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「はじめてのがん」に備える

 最初に断っておくと、わたしが告知されたわけではない。

暮らしの手帖 ただ、日本人の2人に1人はがんになるといういま、何の準備もしないわけにはいかない。はじめてのチュウや初体験と同じように、初告知に向けて情報を集める。人生初のセックスと同じくらい重要だぞ、人生初のがん告知(たぶん)。

 もちろん、ある種のダチョウのように、地面に頭を突っ込んで逃避することも可能だ。あるいは、信号無視のDQNのように「見ない=存在しない」ように振舞うこともできる。しかし、自分を大事にするのは自分の努め。家族や仲間のいる「わたし」は、もはや自分だけのものではない。「そのとき」になってあわてて間違った行動をとらないために。今というときがイザというときなのだから。

 そんなわたしにぴったりの特集があった。「暮らしの手帖」の2010.12号だ。題して、「はじめてのがん(がんと告知されたら)」。書き手は森文子さんで、国立がん研究センターの副看護部長、プロフェッショナルやね。twitter で教えてくださった @hukadume さん、ありがとうございます。

 この特集では、告知されたら、具体的にどうすればよいのかがまとめてある。衝撃をやわらげるには、悩みを抱え込まない方法、(治療法ではなく)治療費やケアの相談先、ネットや本の情報をどう取捨選択するか―――いまのわたしにとって必要な情報が全てある。自分メモとして記すが、誰かのお役に立てば嬉しい。なお、自分用にピックアップしているので、必要とする方は本誌にあたってほしい。

 まず大切なことは、「いま、何ができるか、考えること」になる。がんと診断されると、何が悪くてがんになったのかとか、よりによってなぜ自分が……などと考えてしまうという。しかし、がんとは、原因と結果がはっきりしているような単純な病気ではないのだそうだ。だから、後ろ向きの反省(別名:後悔)をくり返すのではなく、「いまできること」に注意を集中する。

 次に忘れてはならないのは、自分のがんを正確に知ること。ありがちなパターンとして、即ネットや本の「がんが消える!」「がんの特効」に飛びついて、その「治ったと言われている」症例ばかりに詳しくなること。そして、自分との差ばかりに目を向けること。重要なのは、自分のがんの正確な情報だ。そして、自分の病状について、もっとも多くの情報を持っているのは、担当医(主治医)だ。だから、入院するまでに担当医にするべき問いは、次のようになる。

  1. どの臓器のどこにある、どういう性質をもったがんか
  2. 大きさや広がり、悪性度や転移の具合はどうか
  3. 五年生存率はどのくらいか
  4. いま、どんな治療法が考えられているか
  5. それぞれ治療法のメリット、デメリットはなにか
  6. 先生はそのうちの何を、どういう理由で奨めるのか
  7. セカンドオピニオンをとるときは協力してもらえるか
  8. 今までどおりの生活が、どの程度続けられるか
 最初の衝撃「どうしてわたしが、こんな目に……」が暴走すると、矛先が主治医に向かう。本来ならば協力者なのに、(ネットの○○という療法に反対だという理由で)人間味が無いだとか「わたし」を見てくれないといった「現代医療 vs 代替医療」の構図で考え始める。米原万理の書評集「打ちのめされるようなすごい本」の後半がそうだ。「私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」「万が一、私に体力気力が戻ったなら」といった語句のすきまに、あせりのようなものが読み取れているうちに、ブツっと途切れる。医師を信頼できず、残り時間を勉強と反目に使ってしまったのだ。優れた作家として、さらには本の目利きとして高く評価しているが、ことがんに関しては、反面教師なり。

