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この「旅」の本がスゴい

 オススメ本を持ち寄って、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。

 今回のテーマは「旅」、様々な解釈ができるので面白い。地理的な移動をまとめた紀行文から選んでもいいし空想の旅もあり、「○○の旅」とタイトルから攻めても出てくる出てくる。まずは見てくれ、この旅本の収穫。

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    鉄道
  • 「旅マン」ほりのぶゆき(小学館)
  • 「トラベル」横山裕一(Cue comics)

    チャリ・バイク・クルマ
  • 「モーターサイクルダイヤリーズ」チェ・ゲバラ(角川文庫)
  • 「がむしゃら1500キローわが青春の門出」浮谷東次郎(ちくま文庫)
  • 「ああ、人生グランド・ツーリング」徳大寺有恒(NAVI BOOKS)
  • 「スズキさんの休息と遍歴またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行」矢作俊彦
  • 「行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅」石田ゆうすけ(幻冬舎文庫)

    船旅
  • 「星の航海師 ナイノア・トンプソンの肖像」星川淳(幻冬舎)
  • 「KAZI」[ヨット専門雑誌]
  • 「十五少年漂流記」ジュール・ヴェルヌ(新潮文庫)
  • 「注文の多い地中海グルメ・クルージング」デイヴィッド・シャレック(早川書房)

    徒歩
  • 「夜のピクニック」恩田陸(新潮文庫)
  • 「西遊記」呉承恩(岩波少年文庫)


  • 「ドン・キホーテ」セルバンテス(岩波ジュニア文庫)

    ガチョウ
  • 「ニルスのふしぎな旅」セルマ・ラーゲルレーヴ(福音館)

    伝説の旅
  • 「オデュッセイア」ホメロス(岩波文庫)
  • 「シュナの旅」宮崎駿(アニメージュ文庫)
  • 「ベルカ、吠えないのか」古川日出夫(文春文庫)
  • 「謎の拳法を求めて」松田隆智(東京新聞出版局)

    旅行ガイド
  • 「プロヴァンス南フランス」(ミシュラン・グリーンガイド)
  • 「A Guide to the Eateries of Venice」Michela Scibilia
  • 「世界の危険・紛争地帯体験ガイド」ロバート・ヤング・ペルトン(講談社SOPHIA BOOKS)
  • 「pen 2010/2/15 No.261 「旅の達人に聞いた世界でいちばん好きな場所」
  • 「FIGARO japon 2011/11 No.425 「ミラノ・ローマ・フィレンツェ最新案内」

    旅行エッセイ
  • 「パタゴニア-あるいは風とタンポポの物語り」椎名誠(集英社文庫)
  • 「ヨーロッパものしり紀行」紅山雪夫
  • 「巴里ノート―「今」のパリをみつめつづけて」村上香住子(文藝春秋)
  • 「ああ言えばこう行く」阿川佐和子(集英社文庫)
  • 「パリ・旅の雑学ノート」玉村豊男(新潮文庫)
  • 「小心者の海外一人旅~僕のヨーロッパ放浪日記」越智幸生(PHP文庫)
  • 「旅のスケッチ」大塚まさじ(ビレッジプレス)
  • 「旅行者の朝食」米原万里(文春文庫)
  • 「謝謝!チャイニーズ」星野博美(文春文庫)
  • 「河童が覗いたヨーロッパ」妹尾河童(新潮文庫)

    旅のお供に
  • 「プチ哲学」佐藤雅彦(中公文庫)
  • 「前世への冒険」森下典子(知恵の森文庫)(新潮文庫)
  • 「東方見便録」斉藤政喜・内澤旬子(文春文庫)
  • 「食べるのが好き 飲むのも好き 料理は嫌い」内館牧子(講談社文庫)
  • 「辺境・近境」村上春樹(新潮文庫)
  • 「忘れられた日本人」宮本常一(岩波文庫)
  • 「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ(河出文庫)

    旅をテーマにした物語
  • 「マイケル・K」J.M.クッツェー(ちくま文庫)
  • 「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ(ハヤカワepi文庫)
  • 「永遠の旅行者」橘玲(幻冬舎文庫)
  • 「遙かなる水の音」村山由佳(集英社)
  • 「アルケミスト」パウロ コエーリョ(角川文庫)
  • 「茶色の服の男」アガサ・クリスティー
  • 「ハチミツとクローバー(6、7巻)」羽海野チカ(クイーンズコミックス)
  • 「空海の風景」司馬遼太郎

