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伝染する物語「イリアス」

 「死ぬまでに読みたい」シリーズ。

イリアス上イリアス下

 世界最古の小説。紀元前750年頃に成立したという。もとは口伝で歌われた叙事詩だが、読みやすい散文調なっている。虚飾を廃した骨太な描写、淡々と語られる悲劇と栄光は、簡素な分、まっすぐ心の臓に届く。

 そして心震えた分、形容詞で肉付けしたくなる。エピソードとして切り出し、換骨奪胎・アレンジして語りたくなる。舞台や映画だけでなく、SFやオマージュの"元ネタ"として有名なのは、「私ならこうする」誘惑に満ち満ちているからだろう(ダン・シモンズの「イリアム」なんて典型)。「イリアス」は、翻案や改作で自己増殖を促す物語、つまり伝染(うつ)る物語なのだ

 ストーリーは、この上もなくシンプルだ。トロイア戦争十年目の戦闘が延々続く。ただしこの戦争、ゼウスをはじめ神々が介入してくるからややこしい。どの神が誰に肩入れして、どんな風に助力したか、微に入り細を穿つ。飛来する矢に息を吹きかけ落としたり、槍をホーミングさせて急所に中てるのは序の口。ひどいのになると人間に化けて前言撤回させたり、脳に直接語りかける。

 なんでそんな人間臭いことするんだろう、不審な目で読み進めるうちに、ハタと気づく。神による手出し口出しは、物語を飾る部分なんだ。つまり、今なら修飾語やレトリックに相当する部分を、神がとって代わるのだ。陳腐化する修飾様式は、物語を古びさせる。これを擬人化(擬神化?)することで、文体の桎梏から解き放っている。形容詞は腐りやすいと言われるが、「イリアス」は、神の御技に置き換えることで生き延びたのだ。

 同時に、代理戦争の異なる側面にも気づく。もちろん、ギリシア(アカイア勢)とトロイアとの戦争は、仲の悪い神々の代理戦争として説かれる。だが、神をダシに戦う理由にしていることも見逃せない。ヘレネー奪還のためという名分は、口実に過ぎぬ。政治衝突や経済的な摩擦が真因で、戦をおこす大義として、「神意」が伝説化されたのではないか―――こう考えると俄然面白くなる。

 その裏づけに、人の行動のいちいちが、神によって説明づけられる。侵略戦争であろうと「神の加護を得て来たのだから」と宣言し、判断誤りによる失敗も「神の仕業」と責任逃れする。"魔がさす"とはよく言ったもので、本書には、身心を凍らす神「潰走(ポポス)」と、その伴侶「恐慌(ピュザ)」が登場する。戦闘の帰趨を左右する状況そのものに、神の名が付いている。付くというより憑いてまわる。つまり、兵は恐慌をきたすのではなく、「ピュザの神に憑かれる」のだ。臆病風に吹かれるってやつ。何年たっても、人は変わらぬ。

 注意を要するのは、独特のスプラッタ描写になところ。柔らかい肉体にもぐりこむ、強靭な武器の挙動が的確&スロー再生なので、グロいシーンが非情なくらい分かりやすい。首の後ろから突かれた槍の穂先を噛みながら死ぬとか、巨石の直撃で兜の中に脳漿をぶちまけるところは、想像したくないが難くない。掻き出された臓腑を掴んで身の内へ戻そうとしながら絶命するとこなんて、思わず本を閉じた。

 微グロを除けばサクサクいける。ただ、「私ならこうする」誘惑に抗いながら読むのは大変かも。これは、伝染する物語なのだから。

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このカドカワがスゴい!

 オススメ本を持ち寄って、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。今回のテーマは「角川文庫」。

 文庫には、それぞれの色がある。新潮は文芸色、岩波はアカデミック色、早川は海外色といった"ジャンルの強み"を持っている。

 ところが、角川は「色」が見当たらない。強みがないというワケではなく、ノージャンルなのだ。純文から翻訳、ラノベからホラーまで、面白ければなんでもアリというスタンス。良く言うなら、エンタメに貪欲、悪く言えば節操がない。ちと古いが、「読んでか見るか、見てから読むか」に象徴されるメディアミックス戦略はアニメやゲームで健在だ。

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 結果、エンタメ色の強いラインナップとなった。もちろんアカデミックな小論、しっとりエッセイもあるが、全体としては「面白いは正義」になっている。まずは見てくれ、大漁大漁。

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    ガツンと読めこの物語
  • 「アラビアの夜の種族」古川日出男
  • 「風車祭」池上永一
  • 「シャングリ・ラ」池上永一
  • 「アルスラーン戦記  王都炎上」田中芳樹
  • 「ロードス島戦記」水野良
  • 「クリムゾンの迷宮」貴志祐介
  • 「ブレイブ・ストーリー」宮部みゆき
  • 「図書館戦争」有川浩
  • 「空の中」有川浩
  • 「海の底」有川浩
  • 「ドミノ」恩田陸
  • 「DIVE!」森絵都
  • 「GO」金城一紀
  • 「白昼の死角」高木彬光
  • 「この闇と光」服部まゆみ
  • 「時のアラベスク」服部まゆみ
  • 「黒猫遁走曲」服部まゆみ
  • 「パラレルワールド大戦争」豊田有恒
  • 「野獣死すべし」大藪春彦
  • 「夢見る水の王国」寮 美千子
  • 「STEINS;GATE」SPIKE

    五感と五体のノンフィクション
  • 「もの喰う人びと」辺見庸
  • 「世界屠畜紀行」内澤旬子
  • 「仰臥漫録」正岡子規
  • 「戦艦大和復元プロジェクト」戸高一成
  • 「ゆーびんですよ」横尾忠則
  • 「できるかな」西原理恵子

    海外の秀逸モノ
  • 「11分間」パオロ・コエーリョ
  • 「アルケミスト」パウロ=コエーリョ
  • 「オデッサファイル」フレデリック・フォーサイス
  • 「ダロウェイ夫人」ヴァージニア=ウルフ
  • 「トレインスポッティング」アーヴィン=ウェルシュ
  • 「燃えるスカートの少女」エイミー・ベンダー

    心に刺さる小説
  • 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万理
  • 「にぎやかな未来」筒井康隆
  • 「農協月へ行く」筒井康隆
  • 「F―落第生」鷺沢萠
  • 「海になみだはいらない」灰谷健次郎
  • 「兎の目」灰谷健次郎
  • 「ちっちゃなかみさん」平岩弓枝
  • 「村田エフェンディ滞土録」梨木香歩
  • 「つめたいよるに」江國香織
  • 「キッチン」よしもとばなな

    リベラルアーツの入り口
  • 「日本人はなにを食べてきたか」原田信男
  • 「茶の本」岡倉天心
  • 「むかし・あけぼの―小説枕草子」田辺聖子
  • 「田辺聖子の小倉百人一首」田辺聖子
  • 「源氏物語はなぜ書かれたのか」井沢元彦
  • 「日本の人類学」寺田和夫

    夜に伝わるエッセイ
  • 「つかれすぎて眠れぬ夜のために」内田樹
  • 「そして私は一人になった」山本文緒
  • 「再婚生活 私のうつ闘病日記」山本文緒
  • 「うつうつひでお日記」吾妻ひでお
  • 「失踪日記」吾妻ひでお
  • 「文房具を買いに」片岡義男
  • 「生きるのも死ぬのもイヤなきみへ」中島義道

