« 2011年8月28日 - 2011年9月3日 | トップページ | 2011年9月11日 - 2011年9月17日 »

驚異の数、魅惑の図形「偏愛的数学」

 ひたすら驚き、戸惑い、不思議がる数学書。

偏愛的数学1偏愛的数学2

 簡単な四則演算なのに、単純な円や三角形なのに、驚くべき性質やふるまいを次々と紹介される。特徴は、タネやしかけを言わないところだな。普通の数学書だと、興味深い数や図形の性質を示した後、「なぜそうなのか」という証明を延々と述べる。ところが本書は、論証抜きで鑑賞しようというのが狙いになる。

 これは諸刃の剣で、数式や証明を追いかけるのが大好きな方には、フラストレーションが溜まるかもしれない。「驚異の数」で畏怖の念を味わい、「魅惑の図形」で視覚的美しさを堪能する、一風変わった数学書なのだから。その代わり、手助けとなる推奨文献の注釈が充実しているのでご安心を。

 著者曰く、「不思議だが本当だ!」でビックリさせられたのは、次の式「和ゼロの驚異」。これはなんて事のない偶然0になっただけの式に見える。

123789^2 + 561945^2 + 642864^2 - 242868^2 - 761943^2 - 323787^2 = 0

ところが、次の操作を行っても、和はゼロのままになる。

【操作1】 各数値の10万の位(左端の数字)を消してみると…

23789^2 + 61945^2 + 42864^2 - 42868^2 - 61943^2 - 23787^2 = 0

 なんと!結果はゼロのまま。さらに各数値の左端の数を消すというプロセスをつぎつぎにくり返してみると…やはりゼロのまま。信じられないが、本当だ。だんだん怖くなってくる。

3789^2 + 1945^2 + 2864^2 - 2868^2 - 1943^2 - 3787^2 = 0
789^2 + 945^2 + 864^2 - 868^2 - 943^2 - 787^2 = 0
89^2 + 45^2 + 64^2 - 68^2 - 43^2 - 87^2 = 0
9^2 + 5^2 + 4^2 - 8^2 - 3^2 - 7^2 = 0

【操作2】 各数値の1の位(右端の数字)を消してみると…

12378^2 + 56194^2 + 64286^2 - 24286^2 - 76194^2 - 32378^2 = 0
1237^2 + 5619^2 + 6428^2 - 2428^2 - 7619^2 - 3237^2 = 0
123^2 + 561^2 + 642^2 - 242^2 - 761^2 - 323^2 = 0
12^2 + 56^2 + 64^2 - 24^2 - 76^2 - 32^2 = 0
1^2 + 5^2 + 6^2 - 2^2 - 7^2 - 3^2 = 0

【操作3】 さらに、右端と左端の数字を同時に消してみると… 

2378^2 + 6194^2 + 4286^2 - 4286^2 - 6194^2 - 2378^2 = 0
37^2 + 19^2 + 28^2 - 28^2 - 19^2 - 37^2 = 0

 なんでこんなことができるんだ!と目を疑う。この規則性が一般的でありえないのは明らかだが、そもそも誰がどんなきっかけで思いついたんだと想像すると、正気と狂気の境目に目を剥く。

 もっと単純に、美しさに気づかされることがある。実際に足すことなくたくさんの数値の和を求める話で、次のS1、S2の式がある。これらは等しいだろうか?

S1 = 100000000 + 120000000 + 123000000 + 123400000 + 123450000 + 123456000 + 123456700 + 123456780 + 123456789
S2 = 987654321 + 87654321 + 7654321 + 654321 + 54321 + 4321 + 321 + 21 + 1

規則性は瞭然だが、足さずに表に示すことで、直感的に結果が明らかになる。
Calc
 こんな感じで、おなじみ友愛数や回文数から、ネーピアの算木、ロシア農夫式乗算法といった数の不思議さを満喫する。

 さらに下巻では幾何を中心に扱い、円、三角形、長方形といった一見単純に見える図形から引き出された驚くべき(でも正しい)事実を述べている。ナポレオン三角形なんて、ここで初めて知った。おもわず「あっ」と叫んだのは、「円に内接するどんな四角形からでも長方形を導き出す方法」だ。円に内接する四角形の各角の二等分線を引き、それらが円と交わる4つの点は、いつでも長方形をなすという。これはスゴい!

