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「WATCHMEN/ウォッチメン」はスゴ本

 これはスゴい。映画は未見だが観るゼッタイ。

WATCHMEN 予備知識ゼロで読み始め、ツカミの惨殺シーンに魅せられる。スーパーヒーローが実在し、現代史に干渉する「もう一つの世界」が舞台。かつて「正義の味方」いま「普通の人」が、一人また一人と消されてゆく。エグい。おそるおそる読み進めるにつれ、幾重にも伏線が張りめぐらされていることに気づく。象徴的な道具の使い方や、映画のようなアングルで、物語だけでなく「カメラ」も意識して進める。一人また一人と、ヒーローたちの「心の闇」が暴かれるにつれ、ヒーローもまた人なんだと感傷に浸ったり、人でなくなったヒーローを見いだしてゾっとしたり。

 圧倒される暴力描写と、その暴力を肯定する「正義」とは何か?考える。あるヒーローにとっては、破壊願望や性衝動を発散するため、合法的に「悪を懲らしめる」手段としての「正義」だ。あるいは、別のヒーローにとっては、社会への怒りや怨恨、嫉妬や羨望を体現するルサンチマンとしての「正義」になる。あるいは、政治に利用され、緊張緩和の手段として濫用される「正義」を見ていると、勧善懲悪の時代がノスタルジックに思い起こされる。これは、オトナが読むヒーロー譚やね。ヒーローが被るマスクは、そのまま偽善を隠す覆面であることが、分かってしまった人のための物語。

 いっぽう、「悪」のなんとチンケなことか。コスチュームを着たかつての「悪の権化」いま「ただの老人」も出てくるのだが、利用されるだけの弱々しい存在。コスチュームを脱いだ「悪」は、強盗や誘拐といったハデハデしいものではなく、麻薬密売や売春経営といった地味な犯罪でシノギをこなす。それは、「悪」というよりもむしろ、生き抜く術のように見える。欲望や憎悪に上書きされた「正義」を見せ付けられていくうちに、しだいに「悪」のカタチが曖昧になってくる。

 物語全体が練りこまれ、濃厚で緻密に作られているため、ページを「巻き戻し」て、伏線の妙に「あああっ!」と叫ぶこと幾度か。まちがい探しのようにコマを凝視することしばし。犯人探しのメイズに迷い込むこと数多。そして、最大のミステリ、「なぜそうするのか?」に込められたメッセージの重さに潰されそうになって息たえだえになる。「フロム・ヘル」[レビュー]同様、呼吸するのを忘れて読みふける。

   正義とは何か?
   正義の味方とは何か?
   どのようにして、平和な世の中をつくるのか?
   人類の全体最適が目的ならば、正義の味方はどうあるべきか?

 これらの疑問に究極的に応えている、「動機」が分かったとき、頭ガツンとやられた。意外だったからでもなく、異質だったからでもない。わたしが考えていたものと一緒だったから。わたしがときおり考える、世界から争いごとをなくすための、かなり現実的な手段だったから。

 黒く笑え、自分の黒さを嗤え。イヤだ、こんな読書。アメリカン・コミックで「逆」ヒーローものという二重三重に虚構の話だからつきあえる。「フロム・ヘル」では、切裂ジャックが悪行を代行してくれた。悪は彼に投影された影なので、(たとえ元がわたしのものだろうと)彼だけを安心して見ていられた。

 しかしこれは、強制的にわたしのダークサイドを見つめさせる。「こうだったらいいのにな的な正義の姿」を一個また一個と潰し、えぐり、刺しつらぬく。ここで殺されているのは、罪もない人たちだけではなく、わたしが社会に対して漠然と持っている、「公平さ」とか「真実」と名づけるべきなにかだ。偽史という「もう一つの世界」という緩衝があってよかった。

 狂気?ああ、狂ってしまえればどんなにありがたいことか。でもこれは違う、狂ってなんかいないんだ。パラノイアに取り憑かれた医師の凶行ではなく、きわめて論理的で、おそらく人類で最も聡明な知性がもたらした帰結なのだから。

 正義とは、「悪」っぽいものを対症療法的にやっつけるヒーローなどではない。「正義の反対は悪ではない、また別の正義」という至言を思い起こす。これは、オトナが読む「正義」の物語やね。正義の正体を知ってしまった人のための究極のブラック・ユーモア。amazonの惹句にこうある――「SF文学の最高峰ヒューゴー賞をコミックとして唯一受賞し、タイム誌の長編小説ベスト100にも選ばれた、グラフィック・ノベルの最高傑作」――たしかにその通りだが、ダメージも大きいぞ。

