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なぜ日本の鉄道は世界で一番正確なのか?「定刻発車」

 そもそも、なぜ日本の社会は鉄道に正確さを求めるのか?定刻発車

 そして鉄道人たちは、どのようにして世界一の正確さを実現させているのか? 「定刻発車」をアタリマエとする文化とそれを支える巨大システムについて、真っ向から取り組んでいる。

 切り口が非常に面白い。鉄道サービスのサプライヤ側の技術紹介に閉じておらず、歴史や地勢、文化の面からの目配りも効いている。定刻発車がなぜアタリマエなのか? といった根源的な問いは、鉄道という枠を越えて日本社会論まで踏み出している。

 まず、「定刻発車」の源は江戸時代までさかのぼる。不定時法とはいえ全国規模の時報システムを持ち、「一刻」とか「半刻」とかいう時間感覚を持っていたことは大きい。あの頃から時刻に敏感な国民性だったんだね。

 さらに、参勤交代制が日本の「駅」のありようを決めたという。人が一日で歩ける距離をベースに「駅」の間隔は決められ、日本の都市は鈴なりになって発展する。その結果、日本の鉄道の駅間は短く始まった。

 では、なぜ駅間が短いと、時間に正確になるのか? ここからシステムの話。駅がたくさんある = 発車時刻がたくさんあるということ。つまり、時計をあわせるタイミングが多ければ多いほど、正しい時刻に近づくチャンスがそれだけ多くなる。さらに、停車時間バッファや待避線といったハードウェアが、駅そのものを鉄道システムの安定化装置にしているという。

 もちろん、驚異の運転技術や、それを支える精密な「運転線図」の完成度、人の動きを波動としてとらえる需要予測のきめこまやかさといった、提供側の観点もみっしりとある。鉄道好きにはたまらないところ(というか常識?)はここだね。

 ただ、毎日まいにち満員電車で非人間的な扱いを受けてる社畜の一匹として、著者からはヒトゴトのような視線を感じる。鉄道事業の様々な現場を取材してきたことは分かるが、(むしろだからこそ)鉄道会社側の視点で利用者を「マス」として眺めつづける。

 新宿駅の山手線内回りホームの描写が印象的だ。ラッシュアワー時の乗降時間はわずか30秒。20箇所の乗車位置に3列×20人が並び、列車の進入に合わせて駅員が階段の通行を笛で誘導する。開くと同時に鉄砲水のようにドッと押し出される乗客(10秒)、整然と乗り込んで行く乗客(10秒)、押し屋とはぎ取り屋と切り屋(列を切って次の列車に誘導する)が活躍する(10秒)様が上手く描かれている。そして、

「ドア閉まります。駆け込み乗車はおやめください」。発車合図の音楽が鳴り、満員電車の中の乗客たちは体を奥に押し込め、一瞬、息を止める。その一瞬にあわせるようにして、「ドア閉まります、ハイ、閉まります」。ドア口の駅員は、乗客の服や鞄がドアに挟まれないよう、ドアの縁を両手で押さえながら、ゆっくりとドアを閉じさせる。

 うん、確かに息とめて体ちいさくしてる。よく見てるよなーと思う一方で、書き手は観察者の位置から動かず、したがって「一瞬、息を止める」ことはしないんだろなーとつぶやく。

 一口に「乗客」といっても、思い立ったときに足代わりに「乗る」書き手と、毎日決められた時間にバッテラ寿司並に「押し潰される」ヘビーユーザーとの違いはかなり大きいかと。

 たしかに、膨大な人の流れをさばく鉄道関係者からすると、人はマスであり電車一両に詰め込まれた不特定多数の塊だ。そこには個人として人をとらえる視線が抜けている。

 しかし、情報技術の革新によりマスの中に一人一人の顔が見えるようになってきた(Suicaなんて典型)。著者自身が指摘するところだが、鉄道企業の発想が「乗客の流れ」を把握することから、「乗客の満足度」を感じる方向転換になっているらしい。

