「コンゴ・ジャーニー」はスゴ本
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とんでもない旅行記。
臨場感たっぷりの破天荒さに、最初は小説だと思ってた。それっぽい表紙は映画化されたスチルなんだと信じ込んでた。
ところが、これが本物のノンフィクションだと知ってのけぞった。
だいたい、赤道直下のコンゴ奥地に恐竜の生き残りを探しにいくなんてどうかしてる。しかも、そのために全財産を投げ打って追っかけるなんて、オツムがあったかいとしか言いようのない。
蚊、ノミ、ダニ、シラミ、ナンキンムシ、アブ、ブユ、ツェツェバエ――血と汗を吸い、皮膚の下にタマゴを生みつけようとするやつら。爪の間や性器に入り込もうとする線虫・回虫・寄生虫もあなどれない。そしてゴキブリ!ベッドマットを持ち上げたらゴキブリがざーっとあふれ出る場面は全身トリハダ立ちまくり。
マラリア、眠り病、梅毒、イチゴ腫、エイズ、エボラ出血熱、コレラ―― 描写のいちいちが克明で、読んでるこっちが痒くなる。風土病や感染症だけではない、人を襲うヒョウやワニ、ニシキヘビといった猛獣について、いちいち挿話とウンチクを並べ立てる。その恐怖におののきながら、いそいそと出かけるところは笑うところなのか?
その一方で、めずらしい鳥の姿を目にして乱舞したり、ゴリラのあかちゃんを糞尿まみで世話したり、さらには幻の怪獣、モケレ・ムベンベを必死になって捜し求める姿は、これっぽっちも滑稽ではない。読者はそこに、正真正銘の「愛」と「狂気」の目を見るだろう。後半、「旅行記」のタガが外れ壊れ始める著者が怖い。この地に白人が長いこといると、おかしくなるらしい。
いつも飛び交っている怒鳴り合いの会話から解放され、真に孤独になれるのは、アフリカではこんな瞬間しかないのではないか――ふとそう思った。こうやって歩いているとき、真夜中にふと防水布の上で目覚めたとき…。アフリカで、自力だけに頼ろうとする人は危険だ。孤独は狂気に直行する。孤立した人間はいとも簡単に、さ迷う霊の餌食になってしまう。だから、友達どうしいつも一緒にいて、しゃべりつづけなければならない。書き口で興味深かったのをひとつ。呪術師がしつこく警告していた精霊が、著者に語りかけるシーンがある。マラリア熱に浮かされた頭なので、どうせ夢なのだろうと疑ってかかるんだが、その融合の仕方が魔術的リアリズムまんま。境目が巧妙に隠されており、読者も一緒になってつきあうハメになる。しかも、夢オチにさせないように書いているので、どこからがホントで、どこからか夢なのか終わっても分からない。マジック・シュール・リアリズムといったところか。
著者のレドモンド・オハンロンは、筋金入りの探検家というべきだろう。イカダで太平洋を渡ったり、犬ぞりで極北を目指す冒険家というよりも、「○○が見たい、だから行く、どんなことをしてでも」というタイプ。
訳者あとがきによると、最初はボルネオ。幻となりかけているボルネオサイを見たい一心で、かつての首狩族の地「ボルネオの奥地へ」(めるくまーる、1990)乗りこむ。冒頭から、やめたほうが…と助言したくなる旅だそうな。
次がアマゾン。オリノコ川とアマゾン川にはさまれた熱帯雨林にヤノマミ族に会いに行く。サッカーのフーリガンを除いて、地球上で最も凶暴といわれる人々に会いに行くのだが、題名がイカしてる、「また面倒なことに(In Trouble Again)」(1988、未訳)だってさ。
で、三番目がこの「コンゴ・ジャーニー」、上二つと比べるとはるかに危険な旅だという触れ込みだけれど、たしかに死んでもおかしくない。「安全な」場所で読んでいると、なんでわざわざそんなところへ好んでいくんだろう? という(彼にとっては)愚問がわきあがってくる。
さらに、これで終わりではない。北大西洋の荒海で操業する漁船、「トロール船(Teawler)」(2003、未訳)に乗り込み、スコットランドの北海油田開発の基地「オークニー(Orkney)」(2008、未訳)で生活する。もはや「バイタリティあふれる」といった域は超えているぞ。
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コメント
高野秀行さんの「幻獣ムベンベを追え」は
ご存知でしょうか?
「コンゴ・ジャーニー」と同じくムベンベを
探しにいく冒険記なのですが、著者が常識人と
いう自覚(?)があるからなのか、
なんだか不思議に感情移入できて面白かったです。
投稿: ネギ子 | 2008.06.23 14:34
>> ネギ子さん
もちろんですとも、早稲田大学探検部の話ですね。
未読なのですが、なぜ知っているかというと、本書に出てくるからです。
早稲田の探検部は、モケレ・ムベンベの正体を知ることはなかったと思いますが、「コンゴ・ジャーニー」では曲りなりともつきとめていますぞ。
投稿: Dain | 2008.06.24 00:31
はじめまして。
いつもスゴ本参考にさせていただいています。
コンゴ・ジャーニー、読みました。
通常の旅行記より振れ幅が大きく、結構驚きました。
それから博物記っぽい感じが好みでした。
アフリカの呪術って、すごく自然にまとわりついてくる感じで、説得力があります。
アフリカの呪術が身に迫ったのはライアル・ワトソンの「白いアフリカの呪術師」以来です。
同じ本読んでいるのになんでこんなに書評のレベルが違うのだろうと思いますが、良書と書評の参考に、これからも拝見さていただきます。
投稿: bookbath | 2009.07.23 05:30