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東大、京大、北大、広大の教師が新入生にオススメする100冊

 毎年この時期になると、「東大教師が新入生にオススメするベスト100」という企画で紹介してきたが、飽きた。

 ほとんど変わり映えしないリストにも飽きたし、毎年「ベスト1はカラマーゾフ!」とハヤすのも飽きた。カラ兄が最高であることはさんざん宣伝してきたから、皆さんご承知だろう(異論・反論大歓迎、これを超えるものがあるならね)。

 だから、今回はスコープを広げてみる。

■ この企画の趣旨

 東京大学に限らず、新入生を迎えるにあたって、センセイたちは思うところがある(はずだ)。ゼミにくる前に、せめてこれぐらいは読んでおいてもらいたいと望んだり、若かりしころハマった本で自分語りをしてみたり。そうした願望を吸い上げているところもいくつか見つけた。以下のとおり。

 リスト1 「北海道大学教員による新入生への推薦図書」

 リスト2 「京都大学新入生に勧める50冊の本」

 リスト3 「広島大学新入生に薦める101冊」

 リスト4 「東大教授がオススメする教養のためのブックガイド」

 リスト5 「東大教師が新入生にすすめる本」

 ここから得られたリストと、恒例の東大新入生にオススメするリストをベースにして、東京大学、京都大学、北海道大学、広島大学の教師が新入生にオススメするベスト100を作ってみよう。

 ただし、東大のオススメ数がハンパじゃないので、票の単純カウントだとお話にならない。だから大学を横断してオススメされている本をより重視するよう、重み付けをする。

■ 東大、京大、北大、広大の教師がオススメするベスト100の作り方

  1. リスト5の最新版を作る : 昨年までの東大教師が新入生にすすめる本(1994-2007)東京大学出版会 : 東大教師が新入生にすすめる本2008を追加して最新版にする(※1)
  2. リスト1~4を追加する : ただし、リスト4は「東大教授オススメ」として扱う(※2)
  3. ポイントをつける。大学をまたがってオススメされているものは、『その大学の数』分のポイントが振られる。たとえば、東大と京大でオススメされているなら、ポイントは「2」になる
  4. オススメされいている回数を1票としてカウントする。東大で1997年、1998年と2年に渡ってオススメされている場合は、2票としてカウントする
  5. 票数×ポイントで、ポイントを集計する

 大学をまたがってオススメされていればいるほど、ポイントが高くなるのがミソ。ある本が、東大で1997年、1998年、1999年と3回オススメされていた場合、合計で3ポイントにしかならないが、東大で2000年、北大でオススメされた本なら、2つの大学をまたがるため「2ポイント」となり、その2ポイントが東大と北大にそれぞれ割り振られるため、2+2=4ポイントになる。なお、東大教師のリスト(※1)と、東大教授のリスト(※2)は、ポイント集計上は別大学とみなしている

 これにより、十年一日の般教サブテキストよりも、より広範にオススメされている本を抽出することができる(はずだ)。リクツはともかく、毎年変わりばえのしないベスト100よりも、もっと興味深いやつができあがったぞ。

■ ランキング第 1 位~第 10 位

 1.「銃・病原菌・鉄」(ジャレッド・ダイアモンド、草思社)
 2.「オリエンタリズム」(エドワード・W.サイード、平凡社)
 3.「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス、紀伊国屋書店)
 4.「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー、岩波書店)
 5.「日本人の英語」(マーク・ピーターセン、岩波書店)
 6.「解析概論」(高木貞治、岩波書店)
 7.「沈黙の春」(レーチェル・ルイス・カーソン、新潮社)
 8.「理科系の作文技術」(木下是雄、中央公論新社)
 9.「ワンダフル・ライフ」(スティーヴン・ジェー・グールド、早川書房)
 10.「夜と霧」(ヴィクトル・エミール・フランクル、みすず書房)

第 1 位 「銃・病原菌・鉄」(ジャレッド・ダイアモンド、草思社)



銃・病原菌・鉄(上)銃・病原菌・鉄(下)

