« 空も飛べるはず『飛ぶ力学』 | トップページ | ないもの、あります『注文の多い注文書』 »

バッドエンド100%『もっと厭な物語』

もっと厭な物語 恐怖にまさる愉しみはない、それが他人の身にふりかかったものであるかぎり。だが、これは本当に“他人”の話なのだろうか―――

 安全な位置から人の不幸を味わううちに、いつのまにか戻れない場所にたどり着く。まさに“蜜の味”なるハニートラップ。物語の結末を見たいがために、半ば自発的に覗き込む最後の深淵は、実はひた隠しにしていたわたし自身の闇奥だったことに気づかされる。最も恐怖するものこそが、自分の本質だったことを思い知る。

 後味の悪い短編だけを精選して編んだ、バッドエンド100%の短篇集『厭な物語』がパワーアップして帰ってきた。前回のレビューは、[どくいり、きけん短篇集『厭な物語』]にまとめてあるが、生理的に大好物ですぞこういうのは。読後のカタルシスを自覚すると、わたしのゲス度が可視化され見透かされているような気分になる。

 どのあたりが「もっと厭」かというと、ずばり和物を入れたこと。昭和の日本人だといるねこんな残虐な奴……と思ってたら、まさかそこまで連れて行かれるとは(そしてそこは平成の厭な奴だぞ)と驚いた草野唯雄『皮を剥ぐ』や、アンソロジーの並べ方で哀しさよりおぞましさが際立つ小川未明『赤い蝋燭と人魚』、そして冒頭を飾るの夏目漱石のアレだ。「漱石が書いた、最も不気味な短篇」として、今あなたの頭に浮かんだのが正解だ(未読の方は、第一夜からどうぞ)。

 面食らったのが、クライブ・バーカー『恐怖の探求』。読むスプラッター“血の本”シリーズは正座して全読したはずなのだが、見覚えの無いタイトルである。はてこれは!? と読み始めて膝を打つ。タイトルをまるきり改変しているのだが、編集者によるとネタバレ回避のためだという。なるほど、優しい配慮なり。ただし中は優しくない。「恐怖とは何か」について、徹底的に抉り出して見せ付けてくれるから、間違いなく厭な気分になる。頭の中でアレコレ怖がっているだけならいいんだよ。でも、想像に現実が追いつくことが、こんなにおぞましいなんて、プリミティブなレベルで教えてくれる。

 なぜこんな、「厭な話」を読むのか。不気味で理不尽で、暴力と恐怖にまみれ、グロテスクで凄惨で、生理的に受けいれ難い残虐描写を好んで読むのは、なぜなのか。編者によると、味覚のバリエーションと同じだという。単なる甘味や塩気では物足りない、もっと深い味わいを求めて、酸味や苦味、発酵臭を愉しむようなものなのだという。なるほど、悪食礼賛やね。

 わたしの動機は、かなり違う。どんなにおぞましい話でも、どんなに非道なラストでも、かならず終わりは来る。最後のページを閉じたとき、同じ現実に居なくてよかった、とホッと安心するため、読後のカタスシスを得るために、わざわざどぎつい作品を選ぶのだ。

 そして、そのカタルシスそのものが間違いだということに気づく。フィクションの皮を被った現実に打ちのめされる。物語と地続きのところにいるどころか、自分の中に同じ深淵を見つけてしまうことが、たまらなく露悪的なのだ。俺の中に邪悪がある、この事実を知るために、誰かを殺さなくてもいいし、わたしが破滅する必要もない。安全に、自分の闇を確認できる。わたしという皮を被った悪魔を見つけて喜ぶ。そのために、小説という狂気に委ねるのだ。

 そういう意味で、読み手の狂気を確認・加速する以下の作品を挙げたい。読むと確実に神経に障る悪書なり。読後のカタルシスを通じて、自分の悪辣さを感じ、心底胸クソ悪くなりたいときに、どうぞ。

  1. 山川方夫『夏の葬列』
  2. 田山花袋『少女病』
  3. 筒井康隆『問題外科』
  4. マルキ・ド・サド『ジェローム神父』
  5. 野坂昭如『骨餓身峠死人葛』
  6. ジョナサン・スウィフト『アイルランドの貧民の子供たちが両親及び国の負担となることを防ぎ、国家社会の有益なる存在たらしめるための穏健なる提案』

 読書は毒書、闇を覗くものはまた、闇からも覗かれていることを自覚させるアンソロジー。

|

« 空も飛べるはず『飛ぶ力学』 | トップページ | ないもの、あります『注文の多い注文書』 »

コメント

トモォゥと申します。ちょくちょく拝見しておりましたが、コメントは初めてです。

私も後味の悪い胸くそストーリーが大好きで、良く読んだり観たりします。その動機、

> 最後のページを閉じたとき、同じ現実に居なくてよかった、とホッと安心するため、

これが私と全く同じだったため、ついついコメントしてしまいました。時折安心よりも胸くそが勝ってしまい、夜が重くなることがありますが、基本的には「自分はまだ大丈夫、明日も頑張ろう」と感じて物語を終えることが多いですね。

とりとめもないコメントですが、今後も参考にさせて頂きますのでよろしくお願いします。

投稿: トモォゥ | 2014.03.14 09:47

>>トモォゥさん

コメントありがとうございます。「夜が重くなる」は確かにその通りですね。「これが私の現実でなくてよかった」という最悪の読書を繰返すことで、何度も生き直しているのだと思います。
ケッチャムが燦然と鎮座するトモォゥさんの本棚で、心底胸クソ悪くなる奴があったら、是非ご教授くださいね。

投稿: Dain | 2014.03.14 20:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/18285/59276356

この記事へのトラックバック一覧です: バッドエンド100%『もっと厭な物語』:

« 空も飛べるはず『飛ぶ力学』 | トップページ | ないもの、あります『注文の多い注文書』 »