« 2014年11月30日 - 2014年12月6日 | トップページ | 2014年12月21日 - 2014年12月27日 »

文学の魔道書『偏愛蔵書室』

偏愛蔵書室 いい本を書く人は、いい本を読んでいる。

 いわばGIGO(garbage in garbage out)の対偶だね。開高健や池澤夏樹、ナボコフやモームから知った経験則でもあるのだが、これに諏訪哲史を入れるべき。

 なぜなら、この『偏愛蔵書室』そのものが魅惑的な書評集であり、見知った本から察するに、惑溺を誘う文学ばかりだから。流行に背を向け、公序良俗クソ喰らえな態度が好きだ。傑作も怪作も分け隔てなく、ペダンチックに喜々として語る、挑戦的な口調も大好きだ。

 厳選された100冊が凄まじく偏っていていい。東西、硬軟幅広く、文学の森の奥深くまで分け入って、戻ってこれなくなっている。正直、これらが並んでいる書棚は近寄りたくない。帰り途が分からなくなること請け合い。

 硬質で強靭な梶井基次郎やリルケを経由して、どろり濃厚ゲルルンジュースの丸尾末広、バーカーの沼に浸る。ラヴクラフトやボルヘスの悪夢を徹夜で視て、サドや澁澤龍彦の鮮血と純潔を渉猟し、埴谷雄高やプルースト山脈を踏破する。女性作家が少ないのは、著者の趣味が如実に出ておりニヤリとする。

 さらに、紹介の仕方がいい。あらすじ(物語)よりも文体(詩)、文体よりも批評を重視し、「どんなお話か(what)」よりも、「どのように(how)/なぜ(why)語られたか」に焦点を当てる。ひたすら技法や構成の妙を取り上げて、それが自身にどのような影響を及ぼしたかを語り尽くす。この書評自体が小説論であり、自叙伝であり、言語芸術入門になっているのだ。

 一冊につき三ページ、一作家一作品という"縛り"があるので、ズバリ穿って踏み込むのがいい。澁澤龍彦『少女コレクション序説』から、「少女」とは男が発明した観念だと言い出したり、三島由紀夫『憂国』に命がけのオナニズムを見出す件に激しく頷く。最高の小説であるプルーストの巨編『失われた時を求めて』に拮抗するのが、梶井基次郎『檸檬』だと言い切ったのにはブッ飛んだ。

 ただし、何かを誉めるために他を貶めるのはフェアじゃない。「小説とはこうあるべき」を掲げるのはかまわない。小説は好きに書いて読めばいいものだから。だが、そぐわないものを否定して、ノスタルジックに「昔は良かった」するのは、やめたほうが吉。いかなる偏愛であれ、そのストライク球を見逃してしまうから。

 たとえば、大衆小説だからスルーしているのだろうが、エログロ超絶技巧なら、野坂昭如『骨餓身峠死人葛』や友成純一『狂鬼降臨』あたりがお薦めだ。少女の残虐美なら丸尾末広を随一とする前に、氏賀Y太や早見純を読みなされといいたい。傑作と売行きを相反するかのように嘆息するなら、高野文子『黄色い本』や、こうの史代『夕凪の街 桜の国』をそっと差し出そう。コマと絵とセリフの超絶技巧に舌を何回転もさせるだろう。

 また、著者一流の文学論が可笑しい。文体の技巧や、韻律的な響きを重視し、物語なんて文学の一部に過ぎぬと言ってはばからないワリに、海外モノを「翻訳」で済ませているのはこれいかに。プルースト『失われた時を求めて』は、鈴木訳と井上訳の順に読んで震撼せよという件には茶を噴いた。原文原理主義になるつもりはないが、翻訳において真っ先に犠牲になるのは、まさに著者が主張する「詩」の部分だろうに。文学を生業とする方の、あまりに無邪気な矛盾が微笑ましい。

 求道的に文学の森を探索するのはいい。だが、そのストイシズムを外へ向け、現代の小説を商業主義で軽薄な小説もどきと斬るのいただけない。小説は自由だ。小説は芸術であり商品だ。小説はいつだって風俗を映してきた。「小説とは○○だ」と好きなだけ言うがいい。だが、「これは小説ではない」と言った瞬間、衒学が匂いから臭いに変わる。この臭いに辟易しなければ、文学の森のこの上もなくたの(も)しい未知案内となる。文学は、ここまで拗らせることができるのだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

