
  • 観測されないものは、存在しないも同じ(p. 92)『はみだす力』
  • 女の自立は台所の自立から(p. 50)『聡明な女は料理がうまい』
  • 「この会社にいる人間が考えることなんて、たかがしれている」という見下した感覚が、実は自分自身に向けられていることを自覚している人たちはどの程度いるだろう『自分の仕事をつくる』
  • 「ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!」『パンドラの匣(「正義と微笑」)』
  • 「私は、世の中のベースには、常に本があると思っています。それは間違いありません。」『本の力』
  • 「お願いだけら私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて・・・あなたにはそうする義務がある。」『ナラタージュ』
  • 正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏側に赫奕 (かくやく)と昇った『豊穣の海 二 奔馬』
  • 埋れ木の、花咲く事もなかりしに、身のなる果は、あわれなりける『謡曲集一 三道 頼政』
  • (S1+S2+S3) / W・・・味噌汁『料理と科学のおいしい出会い』
  • 胸つぶるる思いか、三人とも、まさにその思いを持っている。才能という不思議な不確実なものに苛まれ、叫び声をあげたいんだ。しかし、その声を上げたとしても、世間の空気の中にすっと消えいってしまうだけなんだ。『俺、リフレ』
  • 教えて。ぼくはなんなの?<しゃべる灯心草>。それじゃあ答えにならないよ。いま真実なのはそれだけ。『エンジン・サマー』
  • 冗談の言い合いなど、とても私が熱意をもって遂行できる任務とは思えません。変化の激しいこの時代ですから、伝統的な職務内容にない新しい任務を受け入れていくのは、十分に理由のあることです。(略)うっかり冗談を口にし、つぎの瞬間、その場の雰囲気にまったくそぐわないとわかったときの悲惨さというものは、想像しただけで身の毛がよだちます。『日の名残り』
  • 「墓地から来たんでせうが。」 頭から水をかぶった様な気がした。『とほぼえ』
  • 夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう そしてそれは戸をあけて 寂寥のなかに 星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう『のちのおもいに』
  • 日も暮れよ、鐘も鳴れ 月日は流れ、わたしは残る『ミラボー橋』
  • 今、帰っただよ。『指輪物語』
  • わたしが死んだら、そこに埋めてもらえばいい。(I can be buried anywhere when I die.)『すばらしい墜落』
  • 自分が悪いと思ったら頭がおかしくなってしまうんだ、俺はもうこれから先何があっても自分が悪いなんて思わないぞ。『テニスボーイの憂鬱』
  • オレが言いたいのは感情と情緒だけでモノを見ちゃダメだってことです。(中略)カタチは人間の心を支配し洗脳するからね。カタチに心を奪われた人間は腹減った犬と同じで何だって言うこと聞くかんな。世の中のサギとかインチキとかあやしい団体とかみんなそれ。(中略)モノを見抜く心はまずカタチを見抜く心に始まるの。本当だよこれは。『福野礼一郎の宇宙 甲』
  • 人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。 多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない『ローマ人の物語〈8〉』
  • 「でもね、ぼくには わかったんだ」『いがぐり星人グリたろう』
  • 「あんた、ひょっとしてベイビーなの?」『有頂天家族二代目の帰朝』
  • 「お兄さんお姉さん、明けましておめでとうございます! あなたは私のおじいさん、わたしはあなたの息子です!」『鬼が来た!』
  • 人の心が見えないように、人と人の絆も目には見えないものなのだ。『オトナ婚です、わたしたち』
  • 恋は、ヒトという種が再生産を欲する本能だ。『ウェルカム・ホーム!』
  • 自分がこんなふうに人に見られたいと思うーわたしはそのとおりに見えている、美しいとも見えている、美しいということがみんなの望むことならば、美しい、あるいは可愛いと言ってもいい、たとえば家族には可愛いと見えている、家族にであって、それ以上ではない、わたしについて、みんながこんなふうであって欲しいと思うなんにでも、わたしはなることができる。そして自分がそうだと思うことができる。『愛人』
  • 「純粋で、私欲のない利他主義は、自然界には安住の地のない、そして世界の全史を通じてかつて存在したためしのないものである。しかし私たちは、それを計画的に育成し、教育する方法を論じることさえできるのだ」『利己的な遺伝子』
  • 佳奈と何度でも話そう。家が建ってからでも遅くはない。優雅だなんて、もう言われたくないんだ。『優雅なのかどうか、わからない』