 競合する人間社会における勝者と敗者の決定要因を「銃・病原菌・鉄」とし、これらの要因が、なぜある社会では発達し、別の社会では発達しなかったのかという理由を、生物学、言語学などの豊富な知識を駆使して圧倒的に説き明かしている。amazon紹介文はこんなカンジ…
銃と軍馬―― 16世紀にピサロ率いる168人のスペイン部隊が4万人に守られるインカ皇帝を戦闘の末に捕虜にできたのは、これらのためであった事実は知られている。なぜ、アメリカ先住民は銃という武器を発明できなかったのか?彼らが劣っていたからか?ならば、2つの人種の故郷が反対であったなら、アメリカ大陸からユーラシア大陸への侵攻というかたちになったのだろうか?
否、と著者は言う。そして、その理由を98年度ピューリッツァー賞に輝いた本書で、最後の氷河期が終わった1万3000年前からの人類史をひもときながら説明する。はるか昔、同じような条件でスタートしたはずの人間が、今では一部の人種が圧倒的優位を誇っているのはなぜか。著者の答えは、地形や動植物相を含めた「環境」だ。
 うれしいことに、これは未読。「読みたいリスト」に入ってはいるものの、キューに押しつぶされている。「文明の生態史観」みたいなやつかね… これはコロンブスの卵的なアイディアだけれど、もっと知的興奮が得られそうな期待を持って手にしよう。「科学者の見た人類史」とか「圧倒される知の冒険」といったamazon絶賛レビューを見ると、いてもたってもいられなくなる。読む「シヴィライゼーション」なのかね?

第 2 位 「オリエンタリズム」(エドワード.W.サイード、平凡社)



オリエンタリズム(上)オリエンタリズム(下)

 大学時代にムリヤリ読まされた記憶が。理系はGEB、文系はオリエンタリズムといったところか。

 歴史とは自らを正当化するためのラベリングの歴史そのものだということを暴く。つまり、「オリエンタル」という言葉・概念は西洋によって作られたイメージであり、文学、歴史学、人類学の中に見ることができる。「オリエンタル」というレッテルのおかげで西洋は優越感や傲慢さや偏見でもって、東洋と接することができたという主張を念入りに検証している。

 皮肉だな、と思ったのは、オリエンタリズムを批判する証拠物として、東洋で作られた著作物や芸術作品が提示されていないこと。そして、「西洋から見た東洋」の作品が挙げられていること。もちろん事実上「東洋」で作成されたものもあるが、それは「こういう『東洋』なら西洋は買ってくれるに違いない」という意図のもとで、自分で自分をステレオタイプ化しているに過ぎない。レッテルを貼られた被告人の告発ではなく、まさにそのレッテルこそが証拠なのだと。この手法はオタク擁護から夫婦喧嘩まで手広く応用できるね。amazon解説より。

「オリエンタリズム」とは西洋が専制的な意識によって生み出した東洋理解を意味する。本書はその概念の誕生から伝達までの過程をあますところなく考察した1冊だ。サイードは、東洋(特にイスラム社会)を専門とする西洋の学者、作家、教育機関などの例を挙げ、彼らの考えが帝国主義時代における植民地支配の論理(「我々はオリエントを知っている。それは西洋とはまったく違った、なぞめいた不変の世界だ」)から脱却しきっていないと厳しく批判している。

第 3 位 「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンス、紀伊国屋書店)
利己的な遺伝子
 未読なんだけれど、解説本や誰かの受け売りで、あたかも読んできたかのような顔をしている。遺伝子を使って生命体はコピーを繰り返しているのではなく、生物は遺伝子の運び手(器)に過ぎない。遺伝子は、「遺伝子にとって」利己的に振る舞う。その結果、一見「生命体にとって」利他的に見える行動は、実はより多くの遺伝子のコピーを残そうとする目的に適うというわけ。

 もっとも身近な生命体=わたしの遺伝子は、わたしのコピーを作るためものではなく、実はわたし自身が遺伝子のコピーを作るためのものに過ぎない、という発想にガツンとやられたことを記憶している。

 ――とはいうものの、聞きかじり/受け売りはやはりマズい。amazonレビューを見る限り、力いっぱい勘違いしている御仁もいらっしゃる。あるいは、わたしが完璧に間違っている可能性もある。いちどキッチリ読むべきだな。

第 4 位 「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー、岩波書店)

カラマーゾフの兄弟1カラマーゾフの兄弟2カラマーゾフの兄弟3
カラマーゾフの兄弟4カラマーゾフの兄弟5

 重み付け方式を変えたので、ようやく一位の座から降りてきた… とはいうものの、これを読んだ人なら同意してくれるだろうが、大学新入生という意欲も体力も充溢している連中にこそ、こいつをオススメしたくなるでしょ?

