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ビブリオバトル@紀伊国屋書店顛末記

 オススメ本を紹介しあい、「チャンプ本」を決めるビブリオバトル。6/26に行ってきた→惨敗だった。まずは敗因分析をレポートし、ビブリオバトルの傾向と対策を分析しよう。そしてチャンプ本や印象に残った本を紹介しよう。まずは参戦した本の山をご覧あれ。

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 参戦者の持ち時間は5分。観覧者に向かってオススメを一冊プレゼン+質疑応答する。一巡したら、最後に挙手で多数決を採るシステム。わたしは第一ゲームの最初の発表者で、持ってきたのは永江朗の「本の現場」。けして他の参戦者の本と遜色ない(というか、ダントツでスゴ本)、さらに「スゴ本知ってる人います?」と聞いたら、かなりの人が反応したので、こりゃイケると思いきや、得票は最低。読書意識が高く、本が好きなら必ず食いつくネタなのにーというわたしの思いは空回り。

 なぜ、わたしのプレゼンは最低だったか?

 それは、「読みたくなった本」を選んでもらう場だから。本をダシに自分語りをしたり、本をネタに一席ぶつ場ではないから。もちろん自分語りをしてもいいし、「親爺の主張」をしても問題ない。だが、評価は"語り"や"主張"ではなく、そいつを通じて、観客が「読みたくなったか」に懸かっている。

 わたしは、これが分かっていなかった。「本が売れていない」「最近の若者は本を読まない」というマスコミ・ストーリーに統計情報で対抗する姿勢を評価したかった。あわせて、本との付き合い方がドラスティックに変わったことを伝えたかった([このへん]でアツく語っている)。わたしの熱意は伝わったようだが、だからといってその本が「読みたくなった」かは別だ。

 それよりむしろ、純粋に「これ面白いよ」と差し出されたエンタメや、大好きだーという気持ちがダイレクトに分かる作品の方が、「読みたい」気分を後押ししたようだ(なぜなら、わたし自身が読みたいと思ったもの)。

 もう一つ。観覧者からのフィードバックで知ったのだが、「スゴ本ブログで知ってた/もう読んだ」(だから改めて読みたいとは思わない)という意見がかなりあったこと。なるほど、確かにおととしこのテーマで誉めまくってたからねぇ…古かったかもしれぬ。ここ経由で見に来てくれる人のために、このブログで出してない奴を引っ張ってこないと【課題1】。

 非常に参考になったプレゼンがあった。中身には全くといっていいほど言及せず、その周囲をウロウロしたり、その本と自分のエピソードを思い入れたっぷりで語る語る。持ち時間をシズル感でいっぱいにするやり方、これはいい。特に、最初は訥々としたしゃべりなので、場慣れしていないのかと思いきや、だんだん熱っぽく饒舌になり、「ああ、この本が本当に好きなんだな」という愛情が素直に伝わってくる。

 後になってパラ見したら、なあんだという気分になったが、実際に開くまでは「読みたい」とワクワクさせられたから、これは成功といえる。悪い言い方になってしまうが、ビブリオバトルの必勝法は「読みたい気分にさせる」ことだから。中身を圧縮して伝えればいいと思い込んでいるわたしは、学ぶべき→中身に触れず魅力だけ伝える【課題2】。

 あと、決め文句重要。POPみたいなもので、本そのものを伝える短い決めゼリフは練っておかないと。今回のチャンプ本では、「この本を読むと、"本が呼ぶ声"が聞こえてきます」と「恐い本は好きで沢山読んできましたが、これが一番恐いです」。あざといかもしれないが、「レジまで持って行かせれば勝ち」に通じるものがある。それでも、レジの後、読ませるまでの動機付けとなるような、磁力ある惹句を準備するぞ【課題3】。

 ビブリオバトルの傾向と対策は、次の3つのポイントに絞られる。

 まず斬新性。必ずしも新刊でなくてもOKなんだが、聴衆にとって「未知の本」であればなおよろし。「本が好き」で集まってくる人たちは、そのまんま小説好き、ストーリー好き。マイナー出版社や傍流の翻訳文学がねらい目。あるいは、逆サイドを突いて、メジャーな作品の新しい読み方を提示できるなら―――かなり上級だが―――勝利に直結する。若手が集まりそうなら、ちょい古め(ボルヘスとか石川淳)を持ってくると目新しがられるかも。

