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歴史を後ろからみる「名誉の戦場」

名誉の戦場 もちろん、わたしが死ぬ可能性は100パーセント。だけど、病死か交通事故死しか想定していなかった。

 そんなことを気づかされ、失笑する。徴兵され、戦場でたおれることだってあるのか?いいや、いまや全体戦場の時代だから、前時代的な「戦死」はありえない。むしろ遠くからやってきたミサイルに蒸化される可能性の方が高い。

 時代も距離も遠い場所にある戦場をもってくるために、面白い「語り」をやってのけている。家族の歴史をやるんだ。語り手の「いま」から外れて、おばあちゃんや叔母さんの話を始める。「かつて」と「いま」とを行ったり来たりするリズムを、「波」に喩える評があるが、まさにそんな感覚。

 この、家族を次々と紹介していき、家族史をさかのぼるところなんて、アーヴィングの「ホテル・ニューハンプシャー」を思い出す。アーヴィングにまけずおとらず、魅力的なエピソードが満載で、読み手はくすくす、にやり、爆笑したり、大変いそがしい。

 しかし、語り手である「ぼく」の不在が大きい。まるで物語にかかわってこないのだ。「ホテル・ニューハンプシャー」だと語り部のジョンが後半で大きく、決定的な動きをするのだが、この「名誉の戦場」は最初から最期まで不在を決め込む。まるでヒトゴトのように関わっている(ただし、みんなを見守るまなざしは、とてもあたたかい)。

 おかしいなと思ってたら、案の定というか、あとがきによると、五部作のうちの第一作が、本作とのこと。著者ルオーの半自伝的小説で、次作「偉人伝」や第四作「プレゼントに最適です」では、どんどん「前」に出ているとのこと。

 ほほ笑ましい展開に挿入される箴言に、どきりとして手がとまる。いったい、作者はどんな意図で書き進めているのか、不審に思う。語られた家族のとった行動や立場が奇妙だ――と考えるうちに、語られていない人物の不在が明かされる。そしてその不在を説明するかのように、戦争が語られる。身近な存在になった家族の隙間にある「過去」が見えてくる。この転調が上手い。戦争は個人に降りかかった災厄のように扱われ、その跡は後の人生の影によってのみ、うかがえる。そこには、いわゆる教科書的な知識としての「歴史」とは違ったものが見えてくる。

 歴史を後ろからみるときの、うってつけのテクスト。

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受信: 2009.01.26 19:10

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