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幻の写本に隠された、とてつもない数学「解読!アルキメデス写本」

アルキメデス写本 古文書解読の緊張感とアルキメデスの解法のカタルシスを味わう一冊。

 ボロボロの祈祷書に、アルキメデスの「C写本」が隠されていた、という話。最新の画像解析技術により、幻の写本の全貌が現れる。

 この写本、かなり数奇な運命をたどっている。970年ごろ羊皮紙に書かれ、1229年ごろリサイクル本として消され上書きされ、さらに削られた上に絵が描かれている。保存状態は劣悪でカビまみれ。言及されてないものの、「におい」も相当だろうね。

 これを解読するんだ。X線画像化技術、古文書学、文献学、数学などの知識を総動員したチームが組まれる。あらゆるコネとツテをたどって、粒子加速器シンクロトロンを使ったスキャニングまで成し遂げている。

 そのプロジェクト進捗が笑ってしまうほどリアルなんだ。つまり、カネと時間を食いまくりで遅々として壁にぶつかって急展開で、不謹慎だが面白すぎる。また、プロジェクトマネジメントの真髄(専門家を集めたら、信じて任せる)が裏方から描かれており、妙な親近感がわいてくる。どこのプロジェクトも似たようなもんなのね。

 本書の構成はとてもユニークだ。奇数章と偶数章で著者が異なり、ひとつのアルキメデス写本をふたつの観点から追いかけている。

 奇数章では、写本の運命と解読プロジェクトが述べられており、ここだけでも充分読み応えがある。パピルスの巻物から羊皮紙の冊子本へメディアが「アップグレード」していく過程は、知の自然淘汰を目の当たりにさせてくれる。さらに、かろうじて読み取れる文字から文を拾い出すところなんて、解読の瞬間に立ち会っているような臨場感に、こっちまでドキドキさせられてしまう。

 では偶数章は?

 偶数章はアルキメデスの数学のオーバービューと、写本解読の成果が解説されている。この「アルキメデスの数学」がスゴいんだ。説明のしかたが上手くて、勉強不足のわたしでも「あっ」と驚ける。

 アルキメデスの数学の魅力は、どんでん返しのミステリを読み解くようだ。その特徴を著者は、「円を正方形にするとてつもない数学」だと評する。「円を正方形に?」もちろんわたしは半信半疑だ。そんなまなざしをヨソに、アルキメデスは何かとんでもない求積をやると宣言し、説明しはじめる。

 一見したところ、本題とは無関係にみえる作図や思考実験を深めていく。ひとつひとつのステップは疑いようもなく明らかで単純なんだけれど、もとの話とかけ離れている(ように見える)。だから疑うというよりも困惑してくる、これが一体、なんの証明になるのかと。

 どんどん積みあがった作図と論証にいいかげんウンザリしてきたころ、アルキメデスは、いきなり全ての論証がどう組み合わさっているのかを見せつける。あれほどバラバラに見えていた証明が、実は最初の求積問題のための巧妙な伏線だったことに気づく。

 何かばかされているような気になって、もういちど論証を最初から読んだ瞬間、「わかる」。一気呵成に理解が押し寄せてくる。一瞬、宙に浮いているようなめまい感に襲われる。

 たとえばわたしの場合、放物線の切片の求積問題がそうだった。幾何学的な図形を物理的な物体とみなし、物体を数学的に扱うことで、解に至っている。まとめると簡単そうに見えるのだが、実際その「エウレカ」の瞬間は、文字通り手品を、しかもタネもシカケもないやつを見ているようだ。ミステリ読んでて、ラストのどんでん返しが鮮やかすぎて、思わず冒頭から読み直したことはないだろうか? あんな感じ。

 プロジェクトの大部は[アルキメデスのパリンプセスト](英語)から見ることができる。また、解読された内容の解説は、「よみがえる天才アルキメデス」にある。読むべ。

 本書は、[冒険野郎フンボルトと数学王ガウスの物語「世界の測量」]のコメントで金さんさんに教えていただいた。素晴らしい本を紹介していただき、ありがとうございます。金さんさんのレビューは、[読了『解読! アルキメデス写本』]。「アルキメデスが積分の概念に到達していたとは!」と驚いているが、わたしの勉強不足でそのスゴさが分からなかった(読んだら沁みた、そのスゴさ)。同様に、数学の得意な人なら、この惹句になるだろう。

2001年、アルキメデスが実無限を知った上で数学に応用していたことがはじめて明らかになった


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コメント

この本、ドキドキしますよね。
アルキメデスの無限は、算数のように難しいと思います。
なので、近代の無限と比べるため、小島寛之『数学迷宮』を読み始めました。

ちなみに、この本では端役でしたが、『パーシ・ディアコニス』は組み合わせ論、確率論では、スゴい人なんです。経歴も変だし(手品師にくっ付いて、全米回ってから、数学者になったとか、オカルトを見破るのが趣味だとか)。

投稿: 金さん | 2008.11.10 18:45

>>金さんさん

あっ、オススメありがとうございます。
おかげで(数学本なのに)ドキドキしながら読めました。
この本つながりで、「よみがえる天才アルキメデス」に手を出していますが、かなりレベル高いです(がんばります)。
「数学迷宮」は、さしずめ「数学ボーイ」のようですね(^^)
http://gascon.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_4c75.html

投稿: Dain | 2008.11.10 23:50

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受信: 2008.11.10 20:11

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