 最強の小説。これこそ小説のラスボス。特に「大審問官」のあたりはスゴい。生を生きなおすようなす経験を請けあう。この blog で「すごい本」を探している方には、カラ兄こそがそうだと断言できる。「なんか面白い小説ないかなー」というなら、これ読め(命令形)。最強・最高の読書体験を約束する。とっつきにくいって? 大丈夫!光文社から出ている新訳、これが信じられないぐらい読みやすくなっている。

 読むなら、いまだ。

第 5 位 「日本人の英語」(マーク・ピーターセン、岩波書店)



日本人の英語続・日本人の英語

 東大、京大、広大の教授陣がベタ誉め。未読なので食指が動く動く。

 特に京大のセンセが、「英語の本質がわかると言っても過言ではない」とか、「全学共通科目の英語なんぞ 100 年続けても、この1冊には適うまい」といった最大級の賛辞を贈っている。

 amazon紹介文が興味深い(わたしには違いが分からんかった)。

  「冷凍庫に入れる」は、  put it in the freezer
  「電子レンジに入れる」だと、  put it in my microwave oven

どういう論理や感覚がこの英語表現を支えているのか。著者が出会ってきた日本人の英語の問題点を糸口に、従来の文法理解から脱落しがちなポイントをユーモア溢れる例文で示しつつ、英語的発想の世界へ読者を誘う
 自分(my)の距離感覚なのかな? 電子レンジに入れる食べ物は、自分(my)の範囲に入っているけれど、冷蔵庫はそうじゃないとか。皿と料理で言い換えるなら、出てきた料理を my dish とはいうけれど、食べ終わって片付けなければいけなくなったら the dish と呼ぶようなもの?

第 7 位 「沈黙の春」(レーチェル・ルイス・カーソン、新潮社)
沈黙の春
 内容もさることながら、題名の勝利だと思う。"Silent Spring"とは、「農薬で汚染され、鳥や虫が死に絶え、鳴き声の聞こえなくなった春」のこと。

 カビない食パン、半永久的な冷凍食品といった、巧妙に偽装されている食品の安全性は、ひとたび事件化するとまさに地獄の釜状態になる。あるいは、ハイブリッドカーの電池を作るのにどんだけanti-ecoしているのか? とか、寿命の尽きた原発の解体費は電力コストに含まれていないよ、といった視線は、ここから得た。「沈黙の春」は農薬(=毒薬)問題だけれども、隠蔽した結果がまさにアタマ隠して尻まるだしとなっている。poison に「薬」と名づけた人はエラい(w

 本書は環境問題のバイブル扱いされているけれど、面白さは有吉佐和子の「複合汚染」の方が上…って、あたりまえか、後者は小説だから。あわせて読もう。

第 8 位 「理科系の作文技術」(木下是雄、中央公論新社)
理科系の作文技術
 文系理系関係無し。学生さんなら必読だろ。

 残念なことにわたしが学生の頃は本書の存在を知らなかった―― おかげでかなり恥ずかしいレポートを書きなぐっていたと思う。未読なのだが、ライティング指南本として屈指の「考える技術・書く技術」(バーバラ・ミント)から想像すると、「伝えたいことを分かりやすく伝える技術」になるのだろうか(「伝える」対象は読み手だけでなく、書き手も含まれるところがミソ)。Webなら東大で学んだ卒業論文の書き方かね。

 あえて「理科系の」と銘打っているのは、ひとつの研究テーマについて、論理的に首尾一貫した論文(=修士論文)を書き下す必要があるのは「文系 < 理系」だろうからか。

 東京大学では、平成20年度に理系に入学した新入生全員がALESSを受講するという。これは "Active Learning of English for Science Students" といい、科学的な論文を書くためのトレーニングプログラムだそうな。うッ、うらやましくなんて…あるもん!(涙目)

第 9 位 「ワンダフル・ライフ」(スティーヴン・グールド、早川書房)
ワンダフル・ライフ
 2回挑戦して敗退している。バージェス頁岩から発見された先カンブリア時代の節足動物がいかに急激に多様化していったかが情熱的に語られている。amazon紹介で知った著者のメッセージによると、

「どうぞ細部を読み飛ばさないでほしい,大筋はつかめるが,本当に大切なのは細部(節足動物の付属肢についての分析など)なのだから」
 とあるが、節足動物の付属肢のつき方や分岐の仕方なんて知らんよあたしゃぁ、とツッコミ入れることおびただしい。毎度毎度、知的興奮にいたる前に投げ出してしまうので、いっそのこと、次は後ろから読み始めてやろうかしらん、とたくらんでいる一冊。