    変わった旅
  • 「オーパ」開高健(集英社)
  • 「世界屠畜紀行」内澤旬子(角川文庫)
  • 「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン(みすず書房)
  • 「日本はじっこ自滅旅」鴨志田穣(講談社文庫)
  • 「札幌刑務所4泊5日」東直巳(光文社文庫)
  • 「もの食う人々」辺見庸(角川文庫)
  • 「ゲニウス・ロキ」クリスチャン・ノルベルグ=シュルツ(住まいの図書館出版局)

    時間旅行
  • 「江戸アルキ帖」杉浦日向子(新潮文庫)

    「旅」というメタファー
  • 「異界を旅する能」安田登(ちくま文庫)
  • 「人生の100のリスト」ロバート・ハリス(講談社プラスアルファ文庫)
  • 「インターネットのカタチ」あきみち(オーム社)

    サイエンス
  • 「小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた」川口 淳一郎(中公新書)

    DVD・ゲーム
  • 「サンジャックへの道」[DVD](ハピネット)
  • 「U2 魂の叫び」[DVD](パラマウント)
  • 「サイドウェイ」[DVD](20世紀フォックス)
  • 「TV見仏記7」みうらじゅん・いとうせいこう[DVD]
  • 「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」アトラス(Nintendo-DS)

 わたしの場合、「旅」とはすなわち冒険旅行、ラインナップも「ソッチ」系になるが、皆さんの発想はもっと柔らかく奥深く、なるほどと唸らされるものから天啓の閃きをかいま見るものまで大漁なり。

夜のピクニック まず、驚いてから納得したのが、恩田陸「夜のピクニック」(略して"夜ピク")。やすゆきさん曰く「恩田陸の最高の青春物語」、なるほど確かに。徒歩とはいえ、これは「旅」だ。夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の大イベント「歩行祭」───あの一夜に起きた、紛れもない、青春の軌跡ならぬ奇蹟は、甘苦くて、ほろしょっぱい気持ちをかき立てる。

人生の100のリスト 納得したあと唸らされのは、Satoshiオススメの、ロバート・ハリス「人生の100のリスト」[本人のレビュー]。「人生は旅だ」とメタに言い切るならば、そこから様々な発想が生まれてくる。辛く苦しいjourneyであれ、誰かと一緒のtourであれ、その旅をいかに楽しく過ごすかは、自分に懸かっている。「アマゾン川をイカダで下る」「ヌードモデルになる」といった勇気と刺激を受けるものから、「黒帯をとる」「自分のサロンを作る」など、やってみるかという気になるものまで。殺し文句は「人生は自分でいくらでも面白くできる」だ。確かにそう、人生はそう。反射的に「死ぬまでにしたい10のこと」を思い出すが、これは期限付きだから"10"なんだな。

人生の100のリスト 変化球ながらスゴく惹かれたのが、横山 裕一「トラベル」。amazon評に「人間離れしたコミック」とあるが、言い得て妙、まさにそれ。一冊丸ごと使って、列車に乗って降りるだけをひたすら描き続ける。定規とコンパスだけで構成された世界は、あるときは俯瞰あるときは接写またあるときは主観とめまぐるしい。カメラの引き・寄せが唐突かつ極端なので、読んでいる目がチカチカしてきて、かつ三半規管がふらつきだす。これは列車旅行を描きながら、読み手の目と脳をトリップさせるのか!? 紀伊國屋書店の中の人のオススメなのだが、さすがというか何というか、妙な本を魅力的に紹介してくれて嬉しい。「餅は餅屋、本は本屋」だね。