 主治医と話すときのポイントは、次の通りとなる。ホントはもっとあるが、絞ってアレンジしてある(だから全部読むなら本誌にあたって欲しい)。

  1. 対話は「あいさつ」から
  2. メモれ
  3. 「言われたこと」を「そのままの言葉」でメモれ
  4. 一人より二人、パートナー同伴で(パートナーもメモる)
  5. 承諾をとって録音→後で理解したり家族に説明する助けに
  6. 分かるまで質問(事前に書き出しておく)
  7. 自覚症状と病歴は、医師に伝えるべき重要な情報
  8. 治療のフィードバックを正直に伝える
  9. 最新医療にも不確実や限界がある
  10. 治療法を決めるのは自分
 そして、話し合いを重ねることで、主治医や看護師と信頼関係を築けという。それができたら、「がん治療は半分以上、成功したようなもの」とまで言う。確かにそうだろう、告知されただけでも不安なのに、協力者が信頼できないのであれば、突き落とされる気分だろう。今ならネットという広大な闇(光?)があるので、そこをさまよっているうちにゲームオーバーとなる。

 本誌では、「ネットを使うな」「がん本を読むな」とは言わない。ただ、「ネットや本や取捨選択して」とアドバイスする。がんは百人百様、同じ臓器のがんでも、病状や体の状態が異なれば、治療法・術後のケア、抗がん剤の効き目や副作用も違ってくる。だから、ある人が副作用で辛い思いをしたとしても、それが「あなた」に抗がん剤をやめる根拠にはならないという。この詭弁はよく理解できる。一をもって全となす別名バンドワゴンで、人により状況により千差万別のがんに対し、そういう論を持ってくる時点で疑わしいと判断してもいい。

 ネットや本から集めたものは、「こんな情報があるのか」程度にとどめ、折に触れて主治医や看護師にチェックしてもらえという。がんについての本なら「総論」を書いたものにとどめておけとクギを刺している(ところが、その「総論」が分からない、がんの本はひとつのジャンル、代替治療はひとつの市場をなしている)。ネットなら以下が参考になるという。いざというときの入口として覚えておこう。

   独立行政法人国立がん研究センター「がん情報サービス」
   財団法人先端医療振興財団「がん情報サイト」

 治療法についての質問は、以下が参考になる。明確な「問い」の形になっているので、いざというときはそのまま使える。

  1. 治療の目的は?
  2. なぜその治療を奨めるのか、なぜその治療が必要か
  3. 期待される効果、再発の危険はどのくらいあるのか
  4. (手術なら)起こりうる合併症や後遺症は何か
  5. (化学療法、放射線療法なら)どういう副作用がいつごろ起こり、どのくらい続くのか
  6. 副作用に対する対応策は
  7. その治療によって、今後の生活はどのように変わるのか
  8. 入院期間や社会復帰までの期間
  9. 保険適用か、自費診療か
  10. 費用はどのくらいかかるのか
 そして、セカンドオピニオンを受けたいとき、カドの立たない言い回しはこれ→「治療を決める前に、できるだけたくさんの情報を集め、納得して治療を受けたいので、○○病院でセカンドオピニオンを受けたいと考えています。必要な書類をお願いできるでしょうか。結果はご報告します」。くれぐれも内緒で受けないようにという。必要なデータを持っていけず、正確なセカンドオピニオンにならないから。

 他にも、おカネの話―――「高額療養制度」や「限度額適用認定証」の手続きが触れられているが、これは告知されたときに考えよう。気になる人は本誌でチェックしてみて。

 わたしは、「まだがんになっていない」だけ。告知されたとき、慌てないように、予習(と覚悟?)をしておきたい。とはいっても難しいだろうなぁ……

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コメント

書店で見てみようかと思います。

# 携帯にて

投稿: luckdragon2009 | 2010.12.03 10:46

買います! ありがとうございました。

投稿: tom-kuri | 2010.12.03 11:03

そうそう、これに加えて、癌検診における、偽陽性、偽陰性の性格を知っておくと良いでしょう。腫瘍マーカーとか、検査の性質は、お医者さんが教えてくれます。
癌によっては、検診いっぱいやっても意味がない、と言うのは、以前乳ガンについて書きましたし、医療団体が、某TV局がやったキャンペーンに抗議した資料でも、知る事が出来ます。

