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教え子の女生徒が恋しいんです、情動を抑えられません『車谷長吉の人生相談:人生の救い』

人生の救い 朝日新聞の人生相談をまとめたもの。ありふれた悩み事に、過激な回答が良い。たとえば、40代の高校英語教師(妻子もち)。まずまずの人生を過ごしてきたが、数年に一度、自分を見失うくらい没入する女生徒が現れるという。

今がそうなんです。相手は17歳の高校2年生で、授業中に自然に振舞おうとすればするほど、その子の顔をちらちら見てしまいます。その子には下心を見透かされているようでもあり、私を見る表情が色っぽくてびっくりしたりもします
 こんなところに馬鹿がいる、わたしも同じ狢ナリ。このセンセ、自己嫌悪に陥ったりもがいたり、なかなかの煩悩っぷり。その娘のことばかり考え、落ち着かない毎日。長いことオトコやっていると、分かる。一定のインターバルで“そういう時期”がある。

 こういう相談を持ちかけられたら、わたしはひとたまりもなく同意して、一杯おつきあいするぐらいしか能が無い。上から目線で諭すのも、頭ごなしに否定するのも、悟ったように語るのも向いていない。

 だが、流石というかなんというか、車谷長吉氏、想像のナナメ上を行く。「恐れずに、仕事も家庭も失ってみたら」と背中を押す。人の生は、この世に誕生したときから始まるのではなく、全てを失い、生が破綻してからがスタートだという。だから破綻なく一生を終える人は、せっかく人間に生まれてきながら、人生の本当の味わいを知らずに終わってしまうのだというのだ。

 そして、破綻してしまえ、職も家庭も失ってしまえ、好きになった生徒と出来てしまえと焚きつける。「そうすると、はじめて人間の生とは何かということが見え、この世の本当の姿が見えるのです」───鬼か、と思う。

 だが、彼に言わせると、人の本質は鬼だ。他の生を喰らって生きる人間に、一切の救いはないという。欲に翻弄されるなら、身を任せて燃え尽きよという。そこから本当の人生が始まるのだから、と過激だ。色や金といった些末な(失礼!)悩み事に、さらなる奈落から回答する。

忌中 たとえば『忌中』を読むと、地獄とは何かよく分かる。(生き)地獄を見た後、自分自身の人生に戻っていけることを、心から喜べる。どんでん返しも、ささやかな喜びも救いも、全くない。読中の嫌な予感は否定も肯定もされないまま、予想通り、最悪の最期に至る。不幸な人生はどこまでいっても不幸であることを納得させる厭な本。

 そこからの回答には、一切救いはない。突き抜けた一種の爽快すら感じる。新興宗教にカネをつぎ込む妻に困惑する夫には、「騙されるのは楽になる道なのです」と説き、「女は貧乏人と結婚する気はないのです」と突き落とす。悠々自適の年金生活者が「小説を書きたい」と言い出せば、「善人には小説は書けません」と両断し、「人を恨むは蜜の味」と諭す。酸いも苦いも噛み分けた人なんだね。

 この人の「回答」に想像がつくようになる頃、ちょと特殊な質問がやってくる。「父が女性の下着を持っています」がそれだ。18歳の女子高生で、父の異常な性への関心ぶりに困惑しているという。アダルトビデオなら許せる。だが、

父は私のものでも、母のものでもない、女ものの下着をけっこうな量、持っているのです。そしてそれを毎週、週末になると、母の不在のときに洗濯しているようなのです。(中略)ふだんの父は仕事で忙しい母に代わって家事などもよくしてくれるし、やさしいので、私は父のことを尊敬もしています
 彼女は小学生のときから気づいていたという。でも、父本人はもちろん、家族の誰にも言えず、どこで、どのような目的で入手したものなのか分からないまま、父の行動を見ていると悲しくなると告白する。これは「うんうん、分かるよ」なんて口が裂けても言えねぇ……

 この答えがいいんだ。いままで「人の生は地獄です」なんて切断していたところから、実にいいことを指摘してくれるあたりまえ、といえばそうなんだけど)。気になるパパは、この回答を読むべし。

 ありふれた煩悩に一撃を食らわせる毒本。

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コメント

岡田斗司夫さんのオタクの息子に悩んでますが面白いですよ。
同じ朝日新聞の悩み相談コーナーの総集編ですが
それだけでなく、回答に至る思考プロセスや
考え方を余す事なく惜しげも無く勿体ぶらず大公開してます。
凄い回答、だけで終わらないのがこの本の面白いとこです。

投稿: 不思議ハケーン | 2013.02.06 23:16

>>不思議ハケーンさん

オススメありがとうございます。そういや、以前借りてて読んでなかった!読みます。

投稿: Dain | 2013.02.06 23:28

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