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10ドルの大量破壊兵器「AK-47」がもたらした世界

AK47

「こうと分かっていれば、自分は時計職人にでもなるべきだった」
 アインシュタインのこの言葉を思い出す。自分の研究の"成果"である原子爆弾がもたらした惨事を知ったときのセリフだ。ミハイル・カラシニコフは、自分がつくったAK-47について、こう語っている。

「わたしは自分の発明を誇りに思っている。しかし、それがテロリストたちに使われているのが哀しい。人びとが使えて、農民の助けになるような機械を発明すればよかった。たとえば芝刈り機のようなものを」

 単純な構造のため誰でも扱え、めったに故障せず、きわめて安価なアサルト・ライフルAK-47。この突撃銃は、戦争の形態から世界のパワーバランスまで変えてきた。累計一億挺以上つくられてきたAKの構造と、世界に蔓延していく様を、(悪い意味での)ジャーナリスティックに描いている。「アフリカのクレジットカード」と呼ばれるほどコモディティ化しており、人類史上最も人を殺した兵器として名をはせた理由がわかる。

 面白いのは、M16の開発秘話やAKと対決した様子を描いているところ。米ソ対決を象徴するかのように、M16とAK-47は好対照をなしている。信頼性、コストパフォーマンス、浸透度、ほぼ全ての面において、AKが圧倒している。にもかかわらず、それぞれの開発者の人生行路が皮肉じみている。M16を開発したユージン・ストーナーは、銃が一挺売れるたびに、一ドルが懐に入る。比べて、AKを開発したカラシニコフは、一銭ももらえない。

カラシニコフ あわせて読みたいのが、松本仁一著「カラシニコフ」。

 「AK-47 世界を変えた銃」は、「AKという兵器」を中心に据え、冷戦の終結によりバザール化される様子を描写してみせる。いっぽう「カラシニコフ」では、世界の紛争地帯や、失敗国家で起きている状況を、AKで説明しようと試みる。

 残念ながら、その試みは成功しており、AKがベトコンやムジャヒディンの「貧者の兵器」として浸透している様子がよくわかる。同時に、操作性・メンテナンス性にすぐれたAKが、優秀な「子ども兵」の原動力となっていることが明らかにされる。

 誰でも簡単に扱える銃が誰でも簡単に手に入るようになったことにより、人を殺せる層が拡大する。つまり戦闘のプロ「兵士」の範囲が拡大し、女子供でも大量殺傷が可能となった。加えて途上国での不安定な国情に乗じた安易な「徴兵」の結果、ティーンエイジの子ども兵と化す。

子ども兵の戦争 つなげて読みたいのが、「子ども兵の戦争」。

 子ども兵は、「見えない兵士たち」と呼ばれており、その意味は強烈だ。小さいから見えにくいといったことではないし、非戦闘員として危険視されない存在という意味でもない。

 つまりこうだ。拉致や誘拐で動員された子ども兵は、安価で使い捨てられる存在なのだ。生き長らえる子どもはごく少数で、文字通りこの世の中から消えてなくなる。「見えない兵士」あるいは「子ども兵なんて最初からいない」という真の意味はここにある。

 そうした子ども兵に与えられる武器が、AKだ。先に述べたように、メンテナンス性にすぐれ、わずかな訓練で誰にでも扱うことができる。「子ども兵」を成り立たせている要因はさまざまだろうが、AKが誘因となっていることは事実だろう。

 10ドルの大量破壊兵器は、誇張でもなんでもなく、文字どおり世界を変えている。


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コメント

コーク・マッカーシーの言葉でしょうか、マーク・ボウデンの『ブラックホークダウン』(映画の原作)で引用されていた言葉を思い出します。

「戦争はいつだってこの世にある。
人類が現れる前から戦争は人間を待っていた。
最高の生業が、最高の担い手を待っていたわけだ。」


個人的には『カラニシコフI』以来
ネット各所ではAKが諸悪の象徴みたいにされているのに疑問を感じます。
戦争をするのは結局いつだって人間なのですからね。

投稿: jackal | 2009.05.20 17:37

>>jackalさん

ああ、確かにそうですね。安価で使い勝手の良い銃に過ぎないAKを、反体制やゲリラの象徴として扱ったのも事実。金メッキされたAKを掲げるフセインや、AKをかかえるウサーマ・ビン=ラーディンの映像が、そのイメージを後押ししています。

投稿: Dain | 2009.05.21 06:52

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