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『時間ループ物語論』はスゴ本

時間ループ物語論 古今東西の時間ループ物語を題材として、現代日本を生きる人々が抱く価値観、人生観へ肉薄する佳作。十年前のテキストサイトでよく見かけたオタ的論述スタイルが、暑苦しく膨大に展開されており、懐かしくも愉快な読書と相成った。

 うる星やつら『ビューティフルドリーマー』や、涼宮ハルヒ『エンドレス・エイト』といったアニメから、ゲーテ『ファウスト』、落語『芝浜』、漱石『それから』、果ては浦島太郎伝説を俎上に乗せ、定義、掘り下げ、類型化、普遍化し、物語の根っこである「願望充足」「カタルシス」にまで至る。

 アニメ、映画、小説、古典、神話……膨大な作品を次々と挙げ、脱線に次ぐ脱線を繰り返しながら語られてゆく、著者独特の「読み」の過程や考察がめっぽう面白い。リアルタイムでエヴァ論を読み重ねてきた人にとって、「時間ループ」はたまらない食材になるだろう。

 たとえば、若返り譚も含めると、ループ物語は古代から前史があったという。日、月、年で繰り返される暦や季節、輪廻転生からの発想やね。そうしたループ物語の原型は、学校や工場に次いでテレビの導入がもたらした近代の時間感覚によって「時間ループSF物語」という一つの定型へ収斂していったという。

 近代以前のループものは個人が時を遡及する話で、『まどか☆マギカ』のような時間全体がループするような物語は無いらしい。それは、時というものは暦のような円環的なものと捉えられていたから。時計の普及、学校や工場がもたらした近代の時間感覚が、時間全体の不可逆性を巻き戻す「時間全体ループ」をもたらしたという指摘はさすが。

 さらに、時間ループ現象はを「問題先送りのメタファー」あるいは「欠落のメタファー」から論じる件も面白い。あの頃をリセットしてやり直せたら、未来を知った上で過去を生きられたらという願望を、「時をかける少女」に託すこともできる。ループしている間は一種のモラトリアムで、これは何でもあるけれど「希望」だけがないユートピア、ニッポンを象徴しているんだと。

 論考はたいへん興味深いが、発想の八艘飛びについて行けなくなる。著者の「読み」に依存した論旨だから、「こうも読める」「ああも読める」とこじつけるのは、面白いけど説得力がない。偉い人(?)の論文を引っ張ってくるのもアリだけど、権威になびくほどのトシでもなし。

 エロゲは触れている程度で、論考の対象外にされているのが残念なり。さらに、ゲーテだけで満足せず世界文学から包囲してほしかった。たとえば『STEINS;GATE』を実際にプレイしたら、本書で分類分けされたパターンを踏破した先、ぜんぶの未来を潰したさらにメタのループをどう評価するだろうか。(観客も巻き込んだ)主観時間のループを重ね、妻殺しの真相を暴いてゆく映画『メメント』や、すべての可能性の分岐可能性を可視化させたボルヘス『八岐の園』、永劫回帰は「ループ」ではなく現在の近似値であることが分かるクンデラ『存在の耐えられない軽さ』を思いつく。「時間ループ」で物語を解くのではなく、「物語ループ」で時間感覚を捏ねくっても愉しい。

 ただ、暗い世相と同化して閉塞感あふれる自分のキモチを正当化するために、「成長しない時代を生きる」言い訳として時間ループを持ってくるのはいただけぬ。「日本人はもう欲しいものがない」「もう成長しない日本」と断じ、右肩下がりのニッポンで、いかに日常を楽しく過ごすかの手立てとして「時間ループ」を消費しちゃうのも勿体ない。どこか傍観者のように虚無的な姿勢は、しらけ世代の三無主義そのもの。これまでのヲタ経験で思春期を上書いているようで、嬉し恥ずかし似たもの同士。

 物語は、問題を明確化し、論点を見える化してくれる。「時間ループ」はもっと広く深く使えるツールとして遊べる。半分賛同、半分は強力なヒントをもらえる一冊。

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コメント

 ちょうど植島啓司『生きるチカラ』を読んでいて、ケン・グリムウッド『リプレイ』を俎にのせてこのテーマを扱っていました。
物語論がいつのまにか人生論にというのは常道である気がしますが、この本ならさしづめ「一回きりである人生」から「ループの物語」を見るといったところでしょうか。

投稿: sarumino | 2013.01.21 23:56

>>saruminoさん

コメントありがとうございます、そういえば『リプレイ』も分析されていました。ループ成長譚に特有の、「(人生をやってみた自分の)失敗から学ぶ」という姿勢は、そのまま「(読書を通じ他人の)失敗から学ぶ」に通じるところがあります。伝記や小説は、人生を一回しか生きられないわたしにとっての小ループとなっています。


投稿: Dain | 2013.01.25 01:00

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