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デザインはコミュニケーションから生まれた『コミュニケーションのデザイン史』

コミュニケーションのデザイン史 対話するように読めるコミュニケーション・デザインの教科書。自分の経験と著者の知見が響きあい、参考文献が芋づるで出てくるのが嬉しい。

 著者の目線が素晴らしい。わたしは今まで、機能や美的造形を考慮したプロダクツやその設計を「デザイン」と考えていた。しかし彼は、「意思を持って何かをつくる行為」をデザインと再定義する。すると、デザインされた「モノ」や「コト」だけではなく、その前後にいる「人」にフォーカスが当たるようになる。デザインの話というと、「モノ」や「コト」に目が行きがちだが、デザインが人により生み出され、人により享受される以上、人を取り巻く状況や文脈込みで見ろというのだ。

 たとえば、地図と交通について。古典的なTO図やプトレマイオス図、そして大航海時代の地球儀を横断的に参照しながら、地図とは「世界はこのようになっていると定義したもの」という観点を引き出す。つまり、地図とは現実にそう見えている地形や造形のコピーではなく、ある特定の時代や文化やコモンセンスが反映されたものになる。これは、路線図を歩くと体感できる(東京駅の京葉線に乗るなら有楽町駅から歩いたほうが早い)。

 そして、宇宙船アポロ号から撮影された地球全体の姿が人類に与えたインパクトを考察する。すなわち、一枚の写真に収められたその姿は、地球とは「有限の大きさを持っている」という単純な事実を、ありありと想起させるからだ。さらに写真や地図がビジュアル化した世界像が、その時代の人々が持つ世界像を形作ると指摘する。地図には、そうした世界像の形成と反映のフィードバックが残されているため、これらを並べてみることで、世界観の変遷を目に見えるものとして追うことができるというのだ。これは時間軸に限らず、自国を中心とするそれぞれの国の世界地図を並べても面白い(たとえば中国から見た世界地図では、日本が太平洋へのフタのようになっている)。

 あるいは、美術館と博物館をコミュニケーション・デザインとして捉える見方が面白い。かつては権力者の私的なコレクションであった。そこに王冠があるということは、それを被っていたものが弑されている証拠だからね。これが一般市民にも公開されるようになり、国家を代表する美術館や博物館(掠奪品の展示場)が作られる過程で、「歴史をつくる装置」としても機能するようになったという。美術館なら、「美とはこういうもの」を規定して展示する場になる。美術館や博物館を、モノではなく人と人の間のデザインとして見るならば、それは権力や権威をつくる/見せる場になるわけだ。

 そして、ここから面白くなる。そうした政治的デザインへの異議申し立てがあったという。たとえば、小便器に(偽者の)サインした「泉」が有名だ。マルセル・デュシャンがあれでやりたかったことは、美術館がもつ場の政治性の可視化だという。それ(小便器)がなんであれ、そこ(ニューヨーク・アンデパンダン展)に置かれさえすれば、芸術とされる場、それが美術館なのだということを明らかにしようとしたのだ。「みるものが芸術をつくる」という彼の考えは、何が見られるものなのかを規定する美術館への問いかけになるのだ。

 この流れは、美術館や博物館といった「場」では収容しきれないパフォーマンスに受け継がれる。1970年代に生まれた多様なアート───ランドアートやインスタレーション、パブリックアート、コンセプチュアルアートなど───に共通しているのが、所蔵・収蔵を忌避しているように見えるところ。なぜそうした作品が出てきたかというと、これは美術館批判、美術館の「美を定義する」権威に対する異議申し立てだというのだ。博物館や美術館を、権威付けの装置として見る捉え方は理解していたが、これを美術史の文脈に置くことでかくも面白くなるとは思わなかった。

 他にも、本をつくる、手紙を書く、図書館や学校といった「場」をつくることといった営為をすべて、コミュニケーションという文脈から捉えなおすことで、デザインの領域として扱おうとする。そして、そこから生まれる様々な道具や技術、制度や思想を横断的に検証することで、人類にとってコミュニケーションとは何かをぐるりと考察しようとする。

 もちろん網羅性は望めないものの、アイディアを接続するヒントはあちこちにあるので、本書をベースに好きなだけ思考を拡張させ、遊ばせることができる。この手法を、たとえば「駅」や「劇場」そして「新聞」に当てはめてみると、いくらでも面白く読み解くことができる。

 「コミュニケーション」を再定義する一冊。

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