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科学を伝える技術『サイエンスライティング』

サイエンスライティング 科学報道に不満がある。

 リスクを極端に誇張したり、特定の団体を槍玉にあげつらうことに一所懸命で、エビデンスベースの話がない。新理論や新発見の解説をスルーして、それを成した人ばかりに焦点を当てる。不正確な報道を流布した挙句、訂正しない(わたしが気づかないだけ?)。俺様ストーリーに沿わない主張は、学会内の反対派を持ち上げて潰そうとする(バランスをとるつもり?)。

 かくしてネット越しに海外ソースを確かめるのがデフォルトになる。さもなくば、雑誌や書籍といった「形」になったもので再検証するハメになる。日本のことなのに、海外から確認するなんて、哀しいやら情けないやら。では、BBCやNatureといった大御所の欧米ならさぞかし見習うものがあるんじゃないかと手にしたのが、本書だ。

 本書は、第一線で活躍するサイエンスライターたちが、自らの知見を伝える実践的ガイドブックだ。いわゆる科学記者に限らず、TVの科学番組のディレクター、専門誌から大衆紙のライター、ウェブジャーナリスト、企業PRや大学、博物館の広報、大病院の危機管理担当など、科学を言葉で伝えることを生業とする人が集まっている。一人一章を担当してもらい、「技」と「分野」と「立場」の側面から、科学を伝える技術を開陳する。

 「技」は、サイエンスライティングのノウハウ。「新しいことを、誰にでも分かるように伝える」のは難しい。具体的な書き方から、記述スタイルの選び方、大量のニュースソースと情報収集の技、インタビューの心構え、不正を暴くきっかけとなった質問、統計の使い方、リスク報道の仕方、矛盾した研究成果の比較法が挙げられる。ノーベル賞はタイムカプセルに入った発見だから、アルバート・ラスカー基礎医学賞や京都賞、MIT賞から追えという指摘は鋭い。

 中でも、「バランスのとり方」が興味を惹いた。相反する意見を並列させるのがジャーナリズムの鉄則だが、あえてバランスをとるなという。世の中には、HIVはAIDSの原因でないと主張する人や、進化を否定する人がいる。そうした意見を並列させることは、いたずらに読者を混乱させるだけだろう。議論の背景や特定の主張を無視すべき事情を明らかにしておくことで、非主流の意見を取り上げる必要はないという。生々しいアドバイスを裏返せば、そのまま苦労話になる。海の向こうでも書き手は大変な思いをしてなおかつ読者に叩かれていることが、透けて見える。

 「分野」では、専門に特化したサイエンスライティングになる。医療科学、精神疾患、遺伝学、宇宙科学、気象学、環境学、技術工学など、様々な分野に的を絞り、そのジャンル特有の取材・執筆の仕方、情報収集のソースを教えてくれる。もちろん米国仕様だが、いちいち具体的で面白い。

 たとえば、新しい医療処置について、短時間で信憑性を確認したいという事例。企業のヒモつき研究なのだが、利害対立から評価を歪めたくない。どうするか?この場合は、コクラン共同計画(Cochrane Collaboration)にアクセスしなさいとアドバイスする。これは、医療処置や検査、薬剤の有効性と安全性をエビデンスベースで評価することを目的とし、臨床医、研究者、統計学者でつくられた国際的な非営利団体になる。バイアスのかからない最新医療の情報源として信頼できるという。これは、いかにインサイダーや利害関係の対立から歪んだ情報が行き交っているかのカウンターだろう。

 「立場」では、大学、病院、政府機関、非営利団体(NPO)、企業PRの広報担当など、さまざまな「科学を言葉で語る人」の微妙な立ち位置が見える。科学なんだから真実はいつも一つと言いたいところだが、語る人によって変わってくる。特に、広報担当者とジャーナリストの相違点は顕著だ。新しい知見の発見について、世に広めたいという動機は同じだが、広報担当者は、所属する組織の最大利益を追求するという職務がある(そのため、時には両者は激しく対立する)。エンバーゴ・システム(報道解禁日時の設定)を取り巻くトラブルが紹介されているが、「特ダネ」や「出し抜き」があるからこそ、規制したいジレンマを体現しているのだろう。