スゴ本オフ「2014ベスト」まとめ

 好きな本を持ちよって、まったり熱く語り合う。それがスゴ本オフ。

 飲んだり食べたりゲームしたり、料理をしたり映画を観たりハイキングにも出かけたり。「本」つながりでどんどん広がる友人の輪。そして、「その本が好きなら、この本はきっと気に入るはず」というアドバイスがリアルで聞ける(←重要)。気になる方は、facebook[スゴ本オフ]をご覧あれ。

01_
ビール!ビール!
02_
40個の唐揚げがぺろりと
04_
サンドイッチ充
08_
6kgのローストビーフがぺろりと

 主催者のわたしが言うのも変だが、自分自身にとって、大変ありがたい場となっている。いかに狭い井戸に閉じこもっていたか、どんなに凄い本が自分の圏外に沢山あるか、具体的な作品でもって思い知らせてくれるから。

 「猫と犬」とか「怪物」、あるいは「嘘」といったテーマを設けて、それに沿った作品を持ってくるのだが、今回は「2014ベスト」と称し、今年読んだオススメを持ちよって。これがまた、バリエーションが広くて深くて面白い。まさしく、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」本の山となった。

 当日のtwitter実況は、[みんなの選んだ今年読んだベストな本(& CD、映画)はこれだ]「にまとめてある。ここでは、いくつかご紹介。

隠喩としての病 まず、このブログの[2014ベスト]でもある、ソンタグ『隠喩としての病』。がん保険が身体に関わるものなら、本書は心のための保険となる一冊。がんや結核など、病をとりまくテクストを読み解きながら、「隠喩の罠」にひそむ権力とイデオロギーの装置を解体する。「出来事としての病い」は、ひとまず医学にまかせて、病の隠喩、すなわち言葉の暴力から解放してくれる。がんは呪いでも罰でもない、そこに「意味」などないのだというメッセージが、くりかえし伝わってくる。

邂逅の森 熊谷達也『邂逅の森』に惹かれる。秋田のマタギの、流転する人生の物語なのだが、一人の生涯の軌跡が神話のように展開する様が読みどころらしい。自然と闘い、社会と戦い、自分と戦い、最後に神と戦う。神と言われる熊と戦う大河ドラマ。冬山が持っている、静謐な空気や絶望感を、さらりと、装飾ぬきで、淡々と描く。冬山登山の経験がある人には、きっと、「まさにこのとおりの世界」だと納得してもらえるとのこと。一言で評すなら、「男臭いもののけ姫」で、直木賞、山本周五郎賞をダブル受賞(史上初)している。

 悪女ネタが楽しい。男たちを翻弄しながら悪を愉しんだ女の一生を描いた『悪女について』(有吉佐和子)、「悪女」たちが血を好む理由を考える戸、悪女の悪女たる所以がわかってくる『世界悪女物語』(澁澤龍彦)、運命の女や悪女について必読の『サロメ』(ワイルド)などが紹介される。なかでも、男を破滅させるファム・ファタールについての考察が鋭い→
「その男の社会的な存在としては破滅だが、その女との個人的な関係にとっては、最高の存在になる。なぜなら、その女のおかげで、破滅させられるほど深く濃い運命を味わったのだから」。

悪女について世界悪女物語サロメ

 『インターステラー』の紹介もあった。ネタバレを回避しつつ紹介する高度なプレゼンだった。すごい映画なんだけど、紹介が難しいのよ。「○○みたい」と喩えることもできるのだが、その喩えが重大なヒントにるという隔靴掻痒感。休憩時間に「観た人」だけで集まって、ヒソヒソ話をしているのがエロトークみたいで笑えた。ちなみに、このオフ会後に、「インターステラーを観にいこう会」が急遽発足して、レイトショーへ向かったグループがあったけれど、羨ましい限り。