 おそらく中学レベルの問題なのだろうが、とっかかりがつかめぬ。「円に内接する」という本質が分かっていないのだろう。けれど、「証明」してしまったらこの魅力がタネ明かしされてしまう。完全に負け惜しみだが、ここは不思議なままにしておこう。今の頭だとエレガントな解法が思い浮かばない…半径1、原点(0,0)の円と円周上の4つの点を適当にとってゴリゴリ力技でやっちゃいそうだなぁ…


| | コメント (0) | トラックバック (0)

夫必読「しんきらり」

しんきらり 妻の気持ちを思いやる助けとなる。未婚の男性なら、「部屋とワイシャツと私」が十年たつとどうなるか? を想像するのに役立つ。読者は女が多いらしいが、むしろ男が読むべき。

 結婚して十数年、わたしと嫁さんの距離はどんどん変わってきた。カイシャやネットのそれぞれの「場」で人格を使い分けるように、二人の関係は切り替わるように変わっている。子育てなら戦友、目が離せない年齢の現場は戦場そのもの。生活面ならパートナー、分担した家事を見直すときは、ルームシェアしているようにドライだ。趣味なら親友、読んだ本のオススメ合いや、深夜アニメで夜を徹したり。

 キレイごとばかりではない。「これ以上言ってもムダ」と飲み込んだ、まさにその言葉をぶつけてくる。相手の感情をかき乱すゲームなら、世界一優秀なプレイヤーを前にして、怒らないよう自制するのは難しい。あきらめと口惜しさを感じながら、全く同じ感情を相手も味わっていることに気づく。「喧嘩しても寝る前までに仲直りしましょう」なんてアドバイスがあるが、無理だよ。

 寄り添ったりすれ違ったり、拒絶されたり頼られたり、生活を伴にすることはかくも難しい。子どもが小さいうちなら、「子ども」メインで語ればいい。だが、子は成長する。家の外で過ごす時間が長引くにつれ、「ふたり」の時間が相対的に長くなる。夫婦という間柄は変わらないのに、その中身がどんどん変わっていく矛盾。

 そういう日常風景を描いているのが、本作品。夫婦の亀裂が広がる瞬間を、ヒヤリと鋭く描く。そのとき妻が何を思い、どう堪えている(あるいは吐き出している)かが、見える。会社という避難所に逃げ込む夫を卑怯だと思い、家庭という入れ物に取り残されているように感じる。日常をつくろいながら、夫への不信と忌々しさをあぶりだす。

 子どもが成長し、手がかからなくなる。それは嬉しい反面、母という役が薄らいでいることに気づいて不安になる。夢とかロマンとか許されるのは男であって、現実をつきつけられて夢を見れなくなっているのは女だと怒る。「ツマやコみたいな"あてがいぶち"もらうと、もう恋愛なんかしちゃいけないっていうのが、常識になるのよね」とうそぶく。その独白は隣で聞いているように生々しい。

    結婚生活に
    過大な期待をもたず

    ただ平和な日々が
    おくれたらと
    ささやかな…

    夫婦が長く平和に…
    という望みは

    「ささやか」な望みなんかじゃ
    なかった

    こんなに激しい夢って
    なかったんだ

 「こんな夫じゃないよな、オレ」と弁解しながら、読む。どうやらこの夫、「夫は会社、妻は家庭」という昔の考えだったようだ。家事は一切やらず、休日はゴロゴロ。あたりまえだ、本作が描かれたのは30年前だから。それでも、彼が押し殺している不安も明らかになる。妻が「妻という役」をしなくなったらという懸念、自分が不要になるのではないかという動揺が、「夫という役」に固執させるのか。

 「関係は変わっていくもの」、これを知っている分、わたしは、この「夫」より不安を感じずに済む。すいすい水面を滑る水鳥は、水面下では必死に足をかいている。「夫婦」という間柄はそのままだが、その関係は変わっていくのだから。夫婦関係とは、ささやかで、激しい関係なのかもしれない。

 本書は、松丸本舗で「呼ばれた」一冊。いい選書、ありがとうございます。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年8月28日 - 2011年9月3日 | トップページ | 2011年9月11日 - 2011年9月17日 »