 このように、ノウハウの詰まったガイドブックなのだが、それを語る人たちが、率直に現状の不十分な点を認めている。気象は科学記事というだけでなく、政治、国際、経済問題でもあるから、政治的動機で歪められた情報が大々的に流されるのが常だという指摘は、「気象関係は割り引いて読もう」という気にさせてくれる。環境問題は、緩慢で大きな「誤差範囲」を含む統計解釈がつきもの。だが「緩慢」という言葉は、ニュースの編集部においては禁句である。そこでライターは、信憑性とニュースバリューのジレンマに悩むのだが、時には誘惑に負け、歪められた切迫感でもって書いてしまう―――そうした記者たちの、「べからず集」として読んでも面白い。

 科学を書く人、そして読む人にとって、得るもの大の一冊。

 おまけ。本書からニュースソースのいくつか並べてみた。実際には、この10倍くらい紹介されている。

■雑誌
 Science(特に News and Comment をチェックせよとのこと)
 Nature(特に News and View をチェックせよとのこと)
 PLoS Biology(公共科学図書館のオンライン雑誌)
 Scientific American
 Proceedings of the National Academy of Science(米国科学アカデミー紀要)

■専門誌
 The New England Journal of Medicine(査読制の医学雑誌)
 The Journal of the American Medical Association(米国医学学会誌)
 Cell(生物学分野)
 Physical Review Letters(米国物理学会)
 Astrophysical Journal (天文学・天体物理学)

■ウェブサービス
 arXiv(物理学、数学、計算機科学、量的生物学等の、プレプリント)
 PR Newswire(共同通信PRワイヤーサービス)
 Newswize(ジャーナリズムのためのサイエンスニュース)
 Eurekalert!(アメリカ科学振興協会が運営するサイト、調べ物に最高らしい)
 PubMed(国立医学図書館記事データベース/医学・生物学分野の学術文献検索サービス)
 Association of University Technology Managers(大学技術管理協会/大学の研究資金の出所に着目するならここ)
 Authers Guid(書くためのガイド)

 もう一つおまけ。本書の魅力は目次に如実に出ているのだが、残念ながらAmazonにないので。

第1部 技(わざ)をものにしよう
 第1章 ストーリーのテーマと情報源を見つけよう フィリップ・M・ヤム
 第2章 学術専門誌から取材する トム・シーグフリード
 第3章 統計を理解して活用する ルイス・コープ
 第4章 よい記事を書く―サイエンスライティングの教師が教えるテクニック
 第5章 ストーリーを一段階高める ナンシー・シュート  第6章 自分にあった語り口(ボイス)と文体(スタイル)を見つけよう デイヴィッド・エヴァレット

第2部 自分のマーケットを選ぶ
 第7章 ローカル紙 ロン・シーリー
 第8章 大手の新聞 ロバート・リー・ホッツ
 第9章 一般雑誌 ジャニス・ホプキンズ・タンネ
 第10章 科学専門誌 コリン・ノーマン
 第11章 放送の科学ジャーナリズム ジョー・パルカ
 第12章 フリーランサー キャスリン・ブラウン
 第13章 一般向け科学書 カール・ジンマー
 第14章 ウェブサイトの一般読者 アラン・ボイル
 第15章 科学者向けのウェブ記事 タビサ・M・パウレッジ
 第16章 サイエンス系の編集 マリエッテ・ディクリスティナ

第3部 多様なスタイル
 第17章 締め切りに追われて記事を書く ギャレス・クック
 第18章 調査報道 アントニオ・リガラード
 第19章 驚きをもたらすサイエンスライティング ロバート・カンジグ
 第20章 解説記事 ジョージ・ジョンソン
 第21章 物語形式の記事 ジェイミー・シュリーブ
 第22章 サイエンスエッセイ ロバート・カニゲル

