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安くて野蛮でやたら旨い「檀流クッキング」

 「安くて旨い料理教えろ」というトピックに最適な一冊。

檀流クッキング レシピ本は親切だけど、信頼するのはクチコミになる。掲示板やコミュニティでかじったレシピを頼りに、すばらしくうまい一皿を作ったことが何度もある(ピェンロー鍋とかアンチョビソースのパスタとか)。嬉しいのは、ただ簡便なだけでなく、「ここだけ肝心」「これはこだわる」といった、ポイントを突いているところ。

 本書はそんなキモが並んでいる。しかも、完全分量度外視の原則を貫き、アミノ酸至上主義をせせら笑うレパートリーが並んでいる。「塩小さじ1/2」みたいな科学調味料的態度を突き抜けて、塩の量がいかほどと訊かれたって、答えようがない、君の好きなように投げ込みたまえ、と言い切る。

 それでも、「ゴマ油だけは、上質のものを使いたい」とか、「暑いときは、暑い国の料理がよろしい」のように、妙な(だがスジの通った)こだわりが出てくる。おそらく、ない材料はなくて済ませはするものの、ここを外しちゃダメだ、という最低限の勘所だけは伝えようとしたからだろう。ヘタの横好きのわたしでも分かる、料理で大切なのは「下ごしらえ」なことを。檀センセは説明を厚くすることで、その勘所を伝授する。

 たとえばこうだ、「イカのスペイン風」。文を箇条書きにしてみた。

  1. どんな種類のイカでも結構……ヤリイカ、スルメイカ、モンゴウ、ホタルイカ、手当たり次第実験してみるのがよろしいだろう
  2. まず、魚屋からイカの全貌を貰ってくる。キモとか墨とか抜かれてしまったら、私の「プルピードス」はできないから、「そのまま」と念を押して買って帰るがよい
  3. 棄てるのは、イカの船(軟骨)とか、イカのトンビだけで、あとは肝も墨も一緒にブツブツとブッタ切ればよいのである
  4. モツも、キモも、墨もゴタまぜにして、よくまぜ合わせ、いわば、イカの塩辛のモトみたいなものをつくるのである
  5. 薄塩をする。少し、生ブドウ酒や酒などを加えれば、もっとおいしいにきまっている。ほんの一つまみ、サフランを入れても良いが、なに、塩コショウとお酒だけで結構だろう
  6. この下味をつけたイカを十五分くらい放置した方がよろしいようだ
  7. フライパンにオリーブ油を敷く。サラダ油でもよろしいが、ニンニク一かけらを押しつぶして落とし、トウガラシを丸のまま一本入れるのを、私はバルセロナで確認したから、その通りやって貰いたい
  8. さて、猛烈な強火にし、煙が上がる頃一挙にイカを放り込んで、バターを加え、かきまぜれば終わりである
 どうだい、この豪快さ。「指でかきまぜる」「猛烈な火勢で瞬間いためる」「一挙に放り込む」―――全篇こんな感覚で、ついでにヨダレも垂れてくる。上の通りに作ったのがこれ。キモがやたら美味で、子どもに大好評だったナリ。赤ワインのつまみになったけれど、確かにこれ、パンに浸しながら食べたら絶品だろうなぁ…

Photo

 レシピ本でも掲示板でも、読み手に一番重要なのは、「作れるかも…」ではなく、「作りたい!」というモチベーション。写真もイラストもないのに、文字だけでソソる上手さ(美味さ?)、読むと作りたくなる料理本なのだ。イカのスペイン風「プルピードス」は絶対作るぞ。煮る、焼く、蒸すを全行程するトンボーロ(豚の角煮)は食べたい。いつもは圧力鍋に頼っているが、1日使って挑戦しよう。麻婆豆腐の隠し味にアンチョビが有効なのは初めて知った、やってみよう。

 ただ、これが出たのが40年前。物価高のおかげで、お世辞にも「安い」といえなくなってたり、手に入れることが難しくなってるものもある。皮付きのカツオが手に入っても、藁を探すのに一苦労するだろうなぁ…だがここに、全メニューを作った猛者がいる。ぜひご覧あれ→檀流クッキング完全再現

 本書は、幅書店の88冊のうちの一冊として知った(幅さんに感謝)。「本書の一品一品を、わが腕に叩き込むように覚えてゆけ」を文字どおり実践して、愉快痛快クッキングパパを目指す。


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