    血みどろ・ホラー・劇薬注意
  • 「魔界転生」山田風太郎
  • 「瓶詰の地獄」夢野久作
  • 「湘南人肉医」大石圭
  • 「墓地を見おろす家」小池真理子
  • 「愛犬家連続殺人」志麻永幸
  • 「殺人鬼」綾辻行人
  • 「犬神家の一族」横溝正史
  • 「巷説百物語」京極夏彦
  • 「日本妖怪散歩」村上健司
  • 「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」入間人間

 みんなで持ち寄った「食」がまたスゴい。聞くのに夢中でほとんど撮れていなかったが、おすそわけ。

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 今回も「次に読む本」が激増する。オススメ本を交換しあう「ブックシャッフル」は、ジャンケン争奪戦になるのだが、ことごとく敗退。わたしの次に読むリストに入れるのは、次の通り。

 まず池上永一「シャングリ・ラ」。曰く、「最高傑作だった風車祭を越えた」と断言される。地球温暖化で激変した森林都市・東京が舞台のハードSFらしい。最近の池上作品は、コンスタントに出るようになったが、凡打とのこと。カッ飛んだ世界を描いたSFとして、ミエヴィル「ペルディード・ストリート・ステーション」も惹かれるが、「シャングリ・ラ」から行こう。

シャングリ・ラ上シャングリ・ラ下

この闇と光 今回の収獲の目玉は、「服部まゆみ」という作家かもしれぬ。まさに読まずに死ねるか級にオススメされたなら(そして全く知らない作家なら)読まずにゃいられなかろう。世界がひっくり返る「この闇と光」が最高らしいのでそこから取り組む。うっかりAmazonを開くという愚を犯し、ネタバレを目にしてしまった……こういうのは黙って図書館に予約するのが○。Amazon良し悪しやね。

日本人はなにを食べてきたか 読書テーマ「食」に通じるのが、原田信男「日本人はなにを食べてきたか」。食生活や祭祀、制度や禁忌の視点から描いた日本の「食」の歴史らしい。「いつからコメが主食になったか」「どうして肉は忌避された」といった疑問を持ちながら読んでみよう。「食とは文化なり」への強力な根拠を示してくれそうで楽しみ。

瓶詰の地獄 既読だが、「これがカドカワ!?」と驚いた作品があった。強烈にグロいだけでなく、驚愕のどんでん返しに一本背負いを食らったホラー、綾辻行人「殺人鬼」が典型。ノベルズ版で読んだはずだが、新潮、角川と出ており、ある種バーターを感じる。夢野久作「瓶詰の地獄」は、その反例。三通の手紙の順番を逆転させると震えが止まらなくなる傑作だが、ちくま文庫や青空文庫のオープンな奴が出ている。だが、これはやっぱり角川の真ッ黒な表紙で読むべし。

 同一の作品が、出版社を渡り歩く様を可視化したら、力関係が見えて面白かろう。なんとなーくだけど、「角川書店(≠ホールディング)→幻冬舎」の流れを感じるし、集英社と講談社は、互いの株を持ち合うように版権を持ち合っているんじゃぁないかなぁ…

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 わたしの"オススメ・カドカワ"は、以下の通り。「面白いは正義」を貫いたラインナップなり。

 まず、「アラビアの夜の種族」(古川日出男)が徹夜鉄板。「面白い物語を読みたいだと?、ならこれを読めッ(命令形)」と断言する、憑かれたように読みふけろ。小説の喜びを骨の髄まで堪能させる傑作なり。抜群の構成力、絶妙な語り口、そして二重底、三重底の物語―――陰謀と冒険と魔術と戦争と恋と情交と迷宮と血潮と邪教と食通と書痴と閉鎖空間とスタンド使いの話で、千夜一夜とハムナプトラとウィザードリィとネバーエンティングストーリーを足して2乗したぐらいの面白さ。そして、最後の、ホントに最後のページを読み終わって――――――驚け! ただし、読み終えるまで絶対にgoogleるな、Amazon紹介文を読むな、阿呆がネタばらしをしているので要注意。翌日の予定がない夜に、必ず3巻揃えてから読むべし。

アラビアの夜の種族1アラビアの夜の種族2アラビアの夜の種族3

 次は、「犬の力」(ドン・ウィンズロウ)に打ちのめされろ。現実の、血で地を洗うメキシコ麻薬戦争を、超一級のエンタメにしたクライムノベル。過去30年間のメキシコと合衆国に跨る麻薬犯罪をなぞり、さらに大規模な陰謀を張り巡らせ、革命、反革命、暗殺、暴動、紛争を錬りこむ。物語の駆動力は、登場人物の「怒り」だ。麻薬捜査官、麻薬王の跡継ぎ、高級娼婦、殺し屋…どいつもこいつも怒りまくっている。義憤か、怨恨か、欲望か、嫉妬か、理由はともあれ彼/彼女らは己が怒りをエネルギーに突き進む。その軌跡は、からみ合い、よじれ合い、ぶつかり合い、上下巻を一気に疾走する、ドッグレースのように。呼吸を忘れる怒涛の展開に、ページターナーな読書になるだろう。

犬の力上犬の力下

愛犬家連続殺人 6000円する角川文庫がある。猟奇的殺人を描いたノンフィクション「愛犬家連続殺人」(志麻永幸)だが、絶版となりプレミア価格がついている。死体解体のシーンでは、読み手は酸っぱいものを何度も飲み込むハメになる。何度も「わたしの常識」が粉微塵に破壊される。そう、「人の死体を処分するのは不可能」というのは、わたしの思い込みにすぎない。適切な道具があれば、人の身体はサイコロステーキのごとく細かくカットできるし、骨や内臓もきっちり分けて、跡が残らないように"処分"することは可能だ。「人を透明にする」という手順を理解することができる(したくないが)。本書はタイトル・著者・若干内容を変えて「悪魔を憐れむ歌」(蓮見圭一)という書名で流通している(…が、これも絶版&プレミア価格がついている)

STEINSGATE そして、「STEINS;GATE」、これはスゴい。PSPの「ノベルゲーム」だが、クライマックスに心臓もっていかれる。前半コメディ、後半シリアス、終盤ドラマティック、急展開するラストに吸い込まれるように読む。すべての伏線が収束する快感に、感情を焼き尽くされる。どんなに足掻いても運命からは逃れられない"あきらめ"に似た感覚を原体験させられる。犯した過ちを「なかったこと」にしてはいけない、「意味なんてない」ことなんて無いんだと叫びたくなる。「失敗も含めて今の自分がある」―――陳腐なセリフが、妙にリアルに後を引く。これも角川なんだよなぁ…

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湘南人肉医 角川ホラー文庫で2番目に怖かったのは、「湘南人肉医」(大石圭)。2ちゃんねるまとめ「グロすぎて最後まで読めない」に惹かれて読み始めたが…ああ~これは~たしかに~そうかも。多くは語るまい。湘南の、人肉好きの、お医者さんの話。描写はキツいが、ラストがチキン。わたしが考える(そして読者が予想する)エンディングを書いたなら、著者は二度と小説など出せないくらいのバッシングを受けるだろうなぁ(でも書かせてあげたいなぁ)…

白昼の死角 おお、これもカドカワ!と驚いたのは、「白昼の死角」(高木彬光)と「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(米原万理)。ずいぶん昔に読んだのだが、このオフ会で改めて教えてもらえて嬉しい。前者は、天才詐欺師のピカレスクロマン。法の盲点と死角を衝いて、神がかり的な詐欺犯罪を展開するのだが、「詐欺の費用対効果は、あらゆる犯罪を凌ぐ」ことがよく分かる。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 後者は半自伝的な小説。次のアネクドートがツボに入ったら、読むべし。