十五少年漂流記 見慣れたものに、まるで違う「眼」をもたらされたのは、ヴェルヌ「十五少年漂流記」。定番かつ鉄板なのに、これを「ボーイズラブとして読む」と、全く新しい世界に出会える。考えてもみ、兄弟愛も、兄の友人に嫉妬する弟も、ライバル役も、トリックスターも、ぜんぶ萌えられる。全ての言動がソッチの眼で解釈しなおせる―――東京タワーとエッフェル塔でタチ・ネコできる腐女子がいるのは知っていたが…すげぇ。そういう眼からすると、十五少年漂流記はスキがありまくりだろうなぁ。ボーイズラブとして再読したくなった>十五少年漂流記と蝿の王

 BEAMS LIGHTSさんとのコラボレーションも面白かった。「旅」をテーマとしたウェアやグッズを次々と紹介してくれたのだが、これがまた物欲を刺激する刺激する。濃くて鮮やかな男物ジャケット。ぱっと見たら綿だけど、実はナイロン100%。くるりと丸めて持ち歩け、iPodを収納するポケットが複数あるのがイイ。通気性+撥水性を実現したシャツや、メモリーレザーという特殊素材を使った、ポケッタブル・トレンチコートは普段使いに欲しい。展示即売会だったら即買ってただろうなぁ…

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 いい台詞にも沢山出会えた。こんな片言隻句が次の出会いを導くんだろうなぁ、と思える箴言。ふじわらさんのTipsで、海外旅行にて「お店で買い物したとき、お店の人に『近所で美味しいお店ある?』と訊く」は、ぜったい外さないらしい。「謝々チャイニーズ」にある「地球の歩き方なんてなくて、自分の歩き方があるだけだ」なんて、うんうんと頷くこと幾度もだし、「人生は自分でいくらでも面白くできる」(via:「人生の100のリスト」)は床の間レベルの名言やね。

 さて、こっからがわたしのオススメになる。時間の都合上、プレゼンできなかったのも全部ひっくるめて、「この旅の本がスゴい」をまとめてみよう。

深夜特急1 パッと出てくる鉄板は沢木耕太郎「深夜特急」。デリーからロンドンまで、ひたすら陸路の独り旅。「バスを乗り継いでたどり着けるか」という友人との冗談から始まった"賭け"に本気になって、職も生活も放りだす旅は、無数の追随者を招き、一種の伝説となっている。ウキウキ感覚は松尾芭蕉の「おくのほそ道」の出だしと一緒、ノリノリ感覚は米米クラブの「浪漫飛行」(JALのCFバージョン)と一緒。最初の1~2巻は、若い頃に読むと感染する、危険な二冊。

何でも見てやろう 一緒に出てくるのは小田実「何でも見てやろう」。面白おかしさと体当たり度合いはこっちが上かな。まだ固定為替レートの時代(ドル360円だよ!)、先進国の病根から途上国の貧困まで「何でも見てやろう」と渡り歩く、バックパッカーの元祖のような紀行文。帰国後の活動への批判は多々あれど、この本そのものに教わることが沢山あったなぁ。「ユースホステル」なる存在は本書で知ったし、一つの職や組織に留まらない生き方が"普通"であることを教えてくれたのもこの本。

シャンタラム1 バックパッカーのバイブルともいえるのが、グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ「シャンタラム」。実体験をベースにしたフィクションなのだが、これは別の意味で危険。なぜなら、読み出したら止まらなくなる徹夜小説だから。オーストラリアの刑務所から脱獄して、ボンベイに逃亡した男が主人公だ。スラム街、刑務所、そして敵地―――彼の行く先々が冒険の旅であり思索の旅となる。これは「憎しみと赦しの物語」ともいえる。憎悪と恥辱にまみれ、痛めつけられ、翻弄された後、憎しみと赦しのどちらを選ぶのか。「これより面白いのがあったら、逆に教えてくれ」という鉄板なので、明日の予定がない夜にどうぞ。

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モーターサイクルダイヤリーズ 若者の貧乏旅行ときたら、「モーターサイクルダイヤリーズ」が熱い。あのチェ・ゲバラの旅日記だという時点で必読。バイクというより鉄馬、しかも満身創痍の鉄騎をなだめてすかして修理しながらの旅だ(それも前半だけ、後半は徒歩とヒッチハイクで南米を北上する)。決して愉快な出来事ばかりでなく、貧困と搾取の現場を目にする。働けなくなった家族に向けるまなざしに、「まるでその人の面倒を見なければならない者たちに対する侮辱」であるかのような色を見つけたり、「共産主義」が一種の宗教のような熱狂をもって受け入れられていることを喝破する。胸熱になりながら読むべし。これ、スゴ本オフでは3冊+DVDが被ったんだけど、さもありなん。名著かつ思い入れたっぷりの一冊だからね。