 このテの本は、好きな人に語ってもらって聞き入っている方が性に合ってる… 解説してくれる方がいらっしゃるならタダ酒ごちそうしますぞ。

第 10 位 「夜と霧」(ヴィクトル・エミール・フランクル、みすず書房)
夜と霧
 著者自身の強制収容所経験に基づいた作品。人間なら読むべし

――という作品なのだが未読(のはず)。高校時代に手にした記憶はあるのだが、中身をほとんど覚えていないから読んでいないのだろう。なぜなら、一度でも読んだなら、間違いなく心と記憶に刺さり、いつまでも残るだろうから。様々なメディアで色々なストーリーに乗せて、「アウシュビッツ」を知っているつもりだが、これを読まずして言及する資格はない。amazon紹介文より。

著者は学者らしい観察眼で、極限におかれた人々の心理状態を分析する。なぜ監督官たちは人間を虫けらのように扱って平気でいられるのか、被収容者たちはどうやって精神の平衡を保ち、または崩壊させてゆくのか。こうした問いを突きつめてゆくうち、著者の思索は人間存在そのものにまで及ぶ。
 新訳があるらしい、必ず読む。

■ ランキング第 11 位~第 75 位

 合計が10~5ポイントなのが、75位までのラインナップとなっている。典型的な「古典」「名著」もあるが、センセーがたの若かりし時代を見透かしたような「なつかしいベストセラー」も、ちゃっかりとある。

 11.「人間を幸福にしない日本というシステム」(ウォルフレン、新潮社)
 12.「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(ファインマン、岩波書店)
 13.「ヘラクレイトスの火」(エルヴィン・シャルガフ、岩波書店)
 14.「ワイルド・スワン」(ユン・チアン、講談社)
 15.「栽培植物と農耕の起源」(中尾佐助、岩波書店)
 16.「種の起源」(チャールズ・ロバート・ダーウィン、岩波書店)
 17.「進化と人間行動」(長谷川寿一、東京大学出版会)
 18.「知的複眼思考法」(苅谷剛彦、講談社)
 19.「中島敦全集」(中島敦、筑摩書房)
 20.「方法序説」(ルネ・デカルト、岩波書店)
 21.「理解とは何か」(佐伯胖、東京大学出版会)
 22.「南方熊楠」(鶴見和子、講談社)
 23.「それから」(夏目漱石、新潮社)
 24.「三四郎」(夏目漱石、新潮社)
 25.「失われた時を求めて」(マルセル・プルースト、筑摩書房)
 26.「信頼の構造」(山岸俊男、東京大学出版会)
 27.「脳のなかの幽霊」(V.S.ラマチャンドラン、角川書店)
 28.「量子力学 物理学大系」(朝永振一郎、みすず書房)
 29.「線型代数入門」(斎藤正彦、東京大学出版会)
 30.「邪宗門」(高橋和巳、朝日新聞社)
 31.「TheUniverseofEnglish」(東京大学出版会)
 32.「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(ヴェーバー、岩波書店)
 33.「物と心」(大森荘蔵、東京大学出版会)
 34.「コンピュータのパターン認識」(長尾真、東京大学出版会)
 35.「ホーキング、宇宙を語る」(スティーヴン・ウィリアム・ホーキング、早川書房)
 36.「仮面の解釈学」(坂部恵、東京大学出版会)
 37.「危機の二十年」(エドワード・ハレット・カー、岩波書店)
 38.「罪と罰」(ドストエフスキー、岩波書店)
 39.「視点」(宮崎清孝、東京大学出版会)
 40.「世界の名著」(中央公論新社)
 41.「読むということ」(御領謙、東京大学出版会)
 42.「日常言語の推論」(坂原茂、東京大学出版会)
 43.「ことばと文化」(鈴木孝夫、岩波書店)
 44.「ドン・キホーテ」(ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ、岩波書店)
 45.「磁力と重力の発見」(山本義隆、みすず書房)
 46.「生命の多様性」(エドワード・オズボーン・ウィルソン、岩波書店)
 47.「認知心理学」(-、東京大学出版会)
 48.「碧巌録」(克勤、岩波書店)
 49.「夢判断」(ジークムント・フロイト、新潮社)
 50.「エントロピーと秩序」(ピーター.W.アトキンス、日経サイエンス社)
 51.「会社法人格否認の法理」(江頭憲治郎、東京大学出版会)
 52.「日本語学と言語教育」(上田博人、東京大学出版会)
 53.「ベンヤミン・コレクション」(ヴァルター・ベンヤミン、筑摩書房)
 54.「ユング心理学入門」(河合隼雄、培風館)
 55.「基礎物理学」(-、東京大学出版会)
 56.「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎、岩波書店)
 57.「吾輩は猫である」(夏目漱石、新潮社)
 58.「国家」(プラトン、岩波書店)
 59.「職業としての学問」(マックス・ヴェーバー、岩波書店)
 60.「生命の誕生と進化」(大野乾、東京大学出版会)
 61.「精神の生態学」(グレゴリ・ベートソン、新思索社)
 62.「地下室の手記」(ドストエフスキー、新潮社)
 63.「物理学とは何だろうか」(朝永振一郎、岩波書店)
 64.「二重らせん」(ジェームズ・デューイ・ワトソン、講談社)
 65.「敗北を抱きしめて」(ジョン.W.ダワー、岩波書店)
 66.「白鯨」(ハーマン・メルヴィル、講談社)
 67.「福翁自伝」(福沢諭吉、岩波文庫)
 68.「魔の山」(トーマス・マン、新潮社)
 69.「歴史とは何か」(エドワード・ハレット・カー、岩波書店)
 70.「ゲーデル、エッシャー、バッハ」(ダグラス.R.ホフスタッター、白揚社)
 71.「解析入門」(杉浦光夫、東京大学出版会)
 72.「自由からの逃走」(エーリッヒ・フロム、東京創元社)
 73.「魂のライフサイクル」(西平直、東京大学出版会)
 74.「職業としての政治」(マックス・ヴェーバー、岩波書店)
 75.「明治憲法体制の確立」(坂野潤治、東京大学出版会)

