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無知ほど完全な幸福はない『続・百年の愚行』

 『百年の愚行』は、人類が20世紀に犯してきた愚行を、100枚の写真で見える化したもの。奇形化した魚、エイズの子、鮮やかなガス室、貧困の究極形、人類が成してきた悪行とツケ100年分は、絶句するほかない。

百年の愚行続・百年の愚行

 その続編が出た。これは、人類の狂気を見える化したもの。まだ21世紀のはじめなのに、911と311に挟まれてはみ出てきた、おぞましい恥部が写っている。戦争、弾圧、差別、暴力、貧困、環境破壊と核という切り口で、映像として残る人間の愚かさを、思う存分飲み下し、腹下せ(精神的な下痢になる)。どんなに言葉を尽くしても、圧倒的な狂気の前に、声を失うだろう。

 最初の『百年の愚行』と比較すると、センセーショナルなどぎつさが、抑え気味になっている。新疆ウイグル自治区での弾圧は、もっと血みどろor火まみれな映像があるが、煽らないよう避けられている。代わりに、「シンジャンのパレスチナ化」という寄稿で、当局の迫害は「飲鴆止渇(毒酒を飲んで渇きをいやす)」であり、近い将来に支払われる代償が高くつくことを警告する。

 同様に、ルワンダの虐殺、北アフリカ移民船の海難事故も、ずばり死体、これぞ破壊された死体といった映像を見たことがあるが、やはり注意深く配慮されている。代わりに、(本書を読むと想定される)マジョリティには、被害者の心情なんて理解できるはずがなく、逆に、加害者の心理の方が想像できるなどと、挑発的に煽りたてる。たしかに、こんな蛮行は、見るものを「善意の第三者」にさせてはくれない。怒りの持って行き場も失うだろう。

 本書で炙り出されるのは、徹底した他者への想像力の欠如だ。自らの記憶の破壊も含めてもいい。相手に名前があり、家族がいて、人生があることを知らない/想像できないから、平気で殺すことができる。空間的に離れた場所や、時間的に遠い未来の世代を想像できないから、平然と奪うことができる。自らが殺し、奪い、焼いていることを“知らない”ままでいられるのは、幸福だ。だが本書は、強制的に見せつける。直視をためらう瞬間も、目を背けたくなる場面も、記憶から暴きたて、思い出させてくれる。この狂気が、よく見えるように。

 愚行の世紀は、まだまだ続く。人類は忘れっぽい。近い将来かならず出会う、不都合な真実の原因は、ここに写っている。そのとき、これを思い出せ。一度目は悲劇、二度目は喜劇、そして三度目は終劇とならないように。

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