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風邪にかかるのが楽しみになる「かぜの科学」

 風邪にかかるのが楽しみになる一冊。

かぜの科学 風邪とは何か。風邪を「撃退する」ことはできるのか。ほんとうに「効く」療法はどれで、どれが俗信か。ポリオを根絶できるのに、なぜ風邪のワクチンがないのか―――

 病原体、媒介物、経路、処方箋、民間療法、市販薬の検証、最新の研究成果にいたるまで、著者はさまざまな切り口から風邪の正体に迫っていく。自ら臨床試験(治験)に参加して、試験の様子を報告する件なんて、まさに身体を張ったレポートだね。他人の鼻汁を注いだり、鼻ほじりをこっそり観察する実験は、読んでるこっちの鼻がムズムズしてくる。

 次の「常識」のうち、正しいものはどれだろう?

  1. 「免疫力」が低下すると、風邪にかかる
  2. 風邪には抗生物質が効く
  3. 風邪の予防には、ビタミンCが効く
 答えはマウス反転→【すべて誤り

 無知を承知で告知するなら、本書を読むまで知らなんだ。風邪の季節は免疫力アップを謳うサプリメントを買い求めるし、ひきそうなときはビタミンC入りのドリンクを飲む。医者にかかったら抗生物質を処方してもらうようにお願いする―――そんなわたしの蒙を拓いてくれる。

 風邪とは、ウィルスの侵入による身体の炎症プロセスだという。換言すると、風邪の症状は、わたしたち自身が作り出していることになる。ウィルスの侵入により、サイトカインと呼ばれる化学物質が放出され、これが免疫反応を調節し、病原菌を攻撃する。その一連の炎症プロセスが、鼻水や咳、痛みなどの「風邪の症状」になる。つまり、風邪とは、身体の防御作用そのものなのだ。

 したがって、活発な免疫系を持つ人のほうが風邪の症状に苦しむことになる。これは、「免疫力がある人は、風邪になりにくい」と真っ向から対立する("俗信"とまで言い切る)。そして、「風邪をひかない」人は、風邪ウィルスに感染していないわけではなく、感染してても症状が出ない(不顕性)ことを明らかにする。

 風邪はウィルスであり細菌ではない。だから、抗生物質は効かない。抗生物質は、細菌が細胞壁をつくるのを阻むことで細菌を殺す。ウィルスは細菌ではないから細胞壁をもたず、したがって抗生物質は全く効かない。同様に、抗菌、殺菌効果をうたう石鹸や製品は、風邪の予防に効果はない―――ひょっとするとこれらは常識なのかもしれないが、恥ずかしながら知らなかった……でも、インフルエンザの処方で抗生物質があったのはなぜだろう? インフルエンザもウィルスなのに。体力低下による細菌感染を防ぐためだろうか。

 また、風邪の入り口は鼻だという。手指についたウィルスが鼻いじりや鼻ほじりにより、侵入する。手にウィルス? ドアノブ、スイッチ、キーボードを経由して広がっていくという。わたしが想像しているよりも、はるかに汚れている実態が詳述され、思わず手を見たくなる。もっとも「不潔」なのは、携帯電話とキーボードで、丸洗いできるキーボードや、携帯電話専用の殺菌溶液を紹介している。

 だから、風邪の予防は、ビタミンCよりも手を洗って鼻いじりをやめることになる。「鼻なんて触らないよ!」という方は、カリフォルニア大学バークレー校の公共健康学部の教授のレポートを読むといい。10人の学生がそれぞれ1人で働く姿を観察し、1時間あたり平均16回、目、鼻、唇を手で触ったそうな(うち5回は鼻腔に指を入れた…平均でね)。