女教師「人間の器官には、ある条件で6倍に膨張するものがあります。その器官の名前と、膨張する条件を答えなさい、Aさん」

女生徒A「そんなエッチな質問には答えられません!!」

女教師「…ではBさん答えて」

女生徒B「それは目の虹彩です。周囲が明るくなると膨張します」

女教師「よくできましたBさん。そしてAさん、あなたに二つのことを忠告します。一つ目はちゃんと予習しておくこと。二つ目は、そんな理解だと、将来きっと後悔することになるわよ」
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん ちっとも軽くないライトノベルも紹介される。こじらせ系男女にオススメ、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」(入間人間)、これもカドカワ。この面白さは、ちっともライトじゃない、重苦しく狂っている(おまけにヒロインは小学生兄妹を拉致して監禁している)。語り部は筋金入りの嘘つきで、口癖は「嘘だけど」。地の文に紛れ込むモノローグでも嘘をつく。騙されるまいと織り込み済みで読み解くのだが、二重底三重底の物語が明かされるとき、見事に一本背負いを食らう。舐めてかかると火傷する一冊。

 今回は、ダ・ヴィンチさんの取材が入った。広告ライクな「読書会」の紹介をするんだそうな。今回のは9月6日発売号に掲載されるらしいから、首長く楽しみにしてる。

 さて次回のイベントは次の通り。ふるってご参加あれ。全部facebook経由の申込みだけど、アカウントが無い方はtwitter越しにやすゆきさんにつぶやいてくださいませ。

8/4 13:00-15:00 「子どもと一緒にドキドキを味わう」お話会

ホラーのスゴ本オフを同じ日の夜に開催しますが、その前に子連れで「ドキドキする本」を味わう会をやります。コワい本というのではなくてドキドキする本。お子さん連れて遊びながら読み聞かせのプロにドキドキするお話を語ってもらいます。参加費500円(ジュース、おやつ代)。定員20名くらい。もちろん、子連れじゃなくても大きいお友だちだけの参加OK。(本格的にコワイ本は第2部でw)

8/4 17:00-22:00 スゴ本オフ「ホラー」

オトナ限定のガチホラー。参加費2000円(お酒、軽食代)。定員20名くらい。

8/25 13:00-19:00 スゴ音ワークショップ:最新の音楽事情を体験する

音楽著作権の勉強会の第2弾として「音楽を作る側の最新事情」を知るためのワークショップ。KORGの人に最新のシンセを持ってきてもらったり、PCで作曲する人に作曲の方法を見せてもらったり、ギター弾きさんに二胡弾かせたり、いろいろやります。ボーカロイドのPさんも来るかも。参加費千円。

8/26 15:00-21:00 スゴ本オフ「音楽」

スゴ本オフ、音楽の本の会です。場所はKWCさん。参加費2千円です。当然ですが、音楽の本だけじゃなくて「音楽」そのモノもアリです。CDもDVDも。放流できない本やCDは紹介するだけでもOKです。定員20名くらい。開始時間はひょっとすると早まる可能性アリ。

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これ読んでも嫁を言い負かすのはたぶん無理「彼女を言い負かすのはたぶん無理」

彼女を言い負かすのはたぶん無理 夫婦だから喧嘩ぐらいする。だが、これまで一度たりとも勝てなかったし、何度やっても勝てる気がしない。嫁さんに限らず、オンナと口論して言い負かすなどとは、おこがましいのかもしれぬ。議論の勝率と、主張の正当性の距離は反比例するからなぁ。

 わたしの戦法はスタンダードな二つ、「前提を疑う」「論旨の誤りを指摘する」だ。前提や定義に疑義をはさみ、誤った一般化や藁人形を挙げ、「だから詭弁だ」に落とす。嫁さんはもっとシュールだ→「あんたはアタシを怒らせた、故にギルティ」(承太郎メソッドともいう)。

 では、ケンカではなくディベートなら? というのが本作になる。「ラノベ+ディベート」の組み合わせは斬新でユニークで二度おいしい。「ディベート部」なる部活に巻き込まれる高校一年男子の主役。ヘタレな主人公が、変な美少女に振り回されるのはお約束どおり。

 だが、そこらのラノベと違うのは、このヘタレが「自分で」非日常を選びとるところ。序盤は典型的な「巻き込まれ型」なのに、途中で「ゾクゾクする瞬間」に走るのだ。開始一行目で「人生は平凡だ」と断言し、開始一頁目でハルヒとバカテスを完全否定する主人公だよ。この葛藤というか変遷が面白い───何が彼をそうさせたか?

 それは、ディベートの魅力。相手の論旨の前提や展開に揺さぶりをかけ、トドメの寸鉄で心証をひっくり返す。これ、「たくさんの人を前に主張する」をやったことがある人なら分かるはず。あふれ出るアドレナリンと、アップテンポに急拍するハート、緊張感MAXから解き放たれたときの開放感は、一度味わったらやめられない。吊り橋効果と一緒で、ペア組んだ相方が"恋"とカンチガイするのもお約束。

 ラノベのフォーマットを守りながら破って離脱しない「いさぎ悪さ」も面白い。地の文が主人公の内省なのはラノベちっくだが、そこに「俺」「僕」「私」を、(恣意的だと思うが)入れない(必要なときは主人公の姓"桜井"が入る)。つまり、地の文に内なる声と三人称の描写が混在するのだ。これは読みづらい&独特かも。

 ディベートのテーマ「ファーストキスが許されるのは小学生まで」がストーリーに絶妙にからんでいるのに悶死する(もちろんネクラ(死語)な高校生活を送っていましたが何か?)。この桜井クンのように、平凡な日常より非凡な日常を求め、もっと楽しい予感に手を伸ばしたなら、別の高校生になってた……ワケないか。

 ちょっとアレンジしているが、ディベートの方法やテクニックを紹介しているのもいい。ま、これ読んでも嫁を言い負かすのはたぶん無理かもしれないが、表紙の女の子を言い負かすのはぜったい無理。

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写真のうさん臭さを知る「たのしい写真」

 写真を見るのは好きだが、用心して眺めるようにしている。

たのしい写真 というのも、その言葉とは裏腹に、必ずしも真実を写したものでないことを知っているから。わたしの目に映るまで、そこには意図や編集、暴言吐くなら「演出」が混ざりこんでいるから。被写体の選定から構図、露出からトリミングまで、撮り手やメディアのスポンサーの"ねらい"が必ず入る。

 あからさまな企図から隠された思惑まで、意識するしないに関わらず、必ずある。「自然な」写真などないのだ。メッセージ性の強い歴史のプロパガンダやフォトショのチカラに幾度だまされたことか。

 この辺の、写真についての「もやもや」「うさん臭さ」を腑に落としこんでくれたのが、「たのしい写真」。ホンマタカシが写真の本質に斬りこむ。曰く、「Photograph≠写真」なのだと。「写真」とは明治時代の訳語なのだが、元の言葉よりも、強い意味を持ってしまっているという。

  Photo = 光
  graph = 描く(あるいは、画)

 だから、普通に訳せば「光画」ぐらいが適当なのに、「真を写す」とはすごく強い言葉を用いている。"真実はいつも一つ"というお題目に引きずられると、写真の持つ編集や加工の意図を殺すことになる。もちろん写真は現実をとらえたものだが、同時に誰かに意図的に選び撮られた(取られた・採られた)ものになる。真実はいつも一つなら、"選ぶ"こととは矛盾するからね。