第4部 ライフサイエンス分野のサイエンスライティング
 第23章 医科学 シャノン・ブラウンリー
 第24章 感染症 マリリン・チェイス
 第25章 栄養 サリー・スクワイアーズ
 第26章 精神医療 ポール・レイバーン
 第27章 行動生物学 ケヴィン・ベゴス
 第28章 人類遺伝学 アントニオ・レガラード
 第29章 ヒト・クローニングと幹細胞 スティーヴン・S・ホール

第5部 物理科学や環境科学を記事にする
 第30章 技術と工学 ケネス・チャン
 第31章 宇宙科学 マイケル・D・レモニック
 第32章 環境 アンドリュー・C・レヴキン
 第33章 ネイチャーライティング マッケイ・ジェンキンス
 第34章 地球科学 グレンダ・チュウイ
 第35章 気象 ユーシャ・リー・マクファーリング
 第36章 リスク報道 クリスティン・ラッセル

異なる道をゆく ジャーナリストと広報担当者

第6部 研究機関から科学を伝える
 第37章 大学 アール・ホランド
 第38章 病院における危機発生時の対応 ジョアン・エリソン・ドジャーズ
 第39章 政府機関 コリーン・ヘンリックセン
 第40章 非営利団体(NPO) フランク・ブランチャード
 第41章 博物館、科学館 メアリー・ミラー
 第42章 企業の広報 マリオン・E. グリック


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スゴ本オフ「グローバル」が凄かった

 好きな本をもちよって、まったりアツく語り合うオフ会、それがスゴ本オフ。

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 今回は、渋谷のHDEさんのスペースをお借りして、「グローバル」をテーマにブックトーク。会場をお貸しいただいたHDEさん、twitter実況していただいたズバピタさん[twitter実況まとめ]、カーリルレシピをまとめていただいたHaruoさん[紹介された本のまとめ]、ご参加いただいた皆様、やすゆきさん、ありがとうございました。

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 今回も、多彩で未知なラインナップと相成った。相変わらず偏狭なわたしの見識が、木ッ端微塵になるのが愉しい。でもそれはお互いさまで、自分のイメージした「グローバル」との差異が非常に刺激的なのだ。わたしは、「グローバル=世界文学」と捉えたが、参加いただいた方のセンスが素晴らしく、アートや音楽、旅、食、言語、テクノロジーなど、様々な斬口で「グローバル」を捕まえなおすことができる。

 スゴ本オフのロゴ入りクッキーや、手づくりアッブルパウンドケーキ、アボガドサンドウィッチ、たいへん美味しくいただきました。よなよなエールで酔い気分になったので、完全無料のDr.ペッパー飲むの忘れてた(ドクペ専用自販機があって、0円って書いてあるwDr.ペッパー飲み放題www)。

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 本題に入る前に、未見の方は[facebook:スゴ本オフ]をチェックして。わたしのblogで告知するよりもうんと早く公開され、あっという間に申込み枠が一杯になってしまうので、facebookをチェックするほうが迅速確実なのだ。次回は5/24(土)@渋谷HDE、テーマは「嘘と虚構」だから、心当たりを探すべし。

■世界文学
  『世界文学を読みほどく』池澤夏樹(新潮選書)
  『世界×現在×文学―作家ファイル』, 沼野充義、柴田元幸ほか編(国書刊行会)
  『考える人 2008年 05月号』(新潮社)

世界現在文学 わたしが選んだ「グローバル」の三冊。「小説を読む」行為は、個人的かつ普遍的な体験になる。だから、これをグローバルに拡張した世界文学は、人類の記憶そのもの。河出書房で世界文学全集を編んだ池澤夏樹が、十大世界文学を分かりやすく面白く解説したのが、『世界文学を読みほどく』。『百年の孤独』の読みは鋭く深く広い一方で、『アンナ・カレーニナ』の幼い感想は、文学を生業とする人の苦労をうかがい知ることができる。『世界×現在×文学―作家ファイル』は、作家や評論家たちの種本。これさえあれば読んだフリができるし、表現を変えればあら不思議、ちょっとした書評ができてしまうが、やっちゃダメ、ゼッタイ。著名な評論家の解説と比較しながら、どこをコピペしたかを査読するという、意地の悪い使い方ができる。

