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贅沢な読書『ラピスラズリ』

ラピスラズリ 小説を読む喜びが、連れて行かれること、のめりこむこと、そして戻ってこられることであるならば、これは極上の喜びをもたらしてくれる。

 テーマは冒頭で分かる。三作の銅版画に表された情景を、後の連作が明かしてゆくように見える。中心となるのは「冬眠者」、冬のあいだ眠り続ける宿命を持つ人々だ。丁寧に研磨された描写を追いながら、輻輳した伏線を解いてゆくと、徐々に不穏な動きを見せつつ、破滅への緊張が高まっていくのが分かる。

 設定は作中にて説明されず、あちこちに散りばめられた描写や会話をヒントに、読者が汲み取らなければならない、読み巧者な仕様となっている。複数の人物の目線を次々と切り替えながら、畳み込まれたエピソードを丹念に広げてゆくと、隠された真実が徐々にたち現れてくる。かつ消えかつ現れるもつれたヒントが、ラスト近くなって一気に判明する。

 ただし、秘密は明らかになっていくものの、ラストに収斂したとしても、完全に見えるようになってはいない。ひっかかった箇所へ立ち戻って再読すると、さらに二重三重の意味が隠されていることが、あらためて分かるようになる仕掛けが施されている。ラストの余韻が木霊のように増幅していくのが愉しい。

 そして、自分の目で見たものが本当なのだろうかと疑う。連作で登場する同一人物らしき人々や、徘徊するものたちは、実は別の時間軸の存在ではなかろうか、と勘ぐったりする。描写が精緻であればあるほど、一貫した物語にすがりつきたくなるが、論理よりも感覚をドライブして読んだほうが楽に浸れるかも。作者は山尾悠子、精密で硬質な文体で描かれた幻想文学は、ぜんぶ“あたり”だと思っていいだろう。松丸本舗で『山尾悠子作品集成』を購入しておけばよかった。

 冬の午後、たっぷりと時間をとって、ゆっくりと読んでほしい。

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