キノの旅 バイク旅行なら「キノの旅」だな。各話はとても短く、一話に一つ寓意が込められている。読みきり寓話のショートショートといえば星新一だし、旅先でイベントを転がすのは銀河鉄道999あたりを彷彿とさせるが、上手にラノベのフォーマットに包んでおり食べやすい。「キノ」が走る路は、レトロな雰囲気漂う懐かしい世界なのよ、んでもって、かかわる人々は「どっかで聞いたことがある世界」の典型なんだ。さらにもって、「キノと世界とのかかわり方」が、その国で巻き込まれる事件を通じて、少しずつ明かされるようになっている。軽く読んで深く考えてしまう。

ゴーストタウン もっと重いバイクなら、「ゴーストタウン チェルノブイリを走る」になる。バイクは重量級で、テーマはもっと重い。彼女の名はエレナ、バイク乗りだ。カワサキのニンジャを駆ってあの土地を旅する。豊富な写真と淡々とした体言止めコメントが印象的だ。驚くほど自然に還っている建造物や、誰もいない世界は、人類史後を眺めているようだ。ある特定の廃屋や廃ビルの「写真集」ではない。バイクに乗って延々と走っても走っても、遺棄された光景が続く。あまりにも危険なので地図からも抹消されている。「場所」が丸ごと捨てられているのだ。それでも、人がいる。興味本位の「観光客」ではなく、わが家に戻って自活している人々だ。石棺の50キロ南に住む老人がいる。一時は移住を余儀なくされたものの、見知らぬ土地で死ぬよりも、自分の家で死にたいという。自分の畑の野菜を食べ、飼っている牛のミルクを飲んで生きている400人のうちの1人になる―――今ではもっと減っているらしい。

ザ・ロード 「旅」が一種の贖罪となっているのは、コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」だ。ピューリッツァー賞を受賞した傑作だ。カタストロフ後の世界を旅する、父と子の物語。劫掠と喰人が日常化した生き残りを避けて、南へ南へ――食べ物を求めて? 食べられないように? 残った弾丸の数を数えながら、こんな地獄ならいっそ―― わたしと同じことを、この「父」も考える。終末世界で「人」として生きるのは、かなり難しい。地の文から句読点を外し、会話をくくるかっこ「 」を廃した、全編独白のような文体は、慣れるのに苦労するかも。その代わり、どこに注目すべきか、無駄も隙も否応もなく入ってくる。

ザ・ロード 同じ"路上"でも、ケルアックの「オン・ザ・ロード」はもっと軽い。アメリア合衆国を横に3回縦に1回移動する(しつづける)話。いいね、いいね!ハートに「また」火がついてしまう。尻が浮く感覚(?)とでも言えばいいのだろうか。パックされていない、開いた旅をする人のココロをガッチリとつかんで放さない。「ガクセーの頃これ読んじゃったので、合衆国を走ってきた」という知人がいるが、読むと納得できる。こういう旅、というか動く感覚が分からない人にとっては、ただの自意識タレ流し旅行顛末記でしかなく、「結局どうなるの?」なんてマヌケな自問を繰り返すことになる。行き先が目的なのではなく、行き先へ向かって移動しつづけることが「旅」なんだ。

オデュッセイア 伝説の冒険旅行ともいえるし、究極の物語りでもあるのは、ホメロス「オデュッセイア」。英雄オデュッセウスの冒険譚で、ご存知の方も多いかと。一つ目の巨人キュクロプス(サイクロプス)や、妖しい声で惑わすセイレーンといえば、ピンとくるだろう。トロイア戦争に出征し、活躍をしたのはいいのだが、帰還途中に部下を失い、船を失い、ただ一人で地中海世界を放浪し、十年かけて帰ってくる。勇猛果敢で知恵と弁舌がはたらく策士でもある。おまけに運と戦いの女神まで憑いているのだ。化物退治の奇譚集として読んでもいいし、キルケーに豚されるあたりで「千と千尋」、ラストの無双バトルに「ランボー」の元ネタを汲んでもいい。