第 11 位 「人間を幸福にしない日本というシステム」(ウォルフレン、新潮社)
人間を幸福にしない日本というシステム
 「日本 権力構造の謎」を読んだが、その徹底した役人批判には胸がすくというよりも不安になるほど。役人のセクショナリズムを説くのはいいが、壊すのにハンマーを用いるのはやりすぎかと。あるいは、日本を変えるにはガイアツが要るのかね、とつぶやきながら読んだことを覚えている。

 本書は日本人向けのメッセージ性を強めている。Wikipediaによると、「管理されたリアリティの壁に隠された『「システム』(物事のなされ方)の支配から日本人が脱すべきことを説き、論議を巻き起こした」そうな。読むときは代案を探しながらかな。

第 18 位 「知的複眼思考法」(苅谷剛彦、講談社)
知的複眼思考法
 これも学生必読。読んでいるのといないのとでは、残りの人生に差が出てくる。

 今風に言うなら「論理思考」にくくられてしまうが、凡百のマニュアル本とはレベルが違う。正解を見つけ出す能力ではなく、問題を定義する脳力を鍛えることができる。扱っているのはMECEやロジックツリーなのだが、「どうやって自分のアタマで考えるか」について徹底的に具体化している。訊けば東大のゼミをまとめたものだそうな… うらやましい限りだ。

 先の「理科系の作文技術」といっしょに、これを新入生にオススメするのは、かなり良い戦略。受験勉強で「問題を解く能力」を鍛えられたアタマに「問題を発見する能力」が組み込まれれば、知の両輪ができあがる。批判的な読み方や論理的な書き方もレクチャーしているので、「道具としての知」を動機づけることができる。ゼミで「レポートの書き方」や「文献のあたりかた」を手取り足取り教えるより、ずっと効率的。

第 20 位 「方法序説」(ルネ・デカルト、岩波書店)
方法序説
 小林秀雄によると、「方法序説」なんてお題が堅物らしい。むしろ「方法の話」とでも訳したほうがよいとのこと。何の方法かというと、生きてゆくうえで真実を見つけ出し、判断する方法。デカルトが、当時の学問語であるラテン語を捨てて、平易なフランス語で、しかも匿名で書いたそうな。大切なことは、見つけ出した「真実」や「判断」そのものではなく、そこへ至った方法だという。

