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スゴ本オフ「トリック&マジック」

 好きな本を持ち寄って、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。

 今回のテーマは、「トリック&マジック」。直球ミステリから古典、オカルト、SF、マジックリアリズムな作品まで集まったぞ。東京創元社の中の人やプロのマジシャンも呼んで、楽しく美味しく収穫ざくざくのひととき。参加された方、ご協力いただいた方、そしてKDDIウェブコミュニケーションズ様、ありがとうございました。

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 しかしこれ……集まった作品たちは、見事にカオスで非常に面白い。それも単なる混濁ではなく、ある一定の方向をもった無秩序なラインナップ。その方向とは、「驚き」になる。

 あるものは、ラストのどんでん返しで「あっ」と言わせ、あるものはタイトルからして耳目を大いに驚かせ、そしてまたあるものは伏線と構成と叙述の妙で唸らせる。読み手の期待をことごとく裏切る形で唖然とさせたり、予想のナナメ上をつきぬける驚愕を引き起こす作品もある。

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欺術 たとえば『欺術』。「史上最強のハッカーが明かす禁断の技法」と銘打たれているので、どんなハッキングテクかとワクワクしていると、どの時代にも通用する黄金則が書かれている。即ち、どんなに鎖を太く強くしても、「人」が一番弱い環であり、ソーシャルハッキングこそが肝であり弱点なのだ[ヒューマンハッキング・クックブック『欺術』]。zubapitaさんが喝破したとおり、欺術とは即ち話術で、それは詐欺師と営業の間にある。

モレルの発明 わたしのイチオシは『モレルの発明』。あのボルヘスをして「完璧な小説」と言わしめたほど完成された作品。SFとして読み始めると、実存主義に嵌まり込む仕掛けになっており、表紙を二度見すること請合う。巻末の解説を読んだら、今までの自分の「読み」がさらにひっくり返って、今度は裏表紙を三度見するだろう。本書を「完璧な小説」にするための最後のピースとして、自分という読者がいるのだ[完璧な小説『モレルの発明』]。

もしも遠隔操作で家族が犯罪者に仕立てられたら かなり気になったのが、『もしも遠隔操作で家族が犯罪者に仕立てられたら』。外部から操られたパソコンには証拠が残っていない。警察は教えてくれず、自白を促すだけ。家族もネットにさらされ、拡散・炎上していく。裁判は、ほぼ有罪への一本道で、争ったら一家丸ごと針ムシロ。パソコン遠隔操作事件を題材にした、物語は、人ごとではない。ポイントは、捜査するほうにとっても「新しい冤罪」であるところ。現在進行形なのでノンフィクションにしにくいのか、小説仕立てにしたのは英断だと思う。願わくば結末が暗黒になっていませんように…

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 王道ミステリからファイナルストライクまで、「トリック&マジック」で紹介・言及された作品は次の通り。