 [満員電車がなくなる日]にもあったが、これからの列車は軌道回路方式から脱却するようだ。従来は軌道回路で行っていた列車位置検知を、デジタル無線で行う方式[ATACS]にパラダイムシフトするという。著者は「列車ロボット」と読んでいる(言い得て妙)。列車ロボットには「視覚」・「運動神経」・「ハンドル」がつき、線路の上を車間距離をとって、自動車のように「ハンドル」を切りながら自由に動き回る。システムの並列化が進み、ドミノ倒しのように瞬時に遅れが拡散・拡大することもなくなる。快速列車も急行列車も分岐器を自分で動かして、普通列車を追い抜いていき、速達性も高まる。乗客が多ければすぐさま列車を増発するので、混雑列車をなくすことができる――とレポートしている。すげぇ…夢のようだ…が、ずいぶん先だろうな。

 ともあれ、鉄道会社が全力で「定刻発車」にこだわっていることは、よくわかった。そして、鉄道のリズムそのものが日本社会に組み込まれていることも――中の人塊がどう思っているかは別として。

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このミステリーがスゴい!ベスト・オブ・ベスト20

 「このミステリーがすごい!」の集大成を別冊宝島でやってる。もっとすごい!このミステリーがすごい

 1988-2008年の過去20年でもっとも面白かったベスト・オブ・ベスト。だいたい予想のつく顔ぶれだ。これを見習って、本書からマイベストを選んだ。ミステリの定義は長話になるので、本書でランキングされているものとする。「なぜコレが入ってないッ!」ツッコミは当然のこと、「それがスゴいならコレを読め」はいつでも募集中ですゾ。はてなユーザーは「極上のミステリを教えてください」から回答していただくとポイントを振舞いますゾ。

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■  国内編ベスト10 と 海外編ベスト10
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 以下のとおり、古いメンツばかりなんだが、どれも鉄板のオモシロさを保証する。そういや、最近ミステリミステリしたやつを読んでいないかも。

■ 国内編

  1. 火車(宮部みゆき)
  2. ホワイトアウト(真保裕一)
  3. 半落ち(横山秀夫)
  4. 屍鬼(小野不由美)
  5. 煙か土か食い物(舞城王太郎)
  6. 不夜城(馳星周)
  7. ハサミ男(殊能将之)
  8. 白夜行(東野圭吾)
  9. 黒い家(貴志祐介)
  10. アラビアの夜の種族(古川日出男)

■ 海外編

  1. 極大射程(ステーヴン・ハンター)
  2. 推定無罪(スコット・トゥロー)
  3. ポップ1280(ジム・トムプソン)
  4. ダ・ヴィンチ・コード(ダン・ブラウン)
  5. 北壁の死闘(ボブ・ラングレー)
  6. 薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)
  7. フリッカー、あるいは映画の魔(セオドア・ローザック)
  8. ミザリー(スティーヴン・キング)
  9. シンプル・プラン(スコット・スミス)
  10. Mr.クイン(シェイマス・スミス)

 綾辻も島田も京極も桐野も入ってないし、アーチャーもクランシーもル・カレもクック(トマス・H・クックとロビン・クック)もコーンウェルも入っていない。ベスト100なら間違いなく入るだろうが、このリストがわたしの「シュミ」なんだろう。

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■  国内編
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■ 1位 ■ 火車(宮部みゆき)

火車

 ベスト・オブ・ベストの頂点はコレ。「このミス:ベスト・オブ・ベスト」もNo.1になっている。全読していないけど、宮部作品のマイベストもこれ。

 いきなり話中に投げ込まれ、わけもわからず追いかけているうちに、物語が立ってくる。切れそうな糸をたぐりながら見えてくる凄惨な過去にゾクゾクする。緻密なプロットに浮き彫られる女の生きざまを哀しむ。

 学校で保健体育の授業はするのに、借金のやり方とその返し方を教えないのはおかしい。借金地獄は自動車事故と同じくらい身近かつ深刻な話なのに。「正しいお金の借り方・返し方」は、中高校の必須科目にするべきだろう。特に「お金が返せなくなったときの対処」なんて、現実にそんな状況に陥ってあわてて求める。耳障りのいい「金融リテラシー」よりも、中高生は本書と「ナニワ金融道」を読んでおけと。

 サラ金の中の人のお仕事は、お金を貸すことではなくて、お金を返してもらうこと。アイフルねーちゃんに見とれていると、忘れてしまうのかね。

■ 2位 ■ ホワイトアウト(真保裕一)

ホワイトアウト


 ハイジャック、バスジャック、原発ジャックとあるけれど、一番おどろいた「ジャック」はこれ。なんせダムジャック。日本最大の貯水量を誇るダムが、完全武装のグループに占拠される。職員とふもとの住民を人質に、50億円を要求する。残された時間は24時間、荒れ狂う吹雪はダム周辺を巨大な閉鎖空間にする。

 映画だとオダユージの超人アクションばかり目に付くが、小説はミステリー色が濃い。○○ジャックの原則「どうやっての受け渡しをするのか?」「どうやって脱出するのか?」を鮮やかに料理している。ダム周辺を一種の密室ミステリーとしているとこがユニーク。

 「真保裕一なら『奪取』を読め」とオススメされているけれど、未読。これとどちらが面白いんだろうか?

