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いい本に出会えるカフェバー「Brooklyn Parlor」

 新宿三丁目のブルックリンパーラーに行ってきた。

 最大の誤算は、あそこを「本屋」だと思い込んでいたこと。いきなりエスコートされたので、自動的にビール(大)を注文してしまう。以降、ほろ酔い気分でまったり読んだり眺めたり。カイシャ休んで平日の午後に「ニッポンのサラリーマン、乙であります」と嘯きながらダラダラする場所としては、東京イチだという結論に至った。

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 ここが嬉しいのは、置いてある本や写真集を手に取れること。どれだけ読んでも、いつまで見ててもOKで、気に入ったら買えばいい、というスタンス。グラフ誌を中心に雑誌の最新号がごっそりあるので、ここに座れば好きなだけ読める。もちろん図書館で同じことが可能だが、だらだらビールを飲んだりキッシュを喰らいながらできるから、B&Pの大勝利といえよう。

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 売り物を自由に読ませるの? 汚れたり濡れたりしたらどうすんの!? というツッコミはもっともだ、わたしもそう思ったから。だが、よくよく見てみると、同じ雑誌が、見せ本はコーティング、売り本はラッピングしてある。さりげなくて頭イイ。

 閉口するところもある。ここはカフェバーなのだ。だから騒がしいというか、やかましい。ゆっくり熟読する空間ではなく、ざわついた雰囲気でザッピングする場なのだ。下北沢のブック&ビアー(B&B)が、本屋にカフェが合体したのとは逆で、カフェに本屋が合体したのがブルックリンパーラー(B&P)といっていい。

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 「人生における無駄で優雅なもの、ぜんぶ。」という惹句に偽りなし。ぜんぶかどうかは追々分かるとして、心沸き立つ本がいっぱい。選者は幅允孝、“ふつうの・まっとうな”本を組み合わせて、いっぷう変わった棚にする手腕はさすが。この取り合わせの妙、どう回転していくかが楽しみだ。

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台風の科学

 ニューヨークに致命傷を与えたのは満潮だった。ハリケーン「サンディ」と満潮が重なったため、いわゆる高潮によりニューヨークに潮がなだれこんだのだ(NHK NEWS WEB[ぜい弱さを露呈 米のハリケーン被害])。

台風の科学 テレビ映えのする強風や豪雨が着目されるが、本書では高潮災害の恐ろしさを強調している。過去100年間の台風被害の最大のものは、1959年の伊勢湾台風における高潮によるものだ。過去10年間を見ても、2005年ハリケーン・カトリーナの死者1200名、2007年のサイクロン・シドルの死者4000名、2008年のサイクロン・ナルギスの10万人を超える死者は、すべて高潮によるものだ。

 本書は、高潮発生のメカニズムをこう解説する。

  1. 地上気圧の低下による海水の吸い上げ
  2. 強風による沿岸への海水の吹き寄せ
  3. 波浪による水位の上昇
 1ヘクトパスカル(hPa)の地上気圧の低下が、約1cmの水位上昇を引き起こす。地上気圧を1010hPaとすれば、中心気圧950hPaの台風がきたとき、吸い上げ効果で水位は最大60cm上昇する。

 これに加え、風が海面をこする摩擦力(風速の2乗に比例)が働くことで、海水が海岸へ押しつけられる(吹き寄せ効果)。南岸から台風が接近している場合、台風の東側では陸向きの南よりの風が吹くため、水位上昇が大きい。つまり、南に向けて遠浅である、伊勢湾、瀬戸内海、有明海では、吹き寄せ効果が特段に大きい。

 さらに、沿岸部に次々と押し寄せる高波が砕けて堆積することにより、水位上昇は波高の1.5割の水位上昇が見積もられている。

 本書を読むまで高潮の恐ろしさはピンとこなかった。これは、単に上昇した潮位と風雨による水害ではない。文字通り、台風が海を連れてくるのだ。

 ネットのおかげで、ほぼリアルタイムに台風情報を入手できる。現在位置と大きさと方向、予想図までタップ一発で分かる。

 しかし、台風のメカニズムそのものについては、わたしは無知だった。「なぜ」とか「どのように」といった疑問には答えられない。かつて、子どもの質問『時計の反対方向に風が吹くというけど、衛星写真は逆になっているのはなぜ?』に愕然としたことがある───実は本書には、その答えがある。

 風の吹く方向が下部と上部で逆になるのは、絶対角運動量の保存則で説明がつくというのだが、わたしの頭では追いつけなかった。【11/18追記:コメント欄で解説していただきました、ありがとうございます。参考図は以下の通り】

吸い込み(地表面での風の方向)
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吐き出し(台風の上部面での風の方向)
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 イロハから最新の研究成果までをびっしり詰め込んでいるため、「コリオリ力」あたりで呑んでかかっているうちに、「ベータ効果」「絶対渦度の保存則」「アンサンブル予想」「トロコダイル運動」「鉛直シアー」「バリアー効果」といった専門用語の容赦ない絨毯爆撃を受けることになる。

