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未来の再読が深まる「座右の名文」

座右の名文 やさしい口ぶりですっぱり斬りおとすレビューに、おどろいたり、ほほえんだり。

 高島俊男氏が選んだ10人の文章家のレビュー。書評というよりも人物評というべきか。辛口のイメージを持っていたけれど、「すき・きらいがはげしい」というべきかも。とはいえ、膨大な読書量に支えられた分析は、信じないよりも信じたほうが、だんぜん面白い。

 氏が選んだ10人とは、

   新井白石
   本居宣長
   森鴎外
   内藤湖南
   夏目漱石
   幸田露伴
   津田左右吉
   柳田國男
   寺田寅彦
   斎藤茂吉

 そうそうたるメンツだ。だけど氏にかかると、おいしく料理されてしまう。全員が全員、キャラ立ちすぎに描かれていて、可笑しい。例えば本居宣長。闘争的な人物だったらしいが、「玉勝間」を出してきてそんなことはないという。「おだやかで、むしろ常識的な人」らしい。

 そういうもんかと信じかけると、それは「玉勝間」だけの印象で、ほかの著作だと違うと言い出す。

ほかの著作をみると、これはなかなか常識的どころではない、非常識もひどいもので、ほとんど頭がおかしいんじゃないかと思われるくらいの神がかりのようなことを、金切り声で言いたてている
 まさに「これはひどい」を地で行く人だったんですな。面白いのはこれで終わらず、氏は「玉勝間」しか読まないという。つまり、本居宣長がどうとかというよりも、「玉勝間」がすきだから、それを読む。文句あるかという態度が透けてみえて、ほほえましい。あるいは、「せめて死ぬまでのわずかな間、勝手に読ませてもらうよ」といった頑なさも一緒に感じ取ることができる。そう、これは書評、人物評とともに、氏の口ぶりも楽しめる。

 なんて、ほほ笑んでいると、ぎょっとするような「読み」を見せつけられてトリハダが立つ。漱石の「坊ちゃん」だ。氏に言わせると、「坊ちゃん」は探偵小説であり、恋愛小説であるという。さっぱりとした性格のはずの坊ちゃんの態度や心理に「異様さ」を見つけ出し、容赦なく突きつける。キャラクターの一貫性のなさをあばいて、その薄気味悪さを指摘されると、なるほど「探偵小説」として読むと面白いかも、という気になってくる。

 ここの読み解きがミステリのネタバレのように面白いので、立ち読みするなら漱石の章をどうぞ。きっと「坊ちゃん」を再読したくなるぞ。

 森鴎外も面白い。彼の人生は結局のところ、「役を演じつづけた生涯」なのだという。軍人の鑑、理想的な父親、良き夫、子煩悩の家庭人――鴎外は、どこから見ても非のうちどころがない人だったという。その反面、彼自身は、「自分は演技をしている」という意識を持っていたと分析している。つまり、期待される人物たらんという自意識こそが、鴎外の外見を作っていたのだと。

自分が生きたいように生きるということはついにできなかった。つねに他人の期待どおりの人間になろうとして、そのとおりにやってきた。これがほんとうの自分であろうか、ほんとうの自分はちがうんじゃないか、と思うこともある。この意識がはっきり出ている「妄想」という作品がある
 「妄想」、読みたくなるでしょ? 大丈夫、すぐに引いてくれているから。で、引用を読んでみると確かにそうかも、という気になる。わたしが読み落としていた面を、まるまる補ってくれて、たいへんありがたい。再読を深めさせてくれるし、全読に挑戦してみたくもなる。いいひと教えてくれたマグナたん、ありがとう。

 これから手を出す人も、再読する人も、手元においてレファランスしたい一冊。

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コメント

読みました
なんとも面白い解釈ですよね

投稿: akio | 2008.11.14 16:09

最近、このブログを知り、ゆっくり遡りながら読んでいます。

そういうわけで今更なコメントなのですが、もし未読でしたら「贋作『坊っちゃん』殺人事件」(柳 広司:集英社文庫)がお勧めです。
徹底的に「坊ちゃん」の世界を読み替え、ミステリーに仕上げてしまっています。まさに「探偵小説」に。
よろしければ。

投稿: | 2009.04.05 20:46

>>名無しさん@2009.04.05 20:46

オススメありがとうございます。
タイトルだけは知っていますが、このトシになると、「そのテーマなら、こう書きたい」が勝ってしまいそうです。作品そのものよりも、その背後の著者の手つきが気になるようになったら、オシマイなのかも。

投稿: Dain | 2009.04.05 23:48

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