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軽い仏教「官能仏教」

 奔放+エロスな解釈に眩暈する。

官能仏教 コンテキストは、いったん世に放てば、どう扱おうと受け手の勝手。「仏教」も然りかも……そんな気がしてくる。「官能」+「仏教」は本書の造語なのだが、稚児愛、両性具有、性に対するおおらかさなど、妄念・愛憎・欲情にまみれた逸話説話を聞くにつけ、見るにつけ(図柄が多彩なのだ)、わたしが知らない仏教は、きっとあなたが説いている状態にまで至る。

 たとえば、光明皇后のエピソード。膿だらけの病人の垢すりをする際、光明皇后が膿を口で吸い取り、「慎みて人に語るなかれ」と口止めしたところ、病人は大光明を放ち、「あしゅく如来の垢を去ったことを慎みて人に語るなかれ」と告げた話がある。ネタは知ってたが、紹介の仕方がエロい。「男はその行為を要求する」とか「光明皇后は、頭の頂から、かかとまで、男の全身を吸い舐っていく」という書き口は、いろいろいけないことを想像してしまう。「謎の白い液体」もかくや…と想像したくなるほど。

 この話には余談がある。玄奘三蔵の旅に同様の話が出てくるという。あの「西遊記」の三蔵法師の話だ。男が女に、光明皇后が三蔵法師に代わるだけで、やることは「口で濃汁を吸い取る」といっしょ。ただ後半が違って、膿だらけの女はたちまち観音菩薩に変じ、玄奘に巻物を渡したという。その巻物こそ「般若心経」で、その後の玄奘たちの苦難を救ってくれることになる―――ってそんなのあったっけか? これは「西遊記」ではなく、「今昔物語集」が出典なのだからかも。おぞましいエロスに、おもわず読みたくなる。

 もっとエゲツない欲情もある。旅の男を見初めた女が、逢う約束をするのだが、男は逃げだし、女は追う。ちと逆のようだが、若い男女の追いかけっこ、微笑ましいぢゃないかと思いきや、女は蛇になり、竜になり、口から炎を吐くようになる。愛欲に狂い、化物になり、「観音さま、助けて!」と叫びながら滅びの道をひたはしる。命からがら男が逃げ込んだ鐘の中、竜は鐘ごと焼き尽くす話。絵巻物「道成寺縁起」だそうな。

 あるいは、歓喜天について。頭が象の二体のガネーシャが互いに抱きしめあう図なのだが、あれは「鼻を用いた愛撫」「両足を踏む愛情表現」も含まれるという(その発想はなかった)。もとは、世界を手に入れようと悪さをするガネーシャ(ビナーヤカ)を、観自在菩薩が女体化して、愛の作法をもって抱擁する。愛の作法とは、鼻をもって互いの背を愛撫し、胸を合わせ、手で相手の腰を抱く。腹を合わせ、両の足で踏み、赤い裳裾をつける(敬愛を表わす)らしい。愛を示すために「踏む」のは重要、と。

 また、仏教世界での「踏まれる神々たち」を紹介する。踏む/踏まれるは征服関係を示すが、本書では女神カーリーに踏まれているシヴァ神が微笑していることを指摘する。その笑顔は、降伏でも敗北でもないからだという。「踏む」ということは愛情表現の一種だということを知ってはいたが、「踏まれる」こともいっしょなのかと思い知る。精進しよう。

 実践に役立つ(?)テクニックも紹介される。バラモンがが弁才天を口説き落とす「しゃべり方」だ。女という存在は、ほめられるのが大好きだと。美そのものといえる弁才天も同じで、とにかくほめてほめてほめまくる。しかし、抽象的な誉め方ではダメ。その肉体を、言動を、具体的に例示しつつ誉めるのがポイントになる。すると天女さまは、心地よくおなりになって願いを聞いてくださるかもしれないという。オンナは、ほめるもの。オンナは、誉めてキレイになる、これは鉄板ナリ。バラモンさまもわかってらっしゃる。

 こんなノリで、欲情直球で「仏教」を開陳する。「愛欲と仏への信心は、相反するものではない、ともにある」とか、「しょせんこの世は、男と女……これでいいのだ」といった、欲望への全面降伏的な態度が随所に見受けられる。そして、そうした態度を補強するようなエピソードを引っ張ってくる。諦観したような開き直りを見ると、そんな軽いものだっけ? というねじれた目になる。欲望の追求は、たしかに大切だ。が、そのダシに「仏教」がムリヤリ使われているように見える。

 つきぬけた情念は、ある種の「悟り」なのか? 深く考えず、「仏教」に触れてみるのも一興。

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コメント

こんにちは。
宗教のエクスタシーって、あれのエクスタシーに通じるところがあるという考え方もあるようで。。。
京極夏彦著の「狂骨の夢」で真言立川流なるものを知りました。これは露骨みたいですね。

有名な道明寺の話ですが、これは、結局、観音様の力がおよばなかった話ですよね。考えてみれば、神も仏も助けられないことがあるという話してしてわざと残しておいたのかななんて。

投稿: ざわ | 2011.05.13 18:59

>>ざわさん

 >宗教のエクスタシーって、あれのエクスタシーに通じるところがある

ま っ た く お ん な じ こ と を、キ ッ パ リ 断 言 し て お り ま す →「官能仏教」

最初は、あまりの牽強付会に食傷してましたが、宗教とは、生き延びていくためのリハビリの一種なんかじゃないのか、とまで考えるようになりました。
「道成寺」のエピソードは、かなりおどろおどろしい絵図が紹介されてます……って、google画像検索で一発でしたw


投稿: Dain | 2011.05.13 22:43

仏教はホントに奥が深いっすねぇ・・・。
自分の読んできた仏教本は、タナトス的色彩の強い原始仏教や中観派思想ばかりだったので、こんなエロスにまみれた仏教もあったんかい!とびっくり。

とりあえずこの本を探して読んでみようかと・・・。他にもオススメがあれば是非教えていただきたいです。

投稿: | 2011.05.13 23:51

>>名無しさん@2011.05.13 23:51

そこにエロスを見るか否かは、「教え」そのものよりも、その受け止め方に因っているのかなーと思うくらい、「自由な」解釈をしています。
わたしも「仏教」は初心者です。いいのを見つけたら、ここで教えてくださいませ。

投稿: Dain | 2011.05.14 13:58

名無しさん@2011.05.13 23:51 です。

「仏教入門」三枝 充悳
「日本人のための宗教言論」小室直樹
私がかなり影響をうけた本です。(世界観の拡大的な意味でw)

↑は仏教のあらましがザッと理解できて便利。
↓はキリスト教、イスラム教、儒教、仏教を相互比較しながら解説しているので、仏教を「一宗教」として俯瞰でき、いい本だとおもいます。

残念な所は、どちらの本も日本の仏教(とりわけ密教系)への言及があまりない点でしょうか。

投稿: | 2011.05.15 03:47

>>名無しさん@2011.05.15 03:47

ありがとうございまーす!
早速手にしてチェックしますね。

投稿: Dain | 2011.05.15 07:40

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