 さらりと解説はしてくれているものの、さすがはブルーバックス、かなりレベルが高いところまで連れて行かれる。流体力学、波動力学、熱力学、天体力学の様々な切口から解析し説明してくれる。力学の素養がある人は激しくうなずきながら読めるだろう。

 一年に平均26個発生し、11個が日本に接近し、3個が上陸する。たった1個で日本の年間発電量に匹敵するエネルギーを生み出す。この巨大な気象現象の脅威のメカニズムを解き明かし、最新の予報研究から地球温暖化の影響まで噛み砕く。

 ただし、「しくみ」寄りのため、対策の記述が薄め。特に高潮災害について、どのような打ち手があり、どこまで準備されているかは、別にあたろう。寺田寅彦によると、大災害を目の当たりにした世代がリタイアする頃(半世紀くらい)を見計らったかのように再発するという。忘れたころにやってくるのなら、そろそろだ。そのときになって、後づけで「カトリーナ、サンディの教訓を学ばなかった」と叩く前に、マスコミ諸氏は今、鳴らすべきじゃないんかね、木鐸とやらを(今なら来年度予算に間に合うし)。

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歯を食いしばって読む『凍』

凍 一気に読んで気がついた、口の中は血の味がした。

 中盤はクライミングの緊張感のあまり、後半は手術シーンの痛みのあまり、全身に力を込めた読書になった。日本を代表するクライマー、山野井泰史の話だ。頂上を目指す彼の“欲望”に直接触れる件では、持つ手が震えた。ギャチュン・カン北壁の凍りつく寒さだからではない、武者震いだ。著者は、タイトル『凍』をトウと読めば『闘』になると言う。なるほど、これは、闘いだ。

 クライミングがスポーツなら、他と決定的に異なるところがあるという。それは、「最も素晴らしい核心部を見せることができない」になる。確かにそうだ、登攀の写真や日記などで伝え聞くばかりだから。新田次郎の山岳モノでは、演出された瞬間を見ることはできるが、一種の伝説を読んでいるような気になる。

 だが、沢木耕太郎は成功している。腐りやすい形容詞を削ぎ落とし、徹底的に絞ったルポルタージュに仕上げている。これっぽっちもドラマティックに書いていないくせに、クライマーとともに緊張感が1ミリずつ上昇するのが分かるし、恐怖心を利用し、ねじふせるしたたかさも一緒に味わうことができる。雪崩の巣の中、つるつるの一枚岩を騙し騙し登るところは、爪先に力が入るだろう。

 しかし、絶望的な状況に圧倒されたとき、わたしはパニックになった。標高差二千メートルの壁に宙吊りになっているのではなく、満員電車の中なのに、思わず叫びそうになった。馬鹿馬鹿しいかもしれないが、それほどシンクロしていた。

 彼を衝き動かす根源にある、欲望に近いものに触れる。失うものが大きくても、やめようと惑っても、最後にはそこに戻ってくる。わたしにとって、クライミングの経験はないが、このせっぱつまったヒリヒリする裸の感覚は、非常に危険だ。なぜなら、日々のルーティンに爛れたわたしに、触媒の役割を果たすから。昨日と一緒の今日と一緒の明日で、消化試合をこなすような人生に、沢木耕太郎は「背中」を押してくれる。『深夜特急』のようにふっと行けてしまいそうな一冊。

 こんなスゴ本が数百円で手に入る、この事実こそが凄いのかもしれぬ。

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お弁当なのに暖かい「おべんとうの時間」

おべんとうの時間 おべんとうを通じて、その人をうかがい知る。

 おべんとうと、その持ち主(食べる人)をひたすら撮ってインタビューしたもの。海女さん、駅長さん、高校生、おばあちゃん、幼稚園生、教授、麺職人、営業マン―――市井の、ごくフツーの人たちの平々凡々な人生が語られるかとおもいきや……良い意味で裏切られる。

 おべんとうに込められたメッセージや、そこに至る思い出や絆がこみあげてくる。おべんとうを通じて、その人の人生や人となりをうかがい知る。そのおべんとうにまつわるエピソードや、子どもの頃の美味しい思い出に、その人の温かみが伝わってきて、うっかりするとハートを持っていかれる。ちょっとヨレってしんどいとき、手にするといい。

 丸、四角、タッパーから竹の皮まで、弁当箱はバラエティさまざま。添えられたお箸も気になる。ご飯・おかずから、その人のご家庭の雰囲気や、(見えない)作り手の考え方まで伝わってくる。食べる人の年齢や仕事を思いやっていることが伝わってくる。

弁当ってふたりで食べるものだと思うんです。作る人と作ってもらう人のふたり。作ってもらう人の気持ちは伝わるから、ありがたいなぁって思います。そしたら、何も言えないです。
 すこし照れて、「ひとさまに見せるような弁当じゃないの」とか、「冷蔵庫のありあわせを詰めてきたんだから」と言いながら、食べてる姿はどれも最大の笑顔だ。そういや、わたしがおべんとうを作ってもらっていたときは、わたしもこんな顔していたのだろうか。

 おべんとうの数だけ、物語がある。おべんとうなのに、あたたかさが伝わる一冊。本書は「スゴ本オフ@チェックでピクニック」で知った。gommさん、ありがとうございます。

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