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既成概念を粉砕する「奇想遺産II」

奇想遺産2 既成概念を粉砕する建造物の写真集。「奇想遺産」[レビュー]の続編なんだが、より破壊度はパワーアップしている。

 グローバリズムの掛け声により均質化してしまった世界へのアンチテーゼとして、本書は生まれたそうな。おかげで奇妙キテレツな建物がこれでもかとでてくる。もちろん「見慣れた」「有名どころ」の建物もあるが、それはそれ、なぜその建物が「奇想」なのかが解説される。

 例えば、表紙の「ニューヨーク、ニューヨーク」。ラスベガスのストリップ通りにあるホテルなんだが、エンパイアステートビル、クライスラービル、自由の女神といったニューヨークを象徴する建物を縮尺コピーしている。その「模型」のあいだを時速100kmで駆け抜けるジェットコースターは聞いたことがあった。

 けれども、一体なぜ、こんな「模型」を作ったのだろうか。解説がふるってる。アメリカはヨーロッパという本物をコピーするのを止めて、アメリカ自身を堂々とコピーし始めたのだという。ヨーロッパコンプレックスという暗い影はみじんもなく、アメリカはついにコピーしているおバカな自分自身を笑い始めたという指摘に、膝というより額を打つ。

 世界には、本物なんてどこにも無いんだという、アメリカの勝利宣言とも取れる。脱力せざるを得ないほどの究極の無教養都市、大衆都市がついに出現したのである――こう解説する隈研吾氏の文は抜群に面白い。建物に込められたメッセージを読み取り、あえて「誤読」することで、その本質をつかみとる。

 ロンドン市役所[google画像]がこれまたスゴい。傾いだ卵型のデザインは、一度観たらぜったいに忘れられない。知ってはいたが、解説とあわせて「読む」と、設計者の意図にたぶらかされているようだ。

 南側に倒れてしまいそうな形状は、直射日光を極力遮りながら、柔らかな光と景観だけを最大限に取り入れる傾斜角に基づいているという。しかも、方形ではなく卵型にすることで、建物の表面積を最小化でき、熱損失の最小化を可能としているそうな。さらにはガラス張りで開放的な議会場は、オープンな民主主義を象徴している――と、立て板に水。いちいちもっともらしいぶん、眉唾になる。「ホントはこんなヘンな形のを作りたかったんちゃう?」とツッコみたくなる。

 「死なない家」[レビュー]を作った荒川修作の「養老天命反転地」もある。とても不思議な「公園」なのだという。平らな場所はほとんどなく、注意深く歩かないと滑ったり転んだりする恐れがあり、通路は突然、行き止まりになったり、足元が見えないほど真っ暗になったりで、一瞬たりとも気が抜けないそうな。つまり、隅々まで管理の行き届いた、清潔、安全、無害な公共空間である「公園」の対極的な存在が、ここ。

 この公園はひとつの「提案」で、安全、無害、均質な方向へと一方的に進化した20世紀の空間へのアンチテーゼとなっている。利用者と公園が相互に徹底して干渉しあうことで、人間と空間の新しい関係性が生まれるのだという。そうやって滑りながら転びながら「他者」とかかわりあう積極的な生き方を取り戻せば、人は「死ななくなる」と言い切る。真偽さておき、徹底的に向き合いたい。

 パリ4区のポンピドーセンター[google画像]もある。美しさを追求する「お上品」なものではなく、伝統への挑戦であり、美と文化の本質を容赦なくムキダシにする「あぶない」作業であることを、この建築自体が雄弁に訴えているという。

 同時にこれは、アメリカ自体に対する痛烈な批判でもあるそうな。ディズニーランドに代表されるように、アメリカはロマンチックにうわべを飾りたてたハリボテを好む国民性だ。ポンピドーセンターのデザインは正反対、全てがむき出しで、ハリボテの対極にあるのだという。「アメリカ=表層=ハリボテ」を強烈に批判する書き手は、やはり隈研吾氏。本書は幾人かの共著で構成されているが、氏の文がいちばん「色」があっていい。

 建物はメッセージ。一流の建築家をヨリシロに、その「声」が訊ける、得がたい一冊。

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受信: 2009.02.22 23:13

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