現実であると同時にいくらでも加工可能であるという、この二重性が写真の特徴です。いや、もっとはっきり言えば、「どうとでもなり得る」という多重性こそが、写真の本質なのです。
 著者は、ヴァルター・ベンヤミンのいう「本物にたどりつかない芸術」を引いて、そこが写真の一番おもしろいところだという。写真という訳語自体が矛盾を孕んでいるあいまいなもの、住所不明なメディアが、写真の魅力なのだと。

 その写真のあいまいさや多重性を、「ワークショップ」という形で示してくれる。ここが一番アタマが開かされるところ。固定観念というか、「写真とはこういうもの」という枠に揺さぶりをかけ、ついには壊してしまう。写真を何度も「発見」させられる体験をする。

 たとえば、写真を「疑う」ワークショップ。もともと疑いの目で写真に接していたわたしにとって、目ウロコのアプローチがこれだ。

「最初からウソを取り込んだ写真を撮ってみよう」
 つまりこうだ、「写真は真実だけではない」ことを意識するため、写真でウソをつくのだ。作例として、老若男女が寄り添った1枚がある。家族の集合写真みたいだが、全員赤の他人なのだと。おじいさんぽい人も、お姉さんぽい人も、お母さんぽい人の膝の上の赤ちゃんも含め、全員他人。また、「誰が撮ったかわからないスナップを見つけてきて編集して、自分の作品として発表する」という例も出てくる。「写真家=撮影者」という常識(?)を砕いてくれる。

 あるいは、写真の「一回性」を実感させるワークショップ。お題はこうだ。

「あなたの好きな写真集の中から1枚の写真を選んで、それがどのように成立しているかを言葉で説明し、次いでその1枚と同じ構造の写真を撮影してください」
 錬金術の基本「理解、分解、再構築」を思い出すが、そう上手くいかない。たとえば、荒木経惟の作品の場所を特定し、徹底的に研究して、同じアングル、同じ時間帯、同じ天候下を狙って撮った一枚がある。比べて載せているのでわたしにも瞭然だ―――まるで、いや、ぜんぜん違う。構図や露光も(たぶん)カンペキに真似たはずなのに、面白いほど違っている。
荒木さんがあの雨の夜に撮影した写真は、あの時、あの場所でしか撮ることができなかったものなのです。それが写真にとっての真実=リアルなのです。
 写真にとっての真実=リアルとは、光画のコピーではないことは分かった。では、写真の「一回性」は再構築不可? と短絡するのかというと、そうではない。ポイントは、「どのように成立しているか言葉で説明」というところ。自分の言葉に置き換えることで、その写真をどう理解しているかいったん抽象化し、それを元に「自分の一枚」を撮る。上手くいった作品があるので、ぜひご自身の目で確かめてほしい。お手本とは違う被写体、場所だが、同じ構造の写真だということは即分かる。

 見る専ばかりで距離を措いていたカメラに、思わず手が伸びる。撮るのにも見るのにも、自由になる一冊。

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「STEINS;GATE」がスゴい

シュタインズゲート 涙腺弱いんよ、エエトシこいたオッサンなのに。痛勤電車でプレイしたのが失敗だった。もうね、後半ぼろぼろなんよ、涙が止まらない。バカじゃないですか、オッサンが朝から泣いてるんよ、PSP握り締めて、満員電車で。周囲はさぞかしキモかったことだろう。

 前半コメディ、後半シリアス、終盤ドラマティック、急展開するラストに吸い込まれるように読む。すべての伏線が収束する快感に、感情を焼き尽くされる。どんなに足掻いても運命からは逃れられない"あきらめ"に似た感覚を原体験させられる。犯した過ちを「なかったこと」にしてはいけない、「意味なんてない」ことなんて無いんだと叫びたくなる。「失敗も含めて今の自分がある」―――陳腐なセリフが、妙にリアルに後を引く。

 現代科学をベースとしたSF「想定科学」の設定にしっかりとバインドされたストーリーは中毒性がある。PSPでプレイするノベルゲームなので、読む・聴く・感じるを一体化した読書になる。主人公の絶叫はわたしの咆哮であり、彼の慟哭はわたしの心にそのまま流れ込む。ハマりゲーだね。

 基本は文章を追うだけだから、「本」というメディアでもできる。だがこれは、ケータイが鍵となる。メールする/しない、電話に出る/出ない、といった諸々の選択ができ、そのタイミングによってストーリーが変化する。このダイナミズムがいい。最初は偶然、次第に必然、そして運命に抵抗するために、試行錯誤をくり返す。

 しかも、メール返信の際、「どのキーワードに反応するか」によって、相手との関係・距離が変わってくる(そしてストーリー変化の伏線となる)。ちと古いが、「Noel(ノエル)」を思い出す。あのテレビ電話で、画面に流れてくる会話ボールみたいなもの。何に食いつくかによって、相手の真意を測ったり引き寄せたりするトコは、恋愛シミュレーション(死語)だね。

 ファーストプレイは、「猿の手」パターンかなぁという印象(ジェイコブズのあれだ)。過ぎた力を手に入れてしまった悲劇というやつ。だが面白いのは、その力に押しつぶされることなく、逆手に取ろうとするところ。いわば、「猿の手」で「猿の手」を回避しようとするのだ。それは、願い事を叶えるマジックアイテムではない―――強いて言うなら、「記憶」に関するものになる。かなり古いが、「YU-NO」を思い出す(並列世界の宝玉ジャンプ、懐かしぃねぇ)。もし、経過を視覚化してたら、A.D.M.S.(アダムス)そっくりになっていただろうが、ケータイの小さな液晶画面では現実味が薄い。2010年の話だから携帯電話だろうが、今だとiPhoneがケータイガジェットになりそう(A.D.M.S.は可能だぞw)。

クロチャン 主人公の厨二病っぷりに辟易させられるが、彼の立ち位置はそのまま厨二的命題―――「世界は、なぜ在るのか」への解となっている。ハイデガーやシュレーディンガーが引用されているが、デカルトのコギトほうが馴染んでいるように見えた。「世界は、観測しているから在る」という主張は、自動的に「CROSS†CHANNEL」につながる。そして、「すべての価値観は、生きている上になりたつ」というメッセージは、素直に胸に染みこむだろう。

 どんな結果になろうとも、それを引き受けるのは自分だ。不本意なら、変えてやればいい。観測した瞬間、世界は確定してしまっているのだから無意味だって? 観測者は人だ、人は誤りを犯す、だから観測が誤りであったという世界を再構築してやればいい。世界が思い通りにならないのなら、世界を観測する自分を騙してやればいいのだ!フゥーハハハ!

