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東大の受験生に何を読んでもらうか?

 ブックディレクターという仕事がある。

 人や場所に応じて、本を選ぶ「棚作り」をするのだ。本をたくさん読んでるだけではダメで、読み手(候補)とのコミュニケーションを通じ、「手にとってもらう/読んでもらう」工夫を創造しなければならない。

 さて、仮にアナタが「ブックディレクター」だとして、こんな注文が来たとしよう。「駿台予備校駿河台3号館の本棚をディレクションしてください。ここに通う受験生は、東京大学を第一志望としています」アナタなら、どんな本をどうやってレイアウトする?

 答えは最後のお楽しみ。これは、ブックディレクター幅允孝氏が、実際に手がけた仕事なんだ。先日、彼の話を直接聞ける機会があったので、反応のようなものを綴ってみる。

 その場は「ホントーク」、本にまつわる本気のトークという意味らしい[参照]。ゲストに本を5冊選んでもらい、それをサカナに幅氏と本気のトークをするという企画。今回のゲストは、candle JUNE氏で、争いや災害のあった地を巡り火を灯し続ける人だ。

 幅氏の面白さは、本との対峙の仕方に現れている。本をツールとして使うことこそが重要だという。曰く、本をたくさん読んでいるからといって、エラいわけではない。本をうまく「使えて」いる人こそ、エラいのだというのだ。「一日に本を○冊読んだ」と自慢するのは、本を読むこと自体を目的化してしまっている。それより、読む本を一冊にとどめておき、残りの時間は、いましがた読んだ本をマクラに、誰かと出あったり、語ったりすることに使うのだ。たとえ一冊しか読まない人でも、そこで得た気づきや情報を、縦横無尽に使いこなせる――それが、本読みの理想だという。

 もう一つ、わたしと違った良いところは、レンジの広く柔軟なところ。わたしの場合、「人生は短く、スゴ本は多い」にしたがって、読むべき本を選ばねばー、なんて堅苦しく考えてしまう。名作どころを順番に読もうとする姿勢がストイックだしwww。一方、彼の場合レンジがものすごく広い(というか、ない)。基本的にタイクツにできている世の中をかいくぐるうえで、もっとも重要なのは、自分の好奇心。だから、好奇心を奮い立たせるため、アンテナに本が入ってくる瞬間に気を配る。偶然に出会った一冊を大切に読もうとするのだ。この人の個人的な「本棚」はさぞ興味深い+カオスの極みだろうなぁと、想像するだけでニコニコしてくる。

 今回のトークで紹介された本のうち、一番響いたのは、 ヴィスワヴァ・シンボルスカ「終わりと始まり」。戦争「後」をテーマにした詩の朗読があったのだが、胸をつかまれた。ぜひ手に入れて、味読したい。

終わりと始まり

 おっと、「解答」を記さないと。

 だいたい、東大を受験するような輩は本なんて読みたくない。言い方に語弊があるなら、「受験に関係のない本」は読まない。そんな彼(女)らに、どうしたら本を手にとってもらえるのだろうか、読んでもらえるのだろうか?実際、選書は手ごわかったそうだ。予備校の本棚といったら、各大学の赤本がズラリ鎮座ましまするもの。わたしだったら、せいぜい「16歳の教科書」か「ドラゴン桜」、あるいは「アカデミックグルーヴ」を差し込むことぐらいしか思いつかない。

 しかし、幅氏の仕事は違っていた。

 インタビューの方向を変えて、「なんで、東大に行きたいの?」と問うたそうな。すると、ちょっと奇妙な答えが返ってきたという――それは、さまざまな形をとっていたけれど、要約すると、「東大という"アイコン"が欲しい」になる。とにかく東大に入りたい、入れるのなら、入れるのなら、学部はどこだっていい、というのだ。どの学部で誰が何を教えているか、知らないという人がほとんどだったそうな。

 そこで、幅氏が選んだのは、

    1. 東大の教授が書いた本を、学部別にズラリ
    2. 東大生がつくったフリーペーパーを、ゴッソリ
    3. 東大卒業生の本を、卒業年、学部別にズラリ

と揃えたのだ。特に3. が大切で、吉田茂からドクター中松、かこさとしと経歴のバラエティを広げることに気を配ったという。明確な言葉にしていないにせよ、「東大でても、やることは無数にあるよ」というメッセージが込められている。実際の棚の写真は[ここ]、いい仕事、してますな。

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コメント

こんにちは
「東大を受験するような輩は本なんて読みたくない。言い方に語弊があるなら、「受験に関係のない本」は読まない。」に胸を突かれました。
東大というブランドを使うことで将来が
ある程度作れることは重要だけど
それだけが重要でないとあらためて思いました。

シンボルスカは本当にいい詩しかないですよね。
土曜美術社の詩集を持っているのですが、翻訳されても壊れない言葉に捕まってしまいます。

投稿: イダヅカマコト | 2009.09.07 12:37

>>イダヅカマコトさん

「翻訳されても壊れない言葉」――たしかにその通りですね。

昨日入手して、ぼつぼつ読んでいます。やさしい言葉づかいで、普遍的な語りに耳を傾けているうちに、だんだん手繰り寄せられて、「語り」と同じ場所に立っている自分に気づきます。「共感」よりも、もっと強いもの(連帯?)を感じます。

毎晩、眠るまえに一編ずつ読んでいきたいです。

投稿: Dain | 2009.09.08 23:18

「東大を受験するような輩は本なんて読みたくない」は、正確には「駿台予備校に居て、東大を受験するような輩は本なんて読みたくない」だと思います。

でも、3.のブックディレクションは一つの良いやり方だとは思いますが。

投稿: | 2009.09.10 00:37

上に同意。駿台予備校出身なんて少数派から東大生を一般化するのは失礼な気がする。

東大生の3割くらいは受験勉強らしい受験勉強なんてほとんどしてないで入ってきてるのが本当のところ。
より上位の大学がない分、余裕で合格しちゃう人の割合が多いので。

投稿: | 2009.09.12 09:47

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