 次はシズル感。すべて言う必要はないし、むしろ言わぬが華。ポイントをまとめて伝えるということは、「読まなくてもいいや」という気にもさせる。正確に伝えるよりも、むしろボかすことで聞き手が都合よく「面白そうだ」と採ってくれるように仕掛ける(やりすぎ注意)。本のタイトルを冒頭にもってこず、イントロダクションでジらすという小技も使える。内容を最低限に魅力だけを伝えるには、話術が必要、エピソードを組み立てろ、熱っぽく語れ。

 そして決め惹句。「この本を読むとこんなオトク感がありますよ」などと、メリットを短く強く言い表す言葉を選ぶ。冒頭のツカみとラストでくりかえす。「人生でありえないほど泣きじゃくる」「ご飯も食べずにイッキ読み」と、五七調を心がけろ、韻を踏め。面白い理由を観客に考えさせない、5分かけて刷り込ませる。ランキング重要。シズル感にもつながるが、「第3位~」「第2位~」と並べることで、聞き手の既読本と友釣りで釣れる。紹介本は一冊限定だが、別の本を出してもいいらしいので、ランキング形式は使える。

―――こうやって文章化すると、あざとさが透け見えるなぁ。だが、そんな後ろめたさを吹き飛ばすようなスゴ本を選べばヨロシ。

 では、どんな本が「チャンプ本」すなわち「一番読みたくなった一冊」に選ばれたか?

WWZ 第1ゲームはマックス・ブルックス「WORLD WAR Z」でゾンビもの。しかもゾンビ戦争が終結した後に、関係者にインタビューをするという異色作だ。紹介者の「得体の知れない恐怖がゾンビというメタファー」という評に惹かれた。あと、普通のゾンビものと違って、最後に人類が勝つのだそうな。ではどうやって? それは読んでのお楽しみ! なんだって。ドキュメンタリーなゾンビなら、ヒロモト森一の「少女ゾンビ」あたりを思い出すなぁ。

小さな本の数奇な運命 第2ゲームはケルバーケル「小さな本の数奇な運命」で、本好きな人のためのファンタジーだという。本よりも「語り」が抜群にうまい。その一冊と自分とのエピソードを積み重ねることで、中身を言わずに面白さだけを伝える、かなり高度な技術だ。"ある本"が二人称で自らを物語るのだが、シズル感満載のプレゼンに、衝動買いしたくなる。わたしが発した質問「"その本"のタイトルは?」への返答がまた秀逸→「明かされていません、これは、読んだ人があれかな、これかなと思い巡らすものでしょう」

 第3ゲームは井上靖「補陀落渡海記」。人生で一番こわい思いをした短篇なんだって。即決だったね(聴衆の反応もそう)。自分の人生が、ある日、期限付きの人生になってしまう怖さ、人生が時限爆弾になってしまうという惹句に、これは! と即買い→即読んだ……が、この怖さは生の一回性の可視化の怖さ。トルストイ「イワン・イリイチの死」のほうが、同じベクトルでより怖い。どんどん「死」へ向かう恐怖をイヤというほど思い知らされる。死に無縁なフリをしている人が想像できる、"最も恐ろしい死の形"を覗き見ることができる(自分は生きながらね)。

補陀落渡海記イワン・イリイチの死

着倒れ方丈記 チャンプ本ではないけれど、最も戦闘力の高かったのが、「着倒れ方丈記 HAPPY VICTIMS」、都築響一の写真集だ。良く言えばファッションマニア、悪く言えば服オタ、ブランドにハマって染まって貢いだ半生が、服・服・服の洪水で満たされた生活空間で語られる。ふつうの、マニアたちを写した一枚一枚が、痛くて切なくて、ちょっとあこがれる(その清清しいほどの潔さに!)。「トーキョースタイル TOKYO STYLE」の服版だね。

 ……しかしリアル書店は危険だ。本をオススメに行ったのに、帰ったときはこんなに買ってる…本マニアならぬビブリオマニアかもしれぬ。所有に拘泥しないから、読書マニア(もしくは読書狂)やね。

