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徹夜SF「戦闘妖精雪風+グッドラック」

 「オススメされなかったら読まなかった傑作」というのがある。もちろん読んだからこそ傑作と言える。タイトルだけは知っていて、なんとなく敬遠していたのを、3人に強力にプッシュされる(マヂで感謝!)

 「これから読む徹夜小説」でオススメいただいたハナレさん、「スゴ本オフ(SF編)」でガチ宣言してたyuripop師、「SF好きで雪風読んでないって、アニメ好きでジブリ見てないレベル」と喝破したrokiさん、感謝・感謝です。確かに、自称SF好きなら鉄のモノサシとなる作品やね。

戦闘妖精雪風グッドラック

 主役はなんといっても「雪風」、近未来の戦術+戦闘+電子偵察機だ。いちおう主人公っぽいパイロットやら上司がいる。地球を侵略する異星体(ジャム)と戦うヒトたちだ。が、この戦闘妖精を嘗め回すような描写のデテールを見ていると、著者はこの"機"に惚れこんで書きたくて、こんな設定やらヒューマンドラマをでっちあげたんだろうなぁと思い遣る。

 論理的にありえない超絶機動を採ろうとしたり、合理的な意思を突き抜けた真摯さをかいま見せるので、読み手はいつしか雪風を人称扱いしはじめる。非情・冷徹が服着てるようなパイロットも、"彼女"を恋人扱いするので、ますますそう見えてくるかもしれない。彼にとっては雪風こそ全てで、折に触れ「人類がどうなろうと、知ったことか」と嘯くため、人格破綻者か、非人間的な第一印象を抱く。

 そんな孤独なパイロットが、戦闘を生き延びて行くにつれ、人間味のある一面を見せるようになる。反面、"女性的"に扱われていたマシンが、残忍かつ非情な選択をする瞬間も見せる。テクノロジーとヒューマンの融合、人間味と非人間性の交錯がメインテーマなのかも。けれども、その演出がニクい。先ほど使った「人間味」や「残忍」という修飾は、あくまでヒトたるわたしが外から付けた表現だ。そんな甘やいだ予想を吹き飛ばすような展開が待っている。次のセリフが示唆的だ。人とは何かをテーマにするため、いったん、ヒトを突き放して考えているところが、とてもユニーク。

戦争は人間の本性をむき出しにさせるものである。だがジャムとの戦闘は違う、ブッカー少佐はそう言っていた。ジャムは人間の本質を消し飛ばしてしまうと
 そう、戦況が膠着化するにつれて、ヒトからますます離れてゆく。テクノロジーが先鋭化するにつれ、搭乗する"ヒト"の存在が、機動性や加速性へのボトルネックになってくる。無人化・遠隔化が進むにつれて、「戦いには人間が必要なのか」という疑問が繰り返し重ねられてゆく。もちろん現代でもプレデターやモスキートなどのUAV(Unmanned Aerial Vehicles)が使われているが、あくまでも遠隔操作。打ち出すミサイルの終端には、コントローラーを持つヒトがいる。

 だが、この世界では収集・判断・実行という一連の流れがマシンに委ねられる。空、雲、傘の全てを機械に代理させることで、戦士たは戦線から排除されてゆく。これとシンクロするように、防衛組織が地球の人々から乖離してゆく。防衛組織内だけで通じる発話や語彙がどんどん進んで、地球の一般人とのコミュニケートが困難になる。さらに、厭戦気質をつのらせた地球人が、「なかったこと」にしようとする。すなわち、防衛組織や異星体との戦争をファンタジー扱いし始める。

 マシンとヒトの融合と軌を一にするように、ヒトとヒトの疎外が進んでゆく。人類の危機に直面すると、いがみあってた人々が一致団結するようなものなのに、「地球には人類がいるが、地球人というまとまった集団はない」というセリフまで吐かせる。これはおかしい……という予感は正しい。"見えない"異星体の正体、戦争の行方、疎外されたヒトがどう変化(へんげ)してゆくのかといったもろもろの疑問は、次の独白でトドメを刺される。

地球を侵略すること、それから、人間社会を侵略すること、この二つは、まったく別の行為だと理解することだ。地球の支配者が人類であるというのは、外部から見れば、事実ではない。何度も言うが、それは人間の思い込みであり、思い上がりといってもいい。地球の支配者は植物だとか、海そのものだ、あるいはコンピュータ群である、という見方もできるんだ。
 ちょっとした"お遊び"もまた楽し。心理解析用のアプリケーションの名前が"MacProⅡ"だったり、哲学的ゾンビを敷衍するあまり、きわめてゾンゲリアなグロテスクシーンを持ち出したり、遊びゴコロに満ち溢れている。最初の動機は、実験的な設定を準備して、その中で思うぞんぶん"リアルな戦闘"を追求していくといったものだろう。その試みは大成功で、アニメ化された「雪風」が楽しみでならない。