 実存っ子なので、いま入不二基義「時間は実在するか」に取り組み中。(触れるものなら)ウィトゲンシュタインを触って、もう一度戻ってこようかと。

第 57 位 「吾輩は猫である」(夏目漱石、新潮社)
吾輩は猫である
 実はいま読んでいる、ニンテンドーDSで。

 復刻版から新潮文庫まで何度も読んできたが、DSの液晶画面で見ると別の趣がある(滑るようにすいすい読める感覚)。「猫」の飼い主である苦沙弥の年齢(30台前半)を超えたいま読み直すと面白さ倍増。彼の「こっけいさ」の理由にいちいち思い当たる。

 漱石がレトリックの達人であることは承知しているが、「レトリックのすすめ」で解説されるとさらに気になってくる。ストーリーにとらわれずにレトリックだけに着目して読んでみようとしているが、今のところことごとく失敗している。何回読んでも「鼻女」のくだりではハラ抱えて笑ってしまうので(www

第 62 位 「地下室の手記」(ドストエフスキー、新潮社)
地下室の手記
 自意識過剰がちの学生さんにオススメ。

 「人生を狂わせる毒書案内」でも強力にプッシュされている。自意識過剰の男の内面を吐露した話なんだが、その粘着+屈折っぷりが笑える。しかし、程度の差こそあれ、自分にも通じるところを見出してはヒヤリとさせられる。

 満たされない思いはぶくぶくと肥大化する、歪む、腐る。怪物のような「自意識」が頭全部を占領し、部屋から一歩も出られなくなる。さらには、自分を卑しめたり痛めつけることに快感を抱くようになる。「ホラホラ見て見て!」って奴。自分の堕落をあてつける、世界のせいだって。怨念にまで発展する執拗な自意識へのこだわりは、あっぱれかも。自意識が「過剰」を超えるとどうなるか、この実験は面白い。「地下室」とは自意識のメタファーだね。

第 70 位 「ゲーデル、エッシャー、バッハ」(ホフスタッター、白揚社)
ゲーデル、エッシャー、バッハ
もちろん積読山に刺さっていますが何か?

 2006年は、図書館から何度も借りなおし、延長した。とうとう購入した2007年は、関連書籍を漁ってはハマり、戻ってはつっかえて、かれこれ1年になる。700頁を超えるハードカバーは充分凶器だ。それでも「読みたい熱」は冷めない。分からないから読まないのではなく、分かりたいから読みたくなる。

 テーマは「自己言及」。ゲーデルの不完全性定理が、エッシャーのだまし絵やバッハのフーガをメタファーとして渾然と展開される。導入部のアキレスと亀の会話で分かった気になり、本編で叩きのめされる。いまは「単純な数学システム(MUパズル)で完結しているにもかかわらず、証明できないことが存在することを証明する」あたりでひっかかっている。(分かった気になっている)不完全性定理のイメージと、エッシャーの図と地の反転する絵がシンクロする瞬間が気持ちいい。

 いったい何の本なのか理解されず、書いた当人も困惑しているぐらいだから、読んだ「フリ」は可能だ。しかし、それじゃいくらなんでももったいないので挑戦し続けることにしよう。

■ ランキング第 76 位~第 100 位

 合計が4ポイントのものが96冊あったので、そこから25冊を取捨選択してある。ポイントの重み付けはいわば人気投票。だから、良書としてメジャーなものは沢山のポイントを取得する一方、数ポイントの差はあまり関係ないと思う。ここには「隠れた名著」が並んでいる。

 76.「チベット旅行記」(河口慧海、白水社)
 77.「ファインマン物理学」(リチャード・ファインマン、岩波書店)
 78.「人間機械論」(ノーバート・ウィーナー、みすず書房)
 79.「日本国憲法」(森達也、太田出版)
 80.「何でも見てやろう」(小田実、講談社文庫)
 81.「蘭学事始」(杉田玄白、岩波書店)
 82.「旅人」(湯川秀樹、角川書店)
 83.「コスモス・オデッセイ」(ローレンス・M.クラウス、紀伊国屋書店)
 84.「知の技法」(小林康夫、東京大学出版会)
 85.「ガリヴァー旅行記」(ジョナサン・スウィフト、岩波書店)
 86.「世論」(ウォルター・リップマン、岩波書店)
 87.「自然界における左と右」(マーチン・ガードナー、紀伊国屋書店)
 88.「シルトの岸辺」(ジュリアン・グラック、筑摩書房)
 89.「春宵十話」(岡潔、光文社文庫)
 90.「偶然と必然」(ジャック・リュイシアン・モノー、みすず書房)
 91.「ヨーロッパ文明批判序説」(工藤庸子、東京大学出版会)
 92.「実戦・日本語の作文技術」(本多勝一、朝日新聞社)
 93.「緊急時の情報処理」(池田謙一、東京大学出版会)
 94.「現代政治の思想と行動」(丸山真男、未来社)
 95.「論理トレーニング101題」(野矢茂樹、産業図書)
 96.「物理学はいかに創られたか」(アインシュタイン、岩波新書)
 97.「フェルマーの最終定理」(サイモンシン、新潮文庫)
 98.「根拠よりの挑戦」(井上忠、東京大学出版会)
 99.「心の科学は可能か」(土屋俊、東京大学出版会)
 100.「想像の共同体」(ベネディクト・アンダーソン、NTT出版)