■ 3位 ■ 半落ち(横山秀夫)

半落ち

 ラストで泣いた。涙腺弱いことは分かっているが、こういうのに特に弱いのよ。ええ、もちろん映画はタオル持って観た。

 容疑者が完全に自白することを隠語で「落ちる」と言うが、全てを白状していない状態が「半落ち」。では、彼がしゃべらない(しゃべろうとしない)のは何か。そして、なぜ語らないのか、警察に出頭し、自らの罪を認めているのに―― と、コアの秘密をさまざまな角度から切り込む。そして、それぞれの断面から見える暗部は、そのまま社会の傷口のようだ。

 その一方で、名だたる人が「くだらない」と断罪しているのは残念。シュミの違い云々ではなく小説としてダメという方も。どういう警察小説を評価されているか、ぜひご教授願いたいものだ。

■ 4位 ■ 屍鬼(小野不由美)



屍鬼1屍鬼2屍鬼3
屍鬼4屍鬼5

 小野不由美はエンタメの書き手として一流だッ、完結していればだけどなッ。

 でも大丈夫、「屍鬼」はスゴい分量ながら、ちゃんと終わっている。というのも、S.キング「呪われた町」のオマージュとして日本を舞台に書いているから。誘導の仕方とオチも似通ってくる。「終わり方」さえちゃんと決めて書き始めれば、これほどページをめくらせる小説家はいないだろうね。

 ――と、フロシキをたためなくなったやつは置いといて、本書は、田舎の村で起こる、尋常でない何かを圧倒的に徹底的に描いている。京極夏彦氏の評がズバリなので紹介する。

物語が怖い。展開が怖い。キャラクターが怖い。描写が怖い。フレーズが怖い。テーマが怖い。完全無欠。逃げ場なし!

 これはミステリじゃねぇ!ツッコミご勘弁。「このミステリがすごい!もっとすごい」のベスト・オブ・ベストにS.キングの「IT」がランキングされているぐらいだから。どろり濃厚ホラーをどうぞ。

■ 5位 ■ 煙か土か食い物(舞城王太郎)

煙か土か食い物

 ちゃっちゃっちゃっ、ものすごい疾走感、読めば読むほどテンション上がる。

 ストーリーがどうというより、リズムがイイ。読む行為がキモチイ逸品。謎解き・犯人探しがあるが、これは「ミステリというカタチ」にするためのおまけに見える。あたかも、Keyのエロシーンがエロゲにするためのおまけに見えるかのように。

 バイオレンスとしてもノワールとしても読めるし、ビルドゥングスロマンにしたら乱暴だろうか。異端かつ異形の問題作という賛辞だか罵倒だかワケわからない評のされかたをしているが、好みがハッキリ割れるだろうな。ネガティブ評価をする人は、ゴタクを並べるんじゃなくて、ハッキリ「キライだから」と言やいいのにね。amazonレビューはこんなカンジ。

小説界を席巻する「圧倒的文圧」を体感せよ!腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが? ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー! 故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ

 あ、でもこの一品だけでおなかいっぱいかも。

■ 6位 ■ 不夜城(馳星周)

不夜城

 これも疾走感あふれる小説なんだけど、方向がナナメ下なんだ。スピードに乗ると浮力や飛翔力を得るんだが、これは逃げのびるための速度がダウンフォースを生んでいる。凶暴性と鬱屈した感情に囚われ、一切を信用しないアウトローが新宿歌舞伎町を逃げる話。エロヘンタイを混ぜれば「溝鼠」(新堂冬樹)に化けるだろうが、そんなこっけいなゆとりは、ない。冷えびえとした展開に生への執着心を熱く感じ取れる。