10_
インターステラーのパンフが被った

 「ラノベ作家休憩所」なる同人誌があるのを知った。同じジャンル小説でも、児童小説や青春小説と、ライトノベルは異なるという。つまりこうだ、大人が子供に選ぶのが児童小説で、大人が昔を懐かしむために読むのが青春小説。だが、ライトノベルは、「青春真っ盛りの人が、体内や脳内のドロドロしたリビドーを投影するもの」になる。でもって「ラノベ作家休憩所」の紹介。ふだんラノベの枠内で縛られているラノベ作家たちが、「これこそが面白いライトノベルじゃぁあ!」と気合を入れて書いたアンソロジーが、「ラノベ作家休憩所」なんだそうな。[読者と作者のマッチング/ラノベ作家休憩所『中性小説。』感想]で詳述しているので参考されたし。

06_
ラノベ作家休憩所はamazonで売ってない

やっぱり肉料理 最後は、「ブックシャッフル」という名の本の交換会となる。ずらりと並べられた皆さんのオススメ本(DVD、CD、ゲーム等)を、希望者に差し上げる。もちろん、稀少本だったり大切なものであれば、プレゼンで紹介だけして回収すればいい。わたしは、地産地消を大事にしたカリフォルニアキュイジーヌを紹介した『やっぱり肉料理』(横田渉)を、ジャンケンでゲット(希望者が重なった場合、ジャンケン争奪戦となるのだ)。肉料理が捗ること請合う、見た目からしておいしそうな一冊。

 今回は、「本とコスプレ」というサブ企画があり、紹介する本にちなんだコスチュームでプレゼンをした(わたしは適当なのがなかったので素のまま)。ド派手なももクロ法被で、飼い殺しアイドル予備軍の悲哀を語ったり、妖艶なヴァンパイア姿で『世界悪女物語』を紹介したり、弓道着で艦これの矛盾点を追及したり、女学生、調査兵団(進撃の巨人)、牛や虎の着ぐるみ、着物、サラリーマン等など、ハロウィンとクリスマスとお正月がいっぺんにやってきたような濃厚パーティでしたな。

これぞ!小説

  • 『ブラック・ダリア 』ジェイムズ・エルロイ(文春文庫)
  • 『ブラックライダー』東山彰良(新潮社)
  • 『売女の人殺し』ロベルト・ボラーニョ(白水社)
  • 『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』マイケル・ルイス(文藝春秋)
  • 『大江健三郎自選短篇』大江健三郎(岩波文庫)
  • 『邂逅の森 』熊谷達也(文春文庫)
  • 『日本文学100年の名作第1巻1914-1923 夢見る部屋 』池内紀ほか編(新潮文庫)
  • 『すばらしい新世界』ハクスリー(講談社文庫)
  • 『悪童日記 』アゴタ・クリストフ(ハヤカワepi文庫)
  • 『ふたりの証拠 』アゴタ・クリストフ(ハヤカワepi文庫)
  • 『第三の嘘』アゴタ・クリストフ(ハヤカワepi文庫)
  • 『二流小説家 』デイヴィッド・ゴードン(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
  • 『ポアロのクリスマス』クリスティー(ハヤカワ文庫)
  • 『きもの』幸田文(新潮社)
  • 『木暮荘物語』三浦しをん(祥伝社文庫)

05_


ラノベの皮を被った○○○○

  • 『All You Need Is Kill 』桜坂洋(集英社スーパーダッシュ文庫)
  • 『救世小説。』日日日ほか(ラノベ作家休憩所)
  • 『流星小説。』日日日ほか(ラノベ作家休憩所)
  • 『中性小説。』日日日ほか(ラノベ作家休憩所)
  • 『正常小説。』日日日ほか(ラノベ作家休憩所)
  • 『私たちが星座を盗んだ理由』北山猛邦(講談社文庫)


