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ちょっと昔へ「写真で読む世界の戦後60年」

 地続きの歴史を体験する写真群。

写真で読む世界の戦後60年 「マグナム・フォト」[MagnumPhotos]をご存知だろうか?ロバート・キャパが創設したフォトジャーナリストの多国籍集団で、写真史に残る名作を数多く発表している。もうすぐ休刊する新潮社のクオリティ・ペーパー「フォーサイト」の表紙を飾る写真といえばピンとくるかもしれない。その膨大な作品群から300点を選りすぐった戦後60年史がこれだ。

 もちろん、オレンジ革命や9.11など、いわゆる「歴史の瞬間」を切り取った写真もある。しかし、ジャーナリスティックなものよりもむしろ、その場のスナップ、いわば「時代の空気」を吸い取った映像の方が多い。それぞれの写真には短いコメントやメッセージが添えられており、膾炙して手垢にまみれたセリフもあれば、初めてお目にかかるのにドキっとさせられるものもある。

 たとえば、「人間、二人に一人は女である」あたりがそう。「人類の半分は女」もいっしょだろう。これは、ウーマンリブ運動華やかなりしころのスローガンだったそうな。気勢を上げる女性陣に、「国際婦人年」のキャッチが入っている(1975)。

 隔世の感をいや増すジミー・カーターの言葉もある。レンガぐらいの携帯電話とゲームボーイ(初期型)を操るカップルの写真に、こうキャプションがつく。「グローバリゼーションは結構だが、インターネットや携帯電話やコンピューターは、地球の半分にとってはかかわりのないものだ」――1998年ごろの言葉とあるが、ケータイ電話もゲームもすっかり様変わりしてしまった。

 あるいは逆に、時の波に洗われてない、変わらなさにガクゼンとするのもある。スペースシャトル・コロンビア号が初飛行したのは、なんと1979年なのだ。どんどん改良されているのだろうが、当時の"最先端の設計"で、今でも飛んでいるのだ。

 また、たしかに同じ時代を生きたはずなのに、記憶がない出来事を知った。ボーパールの大惨事(1984.12.2)だ。インドのボーパールで史上最悪の事故で、殺虫剤工場で爆発し、イソシアン酸塩メチル40トンが街に流出、3万人が死亡し、多くの住民が後遺症と障害を負ったのだ。アメリカの多国籍企業、ダウ・ケミカルはいまなお、この未曾有の人的・環境被害に対する賠償を求められている。チェルノブイリ(1986.4.26)が強烈すぎて霞んでしまったのだろうか。

揺れ動く世界 時代を活写した写真集なら、「世界を変えた100日」[参照]や「揺れ動く世界」[参照]を紹介したことがあるが、これらはどちらかというと、ジャーナリスティック寄りを狙っている。決定的瞬間や記憶に残す構図を目指し、"出来事"を残そうという意図が透けている。いっぽう本書では、「あんな時代もあったね」という"思い出"を残そうとしているように見える。決して笑って話すことはできないが、過去を思い出すための手段として使いたい。

 報道写真のマグナムが過去と決別し、キャパ作品など20世紀の歴史的写真を売却したというニュースがある2010年2月5日AFP。キャパの代表作となったスペイン内線や第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の写真も、地続きの歴史として鑑賞できるようになるに違いない。ドッグ・イヤー、いや、マウス・イヤーと呼ばれる現代、過去をどんどん失われたもの、「亡きもの」にしていく風にあらがって、同じ空気、同じ場所であることを取り戻す。

 昔と今は、たしかにつながっていることを実感させてくれる一冊。

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コメント

『モースコレクション/写真編 百年前の日本』ってのがあります。え、150年前ってこんなだったの?って感じで面白いです。http://www11.atwiki.jp/library/pages/76.html

投稿: barworld | 2010.03.05 10:40

>>barworldさん

おおおっ!これは面白そうです、知りませんでした。居たはずが無いのに、なぜか懐かしい気分にさせられますね……

ハッ Σ(゜ロ゜;)!!

ということは、わたしも立派な過去の人になりつつあるのか!? 類書でナショナルジオグラフィックの「世界が見た 懐かしい日本の風景」を見たことはありますが、昭和初期がメインだったので、とても楽しみです。オススメありがとうございます。

投稿: Dain | 2010.03.06 07:15

>>barworldさん

「モースコレクション」を見ました。旧き良き(?)日本と、和洋混交のスタイルが面白いです。特に、袴姿+革靴の幼い「はいからさん」や、吉原遊女のヌード写真は、めったに見られない珍しいものでした。いわゆる教科書的な、造船風景や機織工場の写真はよく目にするのですが、ごく普通の風景や日常のスナップは、とても貴重です。教えていただいて、とても感謝しています、ありがとうございます。

投稿: Dain | 2010.03.09 00:49

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