……Σ(゜ロ゜;)!! やべ感染(うつ)った。わたしの中の厨二病を呼び覚ます効果もあるな。

 引き受けた結果―――ストーリーラインは複数ある。背徳のシナリオに踏み込んだり、ファイナルディスティネーションな鬱展開に怖気をふるったり、かなり楽しませてくれる。"運命に抗わない"という選択肢もある。立ち向かうのでなく、先送りするのだ。閉じた環をくり返す"日常"は、セガサターンでプレイした「DESIRE」の物語構造そのまま。あの最後の語り手が引き受けた運命と同じやね。これは一種の地獄といってもいいが、トゥルーエンドの次に惹かれたエンディング。

 最後にオススメを。ノベルゲームの中で、「シュタゲ」はかなり秀逸な域に入るが、このテのループ+SF+ラブストーリー(反転表示)の最高傑作は、「Ever17」だ(断言)。これほど物語の中に「没入する」───文字通りの意味で!───作品はない。「STEINS;GATE」にハマった方は間違いなく楽しめるだろう。

Ever17

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劇薬毒書「愛犬家連続殺人」

 6000円する角川文庫がある。猟奇的殺人を描いたノンフィクションだが、絶版となりプレミア価格がついてしまったのだ。

愛犬家連続殺人 それは「愛犬家連続殺人」。凄惨な事件を"共犯者の一人称"という斜めの位置から直視させる手法はユニークかつ鬼気迫る。死体解体のシーンでは、読み手は酸っぱいものを何度も飲み込むハメになるだろう。

 極めて残忍で異常性の高い事件であるにもかかわらず、地下鉄サリン事件や阪神淡路大震災と同時期だったため、その影に隠れるような印象を持っていた―――が、あらためて読むと、初めてこの報道に接したときから、「わたしの常識」が粉微塵に破壊されていたことを思い知らされる。

 そう、「人の死体を処分するのは不可能」というのは、わたしの思い込みにすぎない。適切な道具があれば、人一人の身体は、サイコロステーキのごとく細かくカットできるし、骨や内臓もきっちり分けて、跡が残らないように"処分"することは可能だ。実行者が、「透明にする」というその手順を、伝聞という形で断片的に記している。

 これを読む限り、死体を"透明にする"障害となっているのは、物理的云々というよりも、その刃を握る人の心にあることが分かる。超えてしまえば、なんということはない。恐怖感や嫌悪感は、くり返しにより慣れることができる。最初の解体に衝撃を受けていた共犯者も、場数を踏むごとに馴染むようになる。

 最も恐ろしいのは、彼の肩越しで眺めている読み手も一緒になって、場数を踏めるようになっているところ。実録なのに、ホラーといってもいいだろう。自らの手を汚さずに、血まみれの手を想起できる。冷静な狂気にシンクロできる。馴れはじめた残虐性を自分の中に見つけたとき、読まなければ知らずに済んだ世界なのに―――と、後悔するかもしれない。

 永年の疑問が氷解する一文を見つける。やっぱりそうかと思うと同時に、超える・超えないは別として、かなり近いところにその「一線」があることを知る。

戦争中に、飢えをしのぐために人肉を食った日本兵たちがいただろう。あいつら、人肉は不味かったなんて言ってるらしいが、どいつもこいつも嘘をついているだけだ。そりゃそうだろう。旨かったなんて言ったら問題になるもんな。

実際には人間の肉くらい旨い肉は他にないんだよ。特に人肉でダシを取ったラーメンが旨いんだ。

考えてもみろ。この世の中で人間ほど贅沢な物を食っている動物は他にいない。地上で最高の肉を食っているのも人間だ。その肉がどうして不味いんだ。不味いわけがないだろう。それは食わず嫌いっていうもんだ。

消された一家 読書は毒書、わたしは激しく反応したが、自分の正気(狂気?)を試すのに、ちょうどいい。北九州・連続監禁殺人事件を扱った「消された一家」(豊田正義、新潮文庫)[レビュー]レベルの衝撃だといえば分かるだろうか。

 身体が拒絶する毒書を、無理やり読み下す。劇薬好きにオススメ。

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ビブリオバトルに持ちこんだ最強の一冊

 勝利宣言までした書評対決、結果からいうと負けた。

 なので負け戦のリポートを書く。ただ、負け惜しみであらためて挑戦する。このブログの読者も含めて、この最強の徹夜本を超える一冊があるのかと問うてみる。

 ビブリオバトル───オススメを5分でプレゼンして「いちばん読みたくなった本」を投票で決めるゲーム───は、負けてばかり。トークが下手なのか(自覚あり)、持ってく本が弱いのか(ありえぬ)、それとも観覧者との相性がよろしくないのか、ほとんど勝てない。まぁ、このブログで天狗になってる鼻がヘシ折られるので丁度いいのだが、それでもシャクだ。

 なので、これまでのスタイルを変えてみた。「これ良いよ~」とまったりプレゼンするのではなく、「これより面白いのがあったら、逆に教えろ、いや教えてくれ」という勝負形式にした。しかも、他の発表者に限らず、観覧者、twitter実況を見てる人、全員ひっくるめて相手しよう。奇想天外のプロット、手に汗握るハラハラドキドキ、そして最高の「ヤラレタ!」感は、本書を措いてない。

 結果的に、「これより面白いの教えてくれ」のフィードバックはなかった。観覧者、twitter実況含めて無反応…あたりまえだ、未読の方は何とも言えないし、既読ならパッと思いつかないだろう。

 ちなみにトップ取ったのは、おぎじゅんさんオススメの「犬から見た世界――その目で耳で鼻で感じていること」(アレクサンドラ・ホロウィッ著、白揚社)。本の魅力もさることながら、おぎじゅんさんのトークは面白く、わたしも読みたい!という気にさせられた。ユクスキュルの次に環世界を考えるのに良いかも。

 次回のビブリオバトルは7/7、「絵本」がテーマか……嫁さんの説得に入ろう(これが最も難しい)。

 で、何を持ち込んだって? これだ。この一冊より面白い徹夜小説があったら、ぜひ教えて欲しい。


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この「旅」の本がスゴい

 オススメ本を持ち寄って、まったり熱く語り合うスゴ本オフ。

 今回のテーマは「旅」、様々な解釈ができるので面白い。地理的な移動をまとめた紀行文から選んでもいいし空想の旅もあり、「○○の旅」とタイトルから攻めても出てくる出てくる。まずは見てくれ、この旅本の収穫。

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    鉄道
  • 「旅マン」ほりのぶゆき(小学館)
  • 「トラベル」横山裕一(Cue comics)

    チャリ・バイク・クルマ
  • 「モーターサイクルダイヤリーズ」チェ・ゲバラ(角川文庫)
  • 「がむしゃら1500キローわが青春の門出」浮谷東次郎(ちくま文庫)
  • 「ああ、人生グランド・ツーリング」徳大寺有恒(NAVI BOOKS)
  • 「スズキさんの休息と遍歴またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行」矢作俊彦
  • 「行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅」石田ゆうすけ(幻冬舎文庫)

    船旅
  • 「星の航海師 ナイノア・トンプソンの肖像」星川淳(幻冬舎)
  • 「KAZI」[ヨット専門雑誌]
  • 「十五少年漂流記」ジュール・ヴェルヌ(新潮文庫)
  • 「注文の多い地中海グルメ・クルージング」デイヴィッド・シャレック(早川書房)

    徒歩
  • 「夜のピクニック」恩田陸(新潮文庫)
  • 「西遊記」呉承恩(岩波少年文庫)


  • 「ドン・キホーテ」セルバンテス(岩波ジュニア文庫)

    ガチョウ
  • 「ニルスのふしぎな旅」セルマ・ラーゲルレーヴ(福音館)

    伝説の旅
  • 「オデュッセイア」ホメロス(岩波文庫)
  • 「シュナの旅」宮崎駿(アニメージュ文庫)
  • 「ベルカ、吠えないのか」古川日出夫(文春文庫)
  • 「謎の拳法を求めて」松田隆智(東京新聞出版局)