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コメント

前からそのようなものがあることは知っていたのですが、初めて観戦することができました。
紀伊国屋南館のイベントスペースの丁度良さ(広すぎない)もあり、結構気軽に参戦できるイメージだったので、自分もどうやったら勝てるかを考えてしまいました。
第一ゲーム、第二ゲームの二つを見た自分は、チャンプと思っていたものと実際の結果が異なっていたことに驚いたのですが、結論としては、プレゼンの完璧性よりも、「ほつれ」もっといえば「萌え」が必要なのではないかと思いました。
勿論、本自体の魅力はあるのですが、観戦者に「応援したい」と思わせる技術が必要なのではないかと思います。端的に言えば、30代以上の男性は不利です。(笑)
大学生女子に勝つには、涙を流すくらいしかないかもしれないので、まずは泣く練習から始めます!
ちなみに、第一ゲーム、第二ゲームで自分がチャンプ本と想像した『はやぶさの大冒険』『ハーモニー』と『ラケス』を買って帰りました。自分が買って帰るならどの本?と思い悩みながら見たので、かなり真剣に観戦しました!面白かったです。

投稿: ぽかり | 2011.06.29 00:44

司会の者です。先日はご参加頂いて有難うございました。傾向と対策まで練って頂いて。私も同感です。特に"言わぬが花"。人は隠されるとますます読んでみたくなるものです。
でも中には技術を凌駕する熱意だけで勝つ人、反対に一言一句作り込まれた話術でその人の世界に引き込む人とかもいて、いろんなタイプのやり方があって、正解はないというところがまた面白いところなんだと思います。
次回ご参加頂けるのをまた楽しみにしております~。

投稿: | 2011.06.30 13:58

>>ぽかりさん

アドバイスありがとうございます。そして、観戦ありがとうございます。その「ほつれ」や「萌え」も含めてプレゼンテーションする、というのが目指しているところです。

完璧さを見せ付けるのではなく、さりげなく瑕疵や穴をあらわにし、そこにツッコまれたら待ってましたと引っ張り込む。それぐらい老獪に行くつもりですぞー


>>司会の方@2011.06.30 13:58

ありがとうございます、「言わぬが花」…そのとおりです!シズル感覚大事ですねー。

チャンプ本となった「補陀落渡海記」、確かに考えさせる面や再読を促す引力もあるのですが、これを「いちばん怖い」とすると、異論反論オブジェクションが沸いてきます。

それでも、「読みたい!」と思わせた時点で、『勝ち』なのです。

投稿: Dain | 2011.06.30 21:27

こんばんは、『着倒れ方丈記』を紹介した者です。
「最も戦闘能力が高かった」…な、なんですとー!!どひぇぇぇ、Dainさん、とてつもなく光栄です。
『本の現場』は(私の)いずれ読みたい本のリストに入っています。ちなみに内容に惹かれました。
そして、ビブリオバトルの見事な分析!ここまで分析なさった方は初めて見ました…。参考にさせていただきます。

投稿: 花岡猫子 | 2011.06.30 23:24

>>花岡猫子さん

いったん開くと、魅入られたかのように見入ります。トーキョースタイルのときは、いっぱいの灰皿とか雑誌の束とか、いかにも進行形な生活空間にどっぷりハマりましたもの。「着倒れ方丈記」は図書館で借りてきました。ハマってきます。

投稿: Dain | 2011.07.02 17:33

マックス・ブルックス「WORLD WAR Z」読みました。
いろいろな人へのインタヴューという形式は私にはきつく、しんどい思いをしましたが、内容が面白く読みきることができました。
以下、ネタバレ全開で感想を書きます。


政治家などの思惑のせいで、パニックが広がっていくところが一番面白いと感じました。
兵站の失敗で、ボロ負けした軍が、装備を改め勝つというのは、もう少し意外性があってもいいのではと思いました。
それに、戦争は終結したものの、ある場所にはゾンビがうようよいるのはどうでしょうか。
いろいろな人々のエピソードもよく、ゾンビに囲まれながら、無線機の声を頼りに頑張る女兵士のエピソードが個人的には一番好きです。
最後に、登場人物に再インタヴューして締めくくるので、500ページ以上あって無理でしょうが、一気読みできるといいと感じました。

投稿: よしぼう | 2011.07.14 07:35

>>よしぼうさん

ゾンビものの「裏」「逆」を突いた異色作かつ力作ってところでしょうか。ヒューマンドラマに胸熱になりそうですね。
ビブリオバトルのときは煽られてしまっていましたが、今読むかというと……微妙です。

投稿: Dain | 2011.07.15 06:44

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