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親も人の子「子どもの心のコーチング」

子どもの心のコーチング 自分の親業を再確認する読書と相成った。

 実用書を読む理由は二つある。ひとつは、知らないことを知るためで、もうひとつは、知っていることを確認するため。本書は後者に値し、わたしの子育てがコーチング手法に沿っていることが分かった。やり方がよければ「よい子」が育つとは限らないが、(そもそも"よい子"という言葉の胡散臭さは承知の上)、自分で考え・生きていける大人になるための手助けにはなる。本書は、まさにそのための良書。読者に問いかけるような章タイトルで、思わず「答え」を知りたくなり、先を促す仕掛けになっている。たとえば、こんな感じ。

  1. 子どもが朝起きるのは誰の仕事?
  2. 「人の役に立つ喜び」をどうやって教えるか?
  3. どうやって「愛すること」を教えるか?
 最初の問いかけは、親子の共依存を的確に示している。「起してもらう」子どもが母親に依存していることは明白だが、この問題はむしろ母親。「子どもを遅刻させたくない」という動機には、「遅刻させるような親は外聞が悪い、恥ずかしい」感情が潜む。本書では、そこまで赤裸々に感情を暴いたりしない代わりに、「子どもに責任感を教える」方法のひとつとして、「朝起すのをやめる」ことをオススメしている。

 「朝起こさない」と宣言し、子どもと一緒にサポートを考え、翌日から起こさない。始めて何日かは一人で起きてくるだろうが、最初に起きてこないときの親の対応が、その後に影響するという。じっと我慢して起こさずにいれば、いずれ子どもは自分で起きるようになる。我慢できずに起こしてしまうと、その日からずるずると古い習慣に戻ってしまう。わが子の場合、今のところ自分で起きてきている。中高生になって部活や勉強が忙しくなると、どうなることやら。「学校に遅刻しないよう、朝一定の時間に起きるのは、誰の仕事なのか」この問いかけは、覚えておこう。

 「人の役に立つ喜び」をどうやって教えるか? という質問は、さんざん実践してきている答えがまさに展開されていて、ちょっと笑えた。子どもがお手伝いをしたとき、子どもをほめないことが大切なんだ。「いい子だね」とか「えらいぞ」というほめ言葉ではなく、子どもが手伝ってくれたことを感謝して、喜ぶのが「正解」なんだと。子どもにとって親は大きな存在。そんな親から「ありがとう」「助かった」「嬉しかったよ」という気持ちが伝われば、これほど嬉しいことはない。「ほめ言葉」という報酬のためのお手伝いではなく、「役立つこと」の喜びそのものが報酬になるのだ。

 ヘルプとサポート(釣った魚を与える/魚の釣り方を教える)の方法論や、傾聴のテクニック、「あなたメッセージ」から「わたしメッセージ」への転換など、有名どこで重要どこは総ざらえで紹介している。ひと昔の自己啓発本が子育て本にコピーしているようで、思わず微笑んでしまう。そういや、かつて自己啓発ブーム(?)の世代が、いま子育てに悩んでいると考えれば納得やね。

 しかし、本書の全部に賛同というわけではない。手法の枝葉についてツッコみたいわけではなく、もっと根本のとこで、強い違和感を抱いたのがいくつか。

 たとえば、「どうやって『愛すること』を教えるか?」という問いへの「解答」なんかがそう。著者曰く、とにかく子どもをかわいがれ、スキンシップや言葉かけが重要だと。それは否定しないが、それだけ? とツッコみたくなる。もちろんわが子に愛情を注ぐことも大切だが、それは「愛されること」を教えるにすぎぬ。「愛すること」を教える端的な方法は、「パートナーを愛すること」を子どもに示すのだ。子どもの前でイチャつくのではなく、パートナーを思いやり、大切に思う気持ちを態度で表すのだ。この、パートナーへの思いやりが丸ごと抜けているところに、引っかかった。

 さらに、子育てにおける悩みや心配事に対するサポートの話で、また引っかかる。子どもと自分だけで閉じこもることは問題だと指摘し、周囲のサポートの重要性を訴えているのは分かる。あたりまえだ、子育ては母親一人でするものでも・できるものでもない。けれども、著者のアドバイスは、子育てセミナーや講演会に行けというのだ。あるいは周囲の友人やコミュニティに相談せよという。パートナーを全くアテにしていないので、逆に不安になってくる。パートナー自身が「あなたの問題の一部」である場合があるとして、それ以上先に踏み込まない。父親は「親」を手放しているように描かれており、「お願い」レベルでアドバイスされる。

 本書には、「パートナーへの思いやり」や「相談先としてのパートナー」という発想が抜けている。あたかも母と子だけの世界で成り立っていて、あふれる不安を解消するためにコーチングやコミュニティがある―――そんな世界で書かれた本のようだ。必ずいるとは限らないが、親やパートナーに、もっと頼っていいのでは? わたし自身、齢とってズルくなったのか、なんでも引き受け・抱え込むよりも、協力しあう「うまいやり方」を探すほうを優先している。妻や子のおかげで、(妻も子も含んだ)人を信じ・頼れるようになった。親も人の子、にんげんだもの(みつを)、もっと頼って生きたいもの。

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コメント

パートナーと相談しあえる家庭がすべてではなく、むしろ相談しあえない家庭ほど子育ての問題を抱えやすいと著者が感じている為、
パートナーの話が出てきていないようにも感じました。
パートナーへの不信は子育てへの悪影響は疑う余地無しだろうと思います。

でもパートナーを変えるのは難しい。

この本を読んでみて、自分(自身の考え方、捉え方)を変えることは出来るはず、という視点なのかなぁと無理やり納得しました。

というのも、読んでみて、私も凄くこの部分に違和感を感じていたので…。

何にせよ、子育てで悩んでいる多くの親御さんへのアドヴァイス本として、よくできているなぁと思いました。
思春期など、一般的に難しいといわれている時期にさしかかってきたら、また再読してみたいなぁと思ったりもしました。

投稿: メガネまま | 2010.11.01 14:34

>>メガネままさん

その「違和感」、わたしも同じです。

誰しも信頼できるパートナーがいるとは限りません。でも、最初から「頼れるパートナー」が不在のような書きっぷりに疑問を感じたのです。わたし自身、嫁さんにとっての「頼れるパートナー」である自信がありません。それでも、そうありたい/そうなりたいと心がけ、実行しています。人を変えるのは難しいというか、ほとんど不可能に近いですが、自分を変えるのは比較的ラクなはず。「よき夫・父」は難しいとしても、(昔より)「マシな夫・父」になれている実感はあります。嫁さんや子どものおかげです。

投稿: Dain | 2010.11.02 00:48

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