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「それでも、読書をやめない理由」は何だと思う?

それでも、読書をやめない理由 いきなり結論、答えは「情報過多だからこそ、本を読むことが重要」になる。

 結論はシンプルだが、ここへたどり着くまでの曲折は、身に覚えありまくり。そして、この結論そのものも激しく納得できる。「やっぱり本が好き!」この理由を腑に落とすことができる、貴重な一冊。

 著者は批評家で、大学では文学を教えている。本を読むのが仕事なのに、ある日、読書に集中できなくなった自分に気づく。

 もちろん、誘惑しているのはネットだ。メール、チャット、ブログ、ツイッター、フェイスブック、ニュースサイト……テクノロジーがもたらすノイズに注意散漫となり、ネットサーフィンの合間に本を読んでるようなもの。ミソとクソと絶え間ないざわめきの中で、作家の権威は失墜し、物語の力は骨抜きになる。

 著者の悩みは身に染みる。実際、イマどきのモノ書きが直面している問題は、まさにこれだろう。彼は、息子の宿題をダシに「グレート・ギャツビー」を再読しようとするが、どうしても読めない。とどめは息子の一言、「もう、だれも本なんて読まない、本は終わりなんだ」。

 ここからの葛藤に揉まれる。大統領のスピーチに対するネットの反応から"結論を編集する"ネット世論を批判/自己批判する。フェイスブックを用いた文学の新しい「ふざけかた」を紹介する。あわせて自分の青春時代を振り返る。カフカ「変身」の一日前をテーマにした自主制作映画を思い出し、文学はメディアによって何層にも読めることに、改めて気づく。

 さらに、テレビのリアリティ・ショーが「リアル」の意味を歪め、行過ぎたニュース解説の物語化が物語というジャンルを台無しにしたと指摘する。ネットでは、シャワーのように最新情報を浴び、わかりやすい言説に飛びつき、したり顔コメントを鵜呑む。そこでは考えよりも反応、知識よりもイメージが優先する―――はやく、はやく、もっと、もっと。

 「もう、本は終わりなんだ」という一言は、著者をうちのめすよりも気づかせる。本を読むことと、情報にもみくちゃにされることとは、まったく逆の姿勢が必要なんだと。本を頼りに、時間の急流から身を引き、現在から距離を置く。そうすることで、本来の「わたしという人間」のありようを取り戻せる、というのだ。

 そこでは、余裕をもって深くのめりこむ姿勢が求められる。一つのページで完結している断片化されたトピックならネットに吸収されるだろうが、順番に進めないと分からないような文脈や、積み上げ形式のコンテンツは「本」が引き受ける。著者の読書観は、次の引用に端的に顕れる。

少なくとも、わたしが本を読むのは、話の底にひそむものを見つけ出すためであり、挑発され、混乱させられるためであり、それまでの価値観をゆさぶってもらうためだ。同時に、作品を読まれる作家たちのほうも、いやおうなく自分たちの価値観を問い直しているのだ。
 ここは、わたしが「スゴ本」と読んでいるものに近い。「スゴ本=凄い本」とは、読む前後で自分の中の何かが変わるほど凄い、という意味だ。単に知を摂取した、ではなく、吸収したモノが体内(胎内?脳内?)で化学変化を引き起こすようなものになる。
物語とは、混沌に立ち向かうための装置であり、一連の可能な解釈を認めつつ、いつでも変わる可能性があると認めるための装置でもある。物語は、芸術的なものも政治的なものも、持続的な集中を求める。
 面白いことに、著者はこの「本」を紙の本に限定しない。出たばかりの頃のKindleやiPadにおける電子書籍を、「貧弱なもの」「(本来の読書における)補助的な役割」といった位置づけに留める。だが、本書の後半で信者と化す。輝かしい本の未来を、このデバイスに夢想する。

 そうかな?「本」としての役目なら、充電無用、起動ゼロ秒の紙の方が良いぞ。長い目なら、アプリとOSとデバイスのサポートがついてまわるのはリスクだぜ―――わたしのツッコミを尻目に、彼は、より根源的な「紙の本の優れた特質」を暴く。これは、どんなにKindleやiPadが進化しても、電子書籍よりも紙の書籍を好み続ける理由のひとつなんだという。それはこうだ―――

紙の書籍は、何もしないのだ。紙の本はわたしが集中することを助けてくれる。読書以外にすべきことは何も提供しない。紙の本は、検索も更新もしない代わりに、わたしが取り組むことを静かに待っている。
 何かと注意散漫になりがちなこの世界において、読書はひとつの抵抗の行為なのだという。そして、わたしたちが物事に向き合わないことを何よりも望んでいるこの社会において、読書とは没頭することなのだと。それは早く終わらせるものでなく、時間をかけるもの。時間をかけて本を読む根本には、それによってわたしたちは時間と向き合うことにつながる。

 本に没入することで、自分を取り戻すという主張は、非常に逆説的だが、ここに至る著者の葛藤を伴にしてきた読者なら、激しく頷くことだろう。

 昨今の読書を取り巻く環境の変化は、まさしく市場の変化をレポートした「本の現場」や、やせ我慢的な遠吠えに聞こえなくもない「本はこれから」などが象徴的だ。だが、ここまで自分に引きつけられた、「イマどきの読書」も珍しい。

 本を愛し、憂える人にオススメしたい一冊。

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