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おいしさを、おすそわけ『私の好きな料理の本』

私の好きな料理の本 珍しいレシピ本の書評集。

 評するというよりも、料理の本をダシにして、おいしい感情を共有するエッセイだね。著者は食のスタイリスト、料理本を製作するいっぽうで、古今東西のレシピ本を読み漁り、作り、食べて、紹介する。

 ロングセラーから隠れた名著まで発掘してくる。それぞれの本から定番のレシピを紹介し、再現してくれる。ちょい昔がターゲットなので知らないものばかり。「こんな本があったのか」と驚くようなテーマがざくざく。

 たとえば、一冊まるごと『オムレツの本』。フランスからの翻訳もので、昭和45年に出ている。プレーンだけで、「プレーン・オムレット」「ムースリーヌ・オムレット」「ジャーマン・オムレット」「イタリアン・フリッタータ」「オムレット・フォンダント」「オムレットスーフレ」と6種類ある。これに野菜、きのこ、肉、魚介を組み合わせ、しめて300種類が紹介されているそうな。

 あるいは、講談社が昭和54年に出した『大きなトマト 小さな国境』。なんとカゴメ株式会社企画編集だ。おっさん二人がトマト料理を探して、ギリシャ、イタリア、スペインなどを訪ね歩く旅行記の体裁をとったレシピ集だ。(仕事とはいえ)こんな企画で旅ができたり本になったりする、一種のゆとりを垣間見る。「イタリアではトマトって、日本の醤油みたいなもの」は、けだし名言なり。

 72冊の料理の本を通じて見えてくるのは、「料理は人」ということ。どんな食材を、どう調理するのかという過程を通じて、そしてできあがった料理そのものによって、その人となりが出てくる。同時に、時代性や地域性が現れる。もちろん料理は文化だから当然なのだが、それぞれの時代の旬のようなものが透け見える。

 たとえば、江戸の料理本は、完全にプロ指向だ(本に金を出す人がプロだからね)。戦後は「豊かさを求める」がキーワードだし、カニ缶が高級だった頃は缶詰の本なんてある。もちろん今でも高価なカニ缶はあるが、冷蔵庫が普及して、クール宅急便が配達してくれて、「カニ風味」な何かがコンビニで売っているのも、今なのだ。

 では、今の旬は何か?ずばり写真だ。イマドキの料理本は写真集みたいだ。デジカメが普及してブログやSNSで発信する人がこれだけ増えている今、作り手と撮り手と書き手が近似化・同一人物化している。おかげでプロの料理のスナップが即座にupされるし、アマチュアの料理日記が書籍化されるようになっている。

 著者はこの傾向に異を唱える。もちろん、料理本は読者をして「作りたい」気分にさせるのが大事。だが、その役目を写真にばかり負わせすぎだという。要するに、作り手の想像力(≒創造力)をかき立てる構成にすべきなんだと。鮮やかな写真ばかり並べた料理本のカウンターとして、「モノクロ写真の料理本を作りたい」とまで述べる。

 そんな著者が挙げなかった、以下の二冊をオススメしよう。どちらも読んで楽しく、作って美味しい、かつ、写真なんて一枚もない、立派な料理の本なり。

きのう何食べた よしながふみ『きのう何食べた?』は、都内某所2LDKに男二人暮らしで住む、食ライフをめぐる物語。ちなみに1ヵ月の食費は2万5千円也。作る楽しさだけでなく、誰かに食べてもらって「おいしい」という言葉を貰う喜びがダイレクトに伝わってくる。「料理には性格が出る」ことを教えてもらった作品なり(あと「料理には愛情が出る」こともね)。急いで付け加えなければならないのが、「だからといって味は別問題」ということ。

檀流クッキング 檀一雄『檀流クッキング』は、安くて野蛮でやたら旨いレシピ集。簡潔かつポイントを突いた、料理の勘所が並んでいる。しかも、完全分量度外視の原則を貫き、アミノ酸至上主義をせせら笑うレパートリー。塩の量がいかほどと訊かれたって、答えようがない、君の好きなように投げ込みたまえ、と言い切る態度は、いっそすがすがしい。ヘタの横好きのわたしでも分かる、料理で一番大切なのは「下ごしらえ」なことを。

 ちなみにわが家では、小林カツ代が定番になっている。何年かしたら、彼女の『クッキング・ベスト・ヘルプ』も懐かしの味になるのだろうか。

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