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白痴化する老人、無教養のサラリーマン、そして、あつかましい若者たち

 どうやら、一億総「無脳」化の時代らしい。自己中心主義で、感情だけで脊髄反射する、老人、若者、サラリーマン――どこにも知性や教養が見えない。美しい日本語が失われ、このままでは日本はおかしくなってしまう。

 たとえば、老人は、1日にどれくらいテレビを見ているか?

 ある調査によると、65歳以上の老人の実に8割が、1日に9時間ものあいだテレビを見ていることが分かった。1日9時間!これはあまりにも長すぎる。テレビばかり見ていると、想像力や思考力が低下してしまうという「一億総白痴化」によれば、老人の白痴化は粛々として進んでいるといえる。

 そして、社会を担うサラリーマンの教養はどうだろう?

 日本のサラリーマンが、1年間に自分で買って読む本の数は、単行本がたった3冊、週刊誌が12冊だそうな。これが1年間の読書量なのだ。あとはせいぜい会社から与えられた仕事の資料ぐらいしか読まない。これでは蓄積どころか、頭のほうはどんどん退化していく。国民がどんどん愚民化していくのは、まず本を読まないことから始まっているといっていい。

 では、若者たちは? これからの日本を担う若者たちはどうだろう?

 いわゆるいまどきの若いものは、一時的にキャアキャア騒ぐことにかけては名人だが、恵まれた時代に甘やかされて育っているので、箸にも棒にもかからないようなグウタラ人間もいる。暴走族といった、自分の不良性をテレビや雑誌でさらけだすあつかましい若者たちがいる。

気くばりのすすめ ――――――――というエッセイを読んだ。「気くばりのすすめ」というやつで、書いた人は鈴木健二。NHKのアナウンサーで、30代以上なら彼が司会の紅白歌合戦を見たことがあるだろう。初版は1982年で、400万部以上の大ベストセラーになったから、ご年配なら読んだ方も多いだろう。

 しかし、本書の魅力はここで尽きない。「ちかごろの若者はダメだ!」とか、「国民が幼稚化しているッ」といった憂国モノが流行っているが、本書はソコで留まらない。滑らかな言葉でバッサリ斬っていっちょうあがりの売文教授とは異なり、対策が具体的かつ自伝的に明かされている。

 では、どうすればよいか? タイトルにもなっているとおり、「気くばり」こそが国を救うそうな。

 気くばりや思いやりは、知識として頭にあっても、それが血肉化していない限り、何の意味もないそうな。最近の日本人には「やさしさ」が欠けていると言われているが、日本人の心が冷たくなったわけではない。社会的訓練や習慣に起因するのだという。つまり、気くばりや思いやりの気持ちを表すことに、単に慣れていないからなのだと。

 そして、気くばりや思いやりを表現することは、「技術」や「コツ」なのだという。子どもたちに知識を詰め込んでよしとするのではなく、思いやりを行動に移す訓練をつむことで、変えられると主張する。

 たとえば、会社で部下に声をかけるとき、「名前」をつけてみてはと提案する。部下というのは、上の人に名前を呼ばれている限り、「自分はこの人に信頼されているのだ」という実感を持つ。だから同じ呼ぶなら、「オイ!」や「そこの若いの!」といった代名詞ではなく、ちゃんと名前で呼んだほうが部下掌握の決め手になるのだという。

 また、教育は幸福になる決め手で、そのための安上がりで楽しい方法は、読書だという。NHKのアナウンサーという仕事上、週に最低30時間の読書をしているのだと豪語する。なかでも数学が最重要だとし、30時間の中で最低4~5時間は数学史の読書にあてているそうな。数学はもともと不得手だったが、物事を論理的・体系的に考え、まとめあげていくために、どうしても必要だという。

 そして、冒頭の白痴化する老人を作った原因は、「テレビ」だと断ずる。食事の時間、家族全員がそろうが、誰も口をきかない。行儀よく食べているからではなく、全員が顔をテレビの方へねじっているからだという。

 いまの家族はテレビという便利な道具を入れた反面、本来あるべき家族の団らんの時間を失ってしまったのだという。こうした家庭で育つ子どもに思いやりの芽が育つはずがなし、老人をいたわり愉しませる方法なんて、テレビ以外に誰も知らなくなったのだろうと想像する。

 御説ごもっともかもしれないが、テレビのアナウンサーにあるまじき発言なところがご愛嬌。とはいえ、言ってることは、かなりマトモ。あたりまえのことを、あたりまえのように言う態度は、時代を超えて共感できるところが多い。「人間は幸福になろうと努力している間が一番幸福なのである」なんて、ハッと胸を衝かれる警句に出会える。

 四半世紀前から老人は白痴で、リーマンは無教養で、若者は馬鹿者だった。今のいまこそ危機なら、まず彼我の差から説明してもらわないとピンとこない。なにをいまさら、というやつね。イマドキの、言いっぱなしでオシマイの警世放談とは偉い違う。上から目線を気にせずに、得られるモノはちゃんと吸収しよう。

 参考。近ごろの若者は意志薄弱で逃げてばかりいる件については、[ココ]。2000年前から若者は馬鹿者だったらしい。その証拠は、[ココ]をどうぞ。いつの世にも、自国を滅ぼしたがる警世気取りの連中はいたということで。おそらくこれは、トシとるとかかる、一種のビョーキのようなものなのだろう。