第 76 位 「チベット旅行記」(河口慧海、白水社)



チベット旅行記(上)チベット旅行記(下)

 東大教師が新入生に薦める本(2007年版)の第8位。面白スゴ本。

 著者は明治時代の坊さんで、鎖国中のチベットに入国した最初の日本人。ただ独りで、氷がゴロゴロする河を泳ぎ、ヒマラヤ超えをする様子は、「旅行記」ではなく「冒険記」だな。

 ではこの坊さん、どうしてチベットまで行かなければならなかったのか?

 慧海が25歳のとき、漢訳の一切経を読んでいて、ある疑問に突きあたったという。漢訳の経典を日本語に翻訳したものは、正しいだろうか? サンスクリットの原典は一つなのに、漢訳の経文は幾つもある。意訳、誤訳、適当訳が沢山ある。

 サンスクリット語の原典→漢訳→日本語訳と、翻訳をくりかえすうちに、本来の意義から隔たってしまっているのではないか? それなら原典にあたろうというわけ。インドは小乗だし支那はアテにならん、だから行くという。

 まるで三蔵法師!住職を投げ打ち、資金をつくり、チベット語を学び始める。周囲はキチガイ扱いするが、本人はいたって真剣。しかも、普通に行ったら泥棒や強盗に遭うだろうから、乞食をしていくという。

 この実行力がスゴい。最初は唖然とし、次に憤然としているうちに、だんだんと慧海そのひとに引き込まれる。これはスゴい人だ、と気づく頃には夢中になっている。ヒマラヤの雪山でただ一人、「午後は食事をしない」戒律を守る。阿呆か、遭難しかかってるんだって!吹雪のまま夜を迎え、仕方がないから雪中座禅を組む。死ぬよ!続きは[ここ]

第 80 位 「何でも見てやろう」(小田実、講談社文庫)
何でも見てやろう
 「外へ出ること」「遠くへ行くこと」を強く動機づけた一冊。「ガイコクを旅すること」がマイナーだった時代に、欧米・アジア22ヶ国を貧乏旅行した記録。「まあなんとかなるやろ」といった楽天的な態度とバイタリティーに影響され、わたしも一人旅したぞ。この「旅に出たい熱」ってハシカのようなものだね。古くは芭蕉やケルアック、最近だと沢木耕太郎や藤原新也あたりが、この熱病をバラまいている。免疫のない中高生が読んだら一発でかかるに違いない。

 残念なことに、最近になって意外な秘密を知った。小田実は2007.7に永眠したのだが、その妻が遺品を整理してみたところ、何冊もノートが出てきたそうな。そう、「何でも見てやろう」の旅を記録したノートだ。

開いてみると意外なことがわかった。本では、「まあなんとかなるやろ」と無鉄砲に出かけたかのようだが、実際は次の訪問地について予習し、旅程を綿密に練った跡がある。交通機関を調べ、文献に目を通し、知人に紹介状を頼む。孤独感や不安も綴られ、出たとこ勝負の気軽な旅という印象はまったくない

 なんのことはない、わたしは、まんまと騙されていたわけね。「何でも見てやろう」は、自分の旅行体験をベースにした、一種の"作品"だったわけ。まぁ、一杯食わされたのは事実だけど、不思議と気持ちいい。この一冊のおかげで、あちこちほっつき歩いたのは事実なんだから。

第 85 位 「ガリヴァー旅行記」(ジョナサン・スウィフト、岩波書店)
ガリヴァー旅行記
 ああ、これはわたしもオススメ。「子どものころに読んだよ」という方がほとんどだろうが、童話ではなく完全版を読むべし。エロいし汚いし強烈だぞ。風刺が利きすぎて鼻につくぐらいだし、おもわず「ア、チ、チ」と声が出るぐらい恥ずかしい思いをするかも。

 読むべきは最終章、馬の国の話。児童書だと間違いなくカットされているだろうが、これこそスウィフトの真骨頂だろう。究極のユートピアを描くことで、人間社会がいかに矛盾に満ち、汚れきっているかがよく分かる。しかもそのユートピアでの人間ときたら!