    旅行ガイド
  • 「プロヴァンス南フランス」(ミシュラン・グリーンガイド)
  • 「A Guide to the Eateries of Venice」Michela Scibilia
  • 「世界の危険・紛争地帯体験ガイド」ロバート・ヤング・ペルトン(講談社SOPHIA BOOKS)
  • 「pen 2010/2/15 No.261 「旅の達人に聞いた世界でいちばん好きな場所」
  • 「FIGARO japon 2011/11 No.425 「ミラノ・ローマ・フィレンツェ最新案内」

    旅行エッセイ
  • 「パタゴニア-あるいは風とタンポポの物語り」椎名誠(集英社文庫)
  • 「ヨーロッパものしり紀行」紅山雪夫
  • 「巴里ノート―「今」のパリをみつめつづけて」村上香住子(文藝春秋)
  • 「ああ言えばこう行く」阿川佐和子(集英社文庫)
  • 「パリ・旅の雑学ノート」玉村豊男(新潮文庫)
  • 「小心者の海外一人旅~僕のヨーロッパ放浪日記」越智幸生(PHP文庫)
  • 「旅のスケッチ」大塚まさじ(ビレッジプレス)
  • 「旅行者の朝食」米原万里(文春文庫)
  • 「謝謝!チャイニーズ」星野博美(文春文庫)
  • 「河童が覗いたヨーロッパ」妹尾河童(新潮文庫)

    旅のお供に
  • 「プチ哲学」佐藤雅彦(中公文庫)
  • 「前世への冒険」森下典子(知恵の森文庫)(新潮文庫)
  • 「東方見便録」斉藤政喜・内澤旬子(文春文庫)
  • 「食べるのが好き 飲むのも好き 料理は嫌い」内館牧子(講談社文庫)
  • 「辺境・近境」村上春樹(新潮文庫)
  • 「忘れられた日本人」宮本常一(岩波文庫)
  • 「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ(河出文庫)

    旅をテーマにした物語
  • 「マイケル・K」J.M.クッツェー(ちくま文庫)
  • 「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ(ハヤカワepi文庫)
  • 「永遠の旅行者」橘玲(幻冬舎文庫)
  • 「遙かなる水の音」村山由佳(集英社)
  • 「アルケミスト」パウロ コエーリョ(角川文庫)
  • 「茶色の服の男」アガサ・クリスティー
  • 「ハチミツとクローバー(6、7巻)」羽海野チカ(クイーンズコミックス)
  • 「空海の風景」司馬遼太郎

    変わった旅
  • 「オーパ」開高健(集英社)
  • 「世界屠畜紀行」内澤旬子(角川文庫)
  • 「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン(みすず書房)
  • 「日本はじっこ自滅旅」鴨志田穣(講談社文庫)
  • 「札幌刑務所4泊5日」東直巳(光文社文庫)
  • 「もの食う人々」辺見庸(角川文庫)
  • 「ゲニウス・ロキ」クリスチャン・ノルベルグ=シュルツ(住まいの図書館出版局)

    時間旅行
  • 「江戸アルキ帖」杉浦日向子(新潮文庫)

    「旅」というメタファー
  • 「異界を旅する能」安田登(ちくま文庫)
  • 「人生の100のリスト」ロバート・ハリス(講談社プラスアルファ文庫)
  • 「インターネットのカタチ」あきみち(オーム社)

    サイエンス
  • 「小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた」川口 淳一郎(中公新書)

    DVD・ゲーム
  • 「サンジャックへの道」[DVD](ハピネット)
  • 「U2 魂の叫び」[DVD](パラマウント)
  • 「サイドウェイ」[DVD](20世紀フォックス)
  • 「TV見仏記7」みうらじゅん・いとうせいこう[DVD]
  • 「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」アトラス(Nintendo-DS)

 わたしの場合、「旅」とはすなわち冒険旅行、ラインナップも「ソッチ」系になるが、皆さんの発想はもっと柔らかく奥深く、なるほどと唸らされるものから天啓の閃きをかいま見るものまで大漁なり。

夜のピクニック まず、驚いてから納得したのが、恩田陸「夜のピクニック」(略して"夜ピク")。やすゆきさん曰く「恩田陸の最高の青春物語」、なるほど確かに。徒歩とはいえ、これは「旅」だ。夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の大イベント「歩行祭」───あの一夜に起きた、紛れもない、青春の軌跡ならぬ奇蹟は、甘苦くて、ほろしょっぱい気持ちをかき立てる。

人生の100のリスト 納得したあと唸らされのは、Satoshiオススメの、ロバート・ハリス「人生の100のリスト」[本人のレビュー]。「人生は旅だ」とメタに言い切るならば、そこから様々な発想が生まれてくる。辛く苦しいjourneyであれ、誰かと一緒のtourであれ、その旅をいかに楽しく過ごすかは、自分に懸かっている。「アマゾン川をイカダで下る」「ヌードモデルになる」といった勇気と刺激を受けるものから、「黒帯をとる」「自分のサロンを作る」など、やってみるかという気になるものまで。殺し文句は「人生は自分でいくらでも面白くできる」だ。確かにそう、人生はそう。反射的に「死ぬまでにしたい10のこと」を思い出すが、これは期限付きだから"10"なんだな。

人生の100のリスト 変化球ながらスゴく惹かれたのが、横山 裕一「トラベル」。amazon評に「人間離れしたコミック」とあるが、言い得て妙、まさにそれ。一冊丸ごと使って、列車に乗って降りるだけをひたすら描き続ける。定規とコンパスだけで構成された世界は、あるときは俯瞰あるときは接写またあるときは主観とめまぐるしい。カメラの引き・寄せが唐突かつ極端なので、読んでいる目がチカチカしてきて、かつ三半規管がふらつきだす。これは列車旅行を描きながら、読み手の目と脳をトリップさせるのか!? 紀伊國屋書店の中の人のオススメなのだが、さすがというか何というか、妙な本を魅力的に紹介してくれて嬉しい。「餅は餅屋、本は本屋」だね。

十五少年漂流記 見慣れたものに、まるで違う「眼」をもたらされたのは、ヴェルヌ「十五少年漂流記」。定番かつ鉄板なのに、これを「ボーイズラブとして読む」と、全く新しい世界に出会える。考えてもみ、兄弟愛も、兄の友人に嫉妬する弟も、ライバル役も、トリックスターも、ぜんぶ萌えられる。全ての言動がソッチの眼で解釈しなおせる―――東京タワーとエッフェル塔でタチ・ネコできる腐女子がいるのは知っていたが…すげぇ。そういう眼からすると、十五少年漂流記はスキがありまくりだろうなぁ。ボーイズラブとして再読したくなった>十五少年漂流記と蝿の王

 BEAMS LIGHTSさんとのコラボレーションも面白かった。「旅」をテーマとしたウェアやグッズを次々と紹介してくれたのだが、これがまた物欲を刺激する刺激する。濃くて鮮やかな男物ジャケット。ぱっと見たら綿だけど、実はナイロン100%。くるりと丸めて持ち歩け、iPodを収納するポケットが複数あるのがイイ。通気性+撥水性を実現したシャツや、メモリーレザーという特殊素材を使った、ポケッタブル・トレンチコートは普段使いに欲しい。展示即売会だったら即買ってただろうなぁ…

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 いい台詞にも沢山出会えた。こんな片言隻句が次の出会いを導くんだろうなぁ、と思える箴言。ふじわらさんのTipsで、海外旅行にて「お店で買い物したとき、お店の人に『近所で美味しいお店ある?』と訊く」は、ぜったい外さないらしい。「謝々チャイニーズ」にある「地球の歩き方なんてなくて、自分の歩き方があるだけだ」なんて、うんうんと頷くこと幾度もだし、「人生は自分でいくらでも面白くできる」(via:「人生の100のリスト」)は床の間レベルの名言やね。