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■音楽と国境
  『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』柴那典(太田出版)
  『国のうた』弓狩匡純(文藝春秋)
  『ボクの音楽武者修行』小澤 征爾(新潮文庫)

初音ミクはなぜ世界を変えたのか 「日本のアイドルで一番グローバルなのは?」AKB?ベビメタ? いいえ、初音ミク。『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』は、60年代のヒッピーブームや80年代のクラブ文化とつながってる初音ミク現象を解き明かす。彼女はキャラクターだけでなく、「楽器」なんだ。初音ミクを「使う人」は、初音ミクをプロデュースしているだけでなく、初音ミクを「演奏」している。消費しているのではなく、創造している。初音ミクは「楽器」だからこそブームが生まれた。AKBのような仕掛け人はいない。インターネットを仕事にするすべての人が読むべきスゴ本とのこと(Rootportスゴ本認定)。

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国のうた 地域、言語、文化、歴史、政治経済まるで違うのが国家。その中で、共通している唯一のモノが「国歌」になる。『国のうた』は、各国の国家がどんな経緯で完成し、どんな歌詞なのかを知ることで、「グローバル」という言葉の中にどれほどの多様性があるのかを感じさせてくれる。スペインの国家は歌詞がない。フランスは血みどろで勇ましい。パラグアイの国家に込められた、米国憎悪が凄まじい。国歌から国家が透け見えるのが面白い。

■アート
  『スケッチトラベル/Sketchtravel』ジェラルド・ゲルレ(飛鳥新社)
  『世界の果てでも漫画描き 3 チベット編』ヤマザキ マリ(集英社)
  『図説 国旗の世界史』辻原康夫(ふくろうの本)

スケッチトラベル 『スケッチトラベル』は、ずばり移動する美術館。21世紀の最初の10年において、最先端にいたアーティストたちでリレーされ、書き込まれたスケッチブックは、オークションにかけられて(700万ドルしたそうな)、その収益でアジアに5つの図書館が建設されることになる。『スケッチトラベル』は、グローバルに行動することの具体的な結果そのもの。スゴ本オフ初参加のみかん星人さん曰く、最後の一枚が素晴らしく、納得のいく作品だなのだが、見たぞ。背筋に電気が、これはスゴい。また、「グローバル」→地球儀→国旗の連想で、『国旗の世界史』のご紹介。イスラムは、砂漠の民は緑を求めているから、緑色の国旗。国旗から見えてくるその国の歴史や性質を知ることができて、見て、読んで、面白い。

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■旅
  『舟をつくる』前田次郎(徳間書店)
  『マゼランが来た』本多勝一(朝日文庫)
  『ナショナル ジオグラフィック 日本版 2014年 1月号』
  『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』ジム・ロジャーズ(日経ビジネス文庫)

舟をつくる 佐々木さんの発想は、 「人間の肉体をグローバルに考えると?」。10年かけて、10年かけてかつて人間は肉体だけで世界を移動できたのか実験した『舟をつくる』日本人の南方渡来説を検証したときの本がこれ。凄いのは、舟そのものだけでなく、その材料や道具も含め、一切合財自作したところ。舟を削る手斧を作るため、砂鉄を集めて炭を焼いてタタラで製鉄する。インドネシアから日本まで6000キロ航海できる舟を作るための木を探す。ロープの繊維、帆の布、外装の塗料も全て自作。人類がどこから来たのかということを知識にとどめず再現・検証した実例。「初音ミク」が人類の未来だとすると、本書は人類の歩んできた過去を明らかにしたことになる。この軌跡は、『ぼくらのカヌーができるまで』という記録映画になっているらしい。ツタヤにはなく、武蔵美で自主上映されているとのこと。