 童話しか知らない人はきっとガツンとやられる。読了後に[これ]を読むと二度おいしい。

第 95 位 「論理トレーニング101題」(野矢茂樹、産業図書)
論理トレーニング101題
 「解説書なんかいくら読んだって論理の力は鍛えられない」、だから練習あるのみと、全編これ練習問題+解説。絵解き図解で希釈された分厚い類書よりも、薄手の本書の方が100%どろり濃厚に仕上がっている。

 本書に向かって言葉と格闘し、煩悶し、その筋道をたどる作業が論理の力を鍛えてくれる。素振りよりも高度なトレーニングの積み重ねにより、日本語の知性は磨かれる(と思うぞ)。昨年の紹介の際、「読むぞ」と決心しているにもかかわらず、未読。やっぱり買うと読まなくなるのか…

 いや、今年こそ読むぞー

■ 最後に

 ふり返ると、昨年の同じころ、「読むぞー」と決心したにもかかわらず、積読状態になっているものがちらほらとある。関連書籍を読み漁っているうちにそっちのけになっていたり(ゲーデル、エッシャー、バッハ)、買って安心したついでに読むのを忘れてしまってたり(論理トレーニング101題)と、情けない限り。

 「これは!」という良書は、どこの大学のセンセだろうと似通ってくるもの。最近出た本が少ないのは時代淘汰が屑本をふるい落としているから。希釈された口当たりのいい「にゅうもんしょ」を100冊読んでも意味がない。財布と時間と自己満足しか影響を与えない本よりも、もっと根っこのところへ作用する本を読んでおけ―― あ、言っておくけれど、これはわたし自身へのメッセージ。

 新聞雑誌のヨイショ書評に騙され、本屋さんではデハデハしいPOPに釣られ、たったいま作ったキューに割り込みをかける。「良書だからじっくり時間をかけて」「あとで読む」つもりでいるうちに、わたしに与えられた時間はどんどん尽きていく。クソみたいな本に囚われることのないように。昨年も言ったが、今年も自戒を込めて。

  人生は有限だが、わたしは、ときどき、忘れる

■ 参考までに

 東大、京大、北大、広大の教師のオススメリストを作成する際の、全リストを公開する。全部で2800冊強。このなかにあなたにとっての名著は必ずある。大学名が「東京大学」は、東京大学出版会が行っている「東大教師が新入生にすすめる本」の全集計リストで、「東大教授」のものは、「教養のためのブックガイド」で紹介された本を指している。

   「booklist-for-freshman-2008.csv」をダウンロード



東大教師が新入生にすすめる本教養のためのブックガイド


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いつか見た未来「虎よ、虎よ!」

虎よ、虎よ! SFって、すごいねぇ… もっともこの場合、"Space Fantasy" かも。

 満員電車に残された最後の空間、頭上に向かって拳を突き出す。おどろおどろしい表紙を上に向けて、昇龍拳のポーズで読む。ぐいぐいストーリーに引っ張られて、そのまま天井に吸い込まれそうだ。「ジョウント!」と叫んだら、そのままテレポーテーションできそうだ。

 デュマとヴェルヌを下敷きにして、石ノ森章太郎とスティーヴン・キングの道具立てを持ってきた感じ(後者2人は本書から拝借してるんだろうが)。説明抜きでじゃんじゃん投入されるアイディアは、出た当初(1956)相当面食らわせたに違いない。物語自体が強烈な迫力と磁力と理力を帯びたハリケーンみたいで、ぼんやり読んでると跳ばされる。男の情念の炎にゃ、読み手の「手」も焼かれること間違いなし。

 すでにベスターの「ゴーレム100」を読んでいたので、[こんなブッ跳んだ感覚]に用心して読んだぞ。それでもラストはすげぇの一言。最初で提示された男を燃え狂わせる「動機」は物語全体を横切り、結末にぶつかって粉々になる。これ、原書で読んだらもっとすごいだろうね。韻律とか段組やフォントといった視聴覚を含めた面白い読書体験になるだろね。背表紙の惹句を引用しておくが、酩酊性が極めて強いため、途中からどうでもよくなるに違いない。

"ジョウント"と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!
 

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