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死にたくなったら図書館に行け

 自殺しようとしている男の下に、こう書いてある「自殺したくなったら、図書館へいらっしゃい」。つまりこうだ。図書館には様々な手引書や目録があり、司書は、あなたの調べもののお手伝いをいたしますよというのだ。あなたの「死にたい」という問題を解決に導くだけの自信があってこそ、このセリフを吐けるのだろう。

library


Library Instructions,by Ann F. Roberts. Littleton, CO., Libraries Unlimited, 1982,p.46

 死なんとする人の「問題」や「解決」がどこかの本に書いてあるからといって、その人の苦悩が減ずるわけはない。しかし、それでも、アプローチを見つけるために図書館へ向かうのは、良い選択肢の一つに違いない[逃げ場としての図書館]

 その悩みは、既に誰かが経験済みのものだし、うまくすると、自分では気づかなかった解決策も書いてあるかもしれない。あるいは、自分の絶望と同じ感情を爆発させている人を探し、そこに同志的な慰めを見出すかもしれない。さんざ探し回った挙句、「それは時のみが解決する」ことがわかっても、その時の気持ちが変わっているかもしれない。D.H.ローレンスが上手いこと言った。

将来のことを考えていると
憂鬱になったので
そんなことはやめて
マーマレードを作ることにした
オレンジを刻んだり
床を磨いたりするうちに
気分が明るくなっていくのには
全くびっくりする
 図書館という「外」へ探しにいくことは、このマーマレードを作ることに似ている。あるいは、そんな漠然としたものでなく、もっと具体的な苦悩には、具体的な本が似つかわしい。

なぜ私だけが苦しむのか
 たとえば、「われこそは現代のヨブ」と自負する方には、「なぜ私だけが苦しむのか」[レビュー]がオススメされるかもしれない。心に痛みを抱きながら、日々なんとかしのいでいる人がいる。突然、わが身に降りかかった災厄──病や事故、わが子や配偶者の死──から立ち直れないのだ。そんな人にとって、伝統的な宗教はあまり役に立っていない。不幸に見舞われた人が望んでいるのは、ただ黙って聞いてもらい、同情を寄せてもらうことなのに――そんな趣旨の一冊。

お金の味 あるいは、借金に苦しんでいる人には、「お金の味」[レビュー]が渡されるかもしれない。1億2千万円の借金を負ってしまったフリーターの転落~起死回生の記録だ。雇う側と雇われる側の論理、カネを活かす人とカネに殺される人の「差」が生々しく描かれている。かつてこうしたノウハウは、弁護士や取立人といった債務整理の関係者が独り占めするところだった。しかし、今ではメールやWebを用いて、「ヨコの」連携ができるようになったのだから、隔世の感がする。

 いやいや、積極的にかかわらなくてもいい。だいたい自死を選ぼうとする人が、「問題」を「解決」しようなんてポジティブになっているワケない。本なんて読んでられないだろうに。「これから図書館員のみなさんへ」(竹内 、図書館問題研究会、2001)で、図書館の役割の一つとして、「気持ちを休める場所を提供してくれるところ」が挙げられている。独りでひきこもっているより、近所の図書館でボーっとしてみるがいい、そう勧めるのだ。あるいは、雑誌「世界」2005年8月号「自殺したくなったら、図書館に行こう」に、こうある。

活字のない場所にも、言葉があります。その人を生かしめているものが言葉だからです。手押し車を押してきて、ただ座っているだけのひと、来ていただいてうれしいです。行き場のないひと、ケンカをしても隠れる場所がないひとを孤立させない、自殺させない、そう思います。
 けれども、図書館員がハウスマヌカン(死語)よろしく寄ってたかってカウンセリングしたがるのは勘弁。むしろ、心地よい居場所だけ提供してもらい、生温かく見守っておくのが正解かと。「本のかたち」フォーラムでの橋本大也氏の提言「万人を迎え入れてくれて、放っておいてくれる場所」のほうがしっくりする。

 本屋さんの「買え買えビーム」や「読まねば損々オーラ」が眩しく入り乱れており、落ち着かない。あたらしい本ばかりというのもアレだし。その点、図書館はいいカンジでアクが抜けてて安らげる。新人のコを物色するというなら新刊書店で、なじみの店でくつろぐというのが図書館という構図。図書館は現代のアジール、老若男女を問わない駆け込み寺なんだ。イヤなものは館外にうっちゃって、しばし避難しよう。

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