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なぜ小説を読むのか?なぜ小説を書くのか?『実践小説教室』

実践小説教室 伝わる・揺さぶる小説を書くために必要なものが分かる。

 それは書き手自身の経験であり、熱意になる。その見つけ方、酌み取り方、表し方が、読み手の背中を押すように解説されている。テクニック的な面から言えば、文学賞を取るための「べからず」集がまとめられている。あたりまえなことを、あたりまえに教えてくれる良い本。

 タイトルに惹かれて技術的なノウハウを知りたい人は、いきなり2章を読むといい。短編か長編か、テーマはどこから掘り出すのか、人称をどうすればテーマに沿うかがまとめられている。基本的なものばかりだが、興味深く感じたのが、「いま、文学賞を狙うなら」という視点で尖ったアドバイスがあるところ。

 例えば、三人称で書く場合の手法として「複数の現在」をお勧めしてくる。小説的現在が二つ以上あると、物語は劇的に迫力が得られるからといい、各章ごとに交互に小説的現在が入れ替わる構造を紹介する。この手法を取り入れた作品をいくつか思いつくが、まだ手垢にまみれていない状態なのだろう。ちょっとズラすなら、「複数の現在」の一つを実は過去(未来)にミスリードするトリックを思いつくが、これも傑作があるなぁ。

 あるいは、過去の受賞作と作風が似ているからという理由で新人賞を選ぶのはよくないという。つねに新鮮なものを求めている主催者にとって、「またか」ということになるから。時代小説にSFやホラー要素を入れた作品を目にするが、新奇性を超えて定着するかも。でもって日本にないジャンル"historical fiction"が一般化するといいね。

 文学賞の傾向と対策として、流行のサイクルを研究するのもいい。ベストセラーには一定の波がある。それを分析して、次の時代にはまる作品を先取りして書くのだ。「最近のオヤヂは、若いとき本読んでたのか」で時代毎のベストセラー分析をしていたので、[年代流行ベストセラーランキング]と絡ませると、次が見えてきそうで面白い。

 テクニカルな面だけではなく、小説家の心構えというか気質のようなお話も興味深い。例えば、頭の良すぎる人は、小説家に向いていないらしい。白黒はっきりした結論をつけたがるからだという。拙速に答えに飛びつかず、結論が出ない問題を、問いの形のままで考え続けられる人が小説家気質になる。

小説家というものは、社会への適応能力がありながら、その実きわめて感受性が強く、内面に葛藤を抱えながら社会生活に努めて適応している人たち
 「いい小説とは何か?」への解答も明快かつ納得できる。それは、再読を促す仕掛けが施されている作品だという。では再読を促す仕掛けとは?即ち「重層的な構造」と「同時代性」がキーになる。物語単線ではなく、さまざまなテーマが織り込まれており、同じ時代に生きる読み手に響く背景や台詞が埋め込まれている作品になる。自分が「いい小説」と思えるものと照らせば答え合わせはすぐだろう。

 ただし、「どうすれば重層的な作品になるか?」への答えは楽観的すぎやしないだろうか。書き手の中にある重層的な感性、重層的なテーマが、知らず知らずのうちに作品に表現され、意識して書かなくても、おのずと重層的になるというのだ。読者を「書き手」に招こうという手が透けて見えて面白い。

 そして、「重層性」「同時代性」からドリルのように穿ちまくる読みがスゴい。『海辺のカフカ』とイチローの関連性や、『蹴りたい背中』と『金色夜叉』の相関性を深読みしまくるのだが、その連想の飛距離はこじつけに近い。綿矢りさの好きな作家に、田辺聖子がいるというのが根拠らしいが、恋愛絡みを1レベル抽象化したら、いくらでも相関性を見つけられるぞ。ただ、もしこれが正鵠なら、それはそれで素晴らしい。読者よりも作家が喜びそうな深読み、思い込み読書上等なり。

 「なぜ小説を書くのか?」「なぜ小説を読むのか?」への答えに激しく同意する。いつも思っていたことを言葉にしてもらえたようで嬉しい。

 まず、桑田真澄の発言を紹介する。

  • 自分が野球を教えるのは、全員をプロ野球選手にするためではない。野球の面白さをより多くの人に伝えるため
  • みんながみんな、プロ選手になれるわけではないし、なる必要もない。ただ、野球の基本を身につけることで、野球を好きになる、もっと面白く観れるようになる
  • 野球の面白さは、自分がやってみないと分からない。だから自分は教えている
 小説も同じで、みんながみんな、プロになれるわけではない。だが、大切なことは、自分で手を動かし、心を羽ばたかせて、小説を書いてみること。書けば書くほど面白くなってくるし、読むときも、より深く小説を味わえるようになるというのだ。

 約束事の外に立って書くことで、ふだん自分があたりまえだと思っている常識的な世界に揺さぶりがかかり、新しい世界が開けてくる。そこで見えてきた「真実」のようなものを、かけらでもいいからつかまえて、言葉で表現できたとき、人は小説を書く醍醐味を知るというのだ。

