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スローリーディング(笑)

スローリーディング ゆっくり読むことは、とても重要。だけど、ゆっくり読むこと「だけ」?

 速読中心の世の中に背を向けて、ゆっくり読むことを推奨する人がいる。ゆっくり読むこと、遅読、スローリーディングともいう。ロハスはだいぶ下火になったものの、およそ読書にとって、「じっくり読むこと」は大切だと思う。

 関心を惹くところだけをザッと見て「読んだ」と吹聴するのは、ちょっとね。ビジネス書や実用書ならともかく、うっかり小説を速読しちゃうと、「なぁ~にぃ~、やっちまったなー!!」と杵を振り上げたくなる。

 特に小説は、じっくり読むべし。書いてあることから書いてないことを想像し、テーマを仮設する。展開のスピードに身をゆだね、作者の意図をはかりながらも、ちがった「読み」ができないだろうかと自問をくりかえす。スジやオチを知りたいなら映画を早送で見るか、誰かに読ませてソコだけ教わればいい。

 しかしだ、ことさら「遅読」だの「スローリーディング」を喧伝し、速読や斜読を読書の冒涜かのように扱うのは、もっといただけない。速読できる人は遅読もできるんだよ!本に応じてスピードをコントロールすることが重要なんだよ!と声を大にして反論したくなる。

 「本の読み方 スロー・リーディングの実戦」なんて、まさにそう。

 お気に入りの小説を、ゆっくり、じっくり味読することは、なにものにもかえがたい。この点については著者に完全同意する。さらに、「本は再読することに価値がある」とか、「感想は、一回限りでなくてもいい。むしろそれは、生きている限り、何度も更新されるもの」なんて、とってもいいことを言ってる… …が、スロー・リーディングを大事にするあまり、速読や多読を叩くのは、やりすぎかと。

 たとえば、これ。

一ヶ月に本を100冊読んだ、1000冊読んだとかいって自慢している人は、ラーメンの大食いチャレンジで15分間に5玉食べたなどと自慢しているのと何も変わらない。速読家の知識は、単なる脂肪である。それは何の役にも立たず、無駄に頭の回転を鈍くしているだけの贅肉である。
 さすがにこれは言いすぎ、勇み足ではないかと。もしも、量「だけ」自慢する人がいるのならダメだろうけれど、多読家は量が質に転換することを知っているんじゃぁないの?たくさん読むから審美眼や目星がつくんじゃぁないかと。

 そんなに「スロー」が大事なら、本書を読むスピードを、ゆ~~~っくりにしてやると…ふつうなら読み逃がしてやるはずの、誤謬や矛盾が目に付いてくる。p.32「使って見る予定である」や、p.54「違いに敏感であることである」といった語彙云々だけでなく、論理破綻や読み落としが痛々しい。

 論理破綻の例なら、第一部の「新聞もスロー・リーディング」だろう。

 新聞ごとに主義主張や思想が異なっているため、ザッと読んでしまうと偏った情報しか得られなくなる。その危険を回避するため、複数の新聞に目を通し、違いに敏感たれ――と、述べているワケだけど、「複数の新聞に目を通す」ためには、ゆ~~~~っくり読んでいたら朝が終わってしまうぞ。

 同じ時間で複数の新聞に目を通すつもりなら、好むと好まざるとに関わらず、ある程度の速さで読む必要があるかと。「批判的読み」の重要性を印象づけたい気持ちはわかるが、それならむしろ、同じテーマで速読と併読をくりかえすほうがいいぞ。

 痛々しい読み落としの一例は、「高瀬舟」。

 まず、本作を安楽死問題として片付ける人を、あらすじだけを聞いてわかったつもりになっている人と一緒だと批判する。

 そういいながらも、著者のお手本が「安楽死」から一歩も離れていない。舞台設定や描写をつつきまわしているだけで、メインテーマ「物事には二面性がある」を完全スルーしているのはなぜ?