 さて、こっからがわたしのオススメになる。時間の都合上、プレゼンできなかったのも全部ひっくるめて、「この旅の本がスゴい」をまとめてみよう。

深夜特急1 パッと出てくる鉄板は沢木耕太郎「深夜特急」。デリーからロンドンまで、ひたすら陸路の独り旅。「バスを乗り継いでたどり着けるか」という友人との冗談から始まった"賭け"に本気になって、職も生活も放りだす旅は、無数の追随者を招き、一種の伝説となっている。ウキウキ感覚は松尾芭蕉の「おくのほそ道」の出だしと一緒、ノリノリ感覚は米米クラブの「浪漫飛行」(JALのCFバージョン)と一緒。最初の1~2巻は、若い頃に読むと感染する、危険な二冊。

何でも見てやろう 一緒に出てくるのは小田実「何でも見てやろう」。面白おかしさと体当たり度合いはこっちが上かな。まだ固定為替レートの時代(ドル360円だよ!)、先進国の病根から途上国の貧困まで「何でも見てやろう」と渡り歩く、バックパッカーの元祖のような紀行文。帰国後の活動への批判は多々あれど、この本そのものに教わることが沢山あったなぁ。「ユースホステル」なる存在は本書で知ったし、一つの職や組織に留まらない生き方が"普通"であることを教えてくれたのもこの本。

シャンタラム1 バックパッカーのバイブルともいえるのが、グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ「シャンタラム」。実体験をベースにしたフィクションなのだが、これは別の意味で危険。なぜなら、読み出したら止まらなくなる徹夜小説だから。オーストラリアの刑務所から脱獄して、ボンベイに逃亡した男が主人公だ。スラム街、刑務所、そして敵地―――彼の行く先々が冒険の旅であり思索の旅となる。これは「憎しみと赦しの物語」ともいえる。憎悪と恥辱にまみれ、痛めつけられ、翻弄された後、憎しみと赦しのどちらを選ぶのか。「これより面白いのがあったら、逆に教えてくれ」という鉄板なので、明日の予定がない夜にどうぞ。

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モーターサイクルダイヤリーズ 若者の貧乏旅行ときたら、「モーターサイクルダイヤリーズ」が熱い。あのチェ・ゲバラの旅日記だという時点で必読。バイクというより鉄馬、しかも満身創痍の鉄騎をなだめてすかして修理しながらの旅だ(それも前半だけ、後半は徒歩とヒッチハイクで南米を北上する)。決して愉快な出来事ばかりでなく、貧困と搾取の現場を目にする。働けなくなった家族に向けるまなざしに、「まるでその人の面倒を見なければならない者たちに対する侮辱」であるかのような色を見つけたり、「共産主義」が一種の宗教のような熱狂をもって受け入れられていることを喝破する。胸熱になりながら読むべし。これ、スゴ本オフでは3冊+DVDが被ったんだけど、さもありなん。名著かつ思い入れたっぷりの一冊だからね。

キノの旅 バイク旅行なら「キノの旅」だな。各話はとても短く、一話に一つ寓意が込められている。読みきり寓話のショートショートといえば星新一だし、旅先でイベントを転がすのは銀河鉄道999あたりを彷彿とさせるが、上手にラノベのフォーマットに包んでおり食べやすい。「キノ」が走る路は、レトロな雰囲気漂う懐かしい世界なのよ、んでもって、かかわる人々は「どっかで聞いたことがある世界」の典型なんだ。さらにもって、「キノと世界とのかかわり方」が、その国で巻き込まれる事件を通じて、少しずつ明かされるようになっている。軽く読んで深く考えてしまう。

ゴーストタウン もっと重いバイクなら、「ゴーストタウン チェルノブイリを走る」になる。バイクは重量級で、テーマはもっと重い。彼女の名はエレナ、バイク乗りだ。カワサキのニンジャを駆ってあの土地を旅する。豊富な写真と淡々とした体言止めコメントが印象的だ。驚くほど自然に還っている建造物や、誰もいない世界は、人類史後を眺めているようだ。ある特定の廃屋や廃ビルの「写真集」ではない。バイクに乗って延々と走っても走っても、遺棄された光景が続く。あまりにも危険なので地図からも抹消されている。「場所」が丸ごと捨てられているのだ。それでも、人がいる。興味本位の「観光客」ではなく、わが家に戻って自活している人々だ。石棺の50キロ南に住む老人がいる。一時は移住を余儀なくされたものの、見知らぬ土地で死ぬよりも、自分の家で死にたいという。自分の畑の野菜を食べ、飼っている牛のミルクを飲んで生きている400人のうちの1人になる―――今ではもっと減っているらしい。

ザ・ロード 「旅」が一種の贖罪となっているのは、コーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」だ。ピューリッツァー賞を受賞した傑作だ。カタストロフ後の世界を旅する、父と子の物語。劫掠と喰人が日常化した生き残りを避けて、南へ南へ――食べ物を求めて? 食べられないように? 残った弾丸の数を数えながら、こんな地獄ならいっそ―― わたしと同じことを、この「父」も考える。終末世界で「人」として生きるのは、かなり難しい。地の文から句読点を外し、会話をくくるかっこ「 」を廃した、全編独白のような文体は、慣れるのに苦労するかも。その代わり、どこに注目すべきか、無駄も隙も否応もなく入ってくる。

ザ・ロード 同じ"路上"でも、ケルアックの「オン・ザ・ロード」はもっと軽い。アメリア合衆国を横に3回縦に1回移動する(しつづける)話。いいね、いいね!ハートに「また」火がついてしまう。尻が浮く感覚(?)とでも言えばいいのだろうか。パックされていない、開いた旅をする人のココロをガッチリとつかんで放さない。「ガクセーの頃これ読んじゃったので、合衆国を走ってきた」という知人がいるが、読むと納得できる。こういう旅、というか動く感覚が分からない人にとっては、ただの自意識タレ流し旅行顛末記でしかなく、「結局どうなるの?」なんてマヌケな自問を繰り返すことになる。行き先が目的なのではなく、行き先へ向かって移動しつづけることが「旅」なんだ。

オデュッセイア 伝説の冒険旅行ともいえるし、究極の物語りでもあるのは、ホメロス「オデュッセイア」。英雄オデュッセウスの冒険譚で、ご存知の方も多いかと。一つ目の巨人キュクロプス(サイクロプス)や、妖しい声で惑わすセイレーンといえば、ピンとくるだろう。トロイア戦争に出征し、活躍をしたのはいいのだが、帰還途中に部下を失い、船を失い、ただ一人で地中海世界を放浪し、十年かけて帰ってくる。勇猛果敢で知恵と弁舌がはたらく策士でもある。おまけに運と戦いの女神まで憑いているのだ。化物退治の奇譚集として読んでもいいし、キルケーに豚されるあたりで「千と千尋」、ラストの無双バトルに「ランボー」の元ネタを汲んでもいい。

ソングライン 旅の名著といえば、ブルース・チャトウィン「ソングライン」。ソングラインとは、アボリジニの天地創造の神話をうたったもの。ただし、物語に限らず、地誌も織り交ざっているところがミソ。オーストラリア全土を楽譜と見なし、そこに広がるあらゆるもの――鳥や、獣や、植物や、岩や、泉――の名前と、織り込まれたストーリーを高らかにうたいあげることで、先祖が創造した世界を「再創造」していく。