転校生とブラックジャック ただ、コギトとアイデンティティの命題は食傷気味。独在性をめぐる思考は、「転校生とブラックジャック」でさんざんヤったので、いまさらその縮小コピーを見させられても飛ばしたくなる。おそらく著者は、テクノロジーとヒューマン・アイデンティティの行き先を心脳問題に着地させるつもりだろう(そっちが好みなら、「転校生と…」はスゴ本になるだろう)。ヒトでもマシンでもない存在をつくりあげ、"それら"が異星体と人類の仲立ちとなるような決着をつけるに違いない。

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コメント

>アニメ化された「雪風」が楽しみでならない。

いや、それは……アニメのほうは原作小説とは何か別な物だと割り切らないと(苦笑

近未来的な空戦シーンについては、『マクロス・ゼロ』と『ステルス』の空戦シーンだけを観て、脳内で『雪風』のそれへと置換・補完するのが吉かと思います。

投稿: SFファン | 2011.06.22 10:36

>>SFファンさん

オススメありがとうございます。どれも観ていないので、楽しみです。順にチェックしていきますねー

投稿: Dain | 2011.06.22 23:17

20年も後に出た本の縮小コピー扱いされてもなあw

投稿: パンダリア | 2011.06.23 07:44

アニメ版は・・・。私が思うにSFって映像化されてしまうと自らが頭の中で思い描いていた世界を上書きされてしまうようで世界が狭く感じられてしまう、という感覚に陥ります。特に雪風のアニメは・・・。
是非とも、続編「アンブロークンアロー」もお読みになってください。面白いですよ。
まだ文庫本は出ていないと思いますがハードカバーでも価値ある一冊です。
アンブロークンアローでは心理描写が中心となります。グッドラックまでの躍動感ある戦闘シーンはあまりありませんが、そこはやはり雪風です、クオリティは最高!

投稿: メイヴちゃん | 2011.07.08 00:00

>>メイヴちゃんさん

「アンブロークンアロー」は、最初の一編でつまづきました。乾坤一擲の作戦遂行中に悠長に手紙なんぞ書いている非現実さに興醒めしてしまいました(もったいない)。書かれるテーマは明白だけど、容れ物が練れたらイイ一編になれたかと。

「フェアリイ星」という壮大な非現実の中で、緻密にリアルな戦闘をひたすら堪能する───というのが、(アニメも含めた)雪風に求めたものです。違ってたのかなぁ…

投稿: Dain | 2011.07.08 00:23

結局、ジャムとの戦いは物理的な物でなく、精神的または心理的な場所で決着がつくだろうと気付き始めた「フェアリー星人」等の戦いがハード面からより内側のソフト面に移っていく過程が恐らくアンブロークンアローであったのではと私は考えております。
これは全く異なるアーキテクチャを持つ異星体との戦いを描くSFでありますから(ジャムは肉体を持っているかどうかさえ怪しい)、人間同士の戦いのように物理的に破壊して決着をつけるのが難しいのは当然で、このように心理描写中心になっていくのは致し方ないと思います。
しかしながら、Dainさんのおっしゃる通りにリアル且つ緻密な戦闘描写は雪風の一番の魅力であった事は間違いありませんね。長文失礼しました。

投稿: メイヴちゃん | 2011.07.08 02:24

>>メイヴちゃんさん

「アンブロークンアロー」は途中で読むのやめちゃっていますが、この先の展開はジャム人間やマシンと人の統合体が戦う主体となった、フェアリィ星人と地球の人との戦争になりそうですね…そしてそれが、ジャムの真の目的だったりして。そして、ジャムは外宇宙(または遠未来)から思念だけ飛ばされてきたという後付設定になるのかしらん……

または、無理に風呂敷をたたまずに、「分からない」まま追い払う(そして戦闘シーン盛りだくさん)にするのもアリだと思います。

投稿: Dain | 2011.07.10 14:12

>>SFファンさん

遅まきながらアニメ雪風第一巻を観ました…
確かに、アニメと小説は別物でした。
続きは見ません。

投稿: Dain | 2011.07.12 22:10

ご愁傷さまです(笑。

ちなみに『マクロスゼロ』も『ステルス(Stealth)』もストーリに難有りです。
まあ『マクロスゼロ』のほうは、911テロの影響で企画が二転三転してしまったためらしいのですが。
『ステルス』のほうは、ハリウッドアクション映画の典型的なチープなストーリー。真面目な人が小説雪風を読んだあとに観ると怒りだします(笑。

ただし、空戦シーンだけは、両者とも現時点でも最高峰のものなんで、DVDを借りるより、Web上で空戦シーンのダイジェストを探したほうが精神的満足度が高いかもしれません。その際には、音を消しておくと、ダサいBGMを聴かなくてすむんで、尚良いかと(って、ひどい紹介ですね、我ながら)。

投稿: SFファン | 2011.07.14 10:14

>>SFファンさん

「空戦シーンの(現時点での)最高峰」に惹かれます。アニメ「雪風」観ている時に感じたのですが、リアルを追求すると、ほとんどワケ分からなくなってしまうような気がしています。「ロッコンされたときチャイムが鳴る」なんて知らなかったし。

"解説"を盛り込むとスピード感が薄れるので、予備知識・要ですね、少なくともわたしには。

投稿: Dain | 2011.07.15 06:48

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