ソングライン 旅の名著といえば、ブルース・チャトウィン「ソングライン」。ソングラインとは、アボリジニの天地創造の神話をうたったもの。ただし、物語に限らず、地誌も織り交ざっているところがミソ。オーストラリア全土を楽譜と見なし、そこに広がるあらゆるもの――鳥や、獣や、植物や、岩や、泉――の名前と、織り込まれたストーリーを高らかにうたいあげることで、先祖が創造した世界を「再創造」していく。

 旅行記というものは、行った先で会った人や出来事をつづったもの――という先入観で読むとヤられる。もちろん実際にあったことも書いているだろうが、都合よく人物や会話を創造しているところもあるのだ。実話とおぼしき追想と、話を面白くするために創造された人物・会話が折り重なるようにしており、現実と虚構の区別はつかない。

 わたしはこう思う、チャトウィンは、「生きるとは、移動すること」を証明したかったのではないか。アボリジニの"放浪の旅"(walkabout)、自らの軌跡、出合った人たちの半生、土地の記憶、定住と放浪、ソングラインと巡礼、砂漠、遊牧、歌、神話と英雄――ゆるやかな起伏をなす思考をたどっていくと、生きるとは旅そのものだ、という普遍性が見えてくる。人は何も持たずに生まれ、動きつづける。止まるときは死ぬときで、これまた何も持たずに死んでいく。あるがままの世界をあるがままに保持することを至上としたアボリジニの思考は、彼の中で結晶化している。あるいはもっと簡便に言うなら、インドのこのことわざになるだろう。

   人生は橋である。
   それは渡るものであって、家を建てるところではない。

コンゴ・ジャーニー とてつもない旅行なら、レドモンド・オハンロン「コンゴ・ジャーニー」を推す。あまりの破天荒さに、最初は小説だと思ってたが、これが正真正銘ノンフィクションだと知ってのけぞった。

 だいたい、赤道直下のコンゴ奥地に恐竜の生き残りを探しにいくなんてどうかしてる。しかも、そのために全財産を投げ打って追っかけるなんて、オツムがあったかいとしか言いようのない。蚊、ノミ、ダニ、シラミ、ナンキンムシ、アブ、ブユ、ツェツェバエ――血と汗を吸い、皮膚の下にタマゴを生みつけようとするやつら。爪の間や性器に入り込もうとする線虫・回虫・寄生虫もあなどれない。そしてゴキブリ!ベッドマットを持ち上げたらゴキブリがざーっとあふれ出る場面は全身トリハダ立ちまくり。

 マラリア、眠り病、梅毒、イチゴ腫、エイズ、エボラ出血熱、コレラ―― 描写のいちいちが克明で、読んでるこっちが痒くなる。風土病や感染症だけではない、人を襲うヒョウやワニ、ニシキヘビといった猛獣について、いちいち挿話とウンチクを並べ立てる。その恐怖におののきながら、いそいそと出かけるところは笑うところなのか?

 その一方で、めずらしい鳥の姿を目にして乱舞したり、ゴリラのあかちゃんを糞尿まみで世話したり、さらには幻の怪獣、モケレ・ムベンベを必死になって捜し求める姿は、これっぽっちも滑稽ではない。読者はそこに、正真正銘の「愛」と「狂気」の目を見るだろう。後半、「旅行記」のタガが外れ壊れ始める著者が怖い。この地に白人が長いこといると、おかしくなるらしい。イカレたイカした冒険旅行、雨の日の午後にどうぞ。

チベット旅行記(上) とんでもない旅行なら、三蔵法師を実践した河口慧海「チベット旅行記」もスゴい。鎖国中のチベットに単独で入国した最初の日本人だそうな。ロクな装備もないのに、氷がゴロゴロする河を泳ぎ、ヒマラヤ超えをする様子は、「旅行記」ではなく「冒険記」だな。この坊さん、どうしてチベットまで行かなければならなかったのか? 慧海が25歳のとき、漢訳の一切経を読んでいて、ある疑問につきあたったという。漢訳の経典を日本語に翻訳したところで、はたして正しいものであるのか? サンスクリットの原典は一つなのに、漢訳の経文は幾つもある。同じ訳もあれば、異なる意味に訳されているものもある。酷いのになると、まったく逆の意義になっている。翻訳をくりかえすうちに、本来の意義から隔たってしまっているのではないか? それなら原典にあたろうというわけ。