Sugohonitigyou06

 そして、紹介された本は次の通り。


  • 『怒らない練習』アルボムッレ・スマナサーラ(サンガ出版)
  • 『ファイト・クラブ』チャック・パラニューク(早川書房)
  • 『直線』ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)
  • 『ベルサイユのばら』池田理代子(集英社)
  • 『種の起源』チャールズ・ダーウィン
  • 『こころ』夏目漱石(岩波書店)
  • 『新世紀エヴァンゲリオン』庵野秀明(GAINAX)
  • 『異邦人』カミュ(新潮文庫)
  • 『羆嵐』吉村昭(新潮文庫)
  • 『燃えよ剣』司馬遼太郎(新潮文庫)
  • 『女王陛下のユリシーズ号』アステリア・マクリーン(ハヤカワ文庫)
  • 『海の底』有川浩(角川書店)
  • 『琉球布紀行』澤地久枝(新潮社)
  • 『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』高野文子(マガジンハウス)
  • 『消費者をやめて愛用者になろう! 割り箸から車(カー)まで』秋岡芳夫(復刊ドットコム)
  • 『デセプション・ポイント』ダン・ブラウン(角川書店)
  • 『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁(新潮社)
  • 『はみだす力』スプツニ子!(宝島社)
  • 『聡明な女は料理がうまい』桐島洋子(アノニマスタジオ)
  • 『自分の仕事をつくる』西村佳哲(晶文社)
  • 『パンドラの匣』太宰治(新潮社)
  • 『本の力』高井昌史(PHP)
  • 『ナラタージュ』島本理生(角川書店)
  • 『豊穣の海 二 奔馬』三島由紀夫(新潮文庫)
  • 『謡曲集一 三道 完訳日本の古典』小山弘志編より、世阿弥『頼政』(小学館)
  • 『料理と科学のおいしい出会い』石川伸一 (化学同人)
  • 『俺、リフレ』ヒキタクニオ(PHP文芸文庫)
  • 『エンジン・サマー』ジョン・クロウリー(扶桑社)
  • 『日の名残り』カズオ・イシグロ(早川書房)
  • 『とほぼえ』内田百閒(「名短編、さらにあり」ちくま文庫所収)
  • 『のちのおもひに』立原道造(「立原道造詩集」岩波文庫所収)
  • 『ミラボー橋』G・アポリネール(詩集「アルコール」所収)
  • 『指輪物語』J.R.R.トールキン(評論社)
  • 『すばらしい墜落』ハ・ジン(白水社)
  • 『テニスボーイの憂鬱』村上龍(幻冬舎)
  • 『キカイの本質を理解すればクルマの偉大さがわかる! 福野礼一郎の宇宙 甲』福野礼一郎(双葉社)
  • 『ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)』塩野七生(新潮社)
  • 『いがぐり星人グリたろう』大島妙子(あかね書房)
  • 『有頂天家族二代目の帰朝』(幻冬舎)
  • 『鬼が来た!』チアン・ウェン監督(原題:鬼子来了)
  • 『オトナ婚です、わたしたち』大塚玲子(太郎次郎社エディタス)
  • 『ウェルカム・ホーム!』鷺沢萠(新潮文庫)
  • 『愛人』マルグリット・デュラス(河出書房)
  • 『利己的な遺伝子』リチャード・ドーキンス(紀伊國屋書店)
  • 『優雅なのかどうか、わからない』松家 仁之(マガジンハウス)
  • 『お話を運んだ馬』I.B.シンガー(岩波少年文庫)
  • 『おなかがすく話』小林 カツ代(河出文庫)
  • 『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』ランス・アームストロング(講談社文庫)
  • 『シークレット・レース―ツール・ド・フランスの知られざる内幕』タイラー・ハミルトン(小学館文庫)
  • 『BigFatCat and THE GHOST AVENUE』向山貴彦(幻冬舎)
  • 『BigFatCat AND THE SNOW OF THE CENTURY』向山貴彦(幻冬舎)
  • 『指輪物語』トールキン(評論社文庫)
  • 『アイの物語』山本 弘(角川文庫)
  • 『いがぐり星人グリたろう』大島 妙子(あかね書房)
  • 『愛のゆくえ』リチャード・ブローティガン(早川書房)
  • 『悲しき熱帯』レヴィ=ストロース(中公クラシックス)
  • 『りっぱな犬になる方法』きたやま ようこ(理論社)