  • 『百年の孤独』ガルシア・マルケス(新潮社)
  • 『モレルの発明』カサーレス(水声社)
  • 『伝奇集』ボルヘス(岩波文庫)
  • 『あの犬が好き』シャロン・クリーチ(偕成社)
  • 『グラン・トリノ』クリント・イーストウッド監督
  • 『最後の錬金術師カリオストロ伯爵』イアン・マカルマン(草思社)
  • 『ハッカーを追え!』ブルース・スターリング(アスキー・メディアワークス)
  • 『欺術』ケビン・ミトニック(ソフトバンククリエイティブ)
  • 『世界No.1詐欺師が教える華麗なる騙しのテクニック』フランク・W・アバグネイル(アスペクト)
  • 『営業と詐欺のあいだ』坂口孝則(幻冬舎新書)
  • 『老木に花の』中村真一郎(集英社)
  • 『ベスト・アメリカン短編ミステリー2009』ジェフリー・ディーヴァー編(DHC)
  • 『とりかえばや物語』(角川ソフィア文庫)
  • 『月の輝く夜に』氷室冴子(集英社コバルト文庫)
  • 『おちくぼ姫』田辺聖子(角川文庫)
  • 『チルドレン』伊坂幸太郎
  • 『暗黒女子』秋吉理香子(双葉社)
  • 『虐殺器官』伊藤計劃(早川書房)
  • 『伊藤計劃記録 第二位相』早川書房編集部(早川書房)
  • 『孤島の鬼』江戸川乱歩(江戸川乱歩文庫)
  • 『緑衣の鬼』江戸川乱歩(江戸川乱歩文庫)
  • 『ハサミ男』殊能将之(講談社)
  • 『半身』サラ・ウォルターズ(創元推理)
  • 『BIOSHOCK』(XBOX360用・spike)
  • 『噂』荻原浩(新潮文庫)
  • 『魔法少女育成計画restart』遠藤浅蜊
  • 『名探偵コナン・水平線上の陰謀(ストラテジー)』
  • 『なぞときブック』(ベネッセ)
  • 『はてなはっけんブック』(ベネッセ)
  • 『くろて団は名探偵』ハンス・ユルゲン(岩波少年文庫)
  • 『乱れからくり』泡坂妻夫(創元推理文庫)
  • 『ネジ式ザゼツキー』島田荘司(講談社文庫)
  • 『私という名の変奏曲』連城三紀彦(新潮文庫)
  • 『騙し絵』マンセル・ラントーム(創元推理文庫)
  • 『しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術』泡坂妻夫(新潮文庫)
  • 『アガサ 愛の失踪事件』マイケル・アプテッド監督
  • 『髑髏島の惨劇』マイケル・スレイド(文春文庫)
  • 『影武者 徳川家康』隆慶一郎(新潮文庫)
  • 『星を継ぐもの』ジェームズ・ホーガン(創元SF文庫)
  • 『空飛ぶ馬』北村薫(創元推理文庫)
  • 『もしも遠隔操作で家族が犯罪者に仕立てられたら』一田和樹(技術評論社)
  • 『天帝のはしたなき果実』古野まほろ(幻冬舎)
  • 『仮面山荘殺人事件』東野圭吾(講談社文庫)
  • 『首無の如き祟るもの』三津田信三(講談社文庫)
  • 『楽園のカンヴァス』原田マハ(新潮社)
  • 『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午(文春文庫)
  • 『絶望』ナボコフ(光文社古典新訳文庫)

 いつも通りの飲み会の光景(の一部)。ご馳走さまでした。

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 次回は「酒」か「サバイバル」か。ご興味ある方は、[facebook:スゴ本オフ]をご覧下さいませ。


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日本という実験場『そして日本経済が世界の希望になる』

そして日本経済が世界の希望になる これは、クルーグマンからアベノミクスへのエール。

 アベノミクスの目玉であるインフレ目標/リフレ政策を提唱した経済学者ポール・クルーグマンが、アベノミクスの成果と将来を語りおろした一冊。基本は“絶賛”である一方で、「やってはいけない轍」もきっちり釘を刺している(そして、その轍は力いっぱい踏まれている)。

 肝は、大胆な金融政策になる。現在日本がハマっている罠から脱出するために重要なのは、人々がもつ将来への期待を変えることだという。そのためにはまず、経済は将来的に落ちこまない、と人々が信じ、次に、中央銀行が金融緩和を実行すると確信されることを目指す。

 望ましい状況は、マネーストック(金融機関から経済全体へ供給されている通貨の総量)の増加がインフレを誘発し、さらにマネタリーベースを増やし続けるとみなされること―――十年前からクルーグマンが主張していたことが、今春の日銀の異次元緩和で実行されている。これが上手くいけば、日本は世界各国のロールモデルになるとまで誉めている。

 ただし、「やってはいけない」罠として、尚早すぎる財政再建をあげる。もちろんいずれは財政再建は必要だが、景気が十分に回復してからすべきだという。時期を誤ると、かえって回復を遅らせ、経済を弱めることになる。特に消費税増税は、“1997”を思い出せという。消費税を3%から5%に引き上げたら、それが、1998リセッションの引き金になったことを指摘する―――既に8%が宣言されてしまっているため、これは予言のように読み取るべきだろう。