 動機は分かるが、実行力がスゴい。住職を投げ打ち、資金をつくり、チベット語を学び始める。周囲はキチガイ扱いするが、本人はいたって真剣。しかも、普通に行ったら泥棒や強盗に遭うだろうから、乞食をしていくという。最初は唖然とし、次に憤然としているうちに、だんだんと慧海そのひとに引き込まれる。ヒマラヤの雪山でただ一人、「午後は食事をしない」戒律を守る。阿呆か、遭難しかかってるんだって!吹雪のまま夜を迎え、仕方がないから雪中座禅を組む。死ぬよ!ハラハラドキドキするのは読者で、著者は恬淡としている。腹をくくった人の、器の大きさをしみじみ実感する旅行記なり。

 旅をテーマに、一冊だけ選べと言われたら、開高健「オーパ!」になる。マイベスト旅本だね。殺し屋ピラーニヤ、黄金魚ドラド、巨魚ピラルクーなど、珍、怪、奇、美を求めて褐色の甘い海アマゾンに挑んだ60日と16000キロの写真集+紀行文。釣師であり食通であり文豪である著者が、自らを俎上に載せてルポルタージュする手腕はさすがだし、高橋昇カメラマンの決定的瞬間が並んでいるのは見ているだけれ連れて行かれる。率直で、露骨で、一切のモヤモヤの偽善が揮発した場所、ブラジルが触れるように嗅げるように感じられる。書影は文庫版だが、ぜひ大判で眺めてほしい(絶版だがそれほど高価になってないはず…まだ)。

オーパ

 他にも、「人生は旅」「意識の変遷こそ旅」「時間旅行」という観点で攻めると、いくらでも旅本が出てくる。スウィフト「ガリヴァ旅行記」、きだみのる「気違い部落周遊紀行」、グウィン「ゲド戦記」、ナボコフ「ロリータ」、エリクソン「黒い時計の旅」、クラーク「2001年宇宙の旅」あたりを、「移動と意識の変化」に絡めて話したら、かなり楽しめるだろう。

 今回は「旅」がテーマとあって、静岡や山梨、遠くは北海道から参加された方もいらした。常連さん・ご新規さん、楽しんでいただけたら嬉しい。twitterまとめは、「あらゆる世界を旅する本を集めた「旅」のスゴ本オフまとめ。」をどうぞ(ずばぴたさん、ありがとうございます)。参加された方の感想は、「旅のスゴ本オフにいってきた」をどうぞ。参加いただいた皆さま、ご協力いただいた方々、会場をお貸しいただいたKDDIウェブコミュニケーションズさま、コラボいただいたBEAMS LIGHTSさま、Expediaさま、ありがとうございます。

 日付の決まっている今後の予定は以下の通り。更新遅めのこのブログより、facebookのスゴ本オフをチェックするほうが早いよ。

 6/23 テーマ「カドカワ」[申込は締切りました]
 8/4  テーマ「ホラー」(二部構成。片方だけでも、両方参加もOK)
   13-15:00 第一部「子どもと一緒にコワい本」[申込]
   17-22:00 第二部「ガチ・ホラー」(オトナ・オンリー)[申込]

 特にホラー第二部は、大のオトナが泣いて怖がるやつを集めるつもり。恐怖のズンドコへ叩き落そうぞ。facebookのアカウント無いよ、という方は、twitterで@yasuyukimaさん宛てに@でお伝えくださいまし。

 おまけ。わたしがゲトした一冊とExpediaさんのトート。本を入れるのにもってこいなり。

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 おまけその2。はやしださんお土産のタイヤキ。うぐぅ美味すぎる(店の名前訊くの忘れてた!)。

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コメント

あれれ「黒檀」は?
以前このブログで、ルポルタージュの最高傑作とかイチ押しをしていたと思ったけど、撤回したのか?それともブログの書き手が別の人なのか?