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冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見 グローバルな視点をもった「人」に着眼し、うえださんが選んだのが、『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見』。「投資家界のインディ・ジョーンズ」が、特注メルセデスを駆って3年間で世界116ヶ国を旅した記録になる。「ミャンマーは1962年にはアジアで最も豊かな国のひとつだった」など歴史の知識に裏付けられた洞察で世界の栄枯盛衰を語るマクロな視点が魅力的。世界の独裁者はメルセデスが大好きだから、メルセデスで旅する、という発想が面白い。千年後には、アメリカ大統領なんて誰も覚えていない。ものすごい広い視野で語っているのがスゴイ。

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マゼランが来た すぎうらさんオススメ。歴史上、初めて地球一周=地球規模で活動した人・マゼランに着眼。そこを一回ヒネって、来られた側にとってはどうだったのか?というルポルタージュが『マゼランが来た』。現在も地球規模の企業活動が世界に辺境に致命的な一撃を加えているが、マゼランこそがその始まりだった。破壊と疫病は、海を越えてやってきたのだ。

■言語
  『たかが英語!』三木谷浩史(講談社)
  『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』ガイ・ドイッチャー(インターシフト)
  『トンパ文字―生きているもう1つの象形文字』王超鷹(マール社)
  『日本語でどづぞ―世界で見つけた爆笑「ニホン」誤集』柳沢有紀夫(中経文庫)

たかが英語 初参加のよしおかさんオススメは、『たかが英語!』。楽天の社内英語化について三木谷社長自ら語った書。世の中の経営者の決定は予定調和なのが一般的だけど、楽天の英語化の決定は予定調和どころかクレイジーだった。それにともなうドタバタが書かれていた。しかもユーザーやお客さんには関係ないし、日本ではデメリットばかり取りざたする。にも関わらずその決定をした。そのおかげで良いことも悪いことも沢山経験してきた。これはインターネットの時代においては大きなアドバンテージになるという。プレゼン後の質疑応答が悶絶モノなのだが、ちょっとここに書くわけにはゆかぬ。生々しい、というよりナマそのもの。

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■生きるものたち
  "Hate That Cat"Sharon Creech(HarperCollins)
  『ベルカ、吠えないのか?』古川 日出男(文春文庫)
  『カモメに飛ぶことを教えた猫』ルイス・セプルベダ(白水Uブックス)
  『リトルターン』ブルック ニューマン(集英社文庫)
  『これが見納め―絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』ダグラス・アダムス(みすず書房)

カモメに飛ぶことを教えた猫 ちかさん曰く、「グローバルという言葉に抵抗を感じることがあります。大きなものに組み込まれるとか。英語を公用語にするとか(笑)」。互いの個性を認め合うのが理想的なグローバル時代ではないかという発想で、『カモメに飛ぶことを教えた猫』をオススメ。この感性が素晴らしい。死にゆくカモメから卵を託された黒猫のゾルバが、仲間たちと育てるという児童文学。異なるものたちがお互いが認め合う物語。

これが見納め ズバピタさん、『これが見納め』をオススメ。世界中の絶滅危惧種を紹介した一冊。生物多様性がものすごい勢いで失われていっているのかを記録している。いかに人間が愚かであることを見せつける。人間が動物を絶滅させていった歴史が重なる。植民地時代にできあがった不合理なシステムが、支配階層が去った後も残り続けて、結果的に希少種を殺していく話。人間の愚かさは、「グローバル」やね。

■死と暴力と貧困
  『謝るなら、いつでもおいで』川名壮志(集英社)
  『音もなく少女は』ボストン・テラン(文春文庫)
  『世界中の「危険な街」に行ってきました』嵐よういち(彩図社)
  『絶対貧困―世界リアル貧困学講義』石井光太(新潮文庫)
  『メメント・モリ』藤原新也(三五館)