 「おれはだれも信用しない」とうそぶきながら、そもそもそんなトラブルに巻き込まれたのは、そうした自分に嫌気がさして、ふっと態度を変えたからじゃァないかしらん。オンナは鬼門であるし玉門にもなる。

 あるいは、人生最初のゲートウェイでもあるね。

■ 7位 ■ ハサミ男(殊能将之)

ハサミ男

 これはヤられた。見事!分かったとき、「をををッ」と叫んだ。

 このテのやつに慣れるのは嫌だけれど、ひとつ挙げろというならコレ。他を挙げてしまうとネタバレになるので自重。ご興味のある方はネットを漁らないように。同じ理由で、amazon紹介文だけを引いておく。

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる

■ 8位 ■ 白夜行(東野圭吾)

白夜行

 読後のヘビー感がだらだらと長引く(凹む)劇薬小説として紹介される。救いのない展開と、緻密な伏線が最悪な読後感を生みだす―― という触れ込みで読んだけれど、確かにそういう効果あり。ミステリとして夢中になって読んだあと、エア・ポケットに落ち込んだような喪失感に浸れる。

 叙事的ノワールとでも名付ければいいのだろうか。伏線の回収スピードと「謎」の明かされ方が微妙にズレていてもどかしい。どうしてそんなことをするのか? という疑問はずっとつきまとい、ラストの(爆発しない)カタストロフにつながる。その疑問が解消されたかどうかは、読者自身が判断するほかないが、切ないねぇ。

1973年に起こった質屋殺しがプロローグ。最後に被害者と会った女がガス中毒死して、事件は迷宮入りする。物語の主人公は、質屋の息子と女の娘だ。当時小学生だった二人が成長し、社会で“活躍”するようになるまでを、世相とともに描ききる。2人の人生は順風満帆ではなく、次々忌まわしい事件が降りかかる……

 これだけのボリュームにする必要性はともかく、読ませるチカラがある作家。一気読みでしたな。

■ 9位 ■ 黒い家(貴志祐介)

黒い家

 ノンストップ・ホラー。

 心の基本的な何かを最初から持ち合わせていないような人は、いる。ただ、外見やしぐさから読み取れないのが怖い。文字通り「何を考えているか分からない」=「何されるか分からない」怖さ。

 見方を変えると、理由さえ明らかになれば怖さはなくなる。怖いのではなく、危険になる。彼女の場合はソコにとどまらず、とてつもなく危ない存在になる。欲望をストレートに行動にうつす彼女をある意味うらやましく思う。映画も秀逸で、大竹しのぶの台詞「乳しゃぶれー」は絶品。

■ 10位 ■ アラビアの夜の種族(古川日出男)



アラビアの夜の種族1アラビアの夜の種族2アラビアの夜の種族3

 「ミステリーじゃねぇじゃん」ツッコミ上等。たしかにメインの柱は「物語」だね。しかし、この入れ子構造のあるディメンジョンは、キッチリとミステリーに仕立てられている。

 ―― 1798年のカイロ。惰眠を貪るイスラムの都に、ナポレオンの艦隊が侵略してくる。噂が毒気のように広がる中で、権力者に仕える高級奴隷が、ある術計を主人に進言する。「敵に一冊の書物を献上する」―― その書物は、読む者を狂気に導き、歴史さえ覆す「災厄の書」と呼ぶ――

 物語の中に物語があり、そのまた物語の中に… と物語そのものが迷宮化されており、一番の読みどころ(迷いどころ)はここにある。ミステリーとしての「謎解き」は薄いかもしれないが、奇想天外な物語+ラストで読者をびっくりさせるので、ランキング入り~

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■  海外編
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■ 1位 ■ 極大射程(ステーヴン・ハンター)



極大射程1極大射程2

 徹夜小説+アクションとミステリと冒険と法廷のいいとこどり。

 ここまで手広いと大味になったり拡散しちゃいそうだけれど、すばらしく上手くまとめあげている。良い意味での「ハリウッド映画のような小説」。amazonレビューはこんなカンジ…

ボブはヴェトナム戦争で87人の命を奪った伝説の名スナイパー。今はライフルだけを友に隠遁生活を送る彼のもとに、ある依頼が舞い込んだ。精密加工を施した新開発の308口径弾を試射してもらいたいというのだ。弾薬への興味からボブはそれを引受け、1400ヤードという長距離狙撃を成功させた。だが、すべては謎の組織が周到に企て、ボブにある汚名を着せるための陰謀だった…

