« 究極の本棚「松岡正剛の書棚」 | トップページ | スゴ本オフ@BEAMS(8/27)のお知らせ »

「神話の力」はスゴ本

神話の力 世界と向き合い、世界を理解するための方法、それが神話だ。

 現実が辛いとき、現実と向き合っている部分をモデル化し、そいつと付き合う。デフォルメしたり理由付けすることで、自分に受け入れられるようにする。例えば、愛する人の死を「天に召された」とか「草葉の陰」と呼ぶのは典型かと。そのモデルのテンプレートが神話だ。いわゆるギリシア神話や人月の神話だけが「神話」ではなく、現象を受け入れるために物語化されたものすべてが、神話になる。

 本書は神話の大家、ジョーゼフ・キャンベルの対談をまとめたもの。キャンベル本は、現代の小説家やシナリオライターにとってバイブルとなっている。例えばジョージ・ルーカス。スターウォーズの物語や世界設定のネタは、古今東西の神話から想を得ているが、その元ネタがキャンベル本なのだ。本書では、「英雄の冒険」や「愛と結婚」といった観点で古今東西の神話を再考し、神話がどのように人生に、社会に、文化に影響を与えているかを縦横無尽に語りつくす。おかげで、あらためて「分かり直した」感じだ。存在には気づいていたものの、名前を知らなかったものを教えてもらったようだ。

 例えば、かつてシャーマンや司祭が担ったことがらが、我々全員に委ねられようとしているという。衝動に駆られて行動したとき、幸福をとことんまで追求するとき、自分に何が起こるのかを教えてくれるのが、神話だった。神話を通じ、シャーマンや司祭は、何に嫌悪を抱き、どういうときに罪悪感を抱くのか、その社会の構成員の手引きをしていたのだ。ところが、神話の伝え手がいなくなったいま、判断の基準そのものが個々のものになっている。

 わたしはこれを、「価値観の多様化」「フラット化」という言葉で理解していたつもりだったが、「神話の喪失」と考えることもできる。ストーリーを自分で作り出さなければならない世の中になったんだね。子どもじみた選民妄想である「邪気眼」が、なぜか「あるある!!オレも厨二の頃考えた」となる理由はここにある。ストーリーの核は、かつて語り部だけが運んでいたが、マンガやテレビに散らばってしまっているからだろう。

 随所で引き出される神話のエピソードも深いぞ。アステカ族にはいくつもの天国があって、死に方によって行く天国が違うという。面白いことに、戦いで殺された戦士の行く天国と、お産で死んだ母親の行く天国は同じなんだって。つまり、子どもを産むということは、間違いなく英雄的な行為とされているのだ。この母親を英雄視するイメージは強く響いた。子を成すことは、他者の生命に自己を捧げること。子育ての現場にいるからこそ、「母親=英雄」をありありと感じる。まさに「母は強し」やね。

 神話の共通性を掘り起こすにつれて、その理由に目を向けるようになる。一番ピンとくるのは、人類すべてに共通する、生きるための活動のこと。生きるための活動とは、すなわち、生きている他のものを殺して食べることに、集団で参加していることだ。ベジタリアンといっても、植物を殺して食べていることに変わりない。生きている他のものの命の上に成り立っている、人生とはそういうもので、この事実と、「自分のいま・ここ」との間を物語りづけるものが、神話なんだ。

 キャンベルは言う、「神話は絵空事ではありません」と。神話は詩でであり、隠喩なのだと。神話は究極の真理の一歩手前にあると言われる理由として、究極のものは言葉にできないからだと。言葉にできないから、一歩手前にある。

究極は言葉を超えている。イメージを超えている。その生成の輪の、意識を取り囲む外輪を超えている。神話は精神をその外輪の外へと、知ることはできるがしかし語ることができない世界へと、放り投げるのです。だから、神話は究極の真理の一歩手前の真理なのです。

 そして、その外縁の側から自らの人生を、社会を振り返ってみることができる。そこに見いだされる避けられない悲嘆や困苦と、折り合いをつけて生きるのを助けてくれるんだ。人生のマイナス面とかマイナスの時期だと感じられるなかに、プラスの価値を認めることを神話から学ぶことができる。本書をきっかけに、あらゆる物語のなかに神話を探すようになった。

 世界と向き合うため、神話の力を(意識して)使う。そういう一冊。

|

« 究極の本棚「松岡正剛の書棚」 | トップページ | スゴ本オフ@BEAMS(8/27)のお知らせ »

コメント

こんにちは。
神話って話題でおススメ漫画を

日本の神話ってプロパガンダ的な側面が多い空想ストーリーっぽいですね。
ですが、装飾的な部分をそぎ落としていくとそこには本当の日本の歴史が見えてくる。

てな、感じで人情話を絡めながら歴史の謎を解き明かしていく。
星野之宣さんの
"宗像教授伝奇考"
マイナーメジャーですかね。
現在の日本の成り立ちとか見えてきて面白いです。

神話って聞いて骨髄反射的に思い出すのは
佐藤史生さんの
"夢見る惑星"
ファンタジーですけどね。
おススメです。

投稿: 浮雲屋 | 2010.08.10 12:52

>>浮雲屋さん

オススメありがとうございます、星野さんがこんな作品を描いていたなんて知りませんでした。神話系なら、柳田國男が集めた民話(≠遠野物語)を漁ってみようと思っています。

投稿: Dain | 2010.08.12 06:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/18285/49034049

この記事へのトラックバック一覧です: 「神話の力」はスゴ本:

« 究極の本棚「松岡正剛の書棚」 | トップページ | スゴ本オフ@BEAMS(8/27)のお知らせ »