世界中の「危険な街」に行ってきました ヨハネスブルグは「リアル北斗の拳」と呼ばれてるらしい。武勇伝を語りたくなったら行ってみればいいと、本当に行ってしまったのが『世界中の「危険な街」に行ってきました』。わざわざ危険な場所を選んでいくのがスゴいし、生還してきてきっちりレポートするのはもっとスゴい。ジンバブエのハラレ、ホンジュラスのサン・ペドロ・スーラ、シウダー・フアレスなど、「絶対に行ってはいけない街」の生々しいルポ。

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■テクノロジーとマネジメント
  『「メタルカラー」の時代』山根一眞(小学館文庫)
  『MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)』盛田昭夫(朝日文庫)
  『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』妹尾堅一郎(ダイヤモンド社)
  『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』ダン・セノール(ダイヤモンド社)

 おごちゃん曰く、グローバルということで一番最初に浮かんだのが「聖書」(世界中に翻訳されているから)。あえて持ってきたのは『メタルカラーの時代』シリーズ。日本が元気だった頃の古い本。グローバルという言葉がなかった頃にグローバルな活躍をした日本人。テクノロジーに国境は無いことが分かる。文庫とはいえ結構な分量だったけれど、交換会で人気熱かった。

Global08

アップル、グーグル でんさんオススメは『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』、原題はStartup nation。次々と新興企業が生まれるイスラエルについての本。例えばみんなのノートPCのCPUはイスラエルのインテルで開発された。イスラエルのベンチャー投資額は米国の2.5倍。その裏側を取材している。イスラエルは徴兵制だが、軍隊で最先端の開発がされ、生きるか死ぬかの中で起業家精神も養われる。積極的に移民を受け入れて多様化している。この本読むと、日本がこのままではダメということがわかる事実が次々と出てくる。ルポルタージュだけど、へたな自己啓発本読むよりもためになる。合わせて『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由』もオススメとのこと。

Global13

MADE IN JAPAN 天野さんは、『MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)』を持ってきた。著者は、ソニーの盛田昭夫。ビジネス本の古典。創業期のHDEで苦労した天野さんが、ソニーが大好きだったので、ソニーに学ぶつもりで手にし、大いに勇気付けられたという。盛田さんは日本に誇りを持っていて、米国に対して堂々と主張して渡り合う。英語上手だったわけではなかったのに、シリコンバレーで商売するのも大阪で商売するのも変わらない感覚。現在、海外から人材採用する礎になっているとのこと。

 他にもこんなラインナップ。アメリカ合衆国、食、フットボール、オタクなど、ジャンルは様々なのだが、「グローバル」の理由はそれぞれ腑に落ちる。わたし自身、グローバルの中に「地球規模の等質化」を見て取っていたが、グローバルという概念が実際に用いられるとき、そこには実に雑多な実体が現れてくるのがイイ。

■普通
  『「普通がいい」という病「自分を取りもどす」10講泉谷 閑示』(講談社現代新書)

■フットボール
  『フットボールの犬』宇都宮 徹壱(幻冬舎文庫)

■食
  『諸国空想料理店』高山なおみ(ちくま文庫)
  『料理=高山なおみ』高山なおみ(リトル・モア)

■アメリカ合衆国
  『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』町山智浩(マガジンハウス)
  『(株)貧困大国アメリカ』堤未果(岩波新書)

■Rock & Pop
  『神は死んだ』ロン カリー ジュニア(エクス・リブリス)
  『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ ディアス(新潮クレスト・ブックス)
  『スナッチ/Snatch』ガイ・リッチー監督

 目ウロコだったのは、「サッカーというスポーツはグローバルそのものだけど、それを支えているのは、地元チームを応援する超ドメスティックな行為である」という指摘。グローバルを支えるローカリズムが、「サッカー」という一語であぶり出るのが面白い。また、「食」は確かにグローバルだけど、食べる行為はローカルどころかドメスティックどころか、個レベル。これは、読書という体験にも通じるところがある。global のカウンターとして diversity が流行り言葉になっているが、ぜんぜん global の方が"多様"じゃん、と考えると面白い。