 後半のご都合主義的な展開に云々するよりも、エンターテイメントとして超一級なので、寝るのを忘れて読める読める読める。主人公 vs 特殊部隊100人の銃撃戦が鳥肌たった。ページの間から硝煙の匂いと兆弾の残響がただよう、オトコくさーい小説。

■ 2位 ■ 推定無罪(スコット・トゥロー)



推定無罪1推定無罪2

 「読み始めれば、徹夜を覚悟するだろう」帯の文句に偽りはない。ホントーか? と半信半疑で手にとって読み始め→警告どおり徹夜を覚悟し→結局一徹で読み通したスゴ本。二転三転する状況と、最後まで目を離せない展開。

 美人検事補が全裸の絞殺死体に → 本来なら捜査の主体である主人公(検事補)に容疑の目が向けられるねじれた状況と心理描写が面白い。丁丁発止の法廷シーンは臨場感あふれるそうな(なんせ現役の検事補が書いてるし)。読み終えたいま、全ての謎は明かされているけれど、もういちど読み直したい。それは、権勢欲、出世欲、金銭欲、所有欲、性欲、あらゆる欲望の渦巻く複雑な人間ドラマがあらわにされているから。わたしが小説を読むのは、そこに欲望を見出すことで、自分のソレを確かめているから。

■ 3位 ■ ポップ1280(ジム・トムプソン)

ポップ1280

 パルプ・ノワールといえばこれ。トムプソンはいくつか読んだけれど、ダントツこれ。

 ねじくれてゆがんだ黒い嘲笑(わら)いに襲われる。見どころはモラルのかけらもない主人公「おれ」。人口1280人の田舎町の保安官をやっているんだが、こいつがとんでもない悪党ときたもんだ。職権をいいことにやりたい放題する究極のエゴイスト。窮地に陥ると悪魔的な機転を利かせて立ち回り、巧妙に人を陥れる。「自分勝手のマヌケな保安官」と笑って読んでいたのが、行き当たりばったりの罠に次々と人をハメてゆくのを見るに付け、だんだん恐ろしくなってくる。語り口がざっくばらんで、いかにもオレサマでいけすかない奴なので、読み手も一緒になってナメていると、読者も罠に陥ることに。

 こいつ、人かと?

■ 4位 ■ ダ・ヴィンチ・コード(ダン・ブラウン)



ダ・ヴィンチ・コード1ダ・ヴィンチ・コード2ダ・ヴィンチ・コード3

 無我夢中でイッキ読み、文字通り「読むジェットコースター」、幸せな数時間を過ごしたのでありました。

 テーマは「暗号+歴史+陰謀」を重厚に描いているにもかかわらず、非常に読みやすい。分かりにくそうなところは、わざとキャラのもの分かりを悪くさせて教師役に「解説」させる親切設計。

 謎を解く鍵がフィボナッチ数列だったり黄金比だったり、どこかで聞いたことがあるトリビアが散りばめられており、読み手も一緒になって楽しめる。特にこの小説の表紙「モナ・リザ」の真の意味を知ったときはおおおおっと雄たけびをあげてしまったスゴ本。

■ 5位 ■ 北壁の死闘(ボブ・ラングレー)

北壁の死闘

 徹夜保証、というより、手に本がくっついてしまうぐらいの面白さ。

 ちと時代が古いが、無問題。アイガー北壁の難所、「神々のトラバース」を登攀中のクライマー二人が、奇妙な遺体を発見するところからお話が始まる。白骨化した下半身と、氷漬けになっていたため損われていない上半身。二人は下山後警察に通報するが口止めされる。なぜ―― ?

