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古典は武器である『強く生きるために読む古典』

強く生きるために読む古典

  負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くこと、鬱になりそうなとき、それが一番マズい。では、どうするか。

 ダメになりそうなとき、古典は武器になる。できそこないだという自覚、場違いでいたたまれない感覚、自殺した文豪の「生まれてきてすいません」を夜の底で反芻するとき、生き延びる助けとなるのは古典である……これが著者の主張。ヘーゲル、法然、カミュ、ドスト、ときに過剰に、ときに強引に自分に引きつけて読む。

 自ら述べる通り、著者の「読み」はバイアスがかかっている。「正しい」「間違っている」を断定しがちだ。既読については、わたしの「読み」とずいぶん違うのが面白い。マルクス・アウレリウス『自省録』を、「劣等生の嗚咽と罵声、悔恨と自戒の独白」と読むのは斬新すぎる。閉塞感と絶望に塗りつぶされた『悪霊』からドストの楽観論を汲み取ろうとしたり、『異邦人』のムルソーの転回を自分の体験に照らして理解しようとする。カミュの不条理は、「人は意味や理由を求めたがるが、世界はその問いに答えない」であって、ムルソーはそれに気づいたから丸ごと幸せになれたんじゃなかったっけ。

 それでも、解説書や類書にあたらず、直接、裸で古典に取り組み、「わたしはこう掴み取ったどー!」と叫ぶ。自分の生そのまま肯定する、強く美しい体験が書いてある。感情の余波は、読者の手を伝わり、「私も読もう、そして武器にしよう」という気にさせられる。

 読む行為自体が「事件」となるように書かれた『失われた時を求めて』や、「人生のどんな経験も無駄にならない、今度はおまえの番だ」と評する『野性の思考』を読むよう、力強く背中を押される。あるいは、「正しい」「間違っている」というより、何を読み取ったかが問われているようで、再読を促される。紹介されている古典は以下の通り。

 『失われた時を求めて』プルースト
 『野生の思考』レヴィ=ストロース
 『悪霊』ドフトエフスキー
 『園遊会』マンスフィールド
 『小論理学』ヘーゲル
 『異邦人』カミュ
 『選択本願念仏集』法然
 『城』カフカ
 『自省録』マルクス・アウレーリウス

 行き詰まったときの本を探すガイドとして、ユニークな「読み」の事例として、書評というよりも優れたエッセイとしてオススメしたい。

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コメント

本文と逆の話になりますが…
ウィキペディアのまとめ、短編集から始めて、約一年ほどかけて行き来しながらドスト読んでます。
古典って政治的な背景とか、社会慣習を知らないと通じなさそうなことが結構ありますよね。

日本や中国の古典文学だと、それこそ本家からその派生を追って、今読みたいものに当たらないと全然解釈が違ったりして…
今2/3ほど読んだところですが、「火山列島の思想」益田 勝実 が、言葉の意味が変わってないか遡って調べたりしていろいろ論述してます。

投稿: kartis56 | 2013.09.01 21:12

その本は友人に勧められて読んでるんですが、
それを読む前にこういうまとめがあって
http://togetter.com/li/476344 室町時代の行動倫理あれこれ
http://togetter.com/li/489984 室町時代の寺社関連の事件について

過去の視点から見るというのがちゃんと本を読むことなのかなぁなどと考えたりして、古典を読むのはなかなか大変という話です。
上記まとめをおすすめ。

投稿: kartis56 | 2013.09.01 21:18

>>kartis56 さん

教えていただき、ありがとうございます。古典にそのままぶつかるのは、「なぜその一冊が古典になったのか」を自分で探す読書になると思います。深浅はともかく、いい読書になるでしょう。
いっぽう、kartis56 さんのように解説から重層的に取り組むのが、「古典を読む」になります。バックグラウンドから時代ごとにどのように扱われてきたかを抑えるのが王道でしょう。時間と手間はかかるけれど、得られるものは計り知れないですね。
「これは!」という作品は、両面から攻めていこうと思っています。

投稿: Dain | 2013.09.02 06:29

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