Sugohonitigyou04

 次回のテーマも、いつもと違うぞ。漱石『こころ』が基点となる。『こころ』の読書会? と思うかもしれないけれど、そうではない。『こころ』を読んだ人に対し、「その次に読んでほしい」という作品を選ぶのだ。テーマでもモチーフでも時代性でも、同種でも異種でも亜種でも、妄想力と創造力を逞しくさせて『こころ』の次の一冊を選んで欲しい。もちろん、本に限らず、映画や音楽、ゲームもありだし、「そもそも『こころ』なんて根暗な独善者へのラブレターよりも、これ読んで明るく楽しく爆散しようぜ」なんてノリもいい。

Sugohonitigyou12

| | コメント (0) | トラックバック (0)

怒りの根っこには必ず、「私が正しい」という思いがある『怒らない練習』

怒らない練習 怒らない人生が欲しい人に。

 マスゴミ、経済学者、暴走老人と、世に怒りの種は尽きまじ。新聞読まないのは心の平穏のためだし、オフィスではひたすら平常心、妻の罵倒は御褒美です。それでも「イラッ」とくる瞬間が怖い。いったん怒りのスイッチが入ったら、どんどんエスカレートして逆上するから。そして、ずっと後になっても何度となく思い出してはネチネチ自分を責めるハメになるから。

 なんとかせねばと読んだのが『怒らないこと』、これは素晴らしい本だった。なぜなら人生変わったから。「一冊で人生が変わる」ような軽い人生なのかと言われそうだが、違う。「怒り」の悩みは常々抱えており、ガン無視したり抑圧したり、王様の耳はロバの耳を繰り返してきた。上手くいったりいかなかったり、アンガー・マネジメントはかくも難しい。だが、そういう苦悩を重ねてきた結果、この一冊をトリガーとして一変させるだけの下準備になっていたのだろう。とにかく、一読、怒らなくなった。

 しかし、である。あれほど楽になれたのに、戻ることがある。疲れていたり、空腹なとき、自分の中の「怒り」の捕手がウォーミングアップを始める。そしてまた、そういう時に限って、怒りのボールが撃ちこまれる。『怒らないこと』での学びがキレイに忘れてしまい、湧き上がる怒りを止められない自分が怖くなる。

 そして気づいたのは、「練習」が必要なこと。読んで分かってハイ終わり、というわけではない。怒らない方法をくりかえし実践する必要があるのだ。『怒らないこと』と『怒らないこと2』を下地に、怒らないための練習をトレーニング仕立てにしたのが本書になる。

 作者は提案する、怒りをよく見てみろという。そして、怒りの本質は、実は「恐怖」なのだと説く。人は何万年もの間、危険に囲まれた生活を送っていた。それは、「獲物を獲るか、獲物になるか」という人生で、命を守るために「危険である」=「怖い」という感情を育ててきた。これが現代になって、安全になったとしても、まだ脳が追いついていないというのだ。

 そのため、自分が思っていたのと違う出来事に出会ったとき、「危険」=「怖い」から、怒りという感情が呼び覚まされることになる。そして、その「思っていたのと違う出来事」から「怒り」を引き出しているのは他ならぬ自分自身で、このカラクリに気づいた瞬間、「怒り」は消える(本書では、怒りを見る、怒りに気づくという言い方をする)。

 このように、怒りの連鎖からそれに気づくやり方や、他人から怒りをもらわない方法が、練習という形でレクチャーされる。怒りの物理的背景(空腹、睡眠不足、寒さ)に目を向けることで、どういうときに自分が怒りに対して無防備になっているかに自覚的になれという指摘は、目鱗だった(そして、まさにその状況で怒っていた記憶があった)。

 怒りの種類やそれを引き起こすトリガーは色々ある。自分が陥りがちな怒りに対症療法的に接するのではなく、予防的に振舞えというアドバイスは、くりかえし練習することで、身につけよう。これは、怒らないための「型」なのだ。

 怒りの根っこには必ず、「私が正しい」という思いがある。私も世界も完全ではないことに自覚的であれ。かつて正しかったものが、いま正しいとは限らない。「思っていたのと違う出来事」すなわち、変化に対して寛容であれ。そして、怒らないための「型」をくりかえせ。予防の一番は「笑い」、幸福だから笑うのではなく、笑って幸福になれ。これこそが、無常の実践なのかもしれない。

 怒ったら負け。怒らない人生のための一冊。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

« 2015年4月12日 - 2015年4月18日 | トップページ | 2015年4月26日 - 2015年5月2日 »