 ―― とラストまで引っ張る謎解きはお楽しみにとっておいて、スゴいのは登攀が始まってから。「息もつかせぬ迫力」は本書のためのもの。臨場感ありまくり、心拍数あがりまくり、危ないッて思わず目を閉じてしまう(もちろん読めなくなるがな)。

 明日の予定がない夜に、どうぞ。

■ 6位 ■ 薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)



薔薇の名前1薔薇の名前2

 「『もっとすごい』このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベストのNo.1がコレ。

 ミステリーとしての面白さだけでなく、その枠内に収まりきれないほどの知のウンチクがスゴい。初読のとき、ネタ元を理解できないものが大量にあったので、続けて再読。それでもやっぱり分からないもの多し。神学・言語学・文学・哲学・歴史学の知識があればもっと楽しめるんだろうが、わたしの場合、むしろ本書に教えられることが多かった。

 「迷宮構造をもつ文書館を舞台にした殺人事件」を追いかけている自分自身が知の迷路に惑いこむ。衒学はシュミじゃないので分かったような気ができぬ。本書を上手に紹介できる人こそ、「教養がある」んだろうね。

■ 7位 ■ フリッカー、あるいは映画の魔(セオドア・ローザック)



フリッカー、あるいは映画の魔1フリッカー、あるいは映画の魔2

   芸術はすべからく隠蔽することにある
   芸術家はつねに表層下で仕事をする
   それが人びとの精神にくいこむ唯一の方法だから
   ―― マックス・キャッスル

 無類の映画好きジョナサンがとり憑かれた魔物、その名はマックス・キャッスル。遺された彼の監督作品はどれもこれも、超絶技巧な映画―― ジョナサンは彼の究極映像を追い求めるのだが、それは悪夢の遍歴なのかも。あるいは、映画の地獄なのかも。

 この主人公ジョナサンがウラヤマしい~と思わない映画ファンはいないだろう。映画狂が昂ずるあまり古いながらも劇場を手に入れ、映画三昧の毎日。さらに、ベッドの上でカリスマ女流評論家から映画の理論的考察と濃厚なセックスの手ほどきを受け、助教授まで出世する。「映画で食っていく」なんて、映画好きなら誰しも夢想した未来。

 映像美のディテールがまたスゴい。観てきたように緻密に描写されているから、読み手は「マックス・キャッスルの映画観てぇ~!たとえ悪魔に魂を売ることになったとしても」と吼える…で、ラストの"究極の映像"に身もだえするに違いない。

■ 8位 ■ ミザリー(スティーヴン・キング)

ミザリー

 この時代のキングは全読してたなぁ… 「どれか一つ」なら「シャイニング」あたりだろうが、「このミス」ランキングで「!」なのは、これ。怖いデ。amazonレビューはこんなカンジ。

雪道の自動車事故で半身不随になった流行作家ポール・シェルダン、元看護婦の愛読者に助けられて一安心したのが大間違い、監禁されて「自分ひとりのために」小説を書けと脅迫されるのだ。キング自身の恐怖心に根ざすファン心理のおぞましさと狂気の極限を描いた力作。

 なにがおぞましいかって言うと、この「愛読者」。「黒い家」に出てくる女もそうだけれど、「何考えているか分からない」うちは恐怖そのもので、分かると危険なもの。激昂している彼女が、無意識にネズミを捕まえ、その手が「turned to fist」するとこは何回も夢に出た。

■ 9位 ■ シンプル・プラン(スコット・スミス)

シンプル・プラン


 結局人間が狂うのはカネだよな。ひょんなことから見つけた莫大な現金を山分けとする「シンプルなプラン」が、だんだんドロドロしはじめて、これっぽっちもシンプルでなくなって、血まみれのプランになるところが見どころ。増幅する悪夢と凶気に飲み込まれ、フツーの人間関係が狂っていく様は、淡々と書いている分、こわい。

 「莫大なカネを偶然見つける」――同じ出だしながら、ぜんぜん違う方向へカッとぶ「血と暴力の国」[レビュー]は、好対照を成している。静と動、雪原と砂漠、血糊と血潮を対比して読むと面白いかも。

■ 10位 ■ Mr.クイン(シェイマス・スミス)

Mrクイン

 悪党の小説が好きだ。悪党パーカーもいいし、「ポップ1280」のニック、それから「Mr.クイン」。自分がやってることをキッチリ把握してて、最大の効果(犯行)を最小の努力で得る。先の2人は、どちらかというと、体を張ってヤるタイプだが、Mr.クインは違う。犯罪はビジネスで、計画を売るだけの「犯罪プランナー」。自分のポリシーを持ち、別にクールを気取るわけもなく、淡々と罠を仕掛ける、究極のアンチ・ヒーロー。

 ―― とはいうものの、物事が順調にいかないのが小説のいいところ。歯車が狂うときの対処のキレもクールだねぇ。犯罪指南書(心構え編)としても有用かと。


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