投稿: luckdragon2009 | 2010.12.03 12:00

@hukadumeです。お役に立ててよかったです!
いわゆる「腕のいい医者・成績のいい病院」の情報はたくさんありますが、自分の聞きたいことをちゃんと聞けて、答えてもらえる関係、自分の言葉が伝わる関係を築けるような病院・医者を、自分の生活の範囲(地理的・経済的等や意味や家族への影響の意味で)で見つけることも、それに劣らず大切なのではと思います。

投稿: hukadume | 2010.12.03 13:17

ま、時間があったら、疫学とかコホート研究とか調べると良いですが、さすがに大変かと思いますので。

ま、限定的だけど、あとは喫煙者なら禁煙。
メタボで引っかかるなら、生活習慣病への対策。

これくらいやっとくと、他の疾患も防げて、健康的な「人生」が。まあ、厚生労働省とか、医師会がキャンペーンやっている、提言そのままの生活なんですけどね...。

(要は、みんなが実行していないのが問題なわけで。)

...実は癌で死ぬって、ある意味、幸福だったりもします。何故かと言うと、高齢者になった故の癌患者の増加な訳で、そこまで生きる事のできる国に生まれた幸福もあるんですよ。

オバマさんの片親の祖国なんて、子供時代に HIV/AIDS で死んだり、貧困や、麻薬がらみでの死亡、多いんですよ。

...ケニア、ですけどね。

投稿: luckdragon2009 | 2010.12.03 15:09

>>tom-kuriさん

上述の通り、ごく基本のことが紹介されています……が、こういう具体例が挙げられている書籍を見つけることができません。「○○でがんが消えた!」というやつばかり。


>>luckdragon2009さん

ありがとうございます。「お勉強」は基本的なトコにとどめて、心の準備をしておきます。

   > 実は癌で死ぬって、ある意味、幸福だったりもします。
   > 何故かと言うと、高齢者になった故の癌患者の増加な訳で、
   > そこまで生きる事のできる国に生まれた幸福もあるんですよ。

このセリフは重い&真理ですね。「ガンで死ぬ」とは「ガン以外で死んでいない」が故なのですから。人類の死因をトータルに見ると、おそらく大部分は「乳児期に伝染病」がダントツだと思います。


>>hukadumeさん

ありがとうございます。「暮らしの手帖」はわたしのスコープ対象外なので、ノーマークでした。信頼関係が築けない事情の裏返しが、がん本の氾濫なのではないか……と邪推しています。そして、ひとりではないので、「家族への影響」も考慮しないと、しのぐのは難しいでしょうね。

投稿: Dain | 2010.12.04 18:28

手遅れですが
暮らしの手帖 買ってきました。

投稿: 胃癌退職 | 2010.12.04 19:34

>>胃癌退職さん

そうですか……どの段階なのか分りませんが、この特集での最重要な点は、「医師や治療スタッフとの信頼関係を築く」だと思っています。

投稿: Dain | 2010.12.05 07:18

「がんのひみつ」中川恵一
こちらの本が個人的にお勧めです。放射線科の先生が書いてます。とても小さいですがいい内容だと思います。

投稿: 通りがかり | 2010.12.13 05:49

>>通りがかりさん

オススメありがとうございます。
この記事をきっかけに数多く紹介された中で、今でも本棚に残っているのは、まさに通りがかりさんがご紹介した「がんのひみつ」でした。基本的なところが一通り(斜視偏見誘導なしで)そろっています。

投稿: Dain | 2010.12.14 07:13

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» はじめてのがん-暮しの手帖49 12-1月号(2010) [文学作品を読む blog]
ちょっと、仕事関係でがんのケアについて調べている時に見つけた1冊。 記事の著者は、独立行政法人国立がんセンター中央病院、副看護部長・がん看護専門看護師の森さんという方です。長年の経験に裏打ちされた、わかりやすく現実に即した内容です。私が今までで見た中で最良のアドバイス集と言えるでしょう。 医者と話すときのポイント、医者と話すときの注意、治療法について医師に聞くことが箇条書きでまとまっていて、そのまますぐに使えるようになっているのもgoodです。いざ自分が告知されたら、おそらく頭の中が真っ白になる... [続きを読む]

受信: 2010.12.28 07:34

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