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松丸本舗のさまよいかた

 松丸本舗のワクワク感てのは、ずばり古本屋の魅力になる。

 それも、中古書店の100円ワゴン発掘みたいなのではなく、老舗の古本屋をさまよう気持ち。あの、古いのも新しめもいっしょくたになってそそり立つ棚の前にいる興奮といえば分かるだろうか。目利きが選んだなかで、自分が太鼓判押した既読本にはさまれて、タイトルすら初見のやつを見つけたら―――そう、ドキッとするだろう。そして、たいていその第七官は正解だったりする。

 この感覚は、amazonと新刊書コーナーしか行かないようなハンターには分かりにくいかも。なぜなら、そういう狩人は、目指す著者やジャンルが固定されており、タイトルすら事前に分かった状態で行くから。「あるか/ないか」しか気にしないし、「まどう」ことは時間のロスだと考えているから。迷うにしても、せいぜい「買うか/借りるか/ブックオフ」ぐらい。わたし自身、ビジネス書や文芸書を漁るとき、そういう狩人になりがちだ。そんなとき、ハンターというよりもむしろ、新刊本に餌付けされているような気分になる。

 そういう飼われた読者が松丸本舗に行くと、きっと「わーーーーーーーーーーーッ」となる。ほら、ずっとクサリにつながれてた犬を河原とかに連れて行って放すと、わーっと走り出す、あんな感じ。好きな本→知ってる本→気になる本→知らない本→やば目な本……、どこまででも拡張していける、行ってもいいの?帰ってこれる?期待と不安でめ一杯になってダイブする。大丈夫、ぜんぶアタリだから。

 たとえば、みんなの大好きなエロティックな棚を見てみよう。「過激なエロス」で題された5段は、め一杯官能させてある。もうふつうのエロスでは満足できないアナタのための棚といえよう。手前に平積みされたデュラス「愛人(ラマン)」に目線を取られると、ナボコフ「ロリータ」や「O嬢」が迎えてくれる。性的文学からそのまま目を上に走らせると、サドとバタイユが待ち構えている。たぶん「痛み」つながりで谷崎潤一郎があるのだろう。
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 なんだフツウじゃね?と油断するなかれ、「ジェローム神父」が誘うように、ひょいと載っている。サド原作+澁澤翻訳+会田誠挿絵という地雷だから気をつけて。はっきり言ってこれは劇薬モノで、うっかり開くと大ダメージを食らう。わたしの感想は、背徳の愉しみと目の悦びの5冊「澁澤龍彦 : ホラー・ドラコニア少女小説」をどうぞ。サドつながりは分かるけれど、こいつを橋渡しのように置くのは修羅やのう……こんなカンジで、知っている本や気になる本から知らない本、ヤバ本へ誘導される仕掛けになっている。今回のわたしの発見は岩波文庫の「フランス短編傑作選」、官能棚へ導入するかのように横置きされているので、じゅうぶん期待できる。

 ナボコフ「ロリータ」にもう一度注目してみよう。赤白の帯が見える。これは「Keybook」といって、千夜千冊で紹介された本につけられている。他にも、バタイユ「目玉の話」、ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」、ジュネ「泥棒日記」などが「キーブック」だ。文字どおり鍵となる本で、その両サイドに関連付けられた本が並ぶ。その関連付けられた本に対し、さらに関連した本が並び……という構成をとっているそうな。その並びを全部読んだわけではないからなんともいえないが、キーブックのワキを固めるように、しかもそこから連想が広がるような「棚」となっていることは事実だろう。

 松丸本舗のもう一つのお楽しみに、「ゲスト本棚」があるところ。正剛センセだけではなく、著名人の本棚を練成させているところが面白い。丸善の中の松岡本屋の中のゲストの棚といったカンジ。青山ブックセンター六本木店などで小説家の本棚を再現させる企画があるが、その拡張版といったところ。正直、「ゲスト本棚」はいまいちかなー趣味あわないなーと思っていたら、マニエリストの剛、高山宏の本棚が出現して、狂喜乱舞している。モロわたし好み!ダレル「アレクサンドリア四重奏」、グレイ「ラナーク」、ラブレー、ボルヘス……棚ごと買い取りたくなるのをグッとこらえる(偉いぞ俺)。そういや、これ撮ってたときに、スーツケース持ち込んで五万円ぐらい買ってったお客さんがいたなぁ……現金十万円持って自分を解放するのが、正しい松丸本舗とのつきあいなのかもしれん。
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 好きな本を眺めているだけでも、周りの本が目に飛び込んでくる。自分を放し飼いにしてみよう。

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コメント

このエントリを読んで、会社帰りに行ってみましたよ。
松丸本舗の特徴を理解した上で行ったということを差し引いても、
本棚をみているだけで、考えさせられるというのを体験することが出来ました。

個人的には、ゲーテの「色彩論」が25,000円で売ってたのにびっくりしたのと、
一部で話題になってた「プルーストとイカ」と、その周辺の言語系の本に釘付けになりました。
ほんと、本好きにはうってつけの場所ですよね。

投稿: taka_2 | 2010.05.26 09:44

>>taka_2さん

コメントありがとうございます。「色彩論」て文庫であるのに……と思ったら、完訳版のほうですね……た、高い。「プルーストとイカ」は既読ですが、松丸で見つけられませんでした、その左右に何が並んでいるかが気になります。わたしなら「操作される脳」と「Mind Hacks」を置きたいです。

投稿: Dain | 2010.05.26 22:13

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