 文字通り、「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」ラインナップ。積読山がまた拡張するのは嬉しいが、次回テーマ「嘘と虚構」に向けての課題図書にとりかからないと。スゴ本オフのいいところは、永年のあいだ積読本に埋もれていた「あの一冊」を急遽、浮上させるところ。読め、そして語れ。

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『人間は料理をする』はスゴ本

 キッチンからの文明論。知識欲も食欲も、満足させられる一皿。

人間は料理をする上人間は料理をする下

 火・水・空気・土に因んだ料理に挑戦しながら、最新科学と古典文学を縦横に行き交い、料理の文明史を語る。加工食品と健康のパラドクスを嘆き、農耕を始めたのは酒のためと説き、細菌を含んだ超個体としての人間の本質に迫る。鋭い洞察に唸らされたり、危なっかしい料理にヒヤヒヤさせられたり、かぶりつく瞬間の描写にゴクリと喉を鳴らしたり、食問題の警鐘に首をかしげたり、忙しい読書になる。

 例えば火の章、バーベキューのプロに弟子入りし、豚の丸焼きに挑戦する。バーベキュー原理主義に則り、じっくり時間をかけて、「生きた」オークとヒッコリーのチップで焼いたものは、著者の人生を一変させたという(以後、自分が焼いたほとんどの料理を「グリル」と呼ぶようになるくらい)。自宅で再現してしまう行動力(+それだけの庭)が羨ましい。その、豚を焼く過程をつぶさに観察しながら、「消化の外部化」を考察し、ホメロスの食事風景を想像する。

 つまりこうだ、火を使うことで炭水化物を分解し、タンパク質を消化しやすい形に変えることができる。腱や靭帯の硬いコラーゲンをゼラチンにし、食材に付着している細菌や寄生虫を死滅させ、熱により無毒化させる。料理とは実質的に、体の外で行う消化、すなわち、体のエネルギーの代わりに火のエネルギーを用いることで、体に代わって咀嚼と消化を行うことだという。「鍋は体の外の消化器官」と表現するが、言い得て妙なり。

火の賜物 そして、ロバート・ランガム『火の賜物 ヒトは料理で進化した』を引きながら、人は、料理によって、延々と咀嚼しつづける生活から開放され、時間とエネルギーを他の目的に使えるようになった「料理仮説」を展開する。さらに料理は、食材だけでなく社会の発達を促したという。火を使うことで、決まった時間に決まった場所で集団で食事を取るようになった。これにより人の社会性は育まれたという主張は、納得できる。(そうではない歴史の証拠も多々あるが)「分かち合い」が社会の最初なのだから。

 あるいは空気の章では、全粒粉パンを焼くことに没頭する。どうも完全主義の気があるようで、その道のプロを求めて四苦八苦する様は、可笑しくも気の毒に思える。プロの傑作に啓示を受けたり、自分が焼いたパンにエントロピーの反証を見出したり、いちいち大げさで面白い。やはり「パン」には特別な思いがあるのだろうか、「全粒粉」「ドライイースト禁止」「手作り」にこだわる。電子レンジやホームベーカリーで焼くけど、著者に言わせると反則なのかもしれぬ。

 そして、究極の全粒粉を探すうちに、「小麦粉」を取り巻く加工・流通システムに矛盾を見出す。製粉業者は、小麦の最も栄養ある外皮や胚芽をすっかり除去したものを、「小麦粉」として売る。残された「かす」は、ビタミン、抗酸化物質、ミネラル、健康に良い油脂の全てを含むが、家畜の飼料や、ビタミン剤の原料となる。さらに、そのビタミン剤は、精白小麦粉が一因の栄養不足を補うために、売られることになる。ビジネスモデルとしては上出来だが、生態学的に見れば実に歪んだシステムなのだという。