有用度は読み手次第

  • 『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』ダニエル・カーネマン(早川書房)
  • 『アルゴリズムが世界を支配する』クリストファー・スタイナー(角川書店)
  • 『江戸文学を選び直す: 現代語訳付き名文案内』井上泰至ほか(笠間書院)
  • 『ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに』茨木保(医学書院)
  • 『小林秀雄 学生との対話』国民文化研究会(新潮社)
  • 『エッセンシャル思考』グレッグ・マキューン(かんき出版)
  • 『トリーズの発明原理40』高木芳徳(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
  • 『隠喩としての病』スーザン・ソンタグ(みすず書房)
  • 『おだまり、ローズ: 子爵夫人付きメイドの回想』ロジーナ・ハリソン(白水社)
  • 『エドワーディアンズ ---英国貴族の日々』ヴィタ・サックヴィル=ウエスト(河出書房新社)
  • 『ブルネイでバドミントンばかりしていたら、なぜか王様と知り合いになった。』大河内博(集英社)
  • 『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』ニコラス・G・カー(青土社)


子ども向けと侮るなかれ

  • 『パンダ銭湯』tupera tupera(絵本館)
  • 『てつぞうはね』ミロコマチコ(ブロンズ新社)
  • 『オバケ! ホント?』岡田善敬(福音館書店)
  • 『クマのプーさん プー横町にたった家』A・A・ミルン(岩波書店)


イヤミス=厭なミステリ

  • 『5人のジュンコ』真梨幸子(徳間書店)
  • 『部屋』エマ・ドナヒュー(講談社文庫)
  • 『猫舌男爵』皆川博子(講談社)
  • 『イニシエーション・ラブ 』乾くるみ(文春文庫)
  • 『厭な物語』クリスティーほか(文春文庫)
  • 『対岸の彼女』角田光代(文春文庫)
  • 『ショコラの魔法 knocking egg 』みづほ梨乃(ちゃおホラーコミックス)


アイドル・カツドウのリアル

  • 『はぐれアイドル地獄変』高遠るい(日本文芸社)
  • DVD『ちゃおちゃおTV』(小学館)

03_
充実のももクロ


サイエンス・フィクション&ノンフィクション

  • 映画『インターステラー』クリストファー・ノーラン監督(ワーナー・ブラザーズ)
  • 『いぬやしき』奥浩哉(イブニングKC)
  • 『BRUTUS 2014/12/1進撃の巨人特集』ブルータス編集部(マガジンハウス)
  • 『縮みゆく男』リチャード・マシスン(扶桑社ミステリー)
  • 『ドミトリーともきんす』高野文子(中央公論新社)
  • 『味しさの脳科学:においが味わいを決めている』ゴードン・M・シェファード(合同出版)

07_
悪童日記三部作は一気に読むべし
09_
ともきんすは書評コミックなのかも


Mangiare!

  • 『やっぱり肉料理 カリフォルニア・キュイジーヌのとっておきレシピ』横田渉(大和書房)
  • 『アツアツでも冷めても、美味しい! おいしい! ホットサラダ』藤原美佐(大和書房)
  • 『見てびっくり野菜の植物学―ゲッチョ先生の野菜コレクション』盛口満(少年写真新聞社)
  • 『小さくて強い農業をつくる 就職しないで生きるには21』久松達央(晶文社)
  • 『築地』テオドル・ベスター(木楽舎)


Cantare!

  • CD『バード・アンド・ディズ』チャーリー・パーカー
  • CD『Live in NYC』グレッチェン・パーラト
  • CD『永遠/TOWA』ピンク・フロイド(Sony Music)
  • DVD『BABYMETAL』BABYMETAL(トイズファクトリー)
  • CD+Blu-ray『ももクロ春の一大事2014 国立競技場大会 NEVER ENDING ADVENTURE 夢の向こうへ』ももいろクローバーZ


Amore!

  • 『世界悪女物語 』澁澤龍彦(河出文庫)
  • 『サロメ』ワイルド(光文社古典新訳文庫)
  • 『初恋』ツルゲーネフ(光文社古典新訳文庫)
  • 『危険な関係 』ラクロ(角川文庫)
  • 『悪女について』有吉佐和子(新潮社)

 次のテーマは「歴史」。何かの(誰かの)通史的な作品でもいいし、歴史の定義といった論文もあり。さらに「過去だけが必ずしも歴史じゃない」という発想からすると、現代史、未来史だってアリだろう。「歴史」というテーマで集まってくるのだから、時系列に並べると面白くなるかも。

| | コメント (3) | トラックバック (2)

« 2014年11月30日 - 2014年12月6日 | トップページ | 2014年12月21日 - 2014年12月27日 »