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「初秋」は息子に読ませたい

 文句なし傑作。

初秋 ジャンル的にはハードボイルドだが、大人と少年の交感ものとしてジンときたし、ビルドゥングスロマン(成長譚)とも読める。本書はスゴ本オフ@ミステリでやすゆきさんが目ぇウルウルさせながらオススメしてたので読んだんだが、正解ですな。

 離婚した両親の間で、養育費の駆け引きの材料に使われている少年がいる。心を閉ざし、ぼーっとテレビを見るだけで、周囲に関心を示そうとしない。私立探偵スペンサーへの最初の依頼は、「父親に誘拐された息子を母親に取り戻す」だったはずだが、放置され、ニグレクトされた少年に積極的に関わろうとする。そのスペンサー流のトレーニングがいい。

「おまえには何もない。何にも関心がない。だからおれはお前の体を鍛える。一番始めやすいことだから」

ときには突き放し、ときには寄り添う。厳しくてあたたかい、という言葉がピッタリだ。これは二色の読み方ができて、かつて少年だった自分という視線と、いま親である立場というそれぞれを交互に置き換えると、なお胸に迫ってくる。少年が無関心という壁をめぐらすのは、自分を守ろうとする態度。その防御壁が一気に崩れ去るところは、ちゃんとハードボイルドしている。いっぽう、やったことがない父親役を買ってでたスペンサーは、妙な距離をおきつつ、「大人になること」を叩き込もうとする。

 年をとるのは簡単だが、大人になるのは難しい。そも「大人になる」とはどういうことか、わたしの場合、親するようになってようやく分かった。そして、その答えがスペンサーと一緒なので愉快になった。大人になるということは、「できることをやる」。体を鍛えて強くなり、大切なものを守るとか、料理や洗濯など、自活できるようにするとか、あるいは、得意や興味を伸ばして収入を得るといったことも大切だ。だが、もっと根っこのところについて、スペンサーはこう述べる。そのいちいちが、かつての自分自身に言い聞かせているように見える。

「いいか、自分がコントロールできない事柄についてくよくよ考えたって、なんの益にもならないんだ」
「なにか重要なことについて、例えば、お父さんがまた自分を誘拐しようとするかもしれない、といったことについて考えるときは、彼が試みるかどうかについてあれこれ考えるよりは、彼が試みた場合にどうすのがいちばんいいか、とうことを考える方がいいんだ。彼がやるかどうか、きみには判断できない、彼の考え次第だ。きみは、彼が試みた場合にやるべきことを決める。それはきみの考え次第だ。わかるか?」

 自分の方向(運命、将来、状況、環境…)について、あれこれクヨクヨ思い悩むのを、「考える」とか「検討する」と思っている人がいる。それは、「考え」ていることにならない。自分が改善できることや、自分が影響を与えることができることを見極める。そして、自分ではコントロールできないことは極力「考え」ない。「たられば」については、可能性×影響度の高い順にその対策だけを講じておく───要するにリスクマネジメントやね。人生がままならないものなら、ままなるものを注視・注力しよう。これについて、イチロー大兄がうまいこと言ってた。打率争いをしている他の選手についてコメントを求められたとき、こう答えたという。

「自分でコントロールできるものとコントロールできないものを区別し、自分がコントロールできるものだけに集中する」

 この方法は応用が利く。Tumblrで拾った名言に、こうある「つらいことがあったら、事実と解釈を分けよう」……たしかに。事実はコントロールできないけれど、解釈はできる。事実をどう捉えなおすかによって、次のアクションが打てるかもしれない。少年・ポールは、スペンサーの導きで、自分が置かれた状況を捉えなおす。もろ肌ぬいだスペンサーの活躍は、いささか出来すぎているかもしれないが、そこはそれ、ハードボイルドのお約束。

 これは、中学ぐらいになった息子に読ませてやりたい。きっと少年の情感に寄り添った読書になるだろう。そして、息子が成長し、子どもを持つようになったら、もう一度読ませてやりたい。スペンサーの視線になっているだろう。

 子どもの目線と、大人の目線と、両方で読むべし。

  

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コメント

こんにちは。
以前、読みました。おもしろかったけど、そういう視点では読んでなかったので、あらためて、自分以外の感想を読むとおもしろいです。
関係ない話ではありますが、パーカーの翻訳者は菊池光氏で、氏がおなくなりになってから他の方に翻訳が代わってから、母はパーカーはいまいちといっております。ディック・フランシスという作家もそうですね。

投稿: zawa | 2011.02.27 22:08

>>zawaさん

コメントありがとうございます。この「少年視点と大人視点の使い分け」は、オススメいただいたやすゆきさんに教わったものです。
ハードボイルドだから(?)比較的若い世代にウケて読まれた後、大人になり親になり、再読すると、共感ポイントが違っていることに気づく、という仕掛けになっています。
翻訳による「味」の違いは、たしかにあると思います。一種の「慣れ」だと思います。

投稿: Dain | 2011.02.28 06:57

「第3回スゴ本オフ 夏篇」で、『初秋』をご紹介したmachinoです。スペンサーは大人の男としてひとつの理想像だと思うので、中高生で読むのはいいと思いますよー。
また、上にコメントのあるディック・フランシスもいいです。特にシッド・ハレーシリーズの2作目・『利腕』は、「矜持」ということに関して感じるところのある作品でした。

投稿: machino | 2011.02.28 23:10

>>machinoさん

そうだった!大変失礼しました……確かに、やすゆきさんがオススメする前にmachinoさんが「大人の理想像」として紹介していましたね。togetterのまとめサイトを振り返ると「究極の子育て物語」とあります。確かに!
教えていただき、ありがとうございます。

togetter(第3回スゴ本オフ)
http://togetter.com/li/36737

投稿: Dain | 2011.03.01 07:01

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