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早い・安い・うまい「中国臓器市場」

中国臓器市場 中国の臓器移植をヒトコトで言うと、「早い・安い・うまい」だそうな。

 まず、早さ。肝臓や腎臓移植であれば、早くて1週間、遅くとも1ヶ月以内、心臓や肺移植でも1ヶ月以内にドナーが決まる。主要都市まで飛行機で数時間、ドナーが出れば、その場で飛べる。

 次に、安さ。腎臓移植を日本人が米国で受けると、1,600-2,000万円だが、中国なら600-750万円。肝臓移植の場合、米国7,000万-1億円に比べ、中国なら1,300-1,800万円でいける。渡航費や滞在費も考慮すると、圧倒的に安い。

 そして、うまさ。腎臓移植の場合中国国内で年間5000例以上、米国に次ぐ世界第2位の移植大国。移植医療は数をこなしてなんぼの世界、一大市場を築く中国は、物量共に他を圧倒している。

 この移植先進国を支えているのは、毎年1万人執行される死刑囚だという。交通事故などによる「不慮の死」によって突発的にドナーがもたらされる某国とは、かなり違う。実際、中国のドナーの9割が死刑囚で、そのメリットは大きい。

  • 若くて健康な臓器が用意できる
  • 事前検査を行うため、肝炎やエイズウィルスなどの感染を防止できる
  • 死刑執行の日時や場所が事前にわかるため、摘出直後の移植が可能
  • 死刑は毎年大量に執行されるため、ドナーが途切れることがない
 「死刑囚ドナー」という仕組みそのものが大量供給を可能としており、その結果、新鮮な臓器を必要なタイミング(ジャスト・イン・タイム)で供することができる。死刑囚の家族には当局から謝礼が渡され、病院は良い外貨稼ぎになり、(カネ持っている)患者は待たずに移植が受けられる。――と書いたら言いすぎだろうか。

 いいことばかりじゃない。年間1万人の臓器という「資源」では到底足りないのが実情らしい。中国国内では年間150万人が移植手術を必要としているが、実際に受けられるのは、およそ1万人にすぎない。ドナーは慢性的に不足しているが、それはそれ、カネとコネがモノをいう世界。

 利益を追求する病院と、その甘い汁を吸おうとする幹部の癒着っぷりがさらされる。ホンネとタテマエを上手に使い分ける斡旋人たちの活躍(の一端)が描かれる。そして、いつものパターンだが、全ての後回しにされ、虐げられる民衆の声が拾われている。どのページを開いてもわかる――世の中カネだと。

 日本人も例外ではない。2004年の天津の事例はシャレにならない。ある日本人女性患者が臓器移植手術を受け、歩けるまでに回復したが、手術費用が当初の400万円から1,500万円に膨れ上がり、払えなくなった。日本の在外公館に相談したが金の問題はいかんともしがたく、結局病院は治療をストップし、女性は死亡したという。まさに、カネの切れ目が命の切れ目というお話。

 つまり、大陸の非情に「現実的」な考え方が、臓器移植というテーマでクローズアップされているといってもいい。現実に移植を求める患者がいて、(たとえ歪であっても)供給できるシステムがある以上、両者を結びつけるのは市場のルールなのだろうね。

 そして、中国での移植サポートをしている日本人は、こう問いかける――「アメリカで移植を受けると美談、フィリピンで移植すると臓器売買だと罵られる。そして、中国だと倫理問題はどうなのだと問い詰められるのはなぜか?」――わたしには答えることができない。さらに、この日本人ブローカーは、本書の冒頭でこう述べている。

もし、愛するわが子が余命宣告を受け、残り数ヶ月の命と診断され、そこに子どもを救うことができるドナー(臓器提供者)がいたならば、あなたは倫理問題を持ち出すことができるでしょうか
 わたしは、何も言うことができない。梁石日の「闇の子供たち」なら小説の虚構を味わうゆとりがあるが、本書の現実はその斜め上にある。

 中国の死刑執行は、記念行事の直前に大量に行われる。

 そして来週10月1日は、国慶節だ。

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コメント

大紀元時報-日本
http://jp.epochtimes.com/jp/2007/05/html/d16331.html
法輪功学習者を狙った臓器狩り

こちらの記事をご紹介いたします。
裁判もなしに、気功学習者が殺されている実態がこちらの本には書かれていたでしょうか?
良くも悪くも、簡単に人が生まれて死んで行く国だなあ・・・と思います。
人命が軽視されるのは、おおらかな大陸気質の延長なのでしょうか、謎です。

投稿: 通りすがり | 2008.09.26 07:16

そして、命の価値が高くなった国では、人々は神経症になるのですね…。
何が善くて何が悪いのかなんて決められないと、最近特に思います。

投稿: nanaco | 2008.09.26 10:29

>>通りすがりさん

法輪功学習者の件は知りませんでした、ありがとうございます。

「裁判なし死刑→臓器強奪」の話はいくつかありましたが、法輪功がらみのものはありませんでした。当局にとっては格好のドナー候補なのですね…


>>nanacoさん

命の「値段」が相対的に高い国は、単に物価高に連動しているのではないかと思います。
大陸はスケールが違うので、わたしの倫理観に照らそうとすると、たちまちその卑小さがあらわになりますね。

投稿: Dain | 2008.09.27 08:26

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