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この本屋がスゴい!「松丸本舗」

 松岡正剛がプロデュースした、本屋というより「セイゴォ・スペース」と呼びたい書架群。オフィシャルサイトは[松丸本舗]をどうぞ。

 本屋の魅力は棚の魅力。ノーガキ無用で覗いてみなされ。

 赤白の目立つ帯に、「KeyBook」(キーブック)と記された本が、ところどころに配置されている。これは、まさに「配置」という表現がピッタリなのだ。「キーブック」とは、松岡正剛の千夜一夜で紹介された1000冊を示すという。で、その一冊一冊に連携するような選本をしているのだ。

 たとえば、ワイルド「ドリアン・グレイの肖像」がキーブックなら、その左右に谷崎潤一郎「金色の死」とサド「悪徳の栄え」を並べる。ひとつの興味の焦点が合わさるとき、その近隣のタイトルにも目が届く。「ドリアン・グレイの肖像」はメジャーな奴だから既読か、概要ぐらいは知っているだろう。けれど、そんな本の近くにある、知らないタイトルがあるならば、かなりの興味を引くはずだ。「ドリアン・グレイの肖像」への思い入れに応じて、手を伸ばすだろう。

 このワイルドと谷崎とサドは、一種の文脈、コンテキストを帯びているのだ。この書架の前に立つ人は、自分の既読書から連なるコンテキストを通じて、未読本にたどり着ける仕組みになっている。既読本を通じて、自分の知と好奇心を拡張できるのだ。

 この書店に集まってくる人は、「ある特定の本」を探しているわけではない。タイトルや著者がハッキリしているのなら、amazon で探すだろう。もちろん amazon には、「この商品を買った人は、これにも興味があります」といったレコメンド機能がある(しかもかなり高度だ)。しかし、その連携は、著者だったりジャンルだったり、同じカートの中に入れられた縁の集積だったりする。

 しかし、データベースから抽出した連携は、あくまでも同ジャンルに限られている。試みに得意な分野の一冊をamazonで探してみればいい。検索結果でレコメンドされる本は、おそらく全て読んでいることだろう。似たような本が集まっているのだから、そうした探索行動は既に自らやってきたはずだ(著者、ジャンル、レーベル)。同じような本ばかりを釣り上げているのだから、養殖の釣堀りに等しい。消費としての読書に最適化されているのが、amazon なんだ。新しいジャンルで手がかりをキーに探すには役立つが、自分の既知をエンハンスするのには心もとない。

 その一方で、松丸本舗のスタイルは違う。もちろん同ジャンルの本も持ってくることもあるが、左右は別の発想―――松岡正剛の発想を経た、まるで違うジャンルの本が配置されている。松丸本舗を歩くと、「えっ?なんでこんな本がここに?」と何度も何度も何度も驚かされる。まるでこちらの驚きを見越したかのような、思わずニヤリとさせられる本を「配置」するのだ。松岡氏の脳内を経ているため、自分の興味に沿わないこともあるが、反対に、ズバり刺さるスゴ本が発見できるのだ。知っているスゴ本の隣の知らない本を狩るよろこび、すなわちブックハンティングが楽しめる。これは、松岡正剛の知とのせめぎあいかもしれない。ともすると圧倒されるレイアウトに太刀打ちできないかもしれない。それでも、自分の「この一冊」をキーに切り込んでいく快感、すなわちブックファイティングが楽しめるのだ。

 と、ヨイショするのだが、不満なトコもある。松岡氏の選書だから、どうしても偏りがある。その偏差がわたしの偏りと重なればいいのだが、ちょっと方向が違うようだ。どちらかというと、その時代のメルクマール的な選び方が目立っており、氏自身がスゴいと感じた本よりも、読者ウケを狙っているようなあざとさを感じる。だから、新しい本は入りにくく、あるていど評価が確定された"名著候補"が並ぶようになる。それはそれで悪くはないが、もう少し、そのゆらぎの幅を広げられないか、つまり松岡判断を広げられないか、とゼータクを言いたくなる。

 ところが、新しい本―――先週出たばっかりの奴とか、または、セイゴォてめぇ絶対読んでいないだろうこんなのと言いたくなるようなアレゲなのが混ざっていることに気づく。なぜ?店員さん(メガネ美人、推定28歳)に尋ねたところ、あっさりと問題解決した。追加補充だけでなく、棚を変化させていますかと訊くと、新しい本はスタッフが選んでいるとのこと。それも、「キーブック」を軸にしてピックアップしているそうな。同じ本がずーっとそこにあると、本も棚も死ぬ。そうならないように、新しい本を栄養として、棚が生きていくのだ。

 あにはからんや、本の新陳代謝は店員さんに任されていたのだ。これは面白い「賭け」かもしれない。松岡好みが、(キーブックはそのままに)だんだん変化していくのだ。「松岡正剛の脳」に追記していくような感じ。スタート時の偏りが、どのようにゆらいでいくか観察するのは、この書店の"未来を先取りするチカラ"をみるようで、非常にユニークな実験になるだろう。できればいろいろな人の手で「追記」がなされることを望む。「知」のエンハンスは、この書店を生み出した、松岡正剛自身をも超えることになるのだから。

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