投稿: | 2012.06.06 23:38

>>名無しさん@2012.06.06 23:38

おお、「黒檀」を旅本にするのもアリですね、ご指摘ありがとうございます。あれはアフリカという【ラベルを貼られることを拒絶する場所】を、点視点でつなぎながら炙り出そうとした傑作ですから。このエントリのリスティングの際、考えはしましたが、線・面ではなく点だったため、見送っています。

投稿: Dain | 2012.06.07 00:42

『ニルス』がアリだというのなら
『ラゴス』があってもいいじゃない……

投稿: | 2012.06.07 15:04

↑ 旅のラゴスに1票!

筒井康隆氏の幅の広さに驚かされます。
同氏の「愛のひだりがわ」もオススメです。

投稿: | 2012.06.07 21:06

↑ラゴス、読みます!(はてブでもオススメされてた…)。「愛のひだりがわ」も気になる…

投稿: Dain | 2012.06.08 06:40

たいやき屋の名前は「くりこ庵」と写真に映ってますね

投稿: shimpei | 2012.06.08 12:59

紹介されてたジャケットほしー!
商品名とか教えてもらえないですかね?

投稿: | 2012.06.08 15:32

>>shimpeiさん

な…ん…だと…!おお、確かに映ってる!ご指摘ありがとうございます。口溶けの良い絶品たい焼きなので、楽しみ~

http://www.kurikoan.com/index.html


>>名無しさん@2012.06.08 15:32

BEAMSの中の人に訊いてみますね、しばしお待ちくださいませ。

投稿: Dain | 2012.06.09 10:46

とても面白かった!
旅好きなので全部読みます(笑)

おすすめ旅本として1冊、
「みかん畑に帰りたかった」
を挙げときますね。

投稿: ishii | 2012.06.09 22:40

>>ishii さん

楽しんでいただけて、わたしも嬉しいです。オススメ「みかん畑」は手に取ってみますね。

投稿: Dain | 2012.06.10 09:26

コンゴジャーニーが面白かったら、高野秀行の「幻獣ムベンベを追え」も読んでみて下さい。ずっと絶版でしたが最近文庫化されたんで簡単に手に入るようになったです。つべに映像もhttp://www.youtube.com/watch?v=C_a0Ul_YoqE

投稿: 色河童 | 2012.06.10 11:44

>>色河童さん

オススメありがとうございます。どちらもムベンベを探すことが旅の目的でしたね。「幻獣ムベンベ」は以前オススメされて未読でしたので、これを機に再挑戦します。

投稿: Dain | 2012.06.11 08:22

ティム・オブライエンの「世界のすべての七月」なんていかがでしょう。

投稿: まち | 2012.06.14 12:59

間違いました(汗)
「カチアートを追跡して」でした・・・

投稿: まち | 2012.06.14 13:06

>>まちさん

「カチアート」懐かしい~そうです!これも「旅」の本ですね、しかも逃避行と追跡行。ヴェトナム戦争がらみで読み漁っていたときに出会いました。ガチ小説だと思って始めたら、だんだん現実離れしていく世界に戸惑ったものです。いまから思い返すと、ありゃカチアートの「主観」が投影されたものだったんですね…

投稿: Dain | 2012.06.15 00:13

そうそう!さすがダインさん!
「ちょっと待て、どこ連れてくの!?」感は、旅ですよね。
ドソノの「夜のみだらな鳥」やジョン・バースの「旅路の果て」、ユルスナール「黒の過程」なんかもそうですね~
何気に、ピンチョンの競売ナンバーとかも。

もう少し落ち着いたところで、デュ・モーリアの「モンテ・ヴェリタ」なんかも好きです。あと、マッカラーズの「心は孤独な狩人」も♪

「アデン、アラビア」や「闇の奥」がないのは寂しい感じでした・・・

投稿: まち | 2012.06.19 12:45

>>まちさん

おお~すごいラインナップ。虚実さまざま、確かにどれも「旅」ですね。
てか、インナーも含めると、小説はどれも旅の本になり得ます。あとは、共通項でくくるとか異なる切り口から旅を語るとかといった話ができそうですね。


投稿: Dain | 2012.06.19 23:52

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