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モノの見方が確実に変わる「フォークの歯はなぜ四本になったか」

 モノの見方が確実に変わる一冊。フォークの歯はなぜ四本になったか

 フォーク、ナイフ、クリップ、ジッパー、プルトップなど、身近な日用品について、「なぜそのカタチを成しているのか」を執拗に追求する。日ごろ、あたりまえに使っているモノが、実は現在のカタチに行き着くまでに途方も無い試行錯誤を経たものだったことに気づかされる。

 いわゆるデザインの定説「形は機能にしたがう(Form Follows Function)」への論駁が面白い。著者にいわせると、「形は失敗にしたがう(Form Follows Failure)」だそうな。もしも形が「機能」で決まるのなら、一度で完全無欠な製品ができてもいいのに、現実はそうなっていない。モノは、先行するモノの欠点(失敗)を改良することによって進化していると説く。これが膨大なエピソードを交えて語られるのだから、面白くないわけがない。

 たとえば目の前のフォーク。そのカタチ・大きさになるまで延々と進化の歴史がある。最初は肉を適当な大きさに切り裂くナイフだけたったそうな。それが肉が動かないように押さえつけるために、もう一本のナイフを用いるようになる。ただ、(やってみれば分かるが)ナイフで押さえつけると肉がクルクル回ってしまって不便だ。その結果、又の分かれたモノ:フォークが誕生する。

 それなら、フォークは2本歯で事足りるはずだが、どっこい2本だけだと突き刺した食べ物が滑り落ちてしまう。あるいは小さい欠片は歯の隙間からこぼれ落ちるということで、歯が3本になる―― とあるのだが、残念なことに、歯が3本から4本になった理由まで明かされていない(後で調べたところ、パスタをフォークで食べるために3→4本になったそうな[はてな])。5本や6本歯のフォークもあるにはあるが、装飾のためであって、(これもやってみれば分かるが)今度は突き刺した食べ物が抜き取りにくいという弊害が出てくる。無理なく口に入る幅と当時の冶金技術も相まって、フォークの歴史を考える。

 それだけではない。今度は、フォークのカタチが食卓に与えた影響力も考察される。つまり、フォークの歯が増えたことにより、フォークを突き刺す役割から「乗せて食べる」道具として使い出すようになる。さらに、フォークをナイフのように扱い(煮野菜を切るとか)、ナイフが食卓から駆逐されはじめる。

 ここで不意打ちを喰らう。子どもの頃から疑問だった「フォークの秘密」を知る。

 今は見かけないが、「左端の歯だけ幅広のフォーク」があった。なぜ一番左の歯だけ幅があるのか、ずっと疑問に思っていた――これはカッティング・タイン(切断歯)だそうな。つまり、食事におけるナイフの役割をほとんどフォークが代行するようになったとき、軟弱な歯では曲がってしまったため、左端をナイフのように加工したという。もちろん子どもの口に入れるフォークだからナイフのように切れはしないが、その名残りなんだなーと思うと感慨深い。

 フォークだけでもお腹一杯になりそうだが、こんな調子でデザインの本質に迫る。実は日用品にとどまらない。飛行機の翼は丸み(キャンバー)があるのにエアロプレイン(plane:平らな板)と呼ぶ理由や、ビックマックの容器がなぜ発泡ポリエチレンから紙になったのかは、デザインと社会の相互作用がよく見える。

 モノの歴史をさかのぼって調べれば、どの時代のどんなモノにも、(当時からみた)欠点が必ず存在する。そうした欠点を識別・排除することで、そのモノの形は決まったり修正されたりしている。何を欠点と見なすかは、時代によっても異なるし、文化や社会との相互作用も影響する。モノそのものへの要求を全部満たすデザインなんてないと言い切る。だからこそ、モノは進化しつづけるのだと。

 本書は、[東大教師が新入生にすすめる100冊]にランキングされている好著…なんだけれど、いかんせんamazonで「せどらー」の暗躍によりトンでもない値がついている──確かにデザイナーにとってはバイブル級の一冊だけど、図書館でどうぞ。

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コメント

フォークが登場した頃と、中世ヨーロッパの襟のひらひらが出て来た頃は同じらしいです。そもそも襟はシャツ1枚に対して一つ、だったのが「たくさん着込んでる(防寒のため)」=「襟がいっぱいあるというのはそれだけリッチ」を意味したので、上げ底的に、じゃあ「襟だけいっぱい」=「リッチ」ということになると。でもそれだと手づかみで食うと襟がどうしても汚れる、ので、汚れないための解法として「食うものから距離があっても襟が汚れない」ためにフォークが登場したと。
本書に書いてあるのかも知れませんが、未読のために知りません。すみません。

投稿: ぼの | 2008.03.06 09:40

>> ぼのさん

襟(えり)というより袖(そで)のヒラヒラのことでしょうか…
もしそうならば、初見です、教えていただき、ありがとうございます
「手づかみだと指がよごれる+(焼けたばかりの)肉を押さえつけておく」ことが、最初の目的だったようです(歯が分かれていった様子はエントリのとおり…)

投稿: Dain | 2008.03.07 01:06

「灯台下暗し」ということわざがありますが、まさにここで紹介されていた「フォーク」についての本に当てはまるなあと思いました

当たり前だと思っていたものを「当たり前」という垣根を取り払って見てみると、今まで自分が見てきた世界の見方が変わってしまうほどの深い哲学があったのだとわかる

たった一つだけの見方で世の中のことをわかった気でいるな、無知を知れ!

こんな言葉が聞こえてくるように感じました

紹介された本は、おもしろそうなので、いつか読んでみたいと思います

こんなことコメントに書くのはおかしいのですが、私も下手くそながらブログを書いているので、気が向いたらでいいのでよかったら見に来てください

道端の石ころ
『そんじょそこらを目指します』
http://m-16e363476e0d0400-m.cocolog-nifty.com/blog/

投稿: 道端の石ころ | 2008.03.08 17:52

>> 道端の石ころさん

見慣れたものに対し、違う見方を知ると、自分のメガネの狭さが浮き彫りにされることがありますね。本書は絶版+高価なので、図書館を利用するといいかも。

投稿: Dain | 2008.03.09 08:15

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