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書店でビブリオバトルをするならば

 好きな本をプレゼンし、イチバンを決めるビブリオバトル。

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 ブックトークにゲーム性を加えた知的書評合戦は、意外な本や見知らぬ読み手と出会う良い機会なり。紀伊國屋書店で参戦しているが、ひとつ残念なことがある。

 それは量。

 オススメできるのは一冊だけ、という縛りがある。一人5分でプレゼンし、質疑応答で2分。5人しゃべったらそれだけで35分、採決や紹介を入れると小一時間かかってしまう。

 もちろん、ゲーム性のためシンプルにしているのは分かる。だが、これに出向くような本好きであれば、5冊なら一目で見極めてしまう。その5冊から幸せな出会いがあるかもしれないが、もっと膨らませることはできないだろうか。分母を増やすことで、出会いの確率を上げられないだろうか。

 そこで提案。

 テーマ毎に5人の参戦者が5冊のオススメを持ってくるのなら、+αしてみてはどうだろう。つまり、「このテーマでその本なら、これなんていかが?」と主催者側が逆提案するのだ。どの5冊が集まってくるかは、事前申込で分かっている。

 その5冊をコアにして、作家つながり、テーマが類似、反論本、対となる本、コミカライズ、海外モノ、別の訳者、別の時代、学術書など、「その5冊から導き出される本」が出てくる(これは書店員さんの十八番だろう)。この導出本を、もとの5冊を囲むように並べるわけ。棚を一竿借り切って、そこでプレゼンしてもいい。季節や流行りをテーマにしてた関連本コーナーがあるが、それをビブリオバトルのテーマでやってしまうわけ。

 ビブリオバトルに参戦してくる人は、それなりに読んできているか、「その一冊」に強い思い入れがある方だろう。そんな人にカウンターを当てる形で、「それならコレは?」と書店員さんが(無音で)オススメするのだ。そこで「それは知らなかった」とか「それがあったか!(既読だけど)思いつかなかった」といった、新たな出会いがあるだろう。

 ビブリオバトルを観戦する人は、やはりそれなりに読んできており、「新たな出会い」を求めている方だろう。その人へ提案する「分母」を増やすチャンスとなるに違いない。参戦者の5冊を見て、「それならコレがあるのに」という思いをしている観戦者の、まさにその一冊が並んでいたならば、「うむ、この書店は分かっておる」と知的虚栄心(?)をくすぐること間違いなし。

死を食べる たとえば、先日の紀伊國屋書店のビブリオバトル。テーマが「自由研究」で、わたしのオススメしたのが『死を食べる』(宮崎学)。キツネの死骸に蝿が群がり、蛆が湧き、その蛆を食べるための獣が訪れ……と死骸が土に還っていく様子を定点撮影する。浜辺に打ち上げられた魚にヤドカリがたかり、食い尽くされる。いわば九相図の動物版やね。

 クジラから蛙まで、さまざまな「死の変化」を並べることで、「どんな死も、だれかが食べてしまう」ことに気づかされる。これを子どもと一緒に読むことで、「死とは、誰かに食べられる存在になること」、そして「生とは、誰かの死を食べること」という結論に達する。

死 ここから派生するのは、同写真家の『死』が挙げられる。『死を食べる』の大人向けだ。一匹の動物が死ぬと、蝿がたかり、蛆が湧き、さまざまな動物が死肉を漁り、白骨となって土に還る。腐敗が進行する際の、あったかくて猛烈な匂いまでが、ちゃんと写っている凄い写真集だ。子どもの頃に見かけた、「轢かれた猫の死骸に、真っ黒にたかる銀蠅」や、「砂の下に、だんだん沈んでいく蛙」の残像が重なる。

 死は一種のエンドポイントのように見られがちだが、かなり変化自在だぜ。しかも塵芥になった後、世界中に拡散してしまう。ひとつの肉体に閉じ込められた生よりも、よっぽど自由(≒エントロピーMAX)だな。

リバース・エッジ さらに想起されるのは、岡崎京子『リバース・エッジ』。誰が何と言おうとも、岡崎京子の最高傑作はこれなり。というか、「生きるって何」についてこれほど痛ましく凄まじく応えている作品は希有といってもいい。読み手の年齢や感性に応じて化学反応するので、読者を選ぶかもしれない。だが、希薄で無痛で明るい閉鎖空間に慣れきった神経にバチンとくる。読み手の人生のタイミングによっては、落雷級かも。

 これらは、わたしの感覚で選んだ派生本だが、他の方だと全く異なるラインナップになる(それが面白いし、そこが知りたい)。「コアの一冊」から生まれる「それならこれはどう?」という発想を生かせるのは、書店だけ。本に人を集められるリアルな発信地として、本のソムリエというリソースを生かし、売上げにつなげるため、「書店でビブリオバトル」に「書店員のオススメ」を加えてみてはいかが。

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