 旅行記というものは、行った先で会った人や出来事をつづったもの――という先入観で読むとヤられる。もちろん実際にあったことも書いているだろうが、都合よく人物や会話を創造しているところもあるのだ。実話とおぼしき追想と、話を面白くするために創造された人物・会話が折り重なるようにしており、現実と虚構の区別はつかない。

 わたしはこう思う、チャトウィンは、「生きるとは、移動すること」を証明したかったのではないか。アボリジニの"放浪の旅"(walkabout)、自らの軌跡、出合った人たちの半生、土地の記憶、定住と放浪、ソングラインと巡礼、砂漠、遊牧、歌、神話と英雄――ゆるやかな起伏をなす思考をたどっていくと、生きるとは旅そのものだ、という普遍性が見えてくる。人は何も持たずに生まれ、動きつづける。止まるときは死ぬときで、これまた何も持たずに死んでいく。あるがままの世界をあるがままに保持することを至上としたアボリジニの思考は、彼の中で結晶化している。あるいはもっと簡便に言うなら、インドのこのことわざになるだろう。

   人生は橋である。
   それは渡るものであって、家を建てるところではない。

コンゴ・ジャーニー とてつもない旅行なら、レドモンド・オハンロン「コンゴ・ジャーニー」を推す。あまりの破天荒さに、最初は小説だと思ってたが、これが正真正銘ノンフィクションだと知ってのけぞった。

 だいたい、赤道直下のコンゴ奥地に恐竜の生き残りを探しにいくなんてどうかしてる。しかも、そのために全財産を投げ打って追っかけるなんて、オツムがあったかいとしか言いようのない。蚊、ノミ、ダニ、シラミ、ナンキンムシ、アブ、ブユ、ツェツェバエ――血と汗を吸い、皮膚の下にタマゴを生みつけようとするやつら。爪の間や性器に入り込もうとする線虫・回虫・寄生虫もあなどれない。そしてゴキブリ!ベッドマットを持ち上げたらゴキブリがざーっとあふれ出る場面は全身トリハダ立ちまくり。

 マラリア、眠り病、梅毒、イチゴ腫、エイズ、エボラ出血熱、コレラ―― 描写のいちいちが克明で、読んでるこっちが痒くなる。風土病や感染症だけではない、人を襲うヒョウやワニ、ニシキヘビといった猛獣について、いちいち挿話とウンチクを並べ立てる。その恐怖におののきながら、いそいそと出かけるところは笑うところなのか?

 その一方で、めずらしい鳥の姿を目にして乱舞したり、ゴリラのあかちゃんを糞尿まみで世話したり、さらには幻の怪獣、モケレ・ムベンベを必死になって捜し求める姿は、これっぽっちも滑稽ではない。読者はそこに、正真正銘の「愛」と「狂気」の目を見るだろう。後半、「旅行記」のタガが外れ壊れ始める著者が怖い。この地に白人が長いこといると、おかしくなるらしい。イカレたイカした冒険旅行、雨の日の午後にどうぞ。

チベット旅行記(上) とんでもない旅行なら、三蔵法師を実践した河口慧海「チベット旅行記」もスゴい。鎖国中のチベットに単独で入国した最初の日本人だそうな。ロクな装備もないのに、氷がゴロゴロする河を泳ぎ、ヒマラヤ超えをする様子は、「旅行記」ではなく「冒険記」だな。この坊さん、どうしてチベットまで行かなければならなかったのか? 慧海が25歳のとき、漢訳の一切経を読んでいて、ある疑問につきあたったという。漢訳の経典を日本語に翻訳したところで、はたして正しいものであるのか? サンスクリットの原典は一つなのに、漢訳の経文は幾つもある。同じ訳もあれば、異なる意味に訳されているものもある。酷いのになると、まったく逆の意義になっている。翻訳をくりかえすうちに、本来の意義から隔たってしまっているのではないか? それなら原典にあたろうというわけ。

 動機は分かるが、実行力がスゴい。住職を投げ打ち、資金をつくり、チベット語を学び始める。周囲はキチガイ扱いするが、本人はいたって真剣。しかも、普通に行ったら泥棒や強盗に遭うだろうから、乞食をしていくという。最初は唖然とし、次に憤然としているうちに、だんだんと慧海そのひとに引き込まれる。ヒマラヤの雪山でただ一人、「午後は食事をしない」戒律を守る。阿呆か、遭難しかかってるんだって!吹雪のまま夜を迎え、仕方がないから雪中座禅を組む。死ぬよ!ハラハラドキドキするのは読者で、著者は恬淡としている。腹をくくった人の、器の大きさをしみじみ実感する旅行記なり。

 旅をテーマに、一冊だけ選べと言われたら、開高健「オーパ!」になる。マイベスト旅本だね。殺し屋ピラーニヤ、黄金魚ドラド、巨魚ピラルクーなど、珍、怪、奇、美を求めて褐色の甘い海アマゾンに挑んだ60日と16000キロの写真集+紀行文。釣師であり食通であり文豪である著者が、自らを俎上に載せてルポルタージュする手腕はさすがだし、高橋昇カメラマンの決定的瞬間が並んでいるのは見ているだけれ連れて行かれる。率直で、露骨で、一切のモヤモヤの偽善が揮発した場所、ブラジルが触れるように嗅げるように感じられる。書影は文庫版だが、ぜひ大判で眺めてほしい(絶版だがそれほど高価になってないはず…まだ)。

オーパ

 他にも、「人生は旅」「意識の変遷こそ旅」「時間旅行」という観点で攻めると、いくらでも旅本が出てくる。スウィフト「ガリヴァ旅行記」、きだみのる「気違い部落周遊紀行」、グウィン「ゲド戦記」、ナボコフ「ロリータ」、エリクソン「黒い時計の旅」、クラーク「2001年宇宙の旅」あたりを、「移動と意識の変化」に絡めて話したら、かなり楽しめるだろう。

 今回は「旅」がテーマとあって、静岡や山梨、遠くは北海道から参加された方もいらした。常連さん・ご新規さん、楽しんでいただけたら嬉しい。twitterまとめは、「あらゆる世界を旅する本を集めた「旅」のスゴ本オフまとめ。」をどうぞ(ずばぴたさん、ありがとうございます)。参加された方の感想は、「旅のスゴ本オフにいってきた」をどうぞ。参加いただいた皆さま、ご協力いただいた方々、会場をお貸しいただいたKDDIウェブコミュニケーションズさま、コラボいただいたBEAMS LIGHTSさま、Expediaさま、ありがとうございます。

 日付の決まっている今後の予定は以下の通り。更新遅めのこのブログより、facebookのスゴ本オフをチェックするほうが早いよ。

 6/23 テーマ「カドカワ」[申込は締切りました]
 8/4  テーマ「ホラー」(二部構成。片方だけでも、両方参加もOK)
   13-15:00 第一部「子どもと一緒にコワい本」[申込]
   17-22:00 第二部「ガチ・ホラー」(オトナ・オンリー)[申込]

 特にホラー第二部は、大のオトナが泣いて怖がるやつを集めるつもり。恐怖のズンドコへ叩き落そうぞ。facebookのアカウント無いよ、という方は、twitterで@yasuyukimaさん宛てに@でお伝えくださいまし。

 おまけ。わたしがゲトした一冊とExpediaさんのトート。本を入れるのにもってこいなり。

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 おまけその2。はやしださんお土産のタイヤキ。うぐぅ美味すぎる(店の名前訊くの忘れてた!)。

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