 この短編の構成として、罪人の告白を訊く役人の心境が、まるでサンドイッチのように上下から挟み込んでいる。しかも、上と下でまるで違っているのがミソ。ごていねいに、話の入り口で、罪人の事情から己が状況を照射し、「喜助さん」と「さん」付けまでするぐらい心が動いているではないか。

 あれは前フリなの。「安楽死」という極端な口実で、「殺人なのか安楽死なのか?」を考えた後で見ると、他の物事の二面性も気づくという仕掛けなの。最初と最後で、自分の役目、家庭を見る目はガラリと変わっている。同じ状況でもちがって見えてくるのが「じっくり読み」で読むべきところだろうに。

 そうした全体構造をうっちゃって、「ほう助の瞬間」をクライマックスにしてあれこれいじりまわしている様子は、まるで、神戸屋のエッグサンドの卵だけを味わっているように見える。批判対象となっている速読のせいで、「ああ、安楽死ね」と"わかったつもり"で読んだのならまだ分かる。が、遅読を意図して読んだのなら、ソコでとどまっていたら、何のためにスローにしたのさ、とツッコみたくなる。それとも読み落としは遅速無関係なのかね。

 「スロー・リーディング」、「遅読」、呼び名は何でもいい。ゆっくり、じっくり読むことは大事。でも、大事にするあまり、速読・多読・斜読を叩くのはどうかと。はやく読める人は、ゆっくりでも読める。ゆっくりしか読めない人は、はやく読めない。

 ゆっくり読みだと、自身の内部の雑音に煩わされることになる。すなわち、文中のコトバから導かれる連想や、作者の前提・論理へのツッコミが湧き出てくる。放っておくと、「わたしならこう書くのに」と添削しだしたり、「(作者の意向を無視して)こう読むほうが面白い」と妄創作しはじめる。

 だから、そういう無茶読みで手がつけられなくなる前に、書き手の意図に沿うためにも、一定のリズムで進める必要があるんだ。暴走しがちな自分のアタマをねじ伏せて、いったんは向き合う。読まれるテンポというのがあり、それにあわせてコントロールするのが大事かと。ファースト・リーディングばかりは危険だし、スロー・リーディングばかりだと木を見て森を見ず。「遅読のすすめ」の[レビュー]でも言ったが、セーフティ・リーディングを、心がけようか(自戒を込めて)。

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コメント

初めまして。いつもROMをさせていただいております、速読屋の寺田と申します。

毎度、読みの鋭さ、表現の的確さに感嘆しながら拝読しております。

さて、今回の速読批判の件、ご指摘の通り筋違いにもほどがあります。(笑)

氏は高島徹治氏の著作を根拠に速読を批判していますが、高島氏は特定の速読教室を心底嫌っており、その教室についての批判を書いています。

平野氏は、その教室批判をそのまま速読批判にすり替えてしまっています。

氏は「速読を誇る人など、少なくとも私の周りには一人もいない」(同書P.34)と言っており、高島氏の著書を唯一の情報源として批判を展開しているようです。

とはいえ、速読を身につけると薄っぺらな読書に走りがちな人も多いモノです。
指導者として、こういう書籍を戒めとしたいモノです。

長くなり大変失礼いたしました。
今後もブログの記事を楽しみにしております。

P.S.
私が以前、平野氏の著書について書いた記事です。僭越ながら。。。
http://www.office-srr.com/biz/column/articles/mmbn/mm_20060823.html
●●

投稿: てら@速読屋 | 2009.01.12 22:21

>>速読屋の寺田さま

リンク先の記事を拝見しました、激しく同意します。
特に、

   > 一人も速読家を知らないのに、どうして速読で得た知識が「脂肪」だって
   > 分かるんだろう・・・と思うのは私だけではないはず。(--;

の件ではハラ抱えて笑いました。たしかにそのとおり!
速読を重視し、データ処理のような「読書」をあがめる風潮に一石投じたい――そんな思いを本書から汲みとれるのですが、批判の方向があさってだと、足元がすくわれてしまうわけでして…
「目的を忘れた読書」は、たしかにわたし自身も陥りやすい罠です。本書とあわせ、反面教師としたいです。

投稿: Dain | 2009.01.13 21:51

>Dain様

ありがとうございます。

「遅読のすすめ」も(Dain様もお書きのように)矛盾だらけというか、酸っぱいブドウというか、違和感を感じますよね。

ですが、どちらも時代へのアンチテーゼを投げかけることには成功していると思います。

あとは受け手が作者の立ち位置、想定している書籍あるいは読者を、しっかりと汲み取ることでしょうか。

なにしろ、これからも本ブログを楽しみに拝読させていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
●●

投稿: てら@速読屋 | 2009.01.14 07:32

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