 目を背けること禁止な。ただし、黒く笑うのは可。

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コメント

内容は冷戦時の産物という意見をよく聞きますが、いまでも有効な方法を描いていると思いますか。
私はロールシャッハ、カッコいいとお気楽な読書をした方ですが・・・
それでも正義について考えさせますね。
ちなみに映画はラストを一ひねりして、映像化可能なものにしています。

投稿: よしぼう | 2010.01.27 10:16

この漫画って、バットマンとかへのパロディですよ。
確かに正義とは何かとかもテーマになってますが。

投稿: | 2010.01.27 15:31

こんにちは。
映画は見ました。
ロールシャッハの声は、吹き替えだとうまく表現できないだろうなとか、
放射能浴びた人の全身が、目のやり場に困ったとか、メタボのおっさんの
フルヌードは見たくないわ(キャラクターとしては、一番好感度は
ありますが)でしたが、見る前と後では全然印象が違う映画でした。
だいたい、正義のヒーローというけど、最初に殺されたキャラクターが
日本でいう正義のヒーローとはものすごく、かけはなれている存在なのが
衝撃的でした。
最近、欧米で求めるヒーローというと、古きよき時代のスーパーマンでは
なく、いわゆるコンプレックスをもったダークーヒーローが求められるので
しょうか。(うまく表現できませんが。)

最近は、ライトノベルの『とある魔術の禁書目録』の少年らしいヒーローを
読んで癒されています。(*^-^)

投稿: ざわ | 2010.01.27 17:18

>>よしぼうさん

オススメありがとうございます、おかげでドキドキする読書になりました。
外側に敵を設ける「あの方法」は有効だと思います……というよりも、規模の大小を問わずプロパガンダの常套手段として目にします。

  > ラストを一ひねりして、映像化可能なものにしています。

おお!映画は、かなり期待して観ます。ありがとうございます。


>>名無しさん@2010.01.27 15:31

「パロディ」という言葉が含んでいる、風刺やユーモアといった要素は、ほとんど見つけることができませんでした。むしろ、スーパーヒーローの世界を下地にした二次創作のようなものに見えます。


>>ざわさん

おお、映画の感想、ありがたいです。「コンプレックスをもったダークーヒーロー」といえば、同時期に公開された「バットマン ダークナイト・リターンズ」の評判が良いので、この機会に見たいです。

「とある魔術」は嫁さんが追いかけています。「WATCHMEN」で荒廃した心が癒されそうですね。

投稿: Dain | 2010.01.28 06:51

「ウォッチメン」を読んだならば、同作者の「Vフォーヴェンデッタ」もぜひ読んでみて下さい。「ウォッチメン」の原型と呼ばれるだけあって、荒削りな部分はあるものの、こちらもかなり凄まじい物語です。先日発売されたばかりの「バットマン:キリングジョーク」といい、アラン・ムーア最高すぎます。

投稿: 機械 | 2010.01.29 01:00

>>機械さん

読みます!オススメありがとうございます。
「凄まじい物語」という惹句そのとおりのような気がします。

投稿: Dain | 2010.01.29 06:53

確か「Vフォーヴェンデッタ」も映画化されていますね。映画の評判は可もなく不可もなくというところです。
「ウォッチメン」の映画化はほとんど漫画の完全コピ-に近く、監督のこだわりがうかがえます。売店で売っている新聞や張り紙の文字一つにも、ものすごい情報量が詰め込まれています。あの原作の映画化なので当たり前かもしれませんが。それと、映画が始まってすぐのタイトルロールにも注目してください。漫画前半をウォルホールなどの似ているんだが微妙に違う人たちを使って再現しています

投稿: よしぼう | 2010.01.29 18:37

ヒーローのみで構成されている街の警察の活躍を描いた 同作者のトップ10も面白いですよ。
フロムヘルやウォッチメンと比べると娯楽向きですが
あと翻訳されてませんが不思議の国のアリスなどの古典作品を性的なメタファーとして
解釈しなおしたLost Girlsという作品が絵を見るだけでもすごかったですね。

投稿: 海 | 2010.01.29 19:33

>>よしぼうさん

  >映画が始まってすぐのタイトルロールにも注目

了解です!ありがとうございます。コミックのカメラ位置が非常に映画的だなーと思ったので、完全コピーを目指して撮ったのであれば、かなりデジャヴ感覚が楽しめそうですね。映画を丸々観る時間がなかなか取れないので、厳選する一本として楽しみにしています。


>>海さん

"Lost Girl" をチェックしたら……見てぇーーー!でもお値段も立派ですね。
教えていただき、ありがとうございます。「トップ10」はどうしようか迷い中です。

投稿: Dain | 2010.01.29 23:37

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