 いっぽうで、反リフレ派や緊縮財政派の主張もある。『さっさと不況を終わらせろ』での反論に加え、痛烈な批判を展開している。確かにクルーグマンの主張はもっともらしく感じられるのだが、学術的な根拠よりも、彼の物言いのほうが核心を貫いているように見える。曰く、「彼らは『正しいと信じたい』ものに飛びついている」とか、「経済学を道徳劇として見たい欲求に動かされている」という台詞だ。

世俗の思想家たち これは、『世俗の思想家たち』で気づかされたことなのだが、経済学者の主張は、その人の生い立ちや社会的状況に依存している。アダム・スミス、マルクス、ケインズ、シュンペーター、経済学説史上の巨人たちの言説には彼ら個人の、ひいては当時の世の中の裏付けが存在する。

 たとえば、インターナショナル全盛のときは、資本主義は打倒されることが真実だったし、帝国主義の勃興は、資本主義がみずから課したジレンマから逃れるための、歴史的趨勢だと考えられた。それらは、真実というよりも信念、つまり、ヴィジョンを指す者が何を信じるかに依存するのだ。

 それぞれの経済学者は、(自覚の有無にかかわらず)自分の信念に基づいて学説を選び手を加える―――これが、経済学者の数だけ理論がバラバラであべこべな理由になる。経済学を「科学」と言い切るのをためらう理由である。経済学説の理論的な正しさよりも、むしろその「正しさっぽさ」を如何に伝播するかの方が重要に見えてくる。

 クルーグマンの主張は、「失われた二十年」という状況の下で実行された。その正しさは、日本という実験場で明らかになる。そういう意味では潔いし、フェアである。後ろから揚げ足を取ろうとする“経済学者”は、同じリングに上がるべきだろう。


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10代の女の子が読むべき44冊『女子読みのススメ』

女子読みのススメ 女の子の悩みに寄り添うブックガイド。

 女性作家が書いた、女の子を主役にした作品を、「教室」「恋愛」「家族」「大人になること」といったテーマに沿って、女性評論家が紹介。まさに、女性の、女性による、女性のための44冊。

 今を生きる少女が、子どもから大人になる過程で出会う悩みや壁―――それは小説やアニメで物語として美味しくいただいている。だが、多感な10代にとっては、人生を左右するどころか死活問題ですらある。女性の思考回路を理解することが不可能なのに、ましてや女子の情緒を分かるのは無理筋というもの。せめては本書を紐解いて、現代社会で「若い女の子」として生きることをめぐる、痛みや希望、生きづらさに寄り添ってみる。

 スクールカーストを描いた鈴木翔著『教室内カースト』の紹介では、「みんな」を馬鹿にしながらも肥大化する自我を持てあます「私」に着目する。「世間のモノサシ」から離れていることとして価値がある、という現実から浮遊した屈折と、そこから自由になる過程を通じて、教室という空間を「宇宙船」に喩えている。皆が同じ「空気」を吸っていて、そこから出たら、空気はなくなる空間だ。

 そして、豊島ミホ著『底辺女子高生』では、教室という宇宙船から解き放たれた「私」について分析する。自分を「ダメだ」「底辺だ」と決めつけるのは、謙虚なようで、実は自分を「特別な存在」と思う傲慢な自意識の裏返しだという。そして、そこに気づき、ありのままの自分を受け入れられるかどうかが、成熟への肝だという。

 あえて80年代の作品を持ってくるのが面白い。干刈あがた著『黄色い髪』で、「学校へ行かなくなると、どうして家にもいられなくなるのか?」という問いへの答えを引いている。

学校と家が、なぜか同じ場所になっているからです。生きていくことイコール学校へいくこと、という場所です。だから、学校へ行かないことイコール死になってしまうのです。

 不登校は、単に「学校へ行かないこと」だけでなく「この社会からもれおちてしまうこと」を意味し、「学校に行かないと、将来社会に出ることができない」すなわち、不登校が死に結びつく風潮があった。

 ところが、この仕組みは1990年代以降、失われていく。「いい就職をするためには良い学校に行かなければならない」という現実は残る一方、「いい学校に行ったからといって、いい就職ができるとは限らない」という不安定さは、たしかに拡大してきた。

