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駅を見る目が一変する『駅をデザインする』

駅をデザインする 出口は黄色、入口は緑、丸の内線は赤い○。何気なく目にしている駅案内をデザインしたのが、この著者だ。

 著者は、地下鉄の初乗り30円だった1972年から、駅の公共空間における問題解決のデザインを進めてきた。本書は、その豊富な事例とともに、彼自身の熱い思いを受け取るだろう。

 そのデザイン思想は、「サインとはメディアである」の一言にまとめられる。そして、このメディアを、「案内サイン」と「空間構成」の2つの方向性から説明する。すなわち、パブリックな空間における、提供者と利用者のコミュニケーションを図る際、「言葉」に相当するのが案内サインであり、「場面」に相当するのが空間構成だというのだ。

 「案内サイン」の事例は、営団地下鉄(今は東京メトロ)での改善になる。まず、多様な形式の案内表示を統一し、シンプルな記号体系にまとめる。その上で、乗車系・降車系のそれぞれの利用者動線に沿った組み合わせで提示する「サインシステム」を開発する。表紙のサインシステム・フローチャートが典型で、この流れに沿って動いていたことに今さら気づかされる。新宿ダンジョンや渋谷ラビリントスでは、何度も(今でも)助けられる。というか、これないと遭難する。

 そして、「空間構成」では、広々とした風景を作り出すことを優先課題とする。電車から降り立ったとき、駅構内に入ったときに、さえぎるものが無く、全体の様子が見て分かることが重要だという。著者が手がけた、千代田線国会議事堂前駅の建物のデザインが、その顕著な例だ。内部に仕切りを設けず、自然光が下層階まで差し込んでいく空間をつくることで、連続性のある内部空間を実現している。移動方向を指し示すサインは一切ないにもかかわらず、圧倒的な光の量が、そこが地上につながる経路だというメッセージを伝えている。

 パブリックな空間で人々の自然な流れを生み出すには、この空間構成が目的意識をもってデザインされ、統一的でシンプルな案内サインでコミュニケーションを図らねばならぬという。著者の実績と熱意は分かるが、そこから飛び出る日本ダメダメ論に首をかしげたくなる。

 たとえば、ロンドン地下鉄やワシントン駅を絶賛する一方で、日本の駅の水準が低いことを批判する。JR京都駅の空間整備は部分的で、奥行きが狭いから旅情を楽しめぬと嘆き、JR新宿駅を「わかりにくさ世界一」の無残な空間だと両断する。いち利用者のわたしからすると、あの立地、あの過密、あの迷宮がこの程度で済んでいると考える。

 新宿を例にとると、ホームごとに個別の屋根が架けられて全体の状況が見えにくいから、全体を高い屋根で覆って、JR田端駅のように作れと提案する。一日の降車数8万と200万を、同じ「山手線」で比較する発想が跳び抜けてて愉快だ。利便性は重要だが、新宿駅を「止めずに」作り直すことは、現実的でないほど困難だろう。新幹線品川駅の建設に6年もかかったわけや、新宿南口バスターミナルやJR横浜駅の工事がいつまでたっても終わらない理由と同じだ。

 エンジニアと外科医の小話を思い出す。「エンジニアはPCの修理をして、外科医は心臓の手術をする。似たようなことしてるのに、なぜ外科医の給料が良いのか?」という問いに、外科医は「電源を切らずにしているようなものだからね」と返す。できあがりだけを考えるデザイナーと、アプローチやマネジメントまで検討するアーキテクトの違いか。

 また、日本の駅名サインが生真面目に統一性を求めていることを硬直的だと批判する。パリやニューヨークの地下鉄は、自由な書体が使われているが、利用上、まったく不便は感じないという。ホント? どちらも行ったことないが、例示された画像を見る限り、他の看板や広告にまぎれ、「これが駅名である」と示されないと一瞥で判別できなかった。

 そして著者は、これを見習ってみなとみらい線の駅名フォントを不統一にしたんだと胸を張る。おまえか! と叫ぶ。初めて利用した際、駅ごとにデザインが異なり、えらく不便に感じた。黒字に白の文字や、その逆、書体もさまざまのため、駅名標を意識的に探す必要が出てくる。慣れれば風情があるだろうが、諦めた。みなとみらい線に限り、ドア上の電光掲示で確認することにしている。

 デザイン寄りの話には頷ける指摘もあるが、こと建築となると勇み足じみたものを感じる。デザイナーの限界が透けて見え、賛否の両側から考えさせられる。

 駅の見方を、一変させる一冊。

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