 ただしこのとき、外に出たきりになるのはよくない。必ず元の位置に戻って、日常の世界で生きる。そうあってこそ小説家になれるというのだ。小説を書くとは、自分の人生を相対化させることなんだね。

 そして、小説にとっては、どんな人生も無駄ではないと断ずる。自分では平凡に見えても、味わった感情、経験してきたことは、何一つ無駄ではなく、どんなことも小説を書く上では格好の素材になりうる。そのまま書くことはなくても、何かの形で生きるというのだ。

あなたのこれまでの人生は、もしかすると、これからあなたが書く小説のためにあったのかもしれません。その一作を書くためにあなたは生まれ、泣いたり笑ったりしながら懸命に生きてきたのかもしれません。
 楽観的で、安易といっていいほど背中を押してくれる。その理由は、わたしが良い小説を深く読むためであり、書くためでもあるのだ。作家をプロデュースする5冊よりも、いちばん力強く背中を押してくれる、良い本。

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知的連歌 hoooon! 面白いぜ

 ライブ型書評イベント見てきた。

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 雰囲気に合わせて楽曲を選び、トークを交えながら音楽を流すのがDJ(ディスクジョッキー)なら、これはBJ(ブックジョッキー)だ。前の曲とのつながりや、来場者の興味に沿ったり裏切ったりしながらアレンジする。まるでジャズセッションのようなライブを「本」で演(や)るのだ。かなり高度で面白い。

 基本ルールは2つ。

 1)持ち時間は1人3分間
 2)前の人の紹介キーワード・テーマを引き継ぐ

つまり、一人3分で一冊紹介し、次の人が、その本に関連する本を紹介する×4回で、3人で12冊をマシンガントークするわけ。プレゼンター達は、一人十数冊持ってくるけれど、実際に紹介されるのは「前の人の紹介本に絡むもの」という縛りがあるので、自ずと絞られてくるのだ。

 どういう本が俎上にあるかは最初に分かっている。この日はこんなラインナップだった。科学哲学、建築、政治学、都市計画、空間デザインという専門領域を持つ若手研究者が、学術書から小説、写真集まで、ジャンルオーバーな本が集まっている。

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 既読本なのに、意外なつながりから導かれたり、思いもよらないキーワードで紹介されると、気づきと驚きが生じる。ああ、そういう「読み」もあったんだねと。松岡正剛氏の「共読」を現在進行形でやるようなもの。しかも、そうしたつながりは、トークのうねりの斬り口からアドリブ的に飛び出してくる。このライブ感が、まるでジャズのかけあいのように面白いのだ。

 こんな流れだ。シャルル・フーリエ『四運動の理論』→玉村豊男『料理の四面体』→マックス・ヴェーバー『社会主義』へとつながる。串刺しにしているキーワードは、"普遍性"なのだが、どういうキーワードに落とし込むかは、しゃべり手の感性による。

 続いて、P.オースター『幽霊たち』→ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』→佐藤優『国家の罠』とつながる。さらに梅原猛『歎異抄』がくるのだが、『国家の罠』とのつなげ方がアクロバティックなり。悪人を作って排除する検察から、善人なおもての悪人正機説という連想。ドストの『カラマーゾフの兄弟』があったので、てっきりロシアつながりかと思いきや、「そうきたか!」と驚かされる。

 読みたい本、読み返したい本が続々と出てくるのがいい。坂本一成『建築に内在する言葉』が読みたい。「建築の中で暮らしている=建築の中でしか発想できない」というスタンスをずらすという。それにつながる諭吉の『学問のすすめ』は読み返したい。

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 これ、 実況したらオモロイぞ、とおもってたら、こないだニコニコ超会議に出てたそうな。九鬼周造『いきの構造』から、テグジュペリ『人間の土地』、宮崎駿の反戦・兵器好きの矛盾性から、「飛ぶことへの呪い」論が開陳される。『風立ちぬ』は、彼の総結集+乗り越えらしい。発想の共振動が、思わぬ方へ転がってゆく。

 芋づるが想像とは違う方向に延びてゆくのがイイ。「その一冊」を読み込んでいるからこそ生まれ出る着想と、「その一冊」に情熱を注ぎ込んでいるからこそ流れ出る連想がいい。いわゆる発想の連歌を「本」で演るのだ。

 ただし、これはかなりハードルが高い。イントロ1分、紹介3分と切れ目なく話を続けながら、自分のフィールドの本に絡めつつ、次の人につながりやすいパスを渡してゆく。一人一冊紹介するだけのビブリオバトルとか、もっとフランクなブクブク交換、まったり熱く語り合うスゴ本オフと比べると、hoooon! は、かなり高度だ。「しゃべり手」のパフォーマンスに拠るところが大きい。やり方によってはグダグダに陥ったり、独り善がりで周囲は「?」となる恐れもある。読み込みと情熱としゃべり技術を求められる、知的連歌なのだ。

 だからこれは、「今が旬」のイベントなのかもしれない。次回もぜひ観覧したい。

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 「知」を楽しむ。若手研究者による本紹介イベント

 一番惹かれたのが、矢代梓『年表で読む二十世紀思想史』。流行りモノを切口に、横断的に俯瞰する視点が得られそう。

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