 学校に行かないということは、かつてほど強く否定されなくなり、フリースクールなど民間の居場所が認められる余地が増えたのだが───瀬尾まいこ著『温室デイズ』の主人公は、異を唱える。母親から勧められた「学校よりも自由で、好きにできる場」を、慎重に拒絶する。この「自由」という言葉の裏側にある時代の強迫「やりたいようにやればよい、ただし自己責任で自立せよ」への、直感的な疑念があるというのだ。

 自傷女子必読の書があるらしい。

「あーやばい、もう私なんか生きてる意味がない」が口癖になっている女の子達は。手首に刃を当てる前に、だまされたと思ってご一読を。

ここまで言い切ってオススメしているのは、金原ひとみ『オートフィクション』。「あえて弱者になりきることで、強者の側に回る」という女の子の戦略を描いた作品で、これを読むことは、リストカットする人が自分の血を見るときの、しんとした安心に似ているのかもしれないという。

 「教室」「恋愛」「家族」「大人になること」それぞれのテーマを一貫するポイントは、「相対化」。これしかない、と追い詰めてしまう女の子のために、退路というか別の次元(世界)を見せてくれる44冊は次の通り。

教室という宇宙船

  • 『平成マシンガンズ』三並夏(河出書房新社)
  • 『底辺女子高生』豊島ミホ(幻冬舎文庫)
  • 『檸檬のころ』豊島ミホ(幻冬舎文庫)
  • 『初恋素描帖』豊島ミホ(メディアファクトリー)
  • 『温室デイズ』瀬尾まいこ(角川文庫)
  • 『黄色い髪』干刈あがた(朝日文庫)
  • 『蝶々の纏足・風葬の教室』山田詠美(新潮文庫)
  • 『ともだち刑』雨宮処凜(講談社文庫)
  • 『西の魔女が死んだ』梨木香歩(新潮文庫)
  • 『つきのふね』森絵都(角川文庫)
  • 『ガールズ・ブルー』あさのあつこ(文春文庫)
  • 『蹴りたい背中』綿矢りさ(河出文庫)

恋愛は女の子を救ってくれる……か?

  • 『ガールズ イン ラブ』ジャクリーン・ウィルソン(理論社)
  • 『ナラタージュ』島本理生(角川文庫)
  • 『アッシュベイビー』金原ひとみ(集英社文庫)
  • 『ハイドラ』金原ひとみ(新潮文庫)
  • 『オートフィクション』金原ひとみ(集英社文庫)
  • 『暴力恋愛』雨宮処凜(講談社文庫)
  • 『カツラ美容室別室』山崎ナオコーラ(河出文庫)
  • 『青空チェリー』豊島ミホ(新潮文庫)
  • 『荒野』桜庭一樹(文春文庫)
  • 『君は永遠にそいつらより若い』津村記久子(ちくま文庫)
  • 『依存姫』菜摘ひかる(主婦と生活社)
  • 『ひとり日和』青山七恵(河出文庫)
  • 『ミューズ/コーリング』赤坂真理(河出文庫)
  • 『黄色い目の魚』佐藤多佳子(新潮文庫)

家族について

  • 『まともな家の子供はいない』津村記久子(筑摩書房)
  • 『空中庭園』角田光代(文春文庫)
  • 『祈祷師の娘』中脇初枝(福音館書店)
  • 『きみはいい子』中脇初枝(ポプラ社)
  • 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』桜庭一樹(角川文庫)
  • 『いつか見た青い空』りさり(新書館)
  • 『幸福な食卓』瀬尾まいこ(講談社文庫)
  • 『前略、離婚を決めました』綾屋紗月(イースト・プレス)

いつか、大人になったら

  • 『スイッチ』さとうさくら(宝島社文庫)
  • 『きりこについて』西加奈子(角川文庫)
  • 『永遠の出口』森絵都(集英社文庫)
  • 『マザーズ』金原ひとみ(新潮社)
  • 『森に眠る魚』角田光代(双葉文庫)
  • 『対岸の彼女』角田光代(文春文庫)
  • 『臨死!!江古田ちゃん』瀧波ユカリ(アフタヌーンKC)
  • 『肩ごしの恋人』唯川恵(集英社文庫)
  • 『格闘する者に○』三浦しをん(新潮文庫)
  • 『すーちゃん』益田ミリ(幻冬舎文庫)


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