 なにかと悪者にされる風邪だが、読んでいくうちイメージが変わってくる。もちろん鼻水や咳は苦しいものだが、風邪にも有益なところがあるという。免疫系の発達を促すには、病原体への暴露を必要とする。つまり、病原体と戦う「鍛錬」をしないと未発達のままで、花粉など無害なアレルゲンに対し過剰な反応をしてしまうというのだ。幼年期に他の子や動物の微生物にさらされることによって免疫系を鍛え、アレルギーや喘息などへの耐性を発達させるという説だ。迷言「なあに、かえって免疫力がつく」まんまやね。

 そして著者は、風邪を擁護するばかりか、風邪との共存を提案する。風邪をひく、とは、自然の力を借りて学校や職場の圧力から逃れることなのだ。体の不調という代償はあれど、日常のストレスから逃れ、一人でゆっくり安静にすることができる。これは、ある意味で健康的なのではないか? と発想の逆転を促す。

 つまり、風邪とは、身体が送ってくる「休め」というメッセージなんだね。だから、ひいてしまったら、職場からも居間からも離れ、感染を広げないようにする。プラシーボ効果はけっこう「効く」らしいから、飲むときは自己暗示をかける。あとはひたすら、栄養と睡眠―――あまり風邪はひかないのだが、次回が楽しみだ。


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コメント

いつも楽しくROMさせて頂いています!
震災後のお子さんとのラーメンの話しは、丁度、我が家でもお昼にラーメンを食べており、もの凄く共感しました。
あれから1ヶ月ちょっと過ぎ、少しづつ気持ちの整理を付けていますが、前向きな気持ちのスキマの安らぎの時間にどうも上手く安らげていないなあと感じる事が多く、何か良いスゴ本をご紹介頂けないでしょうか??くれくれ君で申し訳ないのですが、いつかスゴ本のお返しをさせて頂ければと考えております。

投稿: torao | 2011.04.25 01:34

>>toraoさん

どういう傾向がお好みか分からないので、とりあえず「スゴ本100」からどうぞー
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2009/10/100-7590.html

これのほかにも、このblogの右側に「100冊シリーズ」のリンクがありますよ。

投稿: Dain | 2011.04.25 06:35

いつも楽しく拝読しております。思い出した本があったのでコメントします。

野口晴哉『風邪の効用』という本なんですが、この本にも「風邪は身体の大掃除」とか、風邪を治すのではなく「風邪を経過する」とか書かれており、風邪を「うまくひく」ことで、かえって健康になる方法を伝授しています。私はこの本を読んで風邪をひくことが楽しみになりました。

50年くらい前の本ですし、経験則的な部分が多いので、科学的なアプローチとはだいぶ違うでしょうが、洋の東西、似たような発想はあるものだなあ、と驚きました。もし未読でしたらお試しあれ。

投稿: hachiro86 | 2011.04.25 22:14

>>hachiro86さん

風邪を「うまくひく」という発想は面白いですね。風邪とのお付き合いによる「健康的な人生」もアリですね。無病息災よりも、持病を持っている人のほうが、自分の体に気を配りがちで、結果長生きする、というやつでしょうか…
「風邪の効用」は図書館に予約しました、オススメありがとうございます。

投稿: Dain | 2011.04.26 19:37

時折拝読しております.

インフルエンザの際に処方されたのは,「抗生物質」ではなくて,リレンザなどの「抗ウイルス薬」ではありませんでしたか?特定のウイルスには特定の抗ウイルス薬がある程度開発されています.

あるいは,二次感染予防(インフルエンザに細菌性肺炎を併発するなどを想定していると思われます)のためウイルス感染に慣習的抗生剤投与を行う医師はいまでもそれなりに居ると思います.

投稿: mashow | 2011.05.01 13:23

>>mashowさん

コメントありがとうございます。もちろんインフルエンザは、「風邪」とは別格です。インフルエンザだと診断された際は、リレンザを処方してもらいました。でも、同じお医者さんなのに、風邪(感冒)の場合はPLと整腸剤だけでした。本書はインフルエンザではなく、風邪(ライノウィルス)を中心にレポートしています。

投稿: Dain | 2011.05.01 21:38

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受信: 2011.04.30 23:08

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