 わたしもトシをとってゆく。自戒を込めて。だから、「最近の○○はなっちょらん!」なんて言い出したら、遠慮なく罵倒してくださいませ。

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コメント

全ての年齢層をなっちょらんとするのは珍しいですね。『反社会学講座』って本を思い出します、こちらはむしろ肯定的に捉えてましたが。こじれると仏陀のように悟りそうな気がします

「最近の新書はなっちょらん!」
「最近のオタクはなっちょらん!」
と言いそうになって、はっとなってこういい直します。
「最近の私はなっちょらん!」

投稿: carmel | 2009.04.19 23:40

>>carmelさん

えと、正解です。しかも大正解です。「最近の○○はなっちょらん!」の中に、自分自身を入れられるかどうかが評価の分かれ目なので…

自分のコトを棚上げする教授くずれを、微笑してさしあげましょう。

投稿: Dain | 2009.04.20 00:42

全然読めてない私が言うのもなんですが、数学が最重要だと言いつつ、数学史を読むとは、どんな竜頭蛇尾。

投稿: 金さん | 2009.04.20 14:41

発売当時も結構話題になったと記憶しています。
鈴木健二氏といえば、『クイズ面白ゼミナール』冒頭のフレーズ「知るは楽しみなりと申しまして…」を思い出します。自らの実践に裏打ちされた言葉だったのだなぁと改めて感心。

投稿: やぴ | 2009.04.20 20:28

>>金さんさん

はい、ご指摘のツッコミは、その通りですね。

こうした、小さな(?)論理不整合はあちこちで見受けられ、それを探すのも本書の愉しみの一つとなっています。


>>やぴさん

  >「知るは楽しみなりと申しまして…」

うわー、懐かしいですね。「あの口調」を思い出しました。思い返すと、「クイズ面白ゼミナール」は知識や教養よりも、雑学に近かったような気が…

投稿: Dain | 2009.04.21 23:18

私も知性や教養を目にした、と思うことはあまり無いのですが、知性や教養が見えてこない事実を、自らの「無能」に起因する問題、とは考えられないでしょうか。
知性や教養とは、何か。
その本質は、どこにあるのか。
どうか、冷静に考えていただきたいのですが、豊かな御仁の発想、着眼にはいつでも、刮目させられます。
一億総白痴化、と言われますが、現実であれば、日本はとうに沈んではおりますまいか。白痴化する前に、終わっているのでは。
その点、いかがお考えでしょう。
加えて、個人的な感想ですので無視していただいて結構ですが、白痴化、という言葉は人間をあまりにも愚弄するようで、私は好まないです。
また、愚民やら、厚かましいやら、無教養やら、強い言葉をお使いになる。それは、論に箔をつけるためでもありましょうが、なぜ、その必要に迫られるのか。
今一度、お考えいただけると、嬉しい。

投稿: | 2013.10.04 03:21

>>名無しさん@2013.10.04 03:21

コメントありがとうございます。
「若い世代は常に愚か」が真であるならば、現世はもっとも愚かな世代であり、古代はもっとも賢くあるはずなのに、柳田国男やらプラトンが言ってることが違ってて面白いです。

最も古い「最近の若者は…」のソース
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2007/04/post_7265.html

また、「白痴化」というヴィヴィットな惹句は、大宅壮一のここから拝借しておりますが、すでにご存じかと……

一億総白痴化
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E5%84%84%E7%B7%8F%E7%99%BD%E7%97%B4%E5%8C%96

投稿: Dain | 2013.10.05 00:00

数学が大事なら、読書よりプログラミングですよ。先生の時代ならパズルですかね。

読書というのは、数式やアルゴリズムについていけなくなった人の逃避場ですしね。

投稿: ばしくし | 2015.05.01 19:51

TVも害悪だと私は思いますが、一度書店に脚を運ぶと本や雑誌の山、山、山。
これらの本に果たして価値があるのか?
私は99%以上ゴミだと思いますが。

私は自らの直感と、今やインターネットも普及していますし、疑問に思った事や深く掘り下げたい時などにネットで本を購入する位です。

戦後の日本人の教養の無さは、政府やマスコミに仕組まれてると感じますよ。
今の労働環境では大半の人が日々の生活にくたびれはて、ルーチンに徹しているのではないでしょうか?

当然、国民は愚民化する一方です。

投稿: 楢山節考 | 2015.05.04 19:09

だいたい吉本お笑い芸能人(紳介、みのもんた、テリー、ダウンタウンなど)なんかをチヤホヤしてるテレビが間違い。庶民は騙されるなよ!あれは、良くも悪くも河原○食といって自分の土地を持てないもので全く信用のおけないその日暮らししてたものたちなんです。古今東西そういうものなのにテレビには左翼や在 日の勢力も入り込み日本の道徳や常識なんかを崩していこうとするものが意図的に仕組んでるんだよね。教養の大切さなんか、お笑いのやつらに理解はできないし、無教養丸出しで世間のことなんか何にも知らないしわからないのに無責任なコメントしてるのが腹立つ。

投稿: あま | 2015.08.24 18:04

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