食品偽装の歴史 なぜこんなことをするのか。それは、白さの追求だという。進化的に不適応な行動であるにもかかわらず、人類は小麦粉を白くすることに励んできたのだ。ギリシャや古代ローマの時代にまでさかのぼり、人間の才覚の愚かさを、時として賢さゆえに愚かなことをすることを明らかにする。人類は料理術を発見し、発展させ、栄養価を高め、他の生物には得られないカロリーを摂取できるようになった。だが、飽くなき食欲と進歩欲に駆り立てられ、過剰加工の末に、健康と幸福を害するようになったのだ。日本にも白米至上主義の歴史(と、そのカウンターである玄米/雑穀米ブーム)があるので笑えない。このくだりは『食品偽装の歴史』と重なるが、食品加工の歴史に人類レベルの欺瞞を見、そこから寓話を取り出す手腕はさすが。

 他にも、土の章で発酵をテーマに、ちゃんと乳酸菌を用いたザワークラウトや、日本でやったら完全に違法なビールの醸造に取り組む。料理というより、ガーデニングや日曜大工などのDIYを見ているようだ。その中で、人と微生物の深い係わり合いを語りだす。人の一生を通じて、60トンもの食物が腸内を通過し、腸壁上皮をさまざまな危険にさらす。その危険の多くは、腸内細菌によって処理されている。人の腸内に棲む、およそ500種で3兆もの細菌の運命は、宿主の生存にかかっている。ゆえに、彼らは全力をつくして、宿主を健康にし、長生きさせようとするという。彼らの栄養源は、食物繊維を発酵させた有機酸になる(他の器官と異なり血流にはほとんど頼らないらしい)。つまり、腸内でおきる発酵こそが、健康の鍵になるというのだ。

 ところが、脂肪分と精製炭水化物の多い食事が中心になると、エネルギーは与えてくれるが、腸と、そこに棲む細菌は飢えることになる。人と細菌からなる超個体には栄養を与えず、人にだけ栄養を与えるものになった。3兆の生物のためではなく、たった一つの生物のために食べているのが、現代なのだという。わたしという存在を、ヒトという種から見た場合、ヒトの細胞だけでなく、様々な細菌や寄生生物から成る、巨大なコロニーのように思えてくる。「わたし以外」を排除するのではなく、それらをひっくるめた超個体が、「わたし」なんだね。漬物から超個体まで広げる想像力がすごい。

 さすが全米No.1の食の権威、ホメロスから分子ガストロノミーまで、哲学と科学の両面から「人にとって料理とは何か」を表現する、その筆圧はすばらしい。だが、主張があまりに大げさで、違和感がつきまとう。炭火を使う料理から、地域社会にまつわる物語につなげ、宇宙の秩序にまで展開する。炭は毎日使うには不便だろうし、焼肉はグリルかフライパンの上で事足りる。食の産業化や冷凍食品がもたらす、家庭の個食化や不健康について警鐘を鳴らすが、上手に使えばいいだけのこと。「毎日冷凍食品だけ」はさずがにマズいだろうが、まさかそれが普通じゃないだろう。

 そう、なんだか料理を大仰なものに祭り挙げているように見える。料理はもっと、日常的なプロセスなのに、人類や宇宙を持ってくるのがそぐわない(ただし、その取り合わせの妙こそが本書の魅力なのだ)。毎日食べているのだから、毎日料理するでしょ?著者は1ヶ月に数回、週末にパンを焼いたりシチューを作ったりするようだが、DIY自慢を聞いているようだ。玉ネギのみじん切りやシチューをかき混ぜるのを、退屈だとか涙が出ると嘆くが、料理中は退屈を感じている間がないぞ。玉ネギは冷やしてみじん切りはyoutubeを参考にすればすぐだし、シチューだけの食事なんてないでしょ?併行して何か作るはず。下ごしらえの切るものの順序、シンクに何を置くか、コンロ×2+電子レンジの有効活用、洗い物の対応(料理中に出てくる汚れ物は、極力洗っておく)等など……料理のいいところは、料理以外の一切を考えずに済むところ。著者はいろいろ考えすぎで、包丁が危なっかしく見えてくる。でも、そのおかげで、こんなに愉快で深い「料理本」ができたのだ。

 読者と料理の距離を測り、どれほど離れていようと